その日、サキュバスは“人間”を知った 作:とある組織の生体兵器
…………
「起きないね。」
「とても疲れているのよ。ふふふ。」
吸血鬼が言い、鬼が応える。
「…雪…。」
「ほんとね。ふふふ。」
「お父さんは寝ちゃったし…。」
3人が外で降っている雪を見る。静かにシンシンと降り積もる。
「…静かだと眠くなるよね。」
「夜行性だけどね。」
「そろそろ寝るわよ?ふふふ。」
「「は〜い。」」
サキュバスは吸血鬼たちと同じ部屋で寝るようだ。
夢の中
(私は夢魔…。他人の夢の中に入り込むことが出来る能力を兼ね備えている…。けど、奥底でその人のことを思わないと入れない…。)
サキュバスが夢の中で思う。
(この者の中に入ろうかな…。)
適当に夢に繋がる穴へと入ると…。
「ふふふ…。サキュバスちゃん…。」
(吸血鬼お姉さん…。…!?私の人形がたくさん…!?怖い!普通に怖い!というより、金の延棒だらけだし…。欲望に塗れてるよ…。)
サキュバスが微妙な顔をする。他人の夢に入っていると、姿を見せようと思わなければサキュバスは姿を見せない。そんな感じで辺りを物色していると…。
(…?)
写真かけだ。しかし、存在がブレている。
(ブレているのは、本人も忘れそうな記憶の奥底のもの…。)
その写真に写っているのは親と妹の写真…。
(……。吸血鬼お姉さんも…。そうだよね。)
それを見た後、サキュバスは次の夢の穴へと入った。
(次は誰だろう?)
またもや入ると、雪原に出た。
「皆んなでピクニックに来るなんて珍しいな。」
(D!?)
「サキュバスちゃんも来てくれて嬉しい!」
(私もいる…。誰の夢なんだろう?)
狼女が夢の中のサキュバスの頭を撫でる。
「う〜…。儂にはちと寒いのう…。」
「竜姉さんは寒いのに弱いんだから〜。」
「うるさい…。」
吸血鬼も竜もいた。というより、皆んないる。
「狼女、皆の楽しめることを考えて実行したことはすごいぞ。」
「えへへ〜。」
Dに頭を撫でられて嬉しそうにする狼女。
(…狼お姉さんの夢か…。…少し悪戯しちゃおうかな…。)
そこで何を思ったのか、サキュバスが姿を見せた。
「あれ?サキュバスちゃんが2人…。」
「こっちは本物だよ。夢に入り込んできた。」
「ふぇっ!?え、えと…。これは…違うの!違うから!そんなんじゃないから!」
狼女は慌てて否定する。
「というより、何で入って来たの…?というより、何で姿見せたの!」
「う〜ん…。何となく。」
「もう〜…。」
狼女が恥ずかしそうにする。実際、その恥ずかしそうにする姿が見たかったがために姿を見せたのだ。
「さ、続けて。狼お姉さん。」
「続けるって…。もう!さっきから!私の夢から出てって〜!」
(あれ?強制的に次の夢に来ちゃった…。て、ことは起きちゃったのかな?…。…悪戯されないよね…?)
そんなことを思いながらも夢の中を物色する。あるのは酒樽、そして昔ながらの家だ。その家の中から酔って騒いでいる声が聞こえる。
(…多分、鬼お姉さんの夢?)
「またあの悪夢…。ふふ…。」
(!?)
鬼が隣にいた。もう何が起こるか分かっているような顔をしている。そこに…。
ボァァァァァァ…!
(!?)
周りが炎に包まれた。昔の家も含めて何もかもが焼き尽くされてゆく。逃げ惑い、悲鳴をあげる鬼たち。逃げ惑う鬼を淡々とYとその仲間たちが狩って行く。
「…やめて…やめて…やめて…。」
鬼はその場で頭を抱えて、耳を塞ぐように縮こまり、その言葉を連呼する…。相当な過去だ。そこに、Yか鬼の目の前に立つ。
『終わりだ…。』
Yが大鎌を振り下ろす。
「終わらない!」
「!?」
サキュバスが姿を表して、Yに体当たりした。鬼は突然現れたサキュバスに驚いていた。
「サキュバスちゃん…?」
「鬼お姉さん…。勝手にごめんなさい…!でも…。」
サキュバスは夢だと分かっていても、放っておけなかった。
「…そうね。ふふふ。終止符を打たないとね。ふふふふ。」
「?」
すると、周りが真っ白になった。何もなかったかのように。
「…ありがとう。サキュバスちゃん…。あそこで一族の末裔である私が死ぬことが悪夢なの…。私は一族の者たちから託されてるから…。それを奪われるのがとても嫌なの。…助けてくれてありがとう。サキュバスちゃん。ふふふふ。」
鬼が不敵な笑みで言う。
「鬼お姉さん…。」
「…同情はいらないわ。ふふふ。」
「……。」
サキュバスは次の夢の穴へと行った。
(次は誰の夢なんだろう…?)
サキュバスが降り立ったのは雪の降る場所だ。近くに墓がある。そこに2人、墓の前にいる者がいた。サキュバスが近づく。するとそこにいたのは…。
『…D、またそこにいるのか?』
(!?)
そこにいたのは立っている、猿の仮面をつけた男と、割れた狼の仮面が添えてある墓の前でしゃがんでいるDだ。
「G…。俺はCを助けられなかった。」
『あの場合は誰でも助けることは出来なかった。』
「だが…。俺の相棒だった…。死なせないための相棒だ。なのに…。」
『あまり自分を責めるな。こうなることも覚悟しての組織所属だ。突然死んでも当然だ。殺しているなら殺されもする。悔いは無いはずだ。』
「……。なぁ、G…。」
『?』
「Cは雪が好きだったな…。いずれは雪原で皆んなと一緒に食事をしたいだとか…。」
『この組織に所属した時点でもう叶わぬ夢だ。自分を知っている者は記憶を消され、世間から存在を消される。それに暇もない。』
「…そうだな。…だが、俺はCの夢を叶えさせてやりたい。」
『?』
「俺がその夢を継ぐ。相棒として。友として。」
『…そうか。…このことは上部へ報告しないでおく。…Cの夢を踏み躙るな。』
「分かっている。」
Gが姿を雪にくらまし、最後にDが懐から取り出した蜂の仮面をその墓に添えた。その途端…。
「サキュバス…。いるのは知っている。姿を見せろ。」
(!?)
Dが言い、驚くサキュバス。
「いつから知っていたの…?」
「最初からだ。入ってきた途端に精神が覚醒して、夢を見ているが見ていないようになるからな。」
そして、世界が真っ白になる。
「で、何故来た?」
「…頼まれたのよ。」
「頼まれた?」
「姉妹たちのことをどう思っているのかとか。」
「ふむ…。どう思っている…か。家族だ。この上ない大切な存在だ。」
「…その中では誰が1番好みなの?」
「妖怪と人間での交配は禁止されている。好みもない。」
「…そう。」
「なぜ聞いた?」
「朴念仁!」
「?」
サキュバスはさっさと夢から出て行った。
朝
「……。」
サキュバスが目覚める。
(狼お姉さんのこの恋は思っている以上にハードだ…。)
サキュバスは夢から覚めて思う。周りを見ると抱きついたままの吸血鬼がいた。台所から良い匂いがする。サキュバスは巻き付かれている腕をどかして、部屋のドアを開けた。マンションのため、部屋の感覚がせまい。
「おはよう…。」
サキュバスは目を擦りながら台所へ行く。割烹着を着た狼女が朝食を作っていた。
「ふんっ。」
狼女は頬を膨らませてプイとする。昨晩の夢のことだろう。
「狼お姉さん〜。」
「知りませんっ。」
「許してよ〜。」
「…もうしない?」
「うん。」
「じゃぁ、許す。本当にしないでね?」
「うん。」
許してくれるのだから、本当に優しいのだろう。
「鬼お姉さんから話も聞いたし。」
「?」
「夢で助けてくれたんでしょう?」
「…うん。」
「とても喜んでいたよ?ありがとうだって。」
「…うん!」
狼女が笑顔で言い、サキュバスも少し頬を緩ませて頷いた。
「あっ、そうだ。冷蔵庫の中にえのきがあるから出して欲しいな。上から4番目の引き出しにあるから…。」
「これ?」
「そう!ありがとう。」
「手伝う。」
「本当?ありがとう。」
狼女が笑顔で言い、サキュバスが隣でえのきを切る。もうすぐ朝ごはんだ。
Dの過去を一部…。人間とはなんなのだろうか…。
登場人物紹介コーナー
鬼…いつも不敵な笑みをこぼす。集落を襲われた日からトラウマとなり、よく悪夢を見る。その悪夢を打ち消すかのようにお酒を飲んでいる。
G…組織の者。猿の仮面を被っている。
C…組織の者。かつてのDの相棒。狼の仮面を被っていた。