その日、サキュバスは“人間”を知った 作:とある組織の生体兵器
「イタタタ…。」
レイが目を覚ます。辺りは真っ暗で何も見えない。
「D?どこ?D!!」
Dを呼ぶが、返事がない。
(とにかく…一旦どこなのか、広さはどのくらいなのか見ないと…。)
そう思い、立ち上がろうとしたが…。
グラ…
「あれ?」
右足が動かない。それどころか、右足に何か繋がれているようだ。
「嘘…。」
手探りで探し当てようとした結果、岩に潰されていることが分かった。痛みがないのは、ショックを受けているからだ。
(もしかして…Dは…。)
レイが思う。Dが潰されてしまっているのではないかと。誰にも助けてもらえないのだろうかと。
「嘘…!いやぁぁぁ!」
「叫ぶな。五月蝿い。」
「え!?」
声がして、意外と近くにいることがわかった。
「夜目を慣らしている最中だ。無駄に体力を使うな。」
Dは無神経に言う。
「馬鹿!」
「?」
「心配したじゃないの!」
「勝手に心配していることだ。」
「屁理屈ばっか…!少しは心配させてごめんとか言えないの!?死んじゃったかと思ったじゃないの!」
「…本気でそう思ったのか?」
「そうよ!」
「…すまん。心配をかけた。誰も心配などしないからな…。」
「…いいわよ。別に…。分かれば…。」
Dが素直に謝り、怒りの感情が消えてしまった。
「それより、どうしよう…。周り見えないし…。」
「…組織の服を着ていて良かったな。見学用だが…。」
「?」
「ここは組織の施設よりも随分深い。それがなかったら高熱で焼かれてペシャンコだ。」
「よかった…。」
「だが組織の敷地内を抜けた以上、長くは持たない。さっさとここから出ないとな…。…だが、上を見る限り10kmは落ちたか…。」
「10km…。」
「おめでとう。」
「?」
「これで、俺たちが記録を破って最深部まで来たな。だから、とりあえずおめでとう。」
「そんなこと言っている場合!?」
Dがペースを崩さずに言い、レイが何とか足を踏み潰している岩をどかそうとする。
「死ぬかも…しれないのよ…!?」
「慌てるな。」
「慌てるなって…!」
「冷静さを失えば、なんとかなる場合もならなくなる。だから落ち着いて冷静になれ。」
「……。」
Dが深呼吸をして、レイも深呼吸をする。段々と落ち着いてきた。
「…少し取り乱したわ。」
「そうか。」
「なら、まずどうする?」
「……。…お前の足をなんとかしないとな。その次に、一応地割れを登る。足を怪我しているなら、俺の背中に掴まれ。ある程度いけば、誰かに気づいてもらえる。」
「その間に、この服の効き目が…。」
「残り45分。ここでただ何もしないで死ぬくらいなら、最後まで足掻いて死ぬ。」
そして、真っ暗な中Dが岩を掴む。
「…どうだ…?動けるか…?」
「え、ええ。」
レイはどこまで這ったか分からないが、取り敢えず移動した。
ズゥゥゥゥン…!
重い音がして、レイが聞く。
「D…?どこ…?」
「ここだ。…ところで、先ほどからずっと言いたいことがある。」
「?」
「いい加減手を離せ。」
「あっ!ご、ごめんなさい!」
レイはずっとDの手を掴んでいた。
「でも、真っ暗で…。」
「なんだ?怖いのか?」
「うん…。」
「……。」
Dはこの先、レイがこの組織の一員になれるのか本気で心配した。
「…暗闇が怖いのは致命的だぞ…。」
「あの時を思い出しちゃって…。」
「…そうか。」
蟲のトラウマだろう。
「まぁいい。随分落ちたが、幸いにも坂になっている。つまり、辿れば上に出れるかもしれないということだ。」
Dは真っ暗な中言う。蜂の仮面の目が少し光り、場所を知らせてくれる。
「レイ、行くぞ。」
「う、うん…。」
Dの後ろを、壁を伝いながらついて行くレイ。
「…そこ気をつけろ。転ぶぞ。」
「きゃっ!」
「遅かったか…。」
Dが受け止めてあげる。
「…骨折していたことを忘れていた。すまない。」
Dが気が付き、しゃがむ。
「…乗れ。」
「でも…。」
「乗れ。」
「…うん…。」
レイは素直にDに背負われた。
「…重い?」
「大丈夫だ。」
「……。」
レイはその答えに少しムッとしたが、しばらくして考え、何故ムッとしたのか自身でも分からなかった。
「……。…そうか。軽いぞ。」
「……。」
Dは何か思い出し、そう言ってくれた。すると、レイはまた意味不明な感情になった。少し嬉しくなったのだ。自身は全く気づいていないが。
「…なんで、軽いって言ったの?」
「…そんな気がしただけだ。」
「嘘。」
「…本当だ。」
「本当?嘘ついてない?」
「……。すまん。」
「やっぱり嘘だ。」
2人は、真っ暗な中話す。
「Cが、女性に重いか軽いか聞かれたら、軽いと答えろと言っていた。」
「…Dのそういうところに素直なところが本当に嫌。」
それから会話が途絶えた。
「…ねぇD。」
「?」
「どうして、この組織に入ろうと思ったの?」
「……。」
「…言えない?」
「…言いたくはない。」
「…そう…。…でも、気になる。」
「…気になるか…。」
「うん。」
「……。…俺は昔、変人だった。…今考えているような変人ではない。思想が根本的に違ったんだ。資本、社会、どちらでもない主義のような、新しい主義だ。普通、人間が死んだら少し動揺したり、悲しむだろう。カブトムシは好きなのに、ゴキブリは嫌いだろう?…だが、俺は精神が異常だった。人の死体を第一発見しても、何も思わなかったし、ゴキブリも素手で触れる異常者だ。」
「…異常者ね。」
「…そんなある日、俺は妖怪を見た。」
「?」
「完璧に人間に擬態している妖怪をだ。そいつはクラスの一員だった。それが分かっていくうちに、通行人の中で妖怪が混じっていることが正確に分かってきたんだ。そいつらが、いつ人間を襲ってくるか分からない。…他の何も知らない人間より、俺はとてつもない恐怖を覚えた。ただの人間はいつも挨拶している優しい人に見えるが、俺はいつ頭を食いちぎられるか分からない恐ろしい妖怪に見えてしまう。人一倍、日常に恐怖していた。そんな時、ある日人間を襲っている妖怪を見つけたんだ。」
「……。」
「俺は助けるため、無我夢中で、そこにあったコンクリートレンガを手に取って頭を殴打した。何度も何度も何度も…。それだけではなく、殴打した後は鉄棒などでも突き刺していた。気がつけば、そいつはもうとっくに死んでいて、肉塊になっていた。その時に、組織の人間に見つかり、連れてこられた。殺されると思ったが、当時は処刑隊だったからスカウトされたよ。妖怪を滅する組織。いなくなれば、俺の恐怖は無くなると考えた。そして、段々と強くなって、試験を乗り越えてこういう経緯になったと言うわけだ。」
「……。」
「聞いているか?…寝ていたか。」
Dは起きていることも知らずに、歩く。レイは、自身の経験と少し共感した。実際、蟲の被害者であり、それらがまだいるのではないかと恐怖している。
「…俺の妹を思い出す…。」
「……。」
Dが儚げに呟いた。
…………
数十分、ずっと背負って歩いている。
「…そろそろ45分か…。死ぬ覚悟を決めねばな。どれくらい上昇したか分からん。…レイ、起きろ。死ぬ時間が来たぞ。」
「…そう。」
Dが下ろして、壁に寄りかかる。
「…あと2分もしないうちに俺たちはあの世だな。」
「…ごめんなさい…。」
「謝るな。こうなる運命だったんだ。レイが悪いわけじゃない。じゃなきゃ、地面が割れて、ここまで落ちるか?普通…。」
「…ねぇD。」
「?」
「…今までさ、ありがとう。あの時私を助けてくれて…。」
「…蟲の時か?」
「うん…。それに、本当は貴方は優しいし…。腹部の切開の時も、あんなに優しい言葉をかけてくれたし…。私の元仲間の時の言葉はアレだったけど、数年間過ごしてきて、そう言う理由も分かったし…。ずっと私を指導してくれてたし…。私との訓練も付き合ってくれてたし…。生きて帰れって言ってくれたし…。…今回も、足が折れた後弱音も吐かずにずっと背負ってくれていたし…。」
「…気にするな。当然のことだ。」
「当然って思っている所がすごいのよ…。今思うと、Dって色々かっこよかったし…。優しいし…強いし…。…あれ?完璧な人じゃない?」
「精神は異常だ。」
「ふふっ。そうね。」
そう言った後、真っ暗な中、レイがDに寄り添って来た。
「…意外と、貴方とあの世へ行くのも悪くないかしら…?」
「…そうか。」
「…怖いから、手、繋いでくれない?」
「……。」
「そうすれば、怖くなくなると思う…。」
「…分かった。」
Dが手を握ってあげる。レイは自然と、心が温かくなった。
「…俺も、こんなところで死ぬとは思わなかった。普通考えられるか…?蹴りでこんな地割れなんて…。あり得るはずが…。…あり得ないな。」
Dが何かに気づく。
「あり得るはずがない。第一、地割れが起きたのだぞ?組織が気づかないはずがない。もうとっくに放送がかかっているはずだ。と、なれば…。」
「?」
Dが立ち上がる。
「解除!」
パァァァァ
「!?」
Dが言った途端、周りが真っ白になり…。
「「……。」」
気がつくと、第四訓練場に戻っていた。レイは足の骨折もしていない。
「…やはりか…。」
「え?え?え?」
「今のはプログラムによって作り出された幻覚のようなものだ。俺たちの頭の中に直接そういう状況に陥った幻覚を見せて…。…いや、面倒だ。つまり、精神と肉体が切り離されて、精神だけがプログラムの世界に入ったようなものだ。」
「……。」
レイはキョトンとした後…。
ボンッ
カァァァ…
Dに言った言葉を思い出して、顔から火が出る思いをした。
「…レイ、さっきの…。」
「いやぁぁぁぁ!!!」
「!?」
レイは咄嗟に、そこらにあったものをDに投げつけた。
「ま、待て。落ちつ…。」
ガツンッ!
「!」
適当に投げたダンベルが天井から跳ね返り、Dの後頭部に殴打した。
「…え…嘘…。」
レイが倒れたままのDに駆け寄ると…。
「何?なんの騒…。え…。」
Cが入ってきて、現場を見られた。
「…ち、違うの!これには訳が…。」
「すごい…。」
「え?」
「Dをノックアウトするなんてすごいじゃん!やっぱり、貴女は強くなれるのね!」
「いや、あの…。」
Cが勘違いして、手を取ってブンブン振る。
「待って?組織の一員を倒せたってことは、組織の人間に匹敵する力を持ってるってことだよね!?て、ことはもう全ての試験すっ飛ばして合格じゃん!おめでとう!あなたは今日から『R』ね!」
「い、いや…あの…。」
Cが興奮混じりに言う。Rの言葉など聞いちゃいない。
「ほら!D!いつまで倒れているの!?さっさと起きなさい!」
「…う、うーん…。首トーンされた気分だな…。」
「!?」
Dがなんともなさそうに起き上がり、驚愕するR。
「…おい…。今のダンベル…わざとだったとはな…。」
「……。」
Dの蜂の仮面が怖い。そして、Dはすぐそばまで寄る。
「ひぃ…。」
(な、殴られる…!)
Rは覚悟したが…。
ナデナデ…
「すごいぞ。本当に。よくやった。俺を数秒間動かなくするとは。そこらの組織の一員は中々できないぞ。」
DがRの頭を撫でる。
「あっ、そうだ。貴女のお面考えなくちゃ…。」
「む。そうだな。」
「お面…?」
「そうだ。Cは狼のお面。俺は蜂のお面だ。組織はそれぞれ1人一つお面を持っている。仕事をする時に必ず被る規則だ。…Cはお面を全く被らないがな…。」
「逆にDは全然お面を外さないけどね。」
お面をしていないCと、お面をずっとしたままのDが言う。
「貴女、好きな動物とかいる?」
「好きな動物…。」
「それか、国籍をモチーフにした動物…。…いや、組織の一員となったその日から国籍や今までの記録は全て消されるが…。」
「うーん…。」
Rが悩む。
「なら、熊猫がいいな…。」
「…熊猫?」
「パンダだ。勉強しろC。」
Dに言われて、後ろ頭をかくC。すると…。
「…あ、そうそうD。レイ…じゃない、Rについて調べたんだけど…。」
「?」
「彼女、意外と…変な趣味があるみたい。」
「なんだ?変な趣味とは…。」
「…いや…男である貴方に言うのもなんだけど、一応師匠として知っといた方がいいかなって…。」
「?」
「彼女、緊迫する状況や緊張する状況以外だと…。その…。」
「なんだ。」
「…脱ぐ癖があるみたいで…。」
「…脱ぐ癖?酒を飲んでか?」
「ううん…。普段の日常で…。彼女の普段の写真見たけど…。…あれじゃ痴女だよ…。」
「まさか。数年間訓練をさせた俺が言うんだ。それは出鱈目だ。」
「…そう。じゃ、これは嘘の写真なのね?」
CがDに写真を渡した。
「……。」
「…まだあるよ?」
「いや、いい…。……。」
しばらくDが考えた後…。
「…R!」
「あ、は、はい!」
「現時点で、俺の弟子を辞めてもらう。」
「え…?ええ!?なんで!?」
「お前は今日から組織の一員…。それなのに、俺の弟子では箔がつかない。」
「でも…。」
「なんだ?俺との関係がそんなに大事か?」
「ば…!ち、違うわよ!」
「おや?そうなのか?さっき言ってたじゃないか?それとも、あれは嘘か?」
「ええ!そうね!さようなら!」
「さよなら。」
Rは不機嫌そうに言った後、その部屋を後にした。
「…うわー…。かわいそー…。」
「これが俺のやり方だ。」
「どうしよう…。今すぐ殴ろうかな…?…D!」
「?」
「こんにゃろー!」
ドギャァァァァ!
Dは数年経ったので少し性格が丸くなりました。