【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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二章 恒星と星屑
第一話


 無理矢理押し付けられた順位戦に勝利して週明け。

 完全休日なのにこれまた押しかけて来た師匠とステルラに構っていたら一日が過ぎ去り、俺の平穏な休日が訪れなかったことに憤りを覚えつつ登校した。

 

「おやおや。“英雄”サンじゃないか」

「なんだそれは。説明を要求する」

 

 からかい口調で言ってきたアルに返事をしつつ鞄を机に置く。

 

「君の異名だよ。学園長が速攻で決めたらしいよ」

「学園長……魔祖が?」

 

 あのロリババァマジでロクな事しないな。

 記憶の中でもまあまあ無自覚邪悪だし、ひたすらステルラの才能にゲロと泥を混ぜ込んでカスみたいな性格を盛り込んだ、みたいな人格をしている。師匠を禁則兵団から解放した時とかあまりにも趣味悪すぎて真顔になってしまった。

 

「なんでも

 

『エイリアスの奴引き摺りすぎじゃ!! ワハハ、面白いから異名は“英雄”で!』

 

 ……って」

「ふーん、覚えた」

 

 今日また一人いつか負かすリストにぶち込んで席に座る。

 なにが英雄だ。俺は武器が無ければその英雄の剣技を再現する事も出来ない程度の人間でしかない。それを見抜いたうえで名付けたのだろうが、師匠が渋い顔をしているのが容易に予想できる。

 

 魔祖は魔法的技能で言えば誰も追い縋る事の出来ない圧倒的な基盤を持つ。

 土壌の存在しない技術体系を自身で作り上げた手腕は伊達ではなく、どんな人物であっても彼女の後追いになる。実年齢はわからん、英雄の記憶を覗いても何時から生きてるのかわからなかった。

 

 アレを年齢不詳とかでバカにしたら殺されるかもしれない。

 よくもまぁあの女を惚れさせたモノだ。かつての英雄の底知れない魅力なのか、それともあの女が倒錯的すぎたのか。

 

「で、感想は?」

「最悪だ。今すぐにでも訂正させてやりたい」

 

 意味が無いだろうが。

 師匠は兎も角、他の十二使徒でかつての英雄を知る人間ならば理解できてしまうだろう。あの軌跡は間違いなく英雄のモノで、俺はその領域に到達していると()()()する。ぜぇ~~~ったい。

 

 俺今どう思われてるんだ。

 師匠が拗らせすぎて作り上げたかつての英雄の現身とか思われたくないんだが。

 

「……いいわね、人気者は」

「おやルーチェ、嫉妬かい? 大丈夫、きっと“英雄”サマがどうにかしてくれるさ」

 

 この後、俺とルーチェの手によって数発拳を撃ち込まれたアルベルトは地面に倒れ込んだ。

 クラスメイトの見る目が馬鹿二人に絡まれる一人から馬鹿一人に巻き込まれる二人組に変わったのはとてもいい傾向だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 ♯ 第二章 薄氷燈火のルーチェ・エンハンブレ

 

 

 昼休み。

 朝購入してきた弁当を摘まみながら俺は一言。

 

「視線が鬱陶しい」

「そりゃあそうもなるだろ。君の今の注目度は学年一だぜ」

「俺みたいな奴見たってなにも面白くないだろ。ステルラとかバルトロメウスとか、もっと上の連中に注目しろ」

 

 ステルラは学年主席の十二席の弟子、バルトロメウスは学年次席の十二席の弟子。

 普通に考えれば俺如きに注目する必要はない筈だが。

 

「だってさルーチェ」

「……うるさいわね」

 

 どこか不機嫌なルーチェは苛立ちを隠そうともせず、姿勢は崩さずに弁当を口の中に放り込んで食べ終えてしまった。

 

「あーあもったいない。もっと味わって食べないとお腹に」

「アンタはデリカシーを磨いてきなさい」

 

 食事中だが炸裂したルーチェ拳でアルは倒れた。

 こいつ学習しないな。いや、学習してるけど楽しんでるな。自身が受ける痛みと損害よりも相手を煽る事に全力を注いでるのか。ハチャメチャに迷惑な類の人種で友人を辞めたくなってきた。

 

「なんかあったのか」

「……なにもないわ」

 

 嘘つけ。

 あからさまに何かあった表情と態度だが話すつもりはないようで、一足先に片付けて教室を離れた。

 

「あはは、いや~やりすぎた」

「で、何があったんだ」

「本人に聞かないの?」

「俺が悪者になるだろ。こっそり聞いておくことに意味がある」

 

 一理ある、なんて言いながらアルは弁当をもそもそ食べながら話を始める。こいつも所作が丁寧なので、イイトコの坊ちゃん説はより強固なモノに近づいている。

 

「端的に言えば順位戦が上手く行かなかったからだろうね」

「勝ったんだろ。それは知ってる」

「内容の話さ。ま、半分以上君らの所為だけど」

 

 俺達の所為。

 あ~、なんとなく話読めて来たぞ。

 俺はルーチェの本質を一切理解できてないのでこの情報だけではわからないが、大まかな話の枠組みは掴めてきた。

 

「……俺達の後でやったから、なんか不燃だったのか」

「そういう事。観客はおろか当人たちもね」

 

 ルーチェの対戦相手は風魔法使いだった筈だ。

 

「普通にルーチェが勝ったけど……盛り上がりは察しの通り。十二使徒門下同士の全力全開に比べればそりゃね」

「それは悪い事をしたな。だが差し込んだのは俺じゃないゆえに、俺の所為ではない」

 

 最後の一口を放り込んで水で流し込む。

 まったく、どいつもこいつも色々と抱えすぎだ。

 面倒くさいとは思わないが、色々思慮しなければならないのが厄介だ。もしかしてこの学園に来てる奴って腹に何か抱えてる奴しかいないのか。

 

 ニコニコ楽しそうにしてるアルが現状一番ヤバい奴だが、敵意は無いし気にしない。幸いな事に本人が暴力による対価を支払っているのでそこのバランスは取られている。

 

「俺だって必死なんだ。あんな熱血台風野郎と何度も戦ってられるか、このまま勝ち逃げさせてもらう」

「…………あっ」

「そもそも過大評価し過ぎだ。俺は魔法を一つしか発動できないし、魔力感知すらまともに行えない程度。それなのに“英雄”だのなんだの、学長はふざけ過ぎなんだ。そんなんだから……なんだ」

 

 アルが一層楽しそうな顔をしているので、思わず後ろを見る。

 うわ、嫌な予感する。この話しながらそんなニコニコするって確実に厄介事だろ。頼むから学長だけは避けてくれ、この通りだ。

 

「────再戦を申し込もう!!」

「お断りします。帰ってくれ」

「俺はお前と戦いたい! お前も多分戦いたい! それでいいじゃないか」

「どこがいいんだどこが。俺は一つもよくない」

 

 学年次席(バカ)がやってきた。

 ロカさん、あなたの息子さんは今日も暴走しています。暴風(テンペスト)じゃねぇンだよ、暴れるのは戦う時だけにしとけ。こちとら英雄サマだぞクソが。

 

「ふ~~……いいかバルトロメウス」

「ヴォルフガングでいいぞ!」

「バルトロメウス。お前に一度言っておこう」

「ヴォルフガングでいいぞ!」

「……バルト」

「ヴォルフガングでいいぞ!」

 

 もう嫌なんだけど。

 こんなにゴリ押ししてくるの幼少期のステルラを彷彿とさせる。あの遊びに行こうと俺の手を(強制的に)引いて外に連れ出す感覚、吹き飛ばされる俺、置いて行かれる俺、風になった俺。

 鳥肌が立ってきたので嫌な思い出を想起するのはここまでだ。

 

「わかった。ヴォルフガング、俺は負けるのが大嫌いだ」

「そうか! だが俺も勝ちたい!」

「この話はここで終わりだな。俺とお前が交わる事は二度とないだろう」

「……?」

「なんだその面は。ぶっ飛ばすぞ」

「構わん、来い!」

 

 ア゛~~~~~!! 

 頭に来ますわねこのお方。

 おいアル楽しそうにするな。俺は本気で嫌がっている。それはもう全力で嫌がっている。

 

「やっほロア、元気して……うわぁ」

「よく来たなステルラ!!!」

 

 俺は大歓迎した。

 過去に無い程にステルラの登場を嬉しく思う。

 引き攣った笑みを携えて教室に入場した魔祖の名を継ぐ“紫姫(ヴァイオレット)”にクラスメイトは驚きを示している。おい、俺も一応英雄なんて呼ばれてるんだが。

 

「やれ、ステルラ」

「流石にいきなりは酷くない?」

「世界は何時だって不条理だ。俺は常に不条理に悩まされていたが、不条理には不条理をぶつければいい相対性に気が付いた。また一つ世界の法則を解決してしまったな」

「あーうん。師匠が偶に面倒くさくなるって言ってた意味がわかった」

 

 失礼な奴らだ。

 俺は他人に魔法を撃ったりしないし、暴力を振るう事もない(当社比)。

 それに比べたら如何に平和的で紳士的で道理的な人間な事か。

 

「やれやれ。どいつもこいつも着いてこれないか、この“領域(レベル)”には」

「ヴォルフくんもこんにちは。えーと、アルベルトくん?」

「おお、かの高名な紫姫に覚えて頂けているとは。と言う訳でどうもアルベルト・A・グランです。気軽にアルって呼んでね」

「よろしくアルくん! ……ルーチェちゃん居る?」

 

 俺をガン無視しといて話の流れを俺に寄越すとはいい度胸だな。

 だが俺は心優しくすべてに対して平等な心を持っている。俺の神仏と同等の豊かな心に感謝するんだな。

 

「ルーチェは俺がさっき地雷踏み抜いてどっか行った」

「あっ…………」

「よく聞けステルラ。俺は別にわざと踏み込んだわけじゃなく、完全に気にしてなかっただけだ」

「そっちの方が酷くない?」

「……訂正する。ちょっと間違った」

「今更訂正してももう遅い!」

 

 ええい、ここぞとばかりに責め立ててくるな。

 流石にそこまでセンシティブだとは思っていなかったんだよ。ステルラにコンプレックスがあって、敗北そのものに劣等感を抱いてるのは理解していた。その先の背景とか俺が知るわけ無いだろ。

 

「このままだと学生生活に支障があるか……」

 

 なんだかんだ言って、俺は学園生活に憧れを持っていた。

 かつての英雄は学校とか行ってないし、友人と呼べるのもまあいなかった。仲間は多かったが本当の意味での友人はかの天才のみ。俺は学び舎に一年ちょっと通ってそれ以来経験がないので、この年齢の学園生活を楽しみにしていたのだ。

 

 初めて出来た級友をこんな形で失うのは面白くない。

 

「ステルラ、ルーチェの事を教えろ。キリキリ話せ」

「ウェッ……う、うーん。私はやめとこうかな」

 

 この対人関係拗らせ女もさァ~~~。

 まあ話す内容によっては最悪な事になるだろうが、言わなきゃ話が始まらない。流石にルーチェ本人に「お前のコンプレックスの大元を教えろ」なんて言える訳が無い。いくら鋼のメンタルを保有する俺であっても無礼の極みを働く訳にはいかないのだ。

 

「ルーチェの異名を知ってる?」

「お前本当流石だよ」

 

 この学園随一の無礼枠は伊達ではない。

 心外だね、なんておどけて言うあたりがそれっぽい。

 

「“薄氷(フロス)”って言うらしいよ」

「その情報源は何なんだ」

「誰にだって触れられたくない事はあるだろう?」

「それにズカズカ入り込んでいるんだが……」

「この話題は僕が不利になるからやめておこう。質実剛健清廉潔白を地で往く僕だからね」

 

 既に全員のお前を見る目が疑いの目になっているのだが、どうやらまだ取り戻せる範囲だと思ってるらしい。安心しろ、アルベルト。お前は十分に疑われてるぞ。

 

 しかしアルの話を聞くのは駄目そうだな。多分踏み込んじゃいけない領域まで普通に踏み込んでいく未来が容易に想像できる。

 そうなると……やはり、ルーチェ本人に聞いて回るしかないか。

 

 俺は対人関係が壊滅してるから正直自信は一切ないが、ステルラとかアルに任せるよりかは大丈夫だろう。

 

「薄氷、薄氷ね……」

 

 氷属性魔法を使うのは間違いないだろう。

 そのうえで薄氷なんて名付けられ方をするのは皮肉か。

 

「気軽に触れていい話題じゃないのは確かだな」

「ごめん、こればっかりは私力になれない」

「お前も謝んだよ。往くぞステルラ」

「えぇっ!? い、今から?」

 

 手を掴んで教室の外へと向かう。

 これで合法的にバルトロメウスの事を避ける事が出来る上、ルーチェと変な確執を抱えるステルラもついでに連行できる。なんて合理的なんだ……

 

「ちなみに何処に行ったのかは一切わからない」

「ちょっと真っ暗だね……」

「お前が照らせ。俺は先行きを求めている」

「一回戻ろう、ね?」

 

 嫌だ。

 今戻ったらまたバルトロメウスに絡まれる。

 でも待てよ、ステルラが居るなら全部丸投げできるんじゃないか。また一つ閃いてしまった。もうステルラ常備しようかな。

 

「俺のクラスに来れないか?」

「またいつもの急展開だ……」

「俺はお前が必要だ。たのむ」

「…………はぁ」

 

 呆れた溜息と共に何故か顔を俯かせてしまったステルラは放っておいて、周囲を軽く見渡す。

 まあ、戻ってきてるかは謎だな。手を繋いだままでなんかステルラが離そうとしないのでそのままにし、後ろを振り向く。

 

「……どいて」

 

 はい。

 もうこれ触れないほうがいいんじゃないだろうか。

 今マジで眉間に皺寄ってたぞ。本気の顔だった。また一段溝が深まったような気がしてならない。

 

「ひ、久しぶり。ルーチェちゃん」

「……………………」

 

 ウ、ウワ~~~~ッ! 

 悪い、修復不能だこれ。ステルラはよく頑張ったと思うぞ、俺はお前の決断を肯定するよ。

 声をかけられた瞬間足早に去ってしまったので相当に根が深い。

 

「もう諦めろおまえ」

「頑張れって言ったのはロアでしょ!?」

 

 責任転嫁とは情けないな。

 俺はただ「学園生活を豊かにするならば友人関係はどうにかしたほうがいいですよ」という世間一般的な論を告げただけで、別に無理して嫌われてる人間に取り入ろうとする必要はない。

 

「そういう運命なんだよ。ルーチェと今後関わる事を禁じます」

「そ、そんなぁ」

 

 俺に口まだ利いてくれるかな。

 ちょっと不安になってきた。アルが先に話しかけてオッケーだったら大丈夫だろ、アイツ百倍くらい失礼だし。

 

「試合見返す事が出来ればな、どういう様子だったのかわかるんだが」

 

 人の心を思いやるのは大変だ。

 自分が正しいと思っている事が相手にとって正しいとは限らないから。英雄大戦で腐る程見た人の負の側面すら誰かから見れば正義である。果たして無理矢理にでも近づくことが正しいのか正しくないのか、なんてことは誰も知らない。

 

 ようは自分で責任を持ち考える事が出来るかだと思うんだ。

 

「……ふむ」

 

 俺は努力が嫌いだ。

 それは万物に対する努力を嫌っていると宣言している。

 根本的に自分が良ければそれでいい、そういう性質なんだ。だからまあ、俺が他人の事で悩むのは非常に面倒だが……

 

「ルーチェはいい奴だからな。俺としては楽しく学園生活を共に過ごしたい訳だ」

 

 折角友人になれたのにこれで終わりは悲しいだろ。

 やれやれ。俺みたいな凡人にそういう方面で期待しないで欲しいぜ。

 

 情報収集もクソもないが、まあとにかくぶつかるしかないだろう。俺の経験上案外ぶつかり合うのがいいって英雄も言ってた(記憶で)。

 でもなァ~~~、ルーチェの拗らせ方凄そうだからな~~、俺の魔法関連も話さなければいけないかもしれない。いや、別にいいんだけどさ。いいんだけどこう……あんまり公にしたくないだろ。ただでさえ英雄なんて面倒な呼ばれ方され始めてるのにここで『十二使徒の祝福で元英雄の武器を使用している』とかいう情報出て来たら逃げ場ないし。

 

 まずはルーチェの根本を理解せなばならないな。

 

「と言う訳なので、俺は早退する。後頼んだぞステルラ」

「えっ」

 

 教室に戻り鞄を持ち、ついでにルーチェの鞄も勝手に準備しておく。

 一週間程度の付き合いしかないが、アイツは逃げれる状況だと逃げる傾向にある。順位戦の時アルに煽られた時もそうだが、反抗する事より逃げて押し込もうとしてる。

 

 確実なのは逃げる事の出来ない状況にこっちから追いやる事だ。

 

 外れたら外れたでまた考えればいい。

 

 先程ルーチェの去って行った方向へと歩き、ここから一人になれそうな場所を思い返してみる。

 屋上か。テンプレ的な場所ではあるがあそこカップル多いんだよな。アルと二人で様子を見に言ったらゲンナリした記憶がある。あのアルが嫌そうな顔をしてたから相当にあま~い環境だった。

 

 俺が一人になりたい時はどういう場所に行っていたか。

 ルーチェと俺は似てる部分が多いから冷静に考えてみるのもいいかもしれない。

 

 とにかく静かな場所だ。

 誰も来ない、それでいてある程度ゆっくり出来る場所。密室で鍵を掛けれる場所がベストだな。

 

 となると……あそこか。

 

 この学園には都合よく魔法を使うために頑丈に補強されている部屋がある。

 普通なら誰も入ってこれない、個室が。

 

 先日の師匠やステルラがどうやって入って来たか不明だが、鍵をかけてなければ普通に入れるだろう。掛けてたら知らない、ノックして引き摺りだす。

 

 昼休みの時間すら利用する人は少なく、友人がいないボッチ飯とかここで決める人がいるという噂がある。

 まさか級友がそんな枠に入ってしまうとは……俺は悲しいよ。

 

 地雷踏み抜いたのは俺なんですけどね。

 

 到着し、部屋の空き状況を確認する。

 使用中の部屋は……一つだけか。アテが外れたか。

 

 どちらにせよ確かめないといけないので部屋の前まで行き扉を開く。 

 

「開くのかよ……」

 

 勢いよく限界まで開け放ってから中に入る。

 照明はついてないし若干冷気が漂ってるし、あたりを引いたと考えるべきだな。

 

「おいルーチェ、居るんだろ」

「…………帰って」

 

 姿は見えないのに声だけ聞こえる。

 夜目は利く方だが、流石にオンオフの切り替えは利かない。俺は人間だからな、そんな便利機能は搭載してないんだ。

 

「悪いが帰らない。俺はお前に用事がある」

「私は何も用事がないの。だからどこかに行って」

「そっちか。おやおや、随分と縮こまってしまったな」

「……うるさい。いいから帰って」

 

 ハ~~~~~。

 どいつもこいつも拗らせやがって、面倒くさいんだよ本当に。

 俺みたいな奴を頼らなくてもいいぐらい強いんだからもっとバランスを持ってほしい。

 

「ほら、行くぞ」

「…………触んないで」

 

 とか言いつつ全然抵抗しない辺り深刻だ。

 もしかしてさっきのステルラでトドメ刺したか。その可能性が結構高いな。

 即決してよかった。過去に取り返しのつかない事があった、その記憶を見たからか。どちらにせよ今は忌み嫌った英雄の記憶に感謝しておこう。

 

「いいから行くぞ。首都デートと洒落こもうじゃないか」

「────……は?」

 

 

 

 

 

 


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