その日、サキュバスは“人間”を知った   作:とある組織の生体兵器

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その日、サキュバスは戸籍をもらった

夕方

 

「まだ起きない…。」

 

サキュバスは先手を打つために部屋の近くにいるが、Dが出てこない。

 

「彼も疲れているのよ。ふふふ。」

 

鬼が言う。

 

「それにしても…。新しい子が続いて入るのは初めてね。ふふふ。」

 

「そうだね。」

 

鬼と吸血鬼が頷いた。

 

「?」

 

「今までは最低でも1年は空いていたんだよ。」

 

疑問に思ったサキュバスに吸血鬼が教えてあげる。

 

「……。遅いから、起こしてくる。」

 

「え?でも、ドアを開けたら罠が…。」

 

「夢で。」

 

サキュバスはそこらにあったクッションを枕代わりに、すぐに寝てしまった。

 

…………

 

(Dの夢…。また入るんだ…。)

 

サキュバスは夢の穴が沢山ある場所にいる。その中の、Dと書かれた穴に入った。

 

…………

 

(ここがまた…。)

 

サキュバスは暗い裏路地にいる。空は灰色で暗く、雨が降っている。

 

「…サキュバス。いい加減にしろ。」

 

「……。」

 

Dが背後で、分かっていたかのように言い、サキュバスが姿を現す。

 

「人の夢を覗くな。プライバシーの侵害だ。」

 

「だって、起きないくせに部屋に入れないから。」

 

「……。」

 

Dが少し面倒そうな顔をした。

 

「…ところで、ここは?」

 

「見ての通り裏路地だ…。俺の夢から出ていってくれ…。」

 

「起きるまで出ない。」

 

「それは困る…。お前がいる限り寝ているけど意識が覚醒したままで睡眠が浅いから…。ほぼ寝てない状態だ…。」

 

「私は何時間でも付き合えるよ?」

 

「……。要件は…?」

 

「は?」

 

「要件を言え…。今深い睡眠に入りかけているんだ…。起きたらこの睡眠が出来るかどうか分からない…。」

 

「どうしようかな〜。」

 

「頼むから言ってくれ…。」

 

「…ハーピーが保護観察処分になった。4ヶ月の間、ここに住む。」

 

「それで…?」

 

「見ての通り、部屋が狭くてパンパン。引っ越すか、Dの部屋へ狼姉さんと一緒に寝させるか…。どっち?」

 

「どっちも嫌だな…。」

 

「そんな答えない。私は何時間でも待つよ?」

 

「…分かった…。狼女と一緒だけはダメだ…。交配はシャレにならない…。俺が消される…。」

 

「よし、じゃ決まり。じゃ。」

 

サキュバスは用件を終えて、さっさと出て行った。

 

…………

 

「んにゃ…おひゃおう(おはよう)…。」

 

「あっ、サキュバスちゃん起きた。」

 

狼女がサキュバスの隣にいた。

 

「にゃんか(なんか)、かおがいひゃい(顔が痛い)…。」

 

「当たり前だと思う…。だって、今Dさんが寝ぼけながら部屋から出てきて、サキュバスちゃんの顔に洗濯バサミを…。」

 

「んにぇ!?」

 

ブルルルル

 

「きゃっ。」

 

サキュバスが頭を振り、洗濯バサミが飛んで行く。

 

「どうやって…。」

 

「サキュバスちゃん!気をつけて!」

 

サキュバスは思うが、狼女は洗濯バサミを彼方此方に飛ばされて怒っていた。

 

「…まぁいいや。引っ越すって。」

 

「…にぇ?」

 

「この家から引っ越して、昨日言っていたマンションへ。」

 

「なら、早く準備しなくちゃね…。」

 

狼女が急いで荷物を纏めて、皆にも知らせに行った。

 

…………

一時間後

 

「よし、出来た。」

 

「もう!?」

 

皆準備が出来たことに驚くサキュバス。皆リュックやスーツケースをもう置いていた。

 

「冷蔵庫もベッドもまだだけど…。」

 

「ん?あれは元々このマンションについてるの。私たちはいつでもすぐに移動できるような場所にしか住まないから。正体がバレた次の日にはもういないような状態じゃないと…。ほら、私たちは数が多い分存在がバレやすいから…。」

 

「……。」

 

サキュバスはDの用心深さに感心した。…いや、呆れたと言うべきか…。

 

「でも、家具付きだと汚したり、壊したりしたらその分お金かかるんじゃ…。前だって、機械姉さんが部屋を爆破していたし…。」

 

「?あぁ、大丈夫。妖精ちゃんが魔法でコーティングしていて、入った当初からいっさい時の流れていないような状態だから。」

 

そこに…。

 

「……。」

 

「あっ!Dさん!」

 

Dが部屋から出てきた。

 

「…もう纏めてあるのか…。」

 

「うん。すぐに引っ越せるような状態でしょ?」

 

「組織の力を使えば、明日にはもう契約を完了して新しいところで暮らせるがな…。」

 

「…そうとうな権力を持ってるよね。組織って…。」

 

「国家直属に属しているからな…。司法も行政も何もかも属さない、全てを含めた国家だからな…。それくらいの裏準備はしてある…。…そうだ…。それと、サキュバスにはこれを渡す…。」

 

「……。」

 

Dがサキュバスに、血のべっとりついた書類を渡す。渡された途端に嫌な顔をしたが…。昨日の返り血だろう。

 

「お前の戸籍と住民票だ…。組織の市役所から国に直接作ってもらった…。何か必要な時がくるかもしれない…。」

 

「……。」

 

これをどう見せろと言うのか、サキュバスは思う。

 

「Dさん…。戸籍見せてって言われて、それを出したらどうなるか考えてる…?」

 

「……。」

 

狼女に言われて、考えるD。

 

「…少し待っていろ…。」

 

Dは紙を回収して、ベランダの闇色カラスのもとへ行く。速達餌を払った。そして、数分もしないうちに戻ってきた。

 

「これだ…。」

 

「随分早いね…。」

 

サキュバスは戸籍と住民票を受け取る。

 

「えと…。まぁ、名前はどうでもいいとして…。…中学生?」

 

「…その大きさで小学生には無理がある…。今からでも、教養を身につけろ…。」

 

「えぇ!?じゃあ、同じ中学なんだ!」

 

「…まぁ、吸血鬼と同じ中学だ…。」

 

「やった!」

 

吸血鬼が目に見えて喜ぶ。

 

「…あの中学校、平気?」

 

「多分な…。…人間に擬態した妖怪のクラスメイトがいるかもしれん…。日本人口の約1万分の1だ…。しかも、ここはホットスポット…。おかしくはない…。…戦うような真似はしちゃだめだぞ…。」

 

「……。」

 

サキュバスはまだまだDへの警戒心が高い。

 

「…ハーピーは明日戸籍と住民票を作ってくる…。待っていろ…。」

 

「……。」

 

ハーピーは尚更だ。

 

「サキュバス…。お前は来週から登校となる…。その間に俺は手続きを済ませておく…。三日後に引っ越しをするから、少しバタつくと思うがな…。ハーピーは保護観察のため、学校へは無理だ…。だが、ひと時共に暮らす仲間に自己紹介などをしておけ…。」

 

「あれ?でも、戸籍とか作るんじゃ…。」

 

「戸籍を作る理由は、近所に存在しない女の子が出入りしているとバレた場合、色々と噂されて厄介だ…。」

 

Dが面倒そうな目で言う。

 

「明日から色々立て込む…。俺は手続きの書類を済ませてくる…。」

 

「「「はーい…。」」」

 

Dは要件だけ言って、さっさと部屋に戻ってしまった。

 

「夜ご飯、何がいいかな〜…。」

 

「?」

 

サキュバスは、ふと台所に立つ少し大きな女性を見る。そして、近づいた。

 

「何してるの?」

 

「ん〜?あら〜、サキュバスちゃ〜ん。」

 

声をかけたが、見た目以上にでかかった。色々と…。身長は2mを超えている。ちなみに、完全な人間体である。半妖怪の姿ではない。

 

「今晩の夕食の当番で、なにを作ればいいのか考えてるの〜。」

 

おっとりとした話し方をする巨人。

 

「お父さんは〜なんでもいいと言うと思うけど〜…。他の子の好みが違うから…。」

 

「…まぁ、たしかに…。」

 

吸血鬼はやはり、トマト系の食べ物が好きであり、アルラウネは植物をあまり使わない食べ物を好む。鬼や竜や狼女は肉類が好きで、サンドガールはスープ系以外を好む。機械人と妖精はなんでも食べる。そこに…。

 

ガチャン!

 

「「「!?」」」

 

Dが何やら急いでドアを開けて、どこかへ行く準備をする。片手を耳に当てているあたり、電話をしているのだろう。

 

「今日は休暇のはずですが。それに、仕事をしすぎるといけないのでは?…はい。そうですか。敵は?…数匹と…戦車!?保管庫を破られたのか!?…なるほど。なら、敵はグレムリンですね。…分かりました。ころ…。いえ、例の許可は取ったんですね。今すぐ行きます。地上に出ると大騒ぎになりますし。地下なら、思い切り暴れられますからね。」

 

Dが靴を履く。返り血でびっしょりの靴を…。そして、真っ黒な服に着替えて、ポーチやらを腰に下げる。

 

「行ってくる…。夕食は抜きで良い…。」

 

「えぇー!?またー!?」

 

砂女が嫌な顔をした。

 

「仕方ないだろう…。それに、聞いただろう…?急ぎの仕事だ…。」

 

「でも、戦車なんて…。下手したら死ぬでしょ!?」

 

狼女が少し不機嫌に言う。

 

「その時はその時…。俺が死んでも、皆んなに酷いことはさせないから…。」

 

「そういう意味じゃない!死んじゃうんだよ!?」

 

「そうだ…。いつか死ぬ…。遅かれ早かれ起きることだ…。お前たちにとっては、その時が何年早くなろうが変わらない…。」

 

Dはそう言い残して、行ってしまった。

 

「……。」

 

狼女は諦め、求人広告のチラシを床下から出して見る。色々考えているのだろう。

 

「…少し険悪なムードになっちゃったわ〜…。」

 

巨人が困った顔でつぶやく。サキュバスは困った顔をした後、ふと目にしたのは…。

 

「……。」

 

ぶつぶつ呟いている妖精だ。

 

「何してるの?」

 

「…祈ってる…。」

 

妖精は手を合わせて、祈っていた。

 

「…僕は魔法が使えるから…。」

 

「僕っ子…。」

 

「なに?」

 

「い、いや…。別に…。」

 

サキュバスは妖精に困惑しながらも、巨人のところに戻る。

 

「手伝う。」

 

「あら〜。ありがとう〜。」

 

サキュバスが米を洗う。巨人は野菜などを切っていた。

 

(吸血鬼姉さんや竜姉さんたちまで、求人広告を見始めちゃった…。)

 

吸血鬼たちも、一応アレでも慕っている親なので、死んでほしくない。だから、自分たちで出来るアルバイトを探すのだ。

 

「洗いすぎないようにね〜。」

 

「あ…。」

 

サキュバスはそちらを見ていて、米を洗いすぎてしまった。大半が潰れてしまっただろう…。

 


 

「ドリアにしちゃえば問題な〜いわ。」

 

「…うん…。」

 

結局、米はくにゃくにゃになってしまったため、ドリアになった。

 

「…狼姉さん…。」

 

「サキュバスちゃんも、探してくれると助かるな…。」

 

机の上に置いた途端、狼女が今まで集めたチラシを見せる。

 

「あのままじゃ、近いうちに死んじゃう…。私たちで、独立出来るくらいになりたいから…。」

 

「ま、私は構わないけど、家族がバラバラになるのは嫌だからね。10年以上過ごしてきたから…。」

 

「10年…。」

 

妖怪にとってはあっという間の時間。人間にとってはとても長い。寿命で死ぬのはわかりきっているが、それまで一緒に過ごしたいのだ。

 

「……。」

 

しかし、サキュバスは住居を転々として、そんなに長くは過ごしていない。催眠で他人の家に転がり込み、怪しくなったらすぐに逃げる彼女にとって、そんな気持ちは理解できないのだろう。

 

「ハーピーちゃんは、探さなくても良いよ。観察処分だから、すぐにここから出て行くと思うし…。」

 

「あっ!羽のことお父さんに言い忘れた!」

 

「あー…。やってしもうたの。」

 

そんなことを言いながらも、ご飯を食べながら求人募集を探す面々。

 

「……。」

 

サキュバスは、その時人間であるDについて考えていた。




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