お待たせしすぎたかもしれません。
どうも、ずんだもんです。
すいません嘘です。
忙しかったです。
「は〜〜〜……」
溜息を吐いてゆっくりと深呼吸。
あー、昨日も憂鬱なイベントが始まってしまう。せっかく厄災を退けたというのに俺を待つのは戦いばかり、もうちょっと俺に優しい世界になって欲しいな。
「めんどくさ。帰っていいかな」
「先輩!? なんて事言うんですか!!」
「人は弱い生き物だからな。嫌なことからは逃げ出したくなるものさ、じゃあ俺逃げるから」
「だ〜〜め〜〜で〜〜す!」
身体強化で逃げ出そうとしたが、残念なことに無理矢理引っ張られてしまった。
不幸だぜ。
「承諾したじゃないですか! あんなにも嬉しそうな笑顔で『ああ、わかった。お前は俺が救ってやる』────きゅんきゅんしますね!」
「一言もそんなことは言ってないし引き攣った顔と笑顔の区別が付かないのならばお前はかなりヤバい」
「ヤバくなければ借金が無くなってるならそうしてます」
スン……と、ガチの顔に変化したアランロドは本気だった。
「……ごめんな」
「……いえ、ごめんなさい。私の方こそ……」
なんて可哀想なやつなんだ……
同情した訳ではないが、しかし、やっぱり優しくしなければよかったと後悔している。
だってこれから戦わなくちゃいけないし。具体的には復活した坩堝で初めての一桁クラスが戦うのだ、注目めっちゃ浴びてて嫌すぎる。
「先輩こういう女の子好きなんじゃないですか? 基本的に明るくて笑顔が眩しくてそのくせ対人距離がぐちゃぐちゃな奥手の女の子!」
「……………………ノーコメントだ」
なんだこいつ、どうして俺の性癖を……!?
やはりアランロド、警戒するべきだった。でも俺はあくまでステルラのことが好きだからそういう女を好きなだけであって別にそういう属性の女全部好きな訳じゃないぞ。
なめんな。
相変わらず空調が完璧な坩堝待機室でアランロドに絡まれていると、無遠慮に扉を開いて侵入してきた存在がいた。
紅の髪色にかつてエミーリアさんが身につけていたドレスを改造し、少し豪華な礼服として着用している女性──即ちルナさんである。
「コラ~~ッ! ロアくん浮気独占罪で逮捕します!」
「うわ出た」
「応援しにきた十二使徒にいい態度してますね。燃やしますよ何もかも」
相変わらずの無表情ハイテンションで物騒なことを告げながら、ルナさんはキッと(仕草だけ)アランロドを睨みつけた。
「アランロド・ミセリコ・マクウィリアムズさん」
「は、はいっ」
あ、緊張してるな。
俺と話すときは自然体だが、流石に現役の魔祖十二使徒と対面するのはビビるらしい。
「人の男に手を出すとはいい度胸ですね」
「ぴ」
大人げないルナさんの圧にあてられてアランロドは涙目で呻いた。
呻いたって言うか呟いたって言うか……まあとにかく、無残な屍を晒すまで秒読みってところだな。
「そ、それはその、本当に申し訳なく思っています。魔祖十二使徒さまに横恋慕しよう等という考えは微塵もございませんが、め、メグナカルト先輩が私の事を助けてくれると仰ってくれたので……」
「ンン~~聞こえませんなぁ」
「ヒュッ」
俺を戦いに巻き込んだアランロドがボコボコにされているのを見るのは大変気持ちがいいが、これ以上続くと俺の名誉に関わって来るので止めに入る。
今の図を他人に見られたら『妻がいるのに不倫して不倫相手に全ての責任を擦り付けているクズ男』にしかならん。
……何一つ間違ってないな…………。
「ルナさん。ちょっとこっちへ」
「あっ」
ネチネチ言おうとしていたルナさんの身体を抱き締め、アランロドに背中を向ける形で耳元に口元を寄せた。
「俺はルナさんの事を愛してますよ」
「あ…………はい」
「だからあまり意地悪はしないように頼みます。そうじゃないと、(俺の社会的な立場が)どうなるか……」
コクコクと頷いてルナさんは沈黙した。
ふっ、今日も俺のリカバリー力は冴え渡っているな。
この才覚だけは誰にだって負けないと自負している。最悪の自信だ。
「感謝しろよマクウィリアムズ、俺のお陰でお前は燃えずに済んだのだから」
「……今、色々ダメな部分を見せつけられた気が…………」
「気のせいだ」
俺は何も悪い事をしていない。
ただ好意を寄せてくれてる女性が意地悪をしていたからそれを止めただけだ。俺の立場が危ないという事を伝えて。
「こ、これが英雄……大人の世界……!」
「何がなんだかわからんが、もうそれでいいよ」
ぼーっとしているルナさんといい暴走するアランロドといい俺の身の回りは滅茶苦茶だな。
振り回されてばかりだが、これもまあいいもんかもしれん。
絶対に口にはしないけど。
順位戦専用競技場──通称、『坩堝』。
あの災禍にて中心になった舞台であり、ステルラが命を落としかけた場所でもあり、俺達の因縁が全て集まった終着点でもある。
なにもかもごちゃまぜになった坩堝とはよく言ったものだ。
「ここに来るのも久しぶりだな……」
アランロドより先に入場したらしく、既に観客席は埋まっていた。
学園の生徒は勿論の事、なんか明らかにそれ以上の人数入ってるんだが? 新たに設置された魔導モニターには俺がドアップで映し出されている。
惚れ惚れする男前だぜ。
「ロアーっ! がんばれーっ!」
「出たな諸悪の根源め……」
「聞こえてるからね!!」
やべっ。
ステルラに聞こえてないと思って呟いたのにしっかり聞こえていたらしい。もしかして以前の性能そのまま復帰したのか?
「余計な事を……今なら何言っても許されると思ったのに、おのれマギア!」
『おい小僧、ぶっ飛ばすぞ』
実況席から飛んできた魔力球を慌てて避けて額を拭った。
試合前の人間に攻撃するか普通、常識無さ過ぎだろ。
やっぱマギアの性格は治らなかったね……
『ぐ……その顔と言い方をやめろ』
「一体何のことを言ってるのかわからないけど……マギアが困ってるならやめるよ」
マギアは沈黙した。
フッ、俺はこの世界で唯一真の意味でアルスの真似が出来る男だ。
お前みたいにいつまでも男を引き摺ってる奴を撃沈する事くらいワケないさ。
「────は、はぁっ、お待たせしました先ぱ……なんか変な空気になってませんか?」
「気のせいだ。待ちくたびれたぞ」
マギアが黙り込んだことで僅かに騒がしくなった坩堝に待ち人が現れた。
両手に大盾を持ち、普段通りの制服ではあるが、髪型がツーサイドアップに変わっている。
さっきまではそんな事無かったんだが、あの短い時間で身支度整えたのか。
先にやっておけば良かったのに……
「……やっぱり先輩って、悪い男の人ですか?」
「俺程世界平和に貢献している男はいないと自負している」
「たしかに……」
それ騙されてるだけだよ、なんて声が観客席から聞こえて来た。
我が妹であるスズリがやる気のない顔で声を張り上げていた。
偉大なる兄上に欲しい物を買ってほしかったらその口を閉じておいた方がいい、俺の名誉に傷がつく。
「スズリも成長したな」
「あ、また知らない女性の名前が」
「妹だバカ」
「い、妹さんまで!?」
こいつの脳内お花畑だな~~!
額に青筋が浮かび上がったのを自覚する。
苛立ちを抑えるのは難しい。俺の心は何時だって荒れ狂っていて嵐の海の如き苛烈さを誇っているが、それでも必死に抑えようと努力しているのだ。
それをこいつは軽々と踏み越えていく。
ステルラと同じくらいにはセンスがある、褒めてやるよ。
「……またバカにされた気がする」
「ざまあないわね。日頃の行いよ」
「ルーチェちゃん!?」
観客席で発生した醜い争いを二人揃って目にしてしまった為に微妙な空気を漂わせつつ、アランロドは両手に大盾を構えた。
どちらも純白に黄金のラインの刻まれた潔白なデザイン。
記憶の中を探ってもそれらしいものは思い出せないが、王国の誰かが使っていたような感じはする。それが例の騎士団長かは不明だが……
「これ結構重たいんですよ。持てるようになったのが大体十歳くらいの頃で、お父様には結局及第点をいただけませんでした」
「じゃあ半分は独学か」
「はい。今でも納得はしてませんけどね」
──……うん?
魔力を軽く探ってみると、アランロドが魔法を発動している気配はない。
すでにこの心臓との付き合いもそれなりだ。
魔力は身体に馴染んで来たし、師匠の魔力を取り入れる必要もない。自分自身で生み出した魔力を操る感覚も掴み苦労していた探知だって出来るようになった。
なのに感じられないという事は────さてはこいつフィジカル高いタイプだな?
「うふふ、それはどうでしょう」
「お前の一族が末恐ろしくなってきたな」
「もう私しか居ないから大丈夫ですよ。……先輩が責任取ってくれるなら増えますけど」
「恐ろしい事を言うな。まだ俺は学生だし責任も何も取りたくない」
「さ、最悪だ……」
観客席が静まり返りドン引きしたような空気に包まれる。
何をどう言われようと俺は曲がらない。
一度そうだと決めたことを容易く曲げるような男にはならないと誓ったのだ。
あ~努力したくないから全部勝手に解決してくれるもう一人の人格が欲しい。そしてそいつが生み出した蜜を俺が吸う。完璧な作戦だ、実行できる可能性がほぼ無いという点を除けば。
これ以上口を開くと俺の評価が更に下がっていく気がするので無理矢理流れを断ち切る事にした。
「立ち話もなんだ。そろそろ始めるか」
「逃げた様にしか思えません……」
「この話をした上で負ければ最悪だが、どうせ俺が勝つ。何も問題はない」
魔力を右手に展開し、記憶を頼りに作り上げた
「知ってるか、マクウィリアムズ。俺は勝てる戦いしかしないんだ」
安い挑発だ。
戦いの前にする軽口としては上等だろう、俺のポリシーはずっと昔から変わってない。
いつだって勝てると信じているから戦ってるんだ。
負けるつもりで戦いに赴く奴がいるかよ。
死ぬ気はあっても負ける気はないぜ。
「ヴォルフガングもルーチェもアイリスさんもソフィアさんも、テリオスさんだって乗り越えた。お前にこの重みを越えられるか?」
二度と再戦してやらんが勝ちは勝ち。
かの英雄だってステルラと二人がかりで倒したから実質勝利したみたいなもんだろ。
「越えて見せろよ、マクウィリアムズ!」
実は、少しばかり高揚している。
これまで挑戦する立場にずっといたから、挑まれる側として堂々だ受け立つのは初めてなんだ。
ヴォルフガング?
あれはノーカウントだろ。
紫電を漲らせ、僅かに浮き足立った内心を抑え込み。
相対するアランロドに、俺の思いを伝える。
「お前のありとあらゆる因果因縁何もかも────俺が受け止めてやる」
それが先達の役目ってもんだ。
俺が成さなければならない役割は既に果たしたが、後進が俺を頼りたいというならば、非常に遺憾ではあるし誠に不愉快だが協力しよう。
そうすれば、後進を遺せなかったかつての英雄にも勝てるかもしれん。
俺の言葉を受けて、アランロドは俯いて嘆息した。
呆れたような感じではなく、ほっと一息吐くようなやつだ。
「……私、結構頑張って来たんですよ」
「共感は出来ないが理解は出来る。俺はその努力に報いてやらなければならん」
「どうして? 私が言うのもおかしな話ですけど、先輩はこんな小娘一人無視してもよかったじゃないですか」
「そんなの決まってる。俺は努力が嫌いだからな」
努力が大嫌いだ。
だけど努力だけは積み重ねて来た。
俺の人生は過去の俺が藻掻いた結果で彩られ形作られているのだから、俺だけは努力を否定する訳にはいかない。
「他人を害するような奴以外、俺はどんな努力だって肯定する。それがどれだけ苦しくて辛いのかはよくわかってるのさ」
柄を掴んで、霞構え。
実戦形式で戦う事は減ったが、それでも日課と化した鍛錬は怠っていない。
もうそういうものなんだ。
悔しいが、俺の日常に努力は組み込まれてしまっている。やるたびに溜息を吐いている癖に止めれないもんだから病気みたいなもんだ。
「来い、マクウィリアムズ」
俺はお前を肯定してやる。
他のどんな奴がお前を否定しても、俺だけはお前を肯定してやろう。
両親への愛、家系への誇り、積み上げた重み、自分の人生をそれに懸ける覚悟――――まったく、どれをとっても
「――――来いッ!」
アランロドが顔を上げた。
喜色と怒気が混ざり合ったような歪な表情。
今、お前の中で渦巻く感情は計り知れない。
きっと自分自身でも整理は出来てないんだと思う。感情なんてそんなもんだ、特に俺達みたいな若者の場合は。
「――――行きますっ! 私の全部、受け止めてくださいね!」
両手に掲げた大盾が白く輝く。
魔力の流れが其方へ集中するのと同時に駆け出し、その超質量とも呼べる武器を前面に押し出し突撃してきた。
地面を削り取りながら音速に近しい速度で突っ込んでくる姿は恐ろしいと表現する他ない。避けるべきなのは理解しているしそれが最善手だとわかっているが――――愚かにも、俺はその場で魔力を練り始めた。
それがお前の選択ならば、俺はそれを受け入れよう。
光芒一閃が光り輝く。
紫電を纏い音を立てながら、アルスとの戦いで至った領域を引き摺りだしていく。
ステルラの補助は無いが問題ない。一人でも十二分に叩けるように必死に積み重ねて来たものがある。三ヵ月ほど師匠と二人で過ごしたが、大分ボコボコにされた。やっぱ許せねぇなあの女。
「
幾重にも重なった斬撃が刹那に飛び――――大盾と激突。
魔力の波が衝撃となって伝播し、開戦の狼煙を上げる事となった。
マギア・マグナス
色々後処理が終わり一息ついたので折角だしあの小僧の試合でも見に行くか~とちょっかいをかけたら反撃された。アルスの真似をするときのロアに弱い。その度にテリオスが微妙な顔をすることには気が付いていない。
ルーナ・ルッサ
ロアが生きてる間にはっちゃける事を決めたが、最近自分でもキモくないかと悩んでいる。アランロドに対するロアの口振りから肯定して貰えるような予感がしたから止まらないことにした。止まれ。