新たな大連合が結成されてから数日。ビスマルクは大連合に設けられた自室でうなだれていた。立派にしつらえられたユニオンの建物の一室、うなだれるようにして体を横たえる。
『あぁ。まだ私は……』
幼い頃に抱いたビスマルクの後悔は、いまだその心に深くトゲとなって食い込んでいた……
大連合を結成して久しいロイヤルの基地。
ロイヤルの建物を各陣営ごとに区切り、重桜にユニオン。そして鉄血と、大連合として連携を取りやすいようにと、ロイヤルを中心として建物に集約させていつでも会議ができるようになっていた。
ロイヤルからはクイーン・エリザベス他ロイヤルメイド隊など、主要メンバーが在籍し、大連合運営に一役買う。重桜からは長門に陸奥といった代表と主要空母などが在籍したことで、さながら重桜第二支部のような様相。そして、もともとロイヤルとアズールレーンとして共闘していたユニオンは、そのままロイヤルの建物をそのまま流用していくことになっていく。
その中でも、鉄血のKAN-SENが在籍する寝室には、ビスマルクにオイゲンという鉄血の代表が在籍していたが、そのひとつ……ビスマルクの部屋では一人。うなされていた。
真っ暗な洋上、重油が漏れ出し赤々とした炎があちらこちらから立ち上り、ひどく焼け焦げた匂いがあたりに充満する。U-556の救援を待つのみのビスマルクは、同じように被弾した仲間が曳航されていく姿を、ただ見ていること‘しか’できなかった…
『あぁ。また……この夢か……』
ビスマルクの本来の速力も出せず、被弾したうえ浸水も始まり、航行すらままならない。そんな意識が遠のく中で、思い出が鮮明によみがえっていく……
自分を姉と慕い大人しいながらも、実践こそ一緒にしなかったものの、演習は右腕のように寄り添いながら楽しい日々を過ごしていた。物覚えも良く、優秀なそのKAN-SENは、日々楽しい日常を続けていた。
そんな毎日を続け、ようやく実践に出た二人は初めての実践に、演習通りに任務を続けていく。そんな初めての任務で、二人に試練が訪れてしまう。オブザーバーと遭遇してしまったビスマルク達は、少ない資材の中で必死に応戦するもなすすべ無し。
「お前だけでも……」
「……さんっ!! きゃっ!!」
ひどくちらついた荒い記憶は、どうしてもそこで途切れてしまう。
そして、次のシーンでは曳航されていく姿だけがうっすらと見える。
『また、私は……あの子を迎えに…いけないのか……』
意識が遠のく中で、あれほど握ることの多かったその優しい手も、空を突き曳航されるその子に届くことはなかった。
数多くの戦火を潜り抜けてきたビスマルクでも、この時ばかりはダメだと思っていた。そんな中で現れたのがU-556だった。
燃え盛る戦火の中で、潜水艦の彼女はその特性を十二分に生かし、秘密裏にビスマルクの元へと到着。気絶していたビスマルクを曳航することができていた。
「うわぁぁん。アネキぃぃぃ!」
「ありがとう。U-556。おかげで助かったよ……」
ベッドで療養しながら、号泣するU-556の頭を優しく撫でるビスマルク。助かったことにうれしい気持ちになるも、心残りとなる忘れえない記憶が心の奥底に刻まれていったのだった。
見慣れぬ天井を眺めながら、そのうちに秘めた感情が爆発し始める。それは、自分へ向けての言葉が、脳裏で自責の念に駆られていく。
『何が忠誠だ、何が名誉だ。大切なものをこの胸にいまだ抱けないというのに……』
普段、自制することの多いビスマルクも、心のうちには葛藤も沸き起こる。強くシーツを握って歯を食いしばる。その無念さと高鳴る感情に、ボロボロと涙が出てしまう。
『こんな思いになるのは……あの子……エンタープライズに出会ったからか……』
ビスマルクの脳裏で、数日前に行われた大連合の調印式が脳裏をよぎっていた。各陣営の長が集合して、大連合を新たに結成する中でユニオンの代表となったのが、エンタープライズ。
ビスマルク自身も、彼女ほどユニオンの代表として適任はいないと思っていたものの、ビスマルクにとっては‘その容姿’に胸が締め付けられていた。髪の長さや瞳の色、艤装も異なることから、まったく違うといってしまえばそれまで。しかし、ビスマルクにとっては、もう‘あの子’にしか見えなかった。
「アネキ……大丈夫?」
「んっ。あぁ……U-556か……」
ベッド際で心配そうな表情を向けるU-556は、今にも泣き出しそうなほどに涙をいっぱい貯めていた。その悲し気な表情を見るたび、ビスマルクは自分を律しないとと固く決意していく。
『そうだ…我は鉄血の代表。ならば、代表にふさわしい立ち振る舞いをしなければ……』
そんなビスマルクのそばに寄り添うU-556は、心配そうに起き上がったビスマルクの顔を覗き込みながら言葉を紡いでいく……
「また、あの夢? あたし……アネキしか……見つけられなかった……」
華奢な体をさらに小さくすぼめて、残念そうに体を丸める。プルプルと震えるU-556のその姿を見るたびに、自分を律する活力が得られていたビスマルク。
ゆっくりと体を起き上がらせると、彼女の華奢な体を抱く。潜水艦の彼女の肢体華奢で、温かな体温がその優しさを伝えてくれていた。
「ありがとう。U-556。いこうか……」
「もう。いい?」
「あぁ。ありがとう。」
「うんっ!」
ゆっくりと起き上がったビスマルクは、身だしなみを整えるとゆっくりと自室を後にしていく。調子を取り戻したビスマルクの様子を見たU-556は、また屈託のない笑顔に戻ったのだった。
*
この日も大連合の会議を控え、中央の会議室へと赴いていたビスマルク。そのそばにはU-556が寄り添うようにしてはなしをしていた。それは、まるで年の離れた妹のように、屈託なく向けられる笑顔にビスマルクも心が高揚していく。
「アネキ……大連合の仕事…やっぱり大変?」
「あ。いやっ。それほどでもないが……それなりにだな……」
「そう。ならよかった。」
「ありがとう。」
クスクスと笑い合いながら、新たに設けられた大連合中央会議室での会議へと向かう。一足先に会議室に到着したビスマルクとU-556は、いつものように窓際の椅子に腰を下ろす。そのビスマルクの横に座るようにして、U-556が寄り添っていく。そんな彼女の体温を感じながらも、窓から見える青空を眺めて物思いにふけっていく。
『今、あの子はどこかの基地で活躍しているのだろうか……』
姉さんとビスマルクを慕い、容姿こそそこまで似ていなかったものの、綺麗な髪の色に自分にはない魅力を彼女に感じていたビスマルク。
曳航されていく中でも、自分よりは負傷は少ないように見えていたビスマルクは、今は連絡が取れないとしても、どこかの基地で生きていることを願うようになっていた。窓の外では、鷹が弧を描きながら風を切る。その気持ちよさそうなその鷹は、見覚えのある鷹でおおよそその飼い主が想像できていた。
「ヨークタウン級か……」
ビスマルクの横で同じように空を見ていたU-556はその鷹を見つけると、呼び名を口ずさむ。
「いーぐるちゃんだ。気持ちよさそうだなぁ~」
「あれは、いーぐるちゃんというのか。」
「そうだよ。ニーミちゃんやジャベリンと話ししてた。」
「そうかそうか。ほかの陣営の子とも、仲良くできてるようで何よりだ。」
「えへへ」
まるで娘のようにも感じる体格差があったものの、慕ってくれる妹のような温かな気持ちになっていくビスマルク。その頭を優しく撫でるようにしていると、心が安らいでいくのがわかるほどだった。
「んっ? 早いな。ビスマルク……」
「あぁ。先にきてい…た……」
「ん?」
U-556と一緒に会話をしていたビスマルクは、入ってきたエンタープライズに挨拶をすると、息が止まるほどの衝撃を感じてしまう。高鳴る鼓動と、呼吸すら忘れてしまうビスマルクに、相手も心配してしまう。
「ビスマルク……大丈夫か?」
「あぁ……」
『あれっ……。エンタープライズだと…わかっているのに……』
『これでは……彼女に失礼だ……身内と間違うなんて……』
頭に手を当て、片頭痛に見舞われてしまうビスマルク。慌てて寄り添ったエンタープライズの肩を借りるが、どうしても妹の姿に見えてしまう。しかし、必死にその偶像を振り払うと、ようやくその幻は消えたのだった。
「私に何かできることはあるか? ビスマルク……」
「えっ?」
急に体調を崩したビスマルクを心配したエンタープライズは、ビスマルクの表情をうかがう。その様子をU-556も一緒にながめているが、同じように彼女も脳裏を違ったKAN-SENがよぎる……
「エンタープライズさん……あの人みたい……」
「ん? U-556…誰かと似ているのか?」
エンタープライズに促されるようにして、U-556が言葉を積むごうとするも、ビスマルクが制止してしまう。その姿に、エンタープライズ自身もそのことに触れてはいけないのだと察していく。
「ま、まぁ……ビスマルクにも…秘密にしておきたいこと…くらい…あるだろう。でも、辛くなったら、言ってくれ。」
「あ、あぁ。すまない……」
ビスマルクの心配するエンタープライズとU-556に抱えられつつ、大連合の会議が始まっていったのだった。
*
『アネキ……もっと、元気に……』
ビスマルクのことを第一におもっていたU-556は、一人。艤装を保管する港へと歩みを進めていた。
大連合になったことで、ドックも拡張され多くのKAN-SENの艤装が整列して並べられていた。手前から戦艦に空母、重巡に軽巡。そして駆逐艦、その先に潜水艦の曳航する場所があった。
端から歩けば結構な距離があるため、U-556の足だと、だいぶかかってしまう。その道中でも、彼女の決意は揺らがなかった。
「今は補給もある、あの時のアネキを迎えに行ったときとは違って、ボロボロじゃない。今なら……」
そんな決意の元、U-556は自分の艤装が曳航されている場所にようやく到着する。しかし、そんな彼女の様子を察していたKAN-SENが一人。待ち受けていた。
「どこへ行く気だ? U-556。」
「っっ!!」
呼び止められると思っていなかったU-556は慌てて声のする方向を向くと、そこには見知ったKAN-SENが腕を組んで待っていた。
その姿を見た瞬間。あれほど決意した感情が一気に揺らぎ始めてしまう。ボロボロと涙が溢れ出てしまい、折角の決意が揺らいでしまうのが自分でわかるほどだった。
「あ、アネキ……」
「どこに行くんだ? U-556。まさか……考えもなしに行くのか?」
「だって! あ、アネキのあんな姿、見てられない!! もし……もしっ!! ティルピッツさんが…泣いてるのなら……迎えに……行きたい……」
ボロボロと大粒の涙を流し、小さな顔をくしゃっと縮めてその思いを伝えていくU-556。
「それは、無茶をしてでも叶えたいことなのか?」
「で、でも……」
「いるというのが確定していないんだろう? お前まで私の元から去るのか?」
「そんなこと……ないっ!! でも、アネキの…あんな顔…見たくない……」
ボロボロと涙を流しながら強い意志を表してくれたU-556に寄り添うようにしてゆっくりと抱いたビスマルクは、U-556の優しい気持ちに胸の奥が熱くなっていったのだった。
「我は良き仲間に恵まれたよ。U-556。」
「うわぁぁん!!!!」
鉄血に在籍するKAN-SENの一部は‘無鉄砲’と呼ばれることがあるしかも、それでやってのけてしまう。そのことから、ほかの陣営からすれば無鉄砲に映ることが多い。ビスマルク自身も、以前はティルピッツのことを追いかけようとしたこともあった。しかし、その考えは副官だったオイゲンに制止されていた。
「無鉄砲な子がこんなところにもいたか……」
「でも……でも。」
ビスマルクの腕の中でも、いまだ行こうとするのをやめようとしないU-556に、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「大連合になったんだ。今じゃなくても……未来は変えられる。そうだろう?」
「アネキ……」
ボロボロとビスマルクの腕の中で一通り泣いたU-556だった。
そんな二人をそっと遠くから眺めていた、白い軍服を着た一人の空母はそっと行動を開始したのだった。