吸血鬼は強いです。…多分…   作:カオス案山子

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二夜連続


掃除のバイトってまじで見境無く募集してた。

 

奴隷

 

それは前世では知識程度にしか知らなかったもの。

 

この世界では基本的にどの種族がとかはなく、大体の奴隷が誰かに売られたりとか拉致されたりとかと中々物騒である。

…中には自分から売られに行く物好きもいるみたいだが…

 

「…ここか…」

 

俺は昨日オカンに言われた奴隷販売所に来ていた

 

「…ふー…よし!」

 

一回息を吐いて扉を開ける

 

「失礼します…」

 

「おー!君がバイト君か!よく来たな!さぁさぁこっち座って!」

 

「は、はぁ…」

 

俺を出迎えてくれたのはかなりゴリマッチョな男性だった

 

取り敢えず言われた通りに椅子に座る

 

「えーと…アヘンくん?」

 

「あ、はい」

 

「俺はドミニスク!まぁしがない奴隷商人だ!よろしくね!」

 

そう言ってドミニスクさんは手を伸ばしてくる

 

「よろしくお願いします…」

 

俺はその手を握り、握手をする

 

「うん!それで今日アヘンくんにやって貰いたいのは…掃除だ!」

 

「掃除?」

 

俺が聞くとドミニスクさんは「うむ!」と腕を組んで頷く

 

「まぁ掃除といってもここみたいなお客さんを対応する場所じゃなくて奴隷達の牢の掃除だ!」

 

「はぁ…牢ですか」

 

「そうだ!しかもたまにだが賄いも出るぞ!」

 

そうドミニスクさんは言ってこっちを見てくる

 

「じゃあ早速仕事して貰おうかな!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「うむ!元気が一番!じゃあ付いてきて貰おうかな!」

 

そう言って立ち上がりドミニスクさんの後を付いていこうとすると店の扉が開き一人の女性が入ってくる

 

その女性は白い髪をストレートに伸ばし、特徴的な長い耳がついていた

 

…あの耳はエルフ族にのみついている耳だ。つまり彼女はエルフってことになる

 

「おはようございまーす。…ってあれ?店長新人?」

 

「おー!ハクレスちゃん!そうそう!新人のアヘンくんだ!」

 

「あっ、えぇと…新人のアヘンです…」

 

「よろしく。私は受付を担当してるハクレス。…あんたどこの仕事するの?」

 

ハクレスさんに聞かれ「牢の掃除です」と素直に答えるとハクレスさんは「そうか…」となんかめっちゃ不安になりそうな感じで呟く

 

「まぁ…頑張れよ」

 

「?はい!」

 

「よし!じゃあこっち来て!」

 

俺はドミニスクさんに付いていき扉の前まで来る

 

「ここから奴隷達の牢だから!くれぐれも戸締まりはしっかりしてね!それから危なくなったらすぐに逃げること!地下牢だから洪水とか起きたら大変だからすぐにこっちに来てね!あと地下に入ったら青いロッカーがあるからそこに着替えとか入れてね!その隣にある緑のロッカーに掃除道具入ってるから!あとこれ鍵ね!マスターキーになってるからロッカーも牢もこれ一本で開けられるから!絶対に失くさないでね!じゃあこれ!作業服ね!何かあったらこっちに来て聞いてね!じゃあよろしく!」

 

ドミニスクさんの説明を聞き、作業服を渡された俺は扉の前でドミニスクさんと別れ、作業服を持ちながら地下に続く階段を下りていく

 

階段を下りた先には扉がありその扉をドミニスクさんにもらった鍵を使い扉を開ける

 

中は管理室のようになっており、地上と連絡がとれるようになっているのか無線機があり、それから青いロッカーと緑のロッカー。

その先には赤い扉があった

 

「あの赤のドアの先に奴隷達の牢があるのか…まぁ取り敢えず着替えるか…えぇと…青いロッカーは…これか」

 

取り敢えず目的のロッカーを見つけ着替える

 

「…しっかし不気味だなぁ…なんか衛生管理も悪そうだし…電気はチカチカしてるし…変えないのかな?」

 

そんな独り言を呟きながら着替え、緑のロッカーから掃除道具一式を取り出し「よし!」と気合いを入れる

 

「…取り敢えず頑張るか!」

 

さぁ!赤い扉を開けて!いざ出陣!

 

「頑張るぞ!」

 

扉の先には…無機質な鉄の扉がただただ並んでいた

 

「…まぁそりゃそうよね。…さて、えぇと…取り敢えずまずは人間ゾーンからかな?」

 

奴隷達の牢はエリアごとに別れており人間、魔族、獣人、エルフ等々分けられている

手元のマップを見ながらドミニスクさんに言われた通り人間ゾーンから掃除を始めようと人間ゾーンの扉を探す

 

「…ここか…」

 

扉の上に『人間』と書かれた鉄の扉をマスターキーで開けると様々な所から視線を感じる

 

「…(チラッ)」

 

モップで床を拭きながら牢の中をチラッと見るとこっちを怯えた目で見てくる少年がいた

 

何処の牢の中の視線は怯えていた

 

(…そりゃそうだよなぁ…皆好きでここにいる訳じゃなさそうだし…俺だってオカンが捨ててたらここにいたわけだからなぁ…)

 

そんなことを思いながら空の牢を開けて中の掃除を始める

 

(…人間ゾーンはあんまり汚れてないって聞いたが…本当らしいな…)

 

ドミニスクさん直筆のメモに書いてあったことを思いだし、流石店長と思う

 

「…よし!人間ゾーン終わり!」

 

人間ゾーンから出てしっかり鉄の扉に鍵を掛ける

 

「えぇと…次は…」

 

 

 

■■■■■■■■■

 

 

 

あの後順調に掃除をしていきついに最後の獣人ゾーンに来た

 

「…ぶっちゃけ水性ゾーンもきつかったんだが…それより汚いのか…」

 

先程掃除した水性ゾーンは魚人や人魚のエリアだったのだがまぁ生臭かった。

多分鼻を殺してたね。あの時の俺は。

 

しかしそれより凄い獣人ゾーンとは…

 

俺は意を決して鉄の扉を開けた!

 

その瞬間!獣達の鳴き声とその独特な臭いが俺を襲う!

 

「がっ…!?くっ…さ!」

 

思わず反射的に扉を閉じてしまった

 

「…まじで…?」

 

俺は直ぐ様直筆のメモを取り出し獣人ゾーンの所を見る

 

そこには『慣れない内は鼻を塞ぐといいよ!』と書いてあった

 

「…っても塞ぐものなんて…」

 

…あるじゃん。メモが。

 

いやいやいや!これは駄目だ!これがなくなったら俺はこの掃除を完遂できない!

 

ならば…!我慢するしか…!

 

「…背に腹は変えられないか…っ!」

 

一回息を吐き、覚悟を決めて扉を開く

 

「うっ…!いや!耐えられる!」

 

我慢しながら床の掃除をはじめる

 

「おらぁ!出せぇ!」

 

しっかし獣人は今までの奴隷達とは違うな。

 

何よりその目に闘志がある。

 

「んー!んー!」

 

何より拘束の種類が桁違いだ。

 

魔族ですら手足だけ拘束みたいなパターンが多かったのに全身壁に張り付けられていたり口に道具を咥えさせられていたりと中々厳しくされているようだ。

 

(…まぁ獣人だから牙が発達してるってのもあるのかも知れないが…)

 

しっかし汚れてるなぁ…

 

何より床に落ちてる毛や羽の両が段違いだ

 

「あっ、あの!」

 

うぇぇ…と内心嫌々やっていると牢から声が掛けられる

 

「?はい?」

 

声が聞こえた牢を見るとそこには鳥の獣人…鳥人がいた

よくよくみればその鳥人の腕の中にはもう一人の鳥人が抱えられていた

 

「この子なんかの病気みたいで様子がおかしいんです!助けてください!」

 

「…え!?ちょ、ちょっと待ってください!」

 

俺は思わず牢の鍵を開けその鳥人をお姫様抱っこする

 

「うわぁ…これは…」

 

その鳥人は羽が片方腐り落ちており、明らかに顔色が悪かった

 

「お願いします!助けてあげて下さい!」

 

「…取り敢えず上に聞いてみます!」

 

一旦牢から出てしっかり戸締まりして管理室に向かう

…もちろん鳥人をお姫様抱っこしながら

 

管理室に着くと無線機を取りドミニスクさんに連絡を入れる

 

『どうしたの?なんか非常事態でもあった?』

 

「その…鳥人の一人が凄い死にそうで…」

 

そう俺が言うとドミニスクさんの空気が変わった感じがした

 

『…そう。ならその子はアヘンくんが持ち帰りなさい』

 

「…は?」

 

一瞬何を言ってるのかわからなかった

 

『…その子って羽が腐っちゃってる子でしょ?』

 

「は、はい」

 

『実はね…その子前の買い主がめちゃくちゃやってね?危ない薬とかで実験されてたみたい。んで使い物にならなくなったから売られてね?まぁそのクソヤロウはもうブラックリストなんだけど…でその子どうしようかってハクレスちゃんと話したんだけど次の賄いとしてバイトにあげることにしたんだ。…多分君なら悪いようにしないだろうし…だからその子をよろしくね!あぁ終わったらもう帰っていいから!給料は扉の前においといたから!じゃあまた機会があったら応募してみて!じゃあね!』

 

「あっ!ちょっと!」

 

ブツッ!

 

…えぇ…




髭が伸びるの早いなぁって。

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