【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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第十八話 英雄転生

 

「────オオオオォォォッ!!」

 

 雄叫びと共に紫電を身に纏う。

 痛みも何もない。快適だ、このままでずっといたいと思う程。

 

 ふざけんな。

 

 力には代償が付き物だと言うが、そんなこと誰が決めた。

 ノーリスクで力を手に入れている奴が居るんだから俺もそれでいいだろうが。悲劇的な物語にするためのアクセントを入れられて愉快だと喜ぶのは観客だけで、当の本人からすれば最悪な事以外の何物でもない。

 

 ふざけやがって。

 

 苛立ちを抑えられない。

 戦いにおいて感情的で繊細なのは良くない事だと学んだ。それが事実だし、冷静な奴ほど現実を見据えていて生き残る確率が高い。それがどうした。憎しみや怒りは他の何者にも替えられない火種であり、人の心を巣食う悪の根源であり、正しい感情だ。

 

紫電(ヴァイオレット)!」

 

 雷速で飛びかかる雷槍を展開しつつ、俺自身もアルスに向かって飛びかかる。

 この時最も大切なのは、アルス本体に対して差し向けるのではなく、後ろに控える繭を破壊するために放つこと。奴は明らかにあの繭を守る仕草をしており、それによって隙を生じさせるのはいとも容易い事だ。

 

 いい力だ。

 ふざけんなよ、クソ野郎が。

 

 紫電を纏った自家製光芒一閃(アルス・マグナ)を振りかざし突撃。

 剣圧の余波で傷つける事も忘れずに、軌道に沿って紫電の波がアルスへと襲い掛かる。

 

 並行して幾つもの攻撃を放ったが、特に動揺した様子もなく(果たして意思があるのかは不明)障壁を展開。雷槍には同じようなものを展開して相殺し、俺の剣は直々に受け止める。

 

 受け止めた剣を介して紫電を流すが効いた様子はない。

 人体とは明らかに違う構成してるしそれはなんとなくわかっていたが、此方の持っている優位性をひっくり返してくるのは心底頭に来る。その力があればステルラが消えなくてよかったかもしれないのに。

 

「とっとと死ね」

 

 それは果たして誰に向けての言葉なのか。

 そもそもこの怒りと憎しみが一体誰に向かっているのか。わかりきった答えから目を逸らしながら、剣を一度退き戻し連撃を繰り出す。

 

 一閃、二閃三閃。

 その一振り一振りがこれまでとは隔絶した速度と力強さを保有しているのにも関わらず、アルスには受け止められる。

 

 なぜか(・・・)魔法を使うことに慣れている俺の感覚に従い、風魔法を展開する。

 

 風圧でアルスの事を横薙ぎに吹き飛ばし、収束させた紫電を繭へと叩き込む。

 俺を狙うのではなく守る事を優先したアルスが射線に割り込んできた為に目的を変更し、氷と炎を混ぜ合わせた魔法を発動。

 

「爆炎氷華──!」

 

 急速に冷やされた空気を業火が刺激し爆発させる。

 難易度も危険性も高い魔法を簡単に扱えてしまうこの才能(・・)が、何よりも否定したい現実を補強していく。

 

 俺に魔法の才能は無い。

 魔力が無いだけで本当は上手く扱えるとか、そういう訳では無かった。

 一度の魔法発動がやっとで、辛うじて扱えるのが二種類の並行使用。一年生上半期の実習で取り扱ったのが比較的簡単な二種類だと言うのに、その発動に手間取っていた俺が魔法の才に優れている訳ではない。

 

 それじゃあどうして今、こうやって発動出来ているのか。

 

 どういう手法かはわからないが、とにかく何処かの誰かさんの才能が混じってるからだろう。

 

 他人の記憶が宿ってるんだ。

 誰かの才能が後付けできても、おかしくはない。

 

「────紫閃震霆」

 

 その証拠に、ホラ。

 師匠が放っていた最上級魔法を刹那に構築し解き放つ、こんな才覚俺に備わっていた筈がない。それは、ステルラ・エールライトの専売特許だったから。

 

 瞬きの間に空から降り注ぐ紫電の裁きを、愚かにも大地から天に向かって解き放たれた英雄の一振りで相殺される。相殺という手段を取る辺り火力は五分と言ったところ、先程までと比べて勝率がぐんと上がった。

 

 その事実が、なによりも憎たらしい。

 

「紫電迅雷」

 

 呟きと共に縦横無尽に駆け巡り、フェイントを時折織り交ぜながら斬撃を飛ばす。

 

 並行して魔法を展開する事も忘れない。

 いくら魔力を吸われても枯渇するより先にあの繭を討ち滅ぼせばいいだけだ。もう、なんの躊躇いも無い。

 

 生きていてもどうしようもない世界だ。

 だからせめて、自分の愚かさをこれ以上重ねないためにも──必ずあいつは殺すし滅ぼす。

 

 一通りの攻撃を防ぎ切った後に、アルスは此方へ追従する事を選んだ。

 守り通すよりも俺を殺した方が良いと判断したらしい。そうやって油断してくれると有難い、たとえ俺が死んでもお前を殺すと決めたから。

 

 一閃防ぎ反撃の斬撃をお見舞いする。

 空中という踏ん張りが効かない場所で、互いにこれまでと変わらない状態を保つ。アンタがそうやって戦えるのなら俺が戦えない道理はないだろう。アンタの記憶に選び抜かれた才能が宿った俺なら、どんな奇策を練っても対応しきる自信がある。

 

 俺一人で成し得る事では無かったから、本当に最悪な男だ。

 

紫電雷轟(ヴァイオレット・フォークロア)

 

 坩堝を縦に割る一閃。

 放たれた極大の剣に押し込まれるように地面へと叩きつけられたアルスを、そのまま削り殺す為に幾重もの斬撃を重ねる。

 

紫電剣閃(ヴァイオレット・スパーダ)

 

 煌めく軌跡が重なり、その一点を破壊するためだけに暴威を振るう。

 

 地面から突然現れた地底の住民を押し返すには足りないが、たかが一つの個体を破壊するには十分な筈だ。

 

 それでも油断はしない。

 戻って来るよりも先に繭を破壊する事で万事解決、と行きたい所だったが、非常に残念なことにその一撃は防がれる。

 

「……死にぞこないが」

 

 早く死ねと言っている。

 何が英雄だバカバカしい。好きな女一人守れないような奴が英雄なんて崇められて良い訳があるか。そいつの死の原因が自分だなんて、猶更だ。

 

 アンタもそう思わないか? 

 

「死ぬなら俺達(・・)が死ねばよかったのにな」

 

 自分が死にかけた事で好きな女が死んだ。

 自分が死んだことで好きな女を殺した。

 

 俺達みたいなクソ野郎は、とっととくたばっちまえばいいのに。

 

 ぐちゃぐちゃになった感情を押さえつけることもなく、憎悪に身を任せて剣を握り締める。

 この怒りだけで人が殺せるのなら、この憎しみだけで世界が救えるのならどれだけ良かったか。不愉快な感情だけが己の内に巣食った果てを知っているのに、いざその状態を迎えてしまったら躊躇うことなく受け入れてしまう。

 

 そんな弱さを持ってしまったのが、嬉しくて、とてつもなく不快だ。

 

「…………紫電(ヴァイオレット)

 

 諸共消し飛ばしてやる。

 光芒一閃に溜め込んだ莫大な魔力を収束させて、零れ落ちる余波だけで人体など吹き飛ばせてしまう程の圧。枝分かれして胎動のように発電を繰り返すそれを握り締め、とにかく相手を殺すことだけを念頭に、霞構えで構えた。

 

 超越者の強さは何よりもこの魔力量だ。

 人体の許容量を大幅に超えた膨大とすら呼べる魔力を自由自在に引き出し、それでいてなお魔力の産出量が多い。ズルだね。

 

 …………くそったれが。

 

紫電轟墜(ヴァイオレット・ケラヴノス)……!」

 

 英雄も何もかもすべて纏めて薙ぎ払う。

 エミーリアさんの一撃を防がずに避けていたのから察するに、全てを吸収しきる程の高性能ではないらしい。それが出来るならあの白い怪物全てに機能を搭載してるだろうし、アルスの強さも格が違うものに変化していただろう。

 

 天雷が轟きを伴って落ちていく。

 この超越的な光景を俺が作り出しているという事実に少しだけ高揚して、お前にそんな資格は無いと蔑む。

 

 確かに、俺は才能が欲しかった。

 才能は欲しかったが、それは全てお前を守りたかったからだ。

 惚れた女の一人くらい全てを賭して守りたかった。誰がなんと言おうと、俺にとって強くなりたいと願った根源はそこなんだ。

 

 それなのに、お前が消えてどうする。

 なんの意味も無いだろ。俺の人生に意味があったなんて言えなくなってしまった。こんな無能が、英雄にしてくれだなんて、とんだ笑い話だ。

 

 墜ちた紫電はアルスの持つ剣と対抗し、僅かな拮抗の後に矛先を逸らされる。

 

「…………チッ」

 

 やはり駄目か。

 

 薄々感づいていた事だが、俺一人でやれることには限界がある。

 ステルラの才と俺の記憶を組み合わせてやればそれはまあ強いだろうけど、アルスはその才と記憶を同じように持つ怪物だ。

 

 負けることは無い。

 だが勝つ事も無い。

 

 そういう勝負だ、これは。

 

 時間が経てば経つほど俺は不利になり、奴は今と変わらない状態で戦闘を行える。こんな理不尽な話があってたまるか。

 

「……お前が居ればな」

 

 空虚な感覚が消えない。

 先程の攻撃も俺が単独で成し得るのは不可能なもので、それを放てた事に高揚を抱いていた。俺が追い求めていた強さが手に入って、少しだけ嬉しいと思えるような感情もあった。

 

 だが、それら全てが憎悪へと変わっていく。

 ステルラ・エールライトを犠牲に生き延びた俺に対する憎悪に。

 死ねばよかったのに、ロア・メグナカルトなんて無能が死ねばよかった。生きていてもしょうがない奴だ。この世にいてもいなくても変わらないような、そんな矮小な男。誰かを頼らないとまともに生きていくことすら出来ない愚か者が死ぬことで全てを元通りに出来るのなら、喜んでこの身を捧げていた。

 

 自死を選ばないのはそれで何も解決できないのを知っているからで、師匠を救うには、どうにかしてこの戦いを終わらせなければいけないから。

 

 この鼓動の元にお前がいるのなら、形振り構わず向かうのに。

 

「…………もう、終わらせようぜ」

 

 アルス。

 これ以上手を汚させはしない。

 アンタも俺もくそったれのクソ野郎だが、それでも、アンタは俺よりマシだ。

 

 アンタは出来る事を全てやった。

 自分の持ちえた力を極限まで伸ばして、人生全て投げ出して戦争を止めて、敵の遺した切り札によって命を落とした。それを否定する奴は誰もいないだろう。

 

 だから、ここまでだ。

 この戦いを終わらせて、俺も後を追おう。

 そして地獄に落ちればいい。死んで救われなければきっと、この憎悪も少しは晴れてくれるだろうから。

 

 紫電を身に纏う事も無く、ただ只管に俺に対する殺意だけをもって歩いていく。

 

 アルスが稲妻を身に纏い突貫してくるが、それら全ての攻撃を余裕をもって弾き返す。

 

 身体強化も問題なく扱える以上、俺に存在した弱点ほぼ全てが消えたと言っていい。

 

 散々願った強さが目的を失った後に手に入るなんて、よほど神様は俺の事が嫌いなようだ。そりゃそうか、俺も嫌いだ。情けなくても己がそうだと決めたことくらい貫き通す、そういう奴になれなかった俺の事なんざ大嫌いだね。

 

 物理的に足を止めさせるために斬りかかって来たアルスを受け止めて、そのまま剣戟へと移行する。

 

 一、二、三四五六七八────刹那の合間に幾重のも剣戟が繰り広げられ、剣と剣の衝突とは思えない衝撃が坩堝の中を駆け巡る。

 

 俺はそっちの手を知り尽くしているし、そちらは単純に技量が高い。

 千日手になってもおかしくないやり取りを繰り返し、それは痺れを切らした俺が魔法を使用する瞬間まで続いた。

 

 剣を引き絞り、霞構えで待ち受ける。

 

 魔力の量も限られているのだからこれ以上悠長に付き合っている暇はない。こうしている間にも誰かが犠牲になっているのだ。

 

 ────これで駄目なら、もう、打つ手はない。

 

 右腕に全ての魔力を搔き集めて、アルスの剣を左手で受け止めた。

 当然腕を貫いて振り抜こうとしてくるが、それらを強制的に筋肉で止める。魔力は右腕に集中させたから奪われる量も少ないし、これでお前の動きを止められるなら問題ない。

 

 すまない、ステルラ。

 お前の命を犠牲にしても、俺に出来る事はこれしかなかった。

 俺は優れた奴なんかじゃない。常々言っている通り剣を振る事しか出来ない愚か者で、それで誰かを救えるような人間じゃなかった。

 

 師匠に教えを受け、英雄の記憶を受け継ぎ、お前を守ると心に誓っておきながらこの体たらく。

 

 そっちで会ったら失望されるだろうな。

 死ぬほど嫌だが、死人に口はない。

 

「一緒に逝こう、英雄さま」

 

 煌めく光芒一閃(アルス・マグナ)を握り締めた。

 結局のところ、俺に出来る事はこれだけだ。何かを犠牲に何かを得る、等価交換の法則に従ったこれだけ。

 魔力を得るためにステルラを失い、命を得るために師匠も失いそうになり、そして今度は勝利を得るために命を投げ出そうとしている。

 

 先程までの俺では中途半端な一撃にしかならなかったが、魔力を十全に生み出せる今なら違う。

 

 それは、かつての英雄の軌跡。

 最期に彼が足掻いて見せた、人が持ちえる全てを代償に発揮した超人の如き力。魔力も魔法も命も人生も、全てを犠牲にすることで得られた最後の軌跡。

 

 自身を媒体に莫大な魔力を生み出し、その命を捧げる事で対価を得る。

 

 右腕から噴出するエネルギーがその圧倒的な量を指し示しており、この一振りは大陸を両断する事だって可能だろう。

 

 これを振るえば俺は死ぬ。 

 ステルラに与えられた命を犠牲にして、勝利を収める事が出来るだろう。

 ……………………もしも、おれに、選び抜かれた才能があったのなら。今、こんな思いをしなくてよかったのかな。

 

「なあ、ステルラ────おれは、お前の為だけに生きてたんだぜ」

 

 誰に伝える訳でもなく、ただ、この鼓動を繰り返す心臓に呟いた。

 お前に届けばいいと、この感情をお前に伝えたいと、ありもしないありふれた奇跡を期待して。

 

「おれは、おまえさえ生きてればそれで──……」

『……………………ンッ』

 

 ……………………。

 

 急いで魔力を元に戻し左腕を肩口から切り落として後ろに下がる。

 

 左腕を再生しながら変わらず接近戦を仕掛けてくるアルスの対応をしつつ、酷く動揺した己を誤魔化す為に一言呟いた。

 

「ステルラ、この戦いが終わったら結婚しようぜ」

『結婚!!???』

 

 ざけんな馬鹿が、俺の中に渦巻くありとあらゆる感情に謝れ。

 

『いや、まあその、結構色々ありまして……』

 

 脳に直接響く感じで聞こえるステルラの声。

 あ~~、考えてた通りの事をしたワケか。お前五分待ってこれしようとしてた訳じゃないよな? 

 

『…………そ、それは当然! 私にはちゃんと作戦があったもん!』

 

 へ~。

 信じてやるよ。

 

『危なかった……』

 

 筒抜けになっている思考はさておき、アルスの剣戟を全て受け止め流しきって更に距離を取る。

 

「ステルラ、お前攻撃出来たりするか」

『あ、ちょっと待って。私も今目が覚めたんだ』

 

 勝手に魔力が動いてる感覚がする。

 左腕からニュルリと出て来た紫電が形を作り、やがてそれは見覚えのある姿に変わっていく。

 

『んしょ、んっ…………どうだ!』

「眼福なりと言ったところだ」

『えっ? ……あ゛』

 

 上半身裸のステルラが現れた。

 ていうか下半身が存在してないので、文字通り超越的な存在になったらしい。めっちゃ複雑な気分だ。

 

 急いで服を展開したステルラを尻目に、先程まで暴れ回っていた心が少しだけ落ち着いたような気がする。そりゃそうか、正直、お前の声が聞こえたのは幻聴だったのかもとすら疑った。

 

「で、何があった」

『えーとね、すごく簡単に言うと……ロ、ロアと一緒になっちゃった感じかな?』

「この心臓はお前のか」

『うん。ロアに死んで欲しくなかったから』

 

 俺もそうだよ。

 俺も、お前にだけは死んで欲しくなかった。

 だっておれは、お前の為だけに生きて来たんだから。お前を守るこの瞬間の為に生きて来たのにそれが失敗するなんて、想像もしたくなかったんだ。わかってくれよ。

 

『う、うん。ロアって思ってた以上に私の事好きだったんだね』

「当たり前だろ…………あ゛? 今何て言った」

『だからロアが私の事好きだったんだなって』

 

 少し待て。

 俺にも考える時間が欲しい。

 ぶっちゃけさっきから色んなことが立て続けに起きすぎて理解が追い付いてない。

 

『私もそんなに慣れた訳じゃないんだけど……』

 

 ナチュラルに思考に答えるんじゃあないよ。

 

 は? 考えてる事筒抜け? 

 さっきまで俺が一人で戦ってる間のは? 

 

『…………全部聞こえてました。だから戻ってこれたんだけど』

 

 あ゛~~~~~~~~~~、もう死にてぇな。

 

 光芒一閃で首を裂こうとしたら思考を読み取られてステルラに止められた。

 

『ちょっとロア!! 何考えてるの!! いや、何考えてるのかはわかるんだけど!』

 

 うるせぇ!! 

 俺は今史上最大級の恥をかいてるんだよ!! 一回死なせろ!! お前だって一回死んだだろ!! 

 

『そんなこと言ったらロアは何回死んでるの……』

 

 俺はいいんだよ俺は。

 紫電で身体を構成しているステルラは器用に俺の剣を受け止めて、生前(この表現が正しいのかは不明)と同じ制服に身を包んでおり、色彩さえ変えれば元通りになると確信できる程には生きていた。

 

『その……あのね。ロアは恥ずかしいって思うかもしれないけど、私はすごく嬉しいよ』

 

 恥辱塗れだが……? 

 

『ロアはいつも誤魔化してばっかりだからわかりづらいもん! 皆は何かわかりあってる空気出してるのに、私だけよくわかんなくて苦笑いで流してる苦労を知ってよ!』

 

 ああ、あの微妙な顔な。

 お前が受け流してるのは知ってたけどそれはそれで可愛いから放置してた。

 

『うっ……あんまり嬉しくない……』

 

 そうやってウダウダしてる所も可愛いが? 

 

 すごく微妙な顔で此方を見るステルラを横目に、別に状況が好転したわけじゃない現実を見据える事にする。

 

 俺も詳細は聞きたいけどな。

 でもそれは今じゃなくていい、戦いが終わった後にゆっくり聞かせてもらおうじゃないか。

 こいつが元に戻れるのかとか、そういう事は後で考えよう。

 

 ステルラと話せた。

 ステルラが生きてた。

 ステルラと一緒に居られる。

 

 その事実だけで高揚している自分が如何にチョロいのかと溜息を一つ吐き出しつつ、顔を両手で覆って俺から顔を逸らしているステルラに話しかける。

 

『あ、あのあの、その…………私の事好きすぎじゃない? ねぇ』

「今更かよ。好きでもない女に人生捧げてたまるか」

『そ、それはそうだけどさ……っ! たまに言ってくれることはあったけど、それもどこまで本気かわかんなかったし……』

 

 ぶつぶつ言い訳すんなコミュ障。

 

 もう思考が筒抜けだからヤケクソだからな。

 このまま一生お前といるのも別に構わないし、ああでもお前を味わえないのは正直不愉快だ。こんなに近い場所にいるのに手が届かないなんて信じたくはない。

 

『わざとやってるでしょ!!』

 

 怒られてしまった。

 

 こんなにも愛を囁いてやってるのに一体何が不満なのか、皆目見当もつかないな。

 

『ぐ、ぐぬぬっ…………』

 

 ふへ、ちょっと楽しい。

 

 先程まで曇り空だった俺の心はすっかり晴れ渡り、今は生きるのが楽しいと言う感情で胸いっぱいだ。まだ問題は解決してないのにね。

 

「で、だ。やれそうか?」

『ンンッ…………うん、大丈夫だと思う』

 

 バチバチ紫電を弾ませたステルラの表情は自信に満ちている。

 

 そうか。

 なら、手早く問題を解決してやらないといけないな。

 師匠を救うために、この大陸を救うために、俺達(・・)が英雄になるためにも。

 

『……うんっ!』

 

 後の事は未来の俺に後回し(丸投げ)、今出来る事をやってやろう。

 

 先程までのような空虚な感覚はとうに消え失せて、胸を占めるのはどこか晴れやかな感情のみ。お前も俺と同じならいいな、ステルラ。

 

『~~~っ……そ、そういうのフラグって言うからね』

 

 散々回収しただろ。

 後は勝つだけだ、きっとアルスもそう言ってくれる。

 

 相変わらず表情の無いアルスだが、あの世で会えば苦笑いしながら謝罪をしてくるだろう。

 

 だから、これが決戦だ。

 俺達の未来の為にも、嘘じゃ無くするためにも、人生に意味を見出すためにも。

 

 霞構えで剣を構えて、魔力を全身に行渡らせる。

 ステルラが復活しても才能は保持されたままのようだ。少なくとも、この戦いが終わるまでは維持してくれると助かる。

 

 そして、俺の考えはステルラに共有されている。

 俺がこれまで戦って来た記憶もステルラに共有された。出来ればこの戦いだけが共有されていて欲しいんだが、それを問い詰めるのも後だ後。

 

 あと一歩が足りなかった。

 その一歩を埋めるために帰って来た。

 だから――もう、俺達の勝ちは決まってるのさ。

 

「『────紫電星轟(ヴァイオレット・メテオノヴァ)!』」

 

 降り注ぐ紫電の星の最中、かつての英雄と雌雄を決するために、その果ての一歩を────踏み込んだ。

 

 

 

 

 

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