その日、サキュバスは“人間”を知った 作:とある組織の生体兵器
「んーーー!!!んーーーーー!!!」
(痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイ!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬシヌシヌ!!死ぬーーー!!死ぬーーーーー!!!!)
今すぐにでも飛び起きたい、逃げたいと思っても体が動かない。鋼線で縛られているのだ。手を引きちぎっても良いと考えるが、そうもいかず、太く縛られているため千切ることも不可能。激痛が身体中を駆け巡り、呼吸すら危うい。本人の中ではこの激痛のまま数日間という時間が経過しているが、現実は30分ほどだ。
「やっぱり…。腸に線虫発見…。あと1時間後には食い破られていたかも…。その他にも、トビムシもいた…。」
「そんなのはいいから、早くしてやれ!かわいそうだ!」
「わかってる…。急げば、大事なところを傷つけて、取り返しのつかないことになるかもしれない…。ここじゃ、たいした機材もないし…。」
「んーーーー!!!」
「辛いな!大丈夫だ!頑張れる!出来る!痛いな!後で泣き叫んでもいい。誰も文句は言わない。大丈夫。頑張れる。」
Dが優しい言葉を投げかける。その方が生存率が上がると知っているのだ。
「…卵発見…。…生きている虫はこれで全部かな…?なら、切開した腹を戻すよ。縫い付けるから。あと、輸血もね。」
Cが手際良く閉じて行く。
「……。」
「よし、閉じた。命の危険はなし。」
「よかったな。」
Rは激痛で何も言えない。終わっただけでも天国のようだ。
「…アレを渡す。」
「いいの?Dのでしょう?」
「構わん。」
Dは後ろのポーチから赤い液体の入ったビンを取り出し、蓋を開けてRに飲ませる。
「…?」
すると、段々と痛みが薄れて行く。腹を見れば、もう治りかけていた。
「ん…?んーん?」
「あぁ、忘れていた。取ってあげなくちゃな。」
Dがマウスピースを取ってあげる。
「拘束もとってやれ。」
「んー。」
Cが拘束を外す。
「治ってる…。」
「…組織から渡された命綱だ。飲めば、回復速度が加速する。歩けるか?」
「う、うん…。」
Dの手を取って、なんとか立ち上がる。
「これ見て?これ。貴女のお腹の中にいた蟲。あっ、あとこの薬を飲んで。また開くなんてやでしょ?」
最後の一言を聞いた途端に、すぐに飲むR。
「これは…?」
「即効性殺虫薬。これを飲めば、体内の蟲は卵も含めて完全に死ぬ。ただ、育ってきちゃったものは死ななかったり、逆に暴れさせて食い破られることもあるから…。」
「…ありがとう…。」
「あと、貴女のお腹のなかにいた蟲。線虫にトビンコ、卵に幼虫…。あと少しで、食い破られるところだったね。」
Cがビンに入った蟲を見せる。
「うん…。」
そして、Rが傷跡を見る。いつの間にか、縫い付けた糸は無くなっていた。傷跡も残っていない。
「欲しいならあげるよ?」
「いらない!」
「…じゃ、後で燃やそうっと。」
Cが焚き火の中に、そのビンを置く。ビンの中の蟲が熱で苦しみもがいている。
「…悪趣味だな。」
「悪さをした蟲はこうしなくちゃ。こうやって、被験者もジワジワ苦しみながら殺されたんだし。」
そして、ビンの中の蟲が動かなくなった。
「まだ生きてるから。線虫の、あの表面がカサカサになるまでやらないとね。」
「……。」
その通り、少ししたら活発に動いた。死んだふりが効かないと分かったのだろう。そして、5分後にカサカサになり、本当に動かなくなった。
「最後に…。ポイッ。」
蓋を開けた直後に、マッチと他の枯れた木片を入れた。そして、密封させる。
「酸欠を起こさせる気か?」
「そうしないと安心できないし。」
「……。」
しばらくして、木片があるのに火が消えた。
「よし、あとは持って帰るだけ。」
「持って帰るの!?」
「後ですり潰す。」
「粉にして食べるのか?ふりかけか?」
「食べるわけないって知ってるよね?」
そう言って、もう行く支度をする。
「もう行くの…?」
「うん。あの声で大分蟲が集まってきたからね。それに、成長が早い。慰み者からもう繁殖されているかもしれないし。」
「いや、それよりこいつはどうする?」
「…待たせているのも危険だよね…。」
「100%危険だ。」
「なら、連れて行く?」
「…その方が危険度は下がるか…。」
そんな話をしている二人。
「…私は中国特殊部隊、レイ。格闘を主にしているわ。」
「…そうか。」
なんとかお荷物にならないように言う。
「なら、まずは服を着ろ。」
「え?……。…!?」
素っ裸だ。切開で忘れていたが、衣類は蟲に破られているのだ。
「私、予備持ってないんだけど…。」
「…はぁ…。予備のを貸してやる。」
Dに衣類を渡される。少し大きいが、動きにくいことはない。というより…。
「…動きやすい…。」
「防弾防刃仕様でもある。本来はこんな蟲じゃなくて刃物や鈍器を持った妖怪だからな…。こんな蟲よりも知能を持った化け物だ…。相手が妖怪なら、こんなもの簡単に破かれるぞ。…少し大きいかもしれんが…。」
Dに説明される。
(…ほのかにコーヒーの香り…。安心する…。)
温かな衣類に口元まで入り、そんなことを思い浮かべるR。
「さてと…。じゃ、救出アンド殲滅しに行くよ。」
Cが言い、頷くD。ぎこちないが頷くR。
「その…。」
「…前に…。」
ジャキン…
グッ…
Dはボウガンの準備をして、Cが腕に巻き付かれている鋼線を手に取る。そして…。
バシュウ!
クイッ
「「ギュァェェェェェェ!!!」」
「!?」
Rはその時初めて気づいた。背後と天井にいる巨大ゴキブリの存在に…。
「さっきからねっとりとした殺気があったんだよ…。」
「慰み者にしようとか考える低脳の分際で…。」
二人が、ゴキブリの頭を撃ち抜き、バラバラにしたのだ。
「気づかなかったでしょ?まぁ、気配を消すのはコイツらのお得意だから…。」
「俺たちには効かん。妖怪には100%気配を消す奴がいるからな…。よく補導対象になっている。」
「……。」
Rは二人と自分のレベルの違いに圧倒される。
「まぁ、それはそうと…。俺の感知では、この建物内に卵が3箇所ある。羽化しないうちに切り裂くぞ。そして燃やす。」
「了解。」
「うん…。」
その二人の後について行くR。二人は頼もしかった。道中の死体を見ても、気にも留めなかった。お面を被っているせいかもしれないが…。
「ここだ。」
Dが火災報知器の扉を開けた。
「う…。」
「やはりな。」
「羽化し始めちゃってるね。白い虫が出てる…。ま、バラバラにして燃やしちゃえばみんな一緒か。」
CがバラしてDが燃やす。そんな単純な作業を淡々とする二人。
「他のも羽化しちゃってる?」
「今のところはなにもなし。最初にここに来た理由は羽化しそうだったからだ。」
「へ〜。」
そんな感じで、建物内の蟲を殺して行く。殺し終わった後は救助だ。
「外は鬱蒼としたジャングル…。蟲の天国だなこりゃ。」
「もしかしたら、本拠地は地中かも知れない…。女の子が蟲によって地中に攫われて、蟲に改造された事件もあったしね…。あれは酷かった…。」
「今はまだ組織で治療中だったか…?洗脳も、ありえないくらいされていたからな…。今はリハビリを頑張っているころだろう。もし完治できなかったら、組織で養われるみたいだし。」
(そんな事件が…。…そっちの組織の人は優しい…。)
「あっ、優しいなんて思っちゃダメだよ?蟲使いにして、組織の一員に入れたがっているだけだから…。」
「……。」
Rの心を読んだかのように、Cが言った。
「身体が改造されているところだよな…。まず…。」
「組織の医療技術を舐めちゃダメ。細胞自体を変える部屋まであるんだから、外傷は多分治る。あとは洗脳よね…。」
「洗脳は厄介だからな…。脳も組織で記憶をいじるか…。催眠術で忘れさせるか…。時間によって正気に戻させるか…。いっそのこと、治らなかったら殺してあげるか…。その少女のことを考えると、どうしてもな…。まぁ、その蟲たちは皆殺しにしたけど。」
DとCが深く考える。道中何度も襲撃されたが、遅くても5秒で始末だ。
「感知能力あげられる?このジャングル全域に。」
「このジャングルはすごく広いから、流石に…。」
「楽勝だ。なんなら、この隣の隣の地域の人間の数まで数えようか?」
Dが精神を集中させる。
「…ここから北西に5km先に行ったところに洞窟がある。外には…。……。…まぁ、肉が転がってる。で、洞窟内では今も慰み者に行為を続けている。生存者は…結構いるな。だが、不要と判断された者は殺されて幼虫の餌にされている。急いだ方が良い。」
「了解。」
二人は会話をした後、走る。
「ちなみに、外にいる蟲は?」
「…いない。洞窟内だ。あとは地中に少し…。」
「了解。レイは気を引き締めて。」
「う、うん!」
実際は風のように走る二人について行くのに手一杯だ。
「地面来るぞ。」
「了解!ジャンプ!」
「ジャ、ジャンプ!」
Rが跳ねた途端…。
シュルルル!!
「ミミズだ。拘束してくるから殺せ。ちなみに、心臓は白いところだ。」
Dが巨大ミミズの心臓にボウガンの矢を生やして言う。
「こんな感じ?」
Cは一気に何体かの心臓を抉り出した。
「う…く…!」
Rがミミズに苦戦していたが…。
バシュ!
「レイ、大丈夫か?」
「う、うん…。」
Dが駆け寄り、Rの胸が高鳴る。ミミズは動かない。
「感知…ん?」
Dが異変に気付いた。
「C、そいつとあれとあいつをバラしてくれ。」
「了解。」
「死んだふりをしていた。」
「さすが。」
DとCがあっという間に片付けた。
「外の感知、全て消滅確認。あとは洞窟内だ。」
三人は走る走る…。
「外まで、慰み者にされている声が聞こえてくる…。さっさと殺そう。」
「「了解。」」
三人は突入して、蟲達を皆殺しにした。幼虫や卵まで。
「ま、仕方ないことだよ。生存者は保護。この蟲の死体は燃す。この洞窟も落盤を起こさせる。Dの感知能力で隅々まで調べるから。」
Cが保護する人々に指示を出した。
「レイ、あなたも…。…仲間だったの?」
「…うん…。」
レイは、慰み者にされて気を失いかけている女性。完全にすり潰されず、所々そのままの肉体が残っている男性を見ていた。
「まぁ、男の方は死んでるけど、女性の方は生きていて良かったじゃん。前は、皆死んでいたからさ。」
「……。」
Cは言うが、レイは黙ったままだ。良かったと言う言葉が気に入らなかったのだろう。
「C、サボるな。…遺体か。燃すか?」
「!?」
Dが当然のように、他の蟲の死体のように言った。
「…!」
レイは当然のように、Dの胸ぐらを掴む。CはDの無神経に額に手を当てていた。
「…死体は死体だ。蟲も人間もそこに大差はない。」
Dはレイの手を払いのける。
「大差って…!私の仲間だったのに…!」
「ならお前は一々、潰している蚊のことを気にするか?こいつも生きていると、実感して殺しているか?豚肉が出て、豚がどのように殺されて、今ここにいると毎回実感しているのか?答えは「違う」だ。そんなことを気にしていたら、人間など罪悪感に潰れる。死体は死体だ。肉は肉。豚肉も牛肉もどちらにせよ腐るように、人間だろうがなんだろうが死ねば腐る。同じだ。」
「……。」
2人が啀み合っていると…。
「はいはいおしまい!もう、2人とも喧嘩しないで。そんなところに無駄な体力を使うなら、手伝ってよ。」
「「……。」」
2人はお面と顔を合わせずに手伝った。
DとCの仕事や強さが少し分かる話です。
C…武器は剛線を主に使う。Dと相棒であり、冗談や面白いことが好き。すぐに仮面を取る癖がある。組織の方針より私情を優先することもあり、妖怪を逃したりしてしまうために監視役をつかされた。組織の3本指に入る実力者。妖怪にとって、Cと鉢合わせた方が生存率は圧倒的に高い。
D…今のDとは少し違う…。蜂のお面を四六時中つけており、素顔は決して見せない。組織が絶対と考えており、組織の邪魔になったり、邪魔と判断された場合やこの先脅かす存在と認識した場合は、誰だろうが容赦なく殺す。妖怪にとって、Dと鉢合わせた場合は生存率が0に等しい。人間を人間として見ず、妖怪も何もかも単純な『生物』という観点を持ち、よく普通の感情を持つ者や人情がある者と意見が衝突する。その度に、Cが仲裁に入っていた。
レイ…中国特殊部隊隊員。格闘を主に使う。表世界じゃ相当な実力者だが、裏の世界ではペーペー。助けてくれたDに少なからず好意を持っていたが、少し近寄りがたく感じている。虫の駆除との話だったが、ここまで大きいことや数の情報がなく、お金のために受けた。いわゆる騙し依頼を受けてしまった。