その日、サキュバスは“人間”を知った 作:とある組織の生体兵器
「ただいま…。」
「あれ?随分早いね。」
夕食を食べ終わった直後に、Dが帰ってきたのだ。
「戦車一台とその他数人ならすぐに終わる…。ボウガンで全部貫いた…。」
「…ホント、お父さんのボウガンって怖い…。」
「ハーピーの羽を大きくえぐるほどじゃからの。」
「あっ!そうだ!ハーピーの羽についてなんだけど…。」
姉妹たちがDに相談する。
「…つまり、もう飛べないほどの傷なのか…?」
「そうじゃ…。二、三日はまともに歩けんし、飛ぶことは永久に不可能と判断したのじゃ。」
「…なるほど…。まぁ、殺す気で撃ったからな…。突風に吹かれさえしなければ、身体は真っ二つだ…。」
「それを平然と目の前で言うとは…。やはり、父上もちと頭がおかしいの…。」
「そりゃ、組織は全員が精神障害者のようなものだ…。強さと引き換えに、人間としての一部も欠けている…。」
「……。」
Dが潰れた米をそのまま食べて、竜が呆れる。
「…だが、竜は知っての通り医療の知識は姉妹の中で随一…。組織にも匹敵する腕前だ…。無理だと判断したなら、組織でも無理だろう…。」
「……。」
Dがハーピーを見た途端、殺意ある目で睨み返された。Dはやれやれと目を逸らし、食事の手を再開する。すると…。
ピンポーン
「お客さん?こんな時間に?…はーい。」
インターホンが鳴って、狼女がドアを開けると…。
『こんにちは。Dいる?』
パンダの仮面を被った、真っ黒で模様のないチャイナドレスを着た者が…。女性だ。
「…R…。何をしに現れた…。狼女たちに影響が出たら、承知しないぞ…。」
いつの間にか、狼女の背後にいるD。
「R?この人が?」
サキュバスがRを見る。Rは軽く手を振った。
『これ。戦車に突き刺さってたわ。」
「そうか…。礼を言う…。全て抜き取ったつもりなんだがな…。証拠を残さずに処理するのだが…。やはり、弱くなっているな…。」
Dがボウガンの矢を確認しながら言う。が。
「…おい…。」
「……。」
「…本当に何のつもりだ…?これは俺のボウガンの矢じゃない…。」
Dはそう言った後、片手で折った。
「俺のボウガンは鋼鉄をも粉砕するように、特別に作られている…。片手で折れるほどヤワじゃない…。」
Dが睨んだ。自分の武器を汚されたようなものなのだ。
「本当は何をしに来た…?」
「……。」
Dが問い詰める。
「貴方のじゃないんだ〜。知らなかった。…あと、来週からお隣さんになるから挨拶がてら。」
「…そうか…。」
Rが平然と言い、Dが少し目つきを和らげる。
「…態々来たのに、お茶の一杯も出さないの?」
「突然来てお茶がどうこうなどと…。それに、仮面で飲めないだろう。俺たちは日常生活以外、顔全体を覆う仮面やお面をつけなければならないルールだ。」
「あれ?貴方は?」
「…無くしたな。」
Dがしれっと言うが、サキュバスは知っている。Cの墓の前に置いてきたのだ。
「とにかく、出すのが礼儀。」
「俺は無作法なんでな…。態々悪いが、帰ってもらいたい…。」
「女性を一人で夜道に送るつもり?悪い人に絡まれたらどうするの?」
「お前の場合は逆に絡んだ奴のことを心配する。」
「えー!ひどーい!」
「酷いじゃない。さっさと帰れ。」
「あれ?貴女が最近来たサキュバス?ちゃん?」
「何勝手に上がり込んでいるんだ…。帰れ…。」
Dが言うが、聞く耳を持たない。
「…狼女、鬼、何もするな…。アレでも、一応俺並みの強さだ…。」
DはRを睨みつけている狼女と鬼の頭を撫でる。サキュバスは今気づいたが、狼女は自分たちのテリトリーに無断で侵入したRに対して嫌な顔をしていた。髪の毛が逆立っている。鬼は冷徹な目で微笑んでいた。
「ご飯中?」
「そうだ…。帰れ…。お茶は出せん…。」
「夜道に女性を一人で歩かせるのは危険よ。」
「しつこいぞ…。さっさと帰れ…。」
「ひどーい。」
そんなやりとりを続けている。
「…狼女、留守を頼めるか?」
「いや、行くなら私も行く…。」
狼女は半分吊り目で言う。何かを感じ取ったのだろう。
「…鬼、頼めるか?」
「わかったわ。ふふふ。でも…。」
「…?」
「0時過ぎたら…承知しないわよ…?ふふ…。」
「……。」
鬼が微笑んだまま、恐ろしいオーラを出す。逆に怖い。そして、Dと狼女が行こうとしたが…。
「あっ、そうだ。サキュバスちゃんも来て。念のため。」
「念のため…?」
「ここらの夜道は暗いから、いざとなった時用に覚えておくように。」
「…んー。」
サキュバスは狼女の後ろをついて行く。
「……。」
(狼姉さん…。夜だと目が少し光ってて怖い…。と言うより、夜だと半妖怪の姿のまま外に出るんだ…。)
サキュバスがそんなことを思う。一方、先頭を歩いている組織の二人は無言のまま歩いている。
「あの…。」
「?」
「…近くに24時間やっている中華料理店があるから、そこに行かない?」
「おい。夜道がどうの言っていて、何を言っているんだ…。一応飯食ってる最中に送ってあげているんだ…。」
「…そう。そうだよね…。」
「……。」
サキュバスは何かを感じとる。狼女は怖い顔をしていた。
「…まぁ、0時まで時間はある。これの礼というのなら、そこに行こう。ただし、金は出さん。俺の稼いだ金は狼女たちの小遣いになる予定だ。もちろん、サキュバスやハーピーの分にもな。」
「「……。」」
サキュバスと狼女が顔を見合わせた後、クスリと笑って二人の後を歩く。Dが意外と家族愛が深いことに笑ったのだろう。
「……。」
「仮面取ったらどうだ…?」
いざ、料理が出されて少し戸惑うR。自身の服がコレで、しかもお面をしているならば注目度が半端じゃないだろう。
「あの…個室にしない?」
「時間がない…。この近くだとか言っておいて、一つ山を越えた場所だ…。俺たちが全力疾走して10分かかる場所だ…。サキュバスたちのことを考えると、片道30分だ…。」
「…わかった…。」
そして、Rがパンダのお面を取る。
「「……。」」
サキュバスと狼女がRの顔を見る。
「…これでいい…?」
「分からん。自己満足だろう。」
「「……。」」
中国人の顔で、美人である。Dが可哀想なくらい。狼女が春巻きを構えながら、耳を真っ直ぐ立てて、少し嫌な顔をした。サキュバスはその顔を見る。
「私美人でしょ〜?」
「整形だ。」
Rが言った直後に、Dが間髪入れずに言う。
「整形じゃないよー。」
「整形だ。」
Dはペースを崩さずに言う。
「Gが整形だと言っていた。」
「…アイツ、そんなこと言ったんだ…。よりにもよって…。」
「そうだ。」
Dは何ともなさそうに水を飲む。
「…整形じゃないのか?」
「整形じゃないよ!皆、私が中国人だからってそう呼ぶの!我绝对没正整形!」
「…そうか。」
Rが興奮混じりに言い、Dが無表情で答える。最後の方を何と言ったかなど、Dは全く理解していない。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。」
「どうでもって…!」
「いつまでここにいればいいんだ?」
「……。」
Dは時計を見ながら言う。0時を過ぎたら鬼にコテンパンにされるのだ。
「…貴方にとって、楽しむってなに?」
Rが疑問をDにぶつける。
「……。」
Dはしばらく…長く考えた後…。
「わからん。」
そう答えた。狼女も、サキュバスもDを見る。
(この目…。本当にわからない目…。)
サキュバスはゾッとした。楽しむことすら分からない者など、この世にそうそういない。人は何かしらの快楽を求め、行動するものだ。他者を蹴落とし自身が優位に立つことも、趣味に打ち込んだり、夢みたいなことも考えるのも、その欲望である快楽に関係する。それは人間にとどまらず、遥かに小さな虫でさえも、考える能力の代わりにある。
なのに、Dにはそれがない。
それは感情の一部が壊れているどころでは済まない。何をどうしても、何も思わないのと同等なのだ。自動人形のような、淡々とした生き物…。Dはどこでどうやってその感情を捨てたのかも分からないだろう…。幸せなど掴み用のない、真っ暗な世界で生きている住人なのだ。
「…なんだ?」
狼女とサキュバスが見ていると分かり、聞く。
「い、いえ。別に…。」
「…なんでもない…。」
「…そうか。」
Dがそう言う。しかし…。
「まぁ、X、Y、Zよりマシよ…。あの3人は色々とおかしいから…。」
「「?」」
Rが言い、首を傾げる二人。
「『神力のX』は何も答えない。『皆殺しのY』は妖怪を殺すこと。『貪食のZ』は妖怪を食べることなんて。」
「「!?」」
狼女とサキュバスが嫌な顔をした。Yはともかく、Zまで要注意人物だと分かったからだ。
「…そうか。」
Dは比べられて嫌な顔をした。
「良いわよね。異名…私も欲しい…。…貴方もあったわよね。確か…。」
「おい…。」
その時、店内の雰囲気が明らかに変わった。
「…その名で呼んでみろ…。殺すぞ…。」
「……。」
Dがキレそうになり、Rが笑えない顔をする。
「…そっちじゃなくて、今のよ…。」
「…そうか…。」
Dの殺意がなくなり、空気が緩和された。
「『最強のD』ね…。」
「「最強?」」
「前の異名をそっちの鬼の前で呼んだXとZが…。…まぁ、重症になったわ。一応、組織の病院で一命は取り留めたけど、あの二人はすっかりトラウマよ…。」
「「……。」」
二人がDを見る。
「…仕方なかろう。前々から忠告したが、任意で呼んだのなら、そうせざるを得ないからな。」
「前の異名ってどんなのだったの?」
「…言えない。」
「言えないことしたんだ〜。」
「…お前たちの前では言わないし、言わせるつもりもない。」
「じゃ、知ってるのは鬼姉さんだけ?」
「ああ。…一応言っておくが、鬼もその名に関しては一切言うつもりもないぞ。」
「えぇー。」
サキュバスと狼女が残念そうな顔をした。
「なら、気分転換に私とDの初めて会った思い出を話してあげる。」
「あ、そんなの全然気にならないから。」
狼女は冷たく返す。が。
「でも、そっちの子は聞きたそうよ?」
「そんなことないですから。ね?」
「ちょっと気になる…。」
「サキュバスちゃん!」
狼女が怒る。しかし、向こうが勝手に話し始めた。
「そうね…。あれは、昔…8年ほど前だっけ?」
「…ああ。」
「そう…。8年ほど前…。」
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