【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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え~、これで本編自体は終わりますが明らかにやってない話もあるしやりたい話も多いので更新自体は止めません。なので安心して読んで欲しいです。番外編って形でやると思います、ええ。


~そして後世へ~
エピローグ 


 

『────あの戦いから、三年の月日が経過しました』

 

 燦々と太陽が照り付ける日差しの最中、男性の声が響き渡る。

 

『首都の崩壊、魔祖十二使徒の死、殉職者千と少し、犠牲になった死者数はおよそ五百…………凄惨な事件で、忘れる事が出来ない辛い戦争でした』

 

 悔しさが滲みだす声色に、それを聞く人々の表情にも憂うようなものが生まれる。

 

 戦いは終わった。

 しかし、それによって生まれた被害は多かった。

 家族を失った者達はやり場のない怒りを胸に抱き、それらを未然に防ぐことが出来なかった超越者達もまた、深い後悔と自罰の意識を持ち。誰も彼もが報われない戦いの果てに、その身を退くことを決意した者は多かった。

 

『あの戦いで犠牲になってしまった方々がいたからこそ、我々は今こうして未来を見据える事が出来る。彼ら彼女らが遺したこの命を、どのように扱うか────その意義を、今一度問いたださねばいけません』

 

 拳を強く握り締め、力強く語る。

 

 金色の髪を靡かせて、その端正な顔立ちを凛々しく覗かせながら男────首都魔導戦学園()()()()()、テリオス・マグナスは宣言する。

 

『その死は無駄では無かったと、あの戦いに意味はあったのだと! 辛くて悲しくてどうしようもない、死んだ命はもう戻らない──そうわかっているからこそ!!』

 

『俺達は努力(・・)する! 決してその名を忘れないように、死したことに意味があったと報いるために!』

 

 その声を、坩堝に集められた人々は静聴していた。

 熱意にあてられて、少しばかり興奮している者もいる。

 決して忘れる事の出来ない傷跡を残されたから、だからより一層努力することで傷に意味を見出す。

 

 過去は変えられない。

 今を生きて未来を創る人間の役目というのは、そういう事だ。

 

『選び抜かれた若者よ。

 その鍛え上げた力を示せ! 

 生き残った大人達よ。

 その努力の行く末を見届けろ!』

 

『ここに────第二回(・・・)、首都魔導戦学園トーナメントの開催を宣言する!!』

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「…………はあ」

 

 憂鬱だ。 

 心の底からため息しか出ない。

 どうしてこうなってしまったのだろうかと己の愚かさを呪いながら、控え室の冷房で冷やされながら菓子類をつまんだ。美味い、テリオスさんが用意しただけはある。

 

「は~~~……」

「幸せが逃げるよ、ロア」

「とっくの昔に幸せには嫌われてるから問題ない。それよりもこれから俺の身に振りかかる不幸に対して嘆いていた方がマシだ」

「捻くれてるなぁ……」

 

 不貞腐れる俺と同じように菓子を摘まみながら、ステルラが呟いた。

 

 俺が捻くれたのはお前ら天才共の所為なんだが? 

 

「一回戦ルーチェ、二回戦アランロド、三回戦ヴォルフガング、決勝でお前。ふざけんなマジで、相手したくない奴らばっかだろうが」

 

 どうしてこうも運命に嫌われているのか。

 厳正なるくじ引きの結果何故かフルで知り合いと戦うことになり、しかもその内二人が超越者である。もういい加減にしろよ本当。

 

 そんな俺の嘆きを聞いて苦笑いして、ステルラが小さく言う。

 

「でも私、ロアと戦えて……嬉しいよ?」

「…………そうかよ」

 

 俺は嬉しくねぇんだな~~! 

 

 そんな野暮な事を言う訳にもいかず、思わず閉口してしまった。

 

「……むむ。ロア、合体しよ」

「絶対嫌だが? 俺が何考えてるのか知るためだけに同化しようとするのはやめろ」

 

 あの戦いでステルラに命を救われて、三年。

 

 それなりに長い月日の間に色々な事が起きた。

 

 まず一番大きい出来事はアレ、ステルラを元に戻せるか問題。

 プロメサさんやソフィアさんの尽力と、魔祖やテリオスさんの身体データを搔き集めて全身が魔力ってどういうことなのかという意味をめっちゃ調べ尽くした。俺はその分野で勉強できるわけじゃないから役に立てなかったが、最終的に戻ろうと思えばいつでも戻れるのではないかという結論が出た。

 

 テリオスさんと心臓六個くらい増やして遊んでたらソフィアさんに怒られたり、テリオスさんの手を六本に増やして完全体テリオスを考案してたらソフィアさんに怒られたり、テリオスさんの眼とか翼とかその他諸々を合わせて完全体テリオスとして君臨させようとしたら魔祖にボコボコにされたりした。

 

 いやあ、忙しかったな……

 

「ロクでもない思い出だな……」

「……流石に何考えてるのかわかったかも」

 

 変身は男の浪漫だからな。

 テリオスさんは今も密かに完全体テリオスを考えているらしい。百年後に黒歴史として突然世に流出させて困らせてやろうと誓った。

 

 そして肝心のステルラと言えば。

 

「むぐむぐ…………ん?」

「飴ちゃん食うか?」

「子供扱いしないでよ!」

 

 テリオスさんの編み出した魔力吸収を習得し、外部から魔力を取り込むことで実質的な無敵状態を確保した。つまるところ、コイツは世界から魔力が消えない限り死なない最悪の生命体に成り果てた訳である。

 勿論俺の心臓からは分離してる。

 でも心臓はステルラの持ち物なので、俺はステルラの持ち得ていた魔力を手に入れ、いつでも合体可能になり、寿命に変化は無かった。

 

 めっちゃ簡単に纏めるとステルラは完全に不死身の怪物になり俺はスペック上最強になり二人合わせて無限の可能性を得たという所だな。

 

「…………はぁ~~……」

 

 あー、めっちゃ鬱。

 ステルラが未来で悲しまなければいいが、最後には一人になる事が確定してしまった。この世界に魔力がある限り、ステルラはその存在を維持し続ける。それはつまり、この国が滅んでもこの大陸が沈んでもこの世界が壊れても、魔力という概念が尽きない限りは残り続けるのだ。

 

「あ、あはは……そんなに気にしないでよ、私はそんなに気にしてないから」

「お前俺達全員居なくなった世界で生きていけるのか?」

「…………善処します」

 

 喧しいわ。

 

 寂しくなってそこら辺を漂う謎の生命体になるのは間違いないだろう。

 

「ていうかナチュラルに読んだな?」

「あ~~、美味しいなーこのお菓子」

 

 ステルラは逃げ出した。

 

 元に戻れるようになって図々しくなったというか、なんか幼い頃の奔放さが戻ってきたような気がする。

 

 俺はそれに関して懐かしいと思うのと同時に初恋の記憶が蘇るので少し甘酸っぱい感覚がする。俺の初恋、ボコボコにされ続けた幼き日々、勉強で負けたあの日、努力の無意味さを悟った瞬間…………

 

 辛いぜ。

 

 部屋から姿を消したステルラを放置しのんびり菓子を摘まみながらモニターを見ていると、部屋の扉がノックより先に開いた。

 

「やあやあロアくん、あなた愛しのルーナがやってきましたよ」

「うわ出た」

「うわじゃあないんですよ。ほらほらチュッチュ」

 

 なんなのこの人……

 学園を卒業し魔祖十二使徒として正式に拝命したルナさんは三日に一度の頻度で会っている。ていうか今でもあの部屋(復興済み)に俺が住んでるから、なんか知り合いが集会所みたいな感じで集まってくる。

 

 あの戦いでエミーリアさんの影を撃破し、その代償として死に掛けていたらしいのだが、その頃俺は普通に一度死んでいたのでそれ所では無かった。ステルラと合体できるようになったと報告を受けて最も憤慨していた人である。おもろすぎだろ。

 

「むむっ、この匂いは……ステルラさんですね!」

「魔力で感知した癖に何言ってるんですか」

「バレましたか。こっちの方がヤンデレっぽくて良いと本に書いてたので」

 

 それなんて本ですか? 

 ちょっと燃やしてきます。

 

「燃やすのは私の専売特許なのでちょっと……」

 

 そういう問題じゃねぇんだわ。

 ただでさえ後輩が出来て余計人間関係面倒臭くなったのに(十割悪いのはロア)、これ以上爆弾抱えてられるか。ヤンデレとメンヘラの差も分からんような奴は俺が許さない、成敗する。

 

「でもロアくんめんどくさい女の子好きですよね」

「いや別に好きなわけじゃなくて好きになった女が軒並み面倒くさかっただけ何でそこを同一にされるのは俺にとっては少し不服だな」

「早口出てますよ」

 

 は~~~!!!? 

 別にめんどくさい女が好きなわけじゃないが!!?? 

 

 好きになった、好意を抱いて来た女が軒並みめんどうくさい奴らだっただけで俺は別にめんどうな女が好きなわけじゃないんだが!? 

 

「ルーチェさん」

「めんどくさい女だ」

「ステルラさん」

「めんどくさい女だ」

「エイリアスさん」

「……めんどくさい女だ」

「アイリスさん」

「…………めんどくさい女です」

「アランロドさん」

「……………………めんど」

「わたし」

「はい、俺が悪かったです。めんどうくさくて手間がかかる女の子が好きです、すみません」

 

 あ~あ、また負けちまった。

 二度と敗北しないと誓った筈なのにこうも簡単に負けてしまうと、やはり持って生まれた才能には勝てないのかとあきらめざるを得ない。

 

「やれやれまったく、今日も清々しい敗北だ」

「何を良い感じにしてるんですか、このヒモ男」

「何も恥じる事がない。ヒモでありたいと願った俺をヒモとして生かしている張本人が一体何を?」

「…………ぐ、ぐぬぬ」

 

 相変わらずの無表情を保ったままルナさんは唸った。

 

 かわいい。

 

 そんな風に二人で談笑していると、新たな刺客もとい客人が現れた。

 

 コンコンコン、と三度丁寧なノックをした後に入っていいと許可を出す。

 

「失礼します、メグナカルト先ぱ────あ、こんにちは」

「こんにちは、アランロドさん」

 

 入って来たのは俺達より二つ下の学年である、アランロド・ミセリコ・マクウィリアムズ。

 

 結局首都魔導戦学園が復活したのはあの戦いの二年後であり、つまるところ、俺達の一個下の代は存在していないのだ。その世代の者には不幸な事だが、二世代纏めて入る事になったので倍率がエグい事になったらしい。

 そしてそんな苛烈な世代を首席で合格してきたのがアランロドである。

 

「よう、アランロド。お手柔らかに頼む」

「勝ったら結婚するとかそんな感じの賭けしませんか? 私が負けたら結婚して、先輩が勝ったら結婚する。これで解決しますね」

「何も解決してないが? 急にトチ狂った事を言い出すのはやめろ」

 

 問題児アランロド。

 品行方正清廉潔白を地で往く女だがちょっとだけ欠点があり、それはこの異常な執着心というか頭のおかしさというかそこんところである。

 

「んもう、そっちの名前じゃない方で呼んでくださいって言ったじゃないですか」

「いや…………お前重たいし……」

「ま! 女の子に重いとか言っちゃだめですよ、ねっルーナさん!」

「いや普通に重いですよそれ」

 

 アランロドは崩れ落ちた。

 

 胸に抱いた決意とかが重たすぎて色々気負ってた女だが、それも良い感じに解決した(無理矢理)。その代償として俺に集まる女性がまた一人増えたが、まあそこまで深く気にしない事にする。こいつの話はまたいずれするだろう。

 

「きっ、傷物にされた……もうお嫁に行けない……」

「そういうのは公衆の面前でするから効くのであって密室でやっても意味はない。覚えておくんだな」

「なるほど、勉強になります。自称ダメ人間はやる事が違いますね!」

「ぶん殴られたいか?」

 

 自分から言ったのにぃ~、なんて言いながら逃げようとするアランロドの背後に雷速で回り込んでチョップした。

 

 フッ、いつもルーチェに殴られてばかりだから殴る相手が出来るとスッキリするぜ。

 

「それは多分ロアくんが悪いからですね……」

「そんな奴を好きになる方が悪い」

 

 酷い暴論だがこれに反論は出来ないのかルナさんは黙り込んだ。

 

 ケッ、さっきの負けはこれで帳消しだ。

 

「……ところでステルラさんは?」

「さっき霞のように消えましたが」

「ほほう! これはチャンスですね、メインが居ない間に私が全てを掻っ攫って」

 

 それは無理だからやめとけ、と俺が言うよりも先に紫電がアランロドを襲った。

 

 俺の身体から出て来たのが。

 

「あばばばばっ」

「ああ、お前いつの間に混ざってたんだよ」

『ロアにちょっかい出す不届き者を成敗しようと思って……』

 

 そしてヌルリと現界した。

 ステルラが正真正銘壁を越えてしまったので平然とこういう行動をとるようになった。まあ俺はステルラに思考を読み取られてもどうでもいい領域に突入したので寧ろドンと来いなんだが、最近ステルラも俺から好き好き言われるのに慣れて来たので倦怠期のカップルみたいな空気感が出ている。

 

 そういう時は無理矢理ちょっとアレな事をしてなんとかしてる。

 戦いの才能は無いがそっち方面の才能には長けてたらしく、俺の適性はあまりにも最悪だと驚愕した。

 

「ロア?」

「なんだ」

「なんか変な事考えてるよね」

「まさか! 俺がそんなふしだらな事を考えてるような事が!?」

「白々しいなぁ……」

 

 ステルラは苦笑した。

 

 復活したアランロドも含めて四人でぐうたらしてると、ルナさんが賓客として招かれているので仕事だと離脱した。

 

 そしてアランロドも戦いの準備をして参りますと消え、ステルラもまた、同様に準備をすると部屋から出て行った。

 

 複数人で過ごすのが最近当たり前になってるから一人の時間は貴重だ。

 別にずっと誰かといるのも苦ではない。それでもやはり、一人で静かに過ごしたいと思う時はある。死人を悼むのに騒がしさは必要ないし、心の整理は静かにゆっくりと落ち着いてやりたいのだ。

 

 俺達の代は最上級生。

 

 つまり学生生活最後の年だ。

 大分頑張ったぜ、マジで。魔力を手に入れたから単位も取れるようになったし、師匠頼りの戦いからある程度自分だけでも戦えるようになった。師匠は寂しそうだった。

 

 結果的に師匠が家に来る回数は激減、何やら常に忙しなく飛び回ってるらしい。

 

「……なにをやってるんだか」

 

 自分の役目はもう終わりとでも言いたいのだろうが、そんな理由で手放す俺ではない。

 

 俺が死ぬまで世話させるし見届けさせるつもりだ。

 これ以上仲のいい人間が死ぬのを見たくないという思いかもしれん。それでも俺は見届けさせる、俺の人生に最も影響を与えたうちの一人なんだ。責任もって見届けてくれないとな。

 

「────…………行くか」

 

 奇しくも三年前と同じく一回戦。

 あの時とは違う立場だ。俺は挑まれる立場にあり、名実ともに負ける訳にはいかない場所に立ってしまった。

 

 魔力は十分漲っている。

 

【英雄】なんて大層な名前を戴いてしまったからには、この貰いものの力であっても虚勢を張らざるを得ない。

 

 肩書には責任が伴う。

 俺は誰の名も傷つけるつもりは無い。

 俺に負けた奴は全員『俺が強かったから負けた』のだと。負けた奴が弱かったのではなく、勝った俺が強かったのだと思わせてやる。

 

 少なくとも、ステルラ・エールライトも含むすべてに勝つのだと誓ってしまったから。

 

 あの日の約束は今でも守っている。

 敗北はただの一度だって許さない。

 そうだろう、ロア・メグナカルト。上手くいかない人生だって、その程度の理由で諦める訳にはいかないもんな。

 

 部屋から出て、通路を歩いていく。

 懐かしい光景だ。ここを通って潜り抜けてしまえば大歓声に包まれ戦いが始まる。

 俺にとっては苦痛に塗れた苦い思い出であり、それと同じくらい光栄で心躍る場所だ。

 

 苦しみ抜いた俺が輝く場所、俺が苦しむ原因となった場所、ああ、くそったれめ。

 

 そして光差す出口へと辿り着いた時、教員統一の服装に身を包んだテリオスさんが待ち構えていた。

 

 ニッコリと笑顔で楽しそうに、それでいてどことなく悔しさを滲ませながら言う。

 

「調子はどうだい?」

「戦うという事実に辟易としている心を除けばそこそこですね」

「そうか。俺も今の君と戦いたいんだが……」

「お断りします」

 

 俺の即答に苦笑い。

 

 結局順位戦自体は一位を維持したまま卒業したテリオスさんは教師を志したようで、一年で教員免許を取った後にここに戻って来た。

 

 学園長補佐という立場で将来的に次ぐ路線なのだろう。

 明らかに贔屓されているという点について特に不満を言う者はおらず、あれだけ真面目に学生生活やっててあの戦いでも常に最前線で戦い続けた男の就任を拒否する奴はいなかった。当の本人は不思議そうにしていたが。

 

「テオはしっかりやってるからね。それなのに俺だけが楽しい思いをするのはずるいだろうから、今度は二人で誘わせてもらう」

「本気で勘弁してくれませんか? 俺とテリオスさんの戦いなんて誰も得しません」

「俺は得するぜ、英雄くん」

 

 あ゛~~~ふざけんな! 

 わかってて言ってんだろこの男! 

 

 クスクス笑いながら(そういう所作が何故か絵になってムカつく)、テリオスさんは続ける。

 

「きみ、卒業してからの進路決まってないだろ?」

「決まってますよ。専業主夫です」

「…………本気だな」

「当たり前じゃないですか。なんで俺が働く必要があるんですか?」

 

 この学園さえ卒業してしまえば俺は自由である。

 

 負ける訳にはいかないが、それは何も一生戦い続けなければいけない訳ではない。この学園で無敗の男として名を馳せればいいのだ、そうすれば永遠に名は残るし他の奴も同時に蹴落とせるので最高である。テリオスさんに勝ったという箔は中々消えないぜ。

 

「なので勝ち逃げします。このトーナメントが終わり次第俺の戦いは二度と起こらないでしょう」

「……なんか、また変なタイミングで戦ってそうだよ」

「やめてくれ。俺も何かそんな気がしてならない」

 

 どこかで戦う羽目になるんだろうな。

 家から出ないことで全てを解決できないだろうか。

 

 そんな嫌な予感を抱いて複雑な表情をしている俺に、テリオスさんはめっちゃ清々しい顔で笑った。殴るぞ。

 

「引き留めて済まなかった。君の健闘を祈るよ」

「ありがとうございます。出来る事なら二度と戦に誘わないでほしい」

「それは無理だね。なにせ君は、【英雄】なんだから」

 

 ひらひら手を振って送り出してくれるテリオスさんを無視して、光が差し込む出口を潜り抜ける。

 

 ざわめきが収まらぬと言った様子の会場にやってきたが、どうやら俺は後入りしたらしい。

 既に相対する形で待ち受けていた愛しい女の元までゆっくりと歩いていく。そして、俺が来たことに気が付いた会場が沸き立った。

 

「うるさいわね」

「身に余る光栄だ。コンディションはどうだ?」

 

 そうね、と一拍おいて。

 三年前より女性らしい膨らみが発展し、美人という形容がより似合う女に成長した────ルーチェ・エンハンブレが答えた。

 

「悪くないわ。今なら夜を過ぎても踊れる気がするもの」

「そうか。俺は布団に包まって惰眠を貪りたいが……」

「許すわけないでしょ? 明けない夜は無いの」

「溶けない魔法はあるかもしれないけどな」

 

 二人見合って、口角を釣り上げて笑い合う。

 

 あの日は魔法が溶けるまで共に踊ったな。

 

 あれから三年経った。

 俺は膨大な魔力と一般的な魔法を扱う才能を手に入れて、お前は唯一欠けていた氷と水を扱う祝福を手に入れた。無い物ねだりを続けていた俺達は、いつの間にか欲しがっていた何かを手に入れていた。

 

「じゃあなんて言うかわかる?」

「ああ。そうだな、まずは……」

 

 ────我儘な女性は嫌いじゃない。

 ────私も紳士が好みなの。相性良いんじゃないかしら。

 

 あの時のやりとりそのまま呟いて、二人揃って笑ってしまった。

 

 観客席の一部に視線を向ける。

 そこにはいつも通りのメンバーが揃っていて、何やらどす黒い感情を発露させている奴もいれば、楽し気に此方を見ている奴もいる。はい、アルベルトはいつも通り愉しそうですね。この後が怖いんだが? 

 

「…………大体、あと十分。それが、全力で相手できる時間だ」

 

 全力で魔力を稼働させるなら、俺は消費が激しい方だからな。

 かつての戦いでアルスに行ったレベルのを行うのならそれくらいになる。いくら魔力があっても、消費する量は減らない。超越者に至った訳では無いから、あくまで人間の域を出ないのだ。

 

 この後に二回戦が続く事実があるから、正直そうやってなりふり構わない戦いをするつもりは無かったが……

 

 こんなにも楽しそうな(・・・・・)ルーチェを見たら、そうは言ってられない。

 

「魔法が解ける(・・・)まで、一緒に踊ろうか」

「────喜んで。丁重にお願いするわ」

 

 紫電を身に纏い、光芒一閃を握り締める。

 

 あの時とは違う。

 全力全開、一撃で全てを終わらせる以外の選択肢も手に入れた。

 合理的に行くのならば、牽制を繰り返し小競り合いを経て情報を集めしっかりと攻略に臨むべき。戦いとはそう在るものだ。

 

 ああ、わかってる。

 

 その位の事は、あの記憶からもとっくに理解してる。

 

「────紫電(ヴァイオレット)……」

 

 それでも、俺は答えちまうんだ。

 

 そんなものクソくらえって。

 正真正銘相手の本気を受け止めずに手に入れる勝利になんの価値があるんだって。だって、アルスはずっとそうやって勝って来たから。敵の攻撃を受け止めて、立ち向かって、決して逃げなかった。

 

【英雄】なんて立場を一番理解している俺が、そこから逃げ出すなんて訳には────行かないんだな、これが! 

 

紫電雷轟(ヴァイオレット・フォークロア)────!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 才能が欲しかった。

 才能が欲しい。

 才能。

 

 俺はそうやって常々願って来た。

 

 英雄の記憶なんてものより、願い狂うだけで人を超えられる人智を超えた才能を持って生まれたかったと。

 

 俺はいつだって願っていた。

 朝起きれば無敵になっていることを祈り、起床と同時に溜息を吐く。そんな毎日が嫌いでうんざりしていても決して変わらない現実と記憶に、無性に苛立ちを募らせた。

 

 でも、現実は願うだけじゃ叶わなかった。

 俺自身が努力し続けなければ手に掴むチャンスすら訪れることは無く、誰も助けてくれることは無いのだと幼い心ながらに悟った。

 

 だから、努力した。

 嫌だった苦痛に自分から飛び込んで、それを対価に手に入れられる強さを願った。その強さでも満足できなくて、でもそれ以上を手に入れる方法は無くて、心に陰りがある事を自覚しながら一切気にしないように振舞った。

 

 取りこぼしたものもある。

 手が届かなくて、自分の愚かさが原因で招いたことすらあった。

 それらに関して後悔してももう遅くて、やはり俺は間違っていなかったのだと悟ると同時に、なんて愚かな奴なんだと自嘲する。

 

 …………それでも。

 

 それでも。

 それでも絶対に逃したくないものだけは守れた。

 俺にとって、こんな矮小な人間が成せたのは、十分に誇れるものだった。

 

 取りこぼしたものに関しては、そうだな……

 

 いずれあの世で会ったら謝るさ。

 

 沢山の思い出を持って、盛大に会いに行ってやる。

 

 だから、それまでは。

 それまでは、俺の人生を歩ませもらうことにする。

 

 俺の因縁を巡る戦いは終わるが、まだ、俺の人生は────この世界は、終わらないのだから。

 

 

 

 

 

 

 




ロア・メグナカルト

この後無事にトーナメント決勝まで進出するが、化け物になってるステルラに負ける。負けたショックが普通にデカすぎて一週間ぐらい寝込み最終的に「まあアイツめっちゃ強いし別の分野なら勝てるからいいか」とメンタルを回復する事で事なきを得た。新大陸に冒険しに行ったり剣術道場をアイリスと開いたりアランロドに結婚を迫られたりルーチェと秘密の別荘を作ったりルーナと墓参りに行ったり自分の子供達に努力はクソだと言い聞かせていたら師匠とステルラにボコられたりした。

ステルラ・エールライト

八十年後くらいにロアやルーチェ、アイリスが死んで十年近く閉じこもるが、子供や孫たちの励ましやロアの遺書を見て生きている内は楽しめるだけ楽しむことを決意。新大陸に超越者仲間複数人で殴り込みに行ったり自然とか文化に興味を見出すことになる。めっちゃ初期の構想だと、次回作でステルラ・エールライトの冒険をやろうとしていた(やらない)。ロアが死んで最もダメージが強かったうちの一人。

エイリアス・ガーベラ

人気ありすぎ自己肯定感低すぎ師匠。この後新大陸に行ってそのままフェードアウトしようとしていたが全力出したステルラとロアに発見され、無事に家に帰ってくることを確約させられる。自分なんかを本気で求めてくれたロアに惚れている気持ち悪さから自己嫌悪が高まるものの、それでもいいと言ってくれたことにより陥落。一ヵ月に一度帰ってくる美人ミステリアスお姉さんとして子孫達の性癖を破壊し続けた。ロアが死んで最もダメージが強かったうちの一人。

アルベルト・A・グラン

最上級生になる頃にはすっかり被嗜虐趣味は鳴りを潜め……る筈も無く、相変わらず最悪の人間性を維持しつつ楽しく過ごしていた。マリアとイイ感じの関係になり、卒業後にグラン家当主の座に就く事となる。軍上層部との二束草鞋は割に合わんと宣言したテオドールに指名された事で強制的になったが、権力も利用できて公に嫌味を言っても許されるこの立場は存外気に入っていたらしい。ロアより先に死んだので特にダメージは無い。

ルーチェ・エンハンブレ

卒業後、国の運営する魔法学校へと進学。『雪原地帯における魔法・および魔道具による影響緩和』の研究を行い人が住めないような豪雪地帯でも安全に生活できる方法を確立。人類の生存権を広げ、その給料である人物を養っていたらしい。一体何メグナカルトなんだ……。子供は三人、育てきった頃には女としての旬が過ぎておりその事に少しだけ寂しさを抱きつつも一人の人間として立派に成長した。好きな男に友人達、蟠りの解けた両親と子供達に囲まれながら病によって亡くなる。死に顔は安らかだった。

ヴォルフガング・バルトロメウス

ロアに二度の敗北を喫するが決して折れることは無く、卒業後軍部に就職する。ある程度の技術を学んだ所で超越者以外で相手になる者が居ない事を悟り、新大陸に旅立った。十年に一度の頻度で本大陸に帰宅するが、その度に強くなっていたのでロアは二度と戦ってくれなかった。その事に少しだけ悲しさを抱いている。五百年後の新大陸で最強の名を冠していたりして欲しいしなんなら別の物語に干渉する位の奴になって欲しい(そういうポジションの奴がマジで好きなだけです、察してください)

ルーナ・ルッサ

魔祖十二使徒第三席として、数百年間国家首席の座に収まる事になる。ロアが存命の間は子を遺そうと躍起になったが、色々問題が発生し遺せない事がわかって一時絶望した。二日くらいで持ち直したが、その反動で他の子どもたちに激甘になっている。エミーリアの墓参りを欠かしたことは一度もなく、ロアが自由に動ける間はずっと共に行っていた。ロアが満足に動けなくなる年は墓前で寂しさを露わにし、ロアが死んだ時は大泣きした。何処かでロアと顔を合わせたエミーリアが、良くも泣かしてくれたなと怒ったり怒らなかったりする(こういう妄想が好きなので許してください)。ロアが死んで最もダメージが強かったうちの一人。

アイリス・アクラシア

卒業後実家に戻り全力の五体投地を行い、両親に必死の謝罪をした。ロアは受け入れてくれたが世の中そういう人物だけではなく、自分が周りと違うということに甘えて図々しく生きるだけでは駄目だと自分を変える事を決意。数年後、全国の剣術道場を破りまくって踏破した後にロアと共に道場を経営することになる。ロアの扱うかつての英雄の剣を正当に継承し、その上で自分のオリジナルも加えたものを生み出して歴史に名を刻んだ。齢八十を越えた辺りで剣豪として位階を一つ突破し、剣のみで超越者を斬るというよくわかんない領域に至ったり至らなかったりする。ロアと同じ日に死んだのでノーダメージ。

テリオス・マグナス

数年後、入学してきたロアの妹であるスズリ・メグナカルトと出会う。担任としてクラスを受け持っていたテリオスは何だかんだ親近感をもって接して、やはりどことなく同じ空気感を持つスズリについ全力で指導。結果としてスズリは超越者や一流の怪物には届かないが、トーナメントに毎年出場するくらいの実力を兼ね揃えるようになってしまった。その責任を取れと定期的にスズリに追い掛け回されるようになったりならなかったりしてほしい(これは完全におれの妄想なので気にしなくていいです)。
マギアが学園長を引退してからおよそ数百年の間本大陸にて人類の発展に貢献し、やがてその役割を己の子孫に託して新大陸に旅立つこととなる。その仲間には、かつて共に雌雄を決した親友の子孫が居たという(これもおれの妄想です、テリオスは子孫たちに黄金時代の話をずっとしてくれ~~!!残されたお前の役割を悲しく全うしててくれ~~!!)

テオドール・A・グラン

ソフィア・クラークと結婚。数年後、軍総司令となりグラン家当主の座を弟のアルベルトに譲る。結局あれから一度も全力で戦う事は無く、あれ以上強くなることも無かったけれど、彼は模擬戦で負け知らず。五十を過ぎてますます男に磨きがかかりモテたが、妻が怒るからという理由で女性とはあまり関りを持たなかった。グランの血筋の問題も何もかもを解決してくれたロアに感謝しつつ、それはそれとして相変わらず面白い奴だとちょっかいを出し続けた。ソフィアを看取り、隠居生活五年目で老衰で亡くなった。

ソフィア・クラーク

テオドール・A・グランと結婚。国主導の研究部主任となり、後にルーチェと共同研究を行ったりする。プロメサと二人で掲げた『座する者(ヴァーテクス)への意図的な移行』は残念ながら実を結ぶことは無かったが、亡くなる数日前までずっとデータを集め資料を纏め後世に遺そうと尽力した。それはきっと、己が到達する事が出来なかった愛する男へ最後の贈り物として用意したかったのかもしれない。その真実を知る者は、もう居ない。

ブランシュ・ド・ベルナール

大戦で無事生き残った功績を評価され、軍にてエリート街道を邁進する。最終的に新大陸総司令の座に着いたものの、すっかり独り身のまま生きたことに若干の孤独感を抱いた。だがその強さは本物で、彼の魔法は魔祖十二使徒直伝の貴重なものとして専用の部隊を作られるくらいに評価された。後の時代に、どこかの街で伝わっててほしいよね。欲しいです、欲しいんです。

マリア・ホール

真面目に人助けしてたら変な男に絡まれて最終的に結婚することになる。要するに全部アルベルトの所為。殴っても喜ぶし罵倒しても喜ぶしたまに虐めてくる性格の悪い男にちょっと誑し込まれたかわいそうな人。己の目標であった『全ての病を治す魔法』は作れなかったが、廻天(エリクサー)と称される偉大な回復魔法の難易度を下げて一般化したことで新大陸開拓にいおける死傷率が大幅に低下。その功績は教科書とかに乗って欲しい。そういう地味な活躍で名を遺すタイプの人になって欲しいんです。

プロメサ・グロリオーネ

魔祖十二使徒の身体を解明し人類全てを次の位階に押し上げようと思ってたり思ってなかったりする。結局一生分の時間では何もかもが足りないという事を悟り、己の知的好奇心を満たすために研究を続けた。最終的に寿命を二十年くらい伸ばす魔法を開発したものの、それを世に広めたりせずに己の限界はそこだと満足げに終えた。

フレデリック・アーサー

卒業後は軍特殊工作員として雇われたが、数年で辞職。強さを追い求める事は止めて、新大陸にて人の役に立つことを選択。光魔法を利用し植物の栽培や動物の生殖研究に非常に貢献し、新大陸に骨を埋める事となった。

マギア・マグナス

十年後に引退を表明、面倒事全てをテリオスにぶん投げて隠居した。エミーリアの墓参りとかその他暇になった時にちょっかいを掛けて国に迷惑をかける時以外、一人で暮らし続けた山奥で生活する。魔導の研究を百年以上疎かにしていたため、今度は己自身の欲望を満たす事を優先した。時折人に会いたくて首都に飛んでくるが、その度にぶっ壊れる設備にテリオスが発狂しながら対応した。

ロカ・バルトロメウス

魔祖十二使徒第五席をヴォルフガングに譲り、夫が亡くなるまでのんびりと過ごす。亡くなってからは新大陸に出ずっぱりの息子の帰る場所として家で暮らし続け、一ヵ月に一度の頻度で十二使徒の生き残りでお茶会をして楽しんだ。

ローラ・エンハンブレ

失った部位を治し、これまでと変わらない生活をする。夫婦揃って超越者のため特に席を譲る事も無く、仕事と並行して子育てとか色々やって最終的に三百年後くらいまで子供が生まれ続けた。この二人が一番ヤバいかもしれない。でもまあ一組ぐらいずっと愛し合っててくれてもいいよね。



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