なんで本編終わった後に7話もかけて新ヒロインの話してんだよ!!教えはどうなってんだ教えは!!
……負けちゃった。
坩堝に併設されてる治療室の中、窓から差し込む茜色の夕焼けで決着から時間が経過してるのを悟って溜息を吐く。
負けちゃったなぁ。
気持ちが少し軽くなったようななってないような、そんな曖昧な感覚。胸の内に渦巻いていた変に重たいモノが抜けた気もするし、まだあるような気もする。
先輩と戦えば、もっと楽になると思ったんだけどな。
「……そんな上手くいくわけないか」
現実は甘くない。
この数年間で嫌というほど思い知らされたことだった。
たった一度、たった一人の男性に認められたくらいで人生が明るくなるわけがない。
戻らない両親、もう思い出せない声、優しく撫でてくれた手、楽しく旅行した記憶。
もう二度と訪れない過去を幾度となく想起しては悲しんで、身体すら埋まってない墓前で涙を何度も流した。そうやって泣いてとにかく苦しんでいると、ふと、楽になる事があった。
──ああ、私はなんて可哀想なんだ。
そうやって自分の境遇に少しでも価値を付けないと心が耐えきれない気がして、現実逃避が無駄だと知りながら何度もやった。
そして一向に変わらない現実と、少しでも心を癒すための現実逃避を繰り返しながら、やっとチャンスを掴めそうだったのに……。
そんなんだから上手くいかないんだ。
もっと先輩みたいに、いや、先輩達みたいに自分の人生をこれと決めていれば──もっと良い方向に進めていたのかな。
「……先輩に聞かれたらバカにされちゃうかも」
「いや、しないが」
「ヒュッ」
隣を見れば椅子に座りながら本を読んでる先輩の姿が。
ぜ、全然気が付かなかった……
というか、今何時くらいだろ。
夕方なのは明らかだし、試合中はまだ明るかったから……もしかして先輩、ずっと待っててくれた?
そんな期待を込めながら身を起こして先輩に視線を向けると、戦いの最中とは全く違う普段通りのやる気のない瞳で私のことを捉えた。
「目が覚めたなら何よりだ。治療は終わってるのに魘されてるもんだからお前が見ておけと教師に押し付けられてな」
「そこは嘘でも心配だったって言ってくださいよ!」
「ああ、心配だった。乙女の柔肌に傷をつけた責任を取れと言われては流石の俺も拒否しづらい」
本当に最悪なんですけど!?
「冗談だ。身体に痛みは残ってないか?」
「……絶対本気だった、このひと……」
昼行灯というかシンプルにダメ人間だよね、先輩って。
いや私が言えたことじゃないんだけど、やっぱりうん、うん……
「お姫様に傷を付けたとなると俺の身分も危ぶまれる。よかったよかった、これで万事解決だな」
────……。
「ねえ、先輩」
「なんだ」
「どうして私のことに気が付いたの?」
私は一言も言ってない。
ミセリコ王国、王族の血を受け継いでいることを知っているのはごく僅かだ。
魔祖十二使徒の中でも一握り、政界ですら片手で数えるくらいの人間しか知らないことなのに、先輩は答えに辿り着いてみせた。
確かにお師匠でもあるエイリアスさんなら知っている。
でも口を滑らせるような人ではない。マクウィリアムズ家でも後継者として見染められた人間じゃなきゃ知り得ないのに、なぜ?
会話に集中するためか、先輩は本を閉じた。
「……結論から言うと、勘だ」
「勘」
「ああ。勘だ」
「……勘かぁ」
そうですか、勘ですか。
そっか〜……勘で身バレしちゃったのか〜……
??????
「そこに至るまでで幾つかヒントはあったが、一番は聖女の祝福が理由になる。
「英雄アルスの記憶ですか?」
「そういうことだ。それを扱う記憶もあるし、それを相手にどう立ち回れば良いかという経験もある。……いや、剣一本だったのにあれだけ強かったんだからやはりあの男は色々狂ってる」
苦い顔で言葉を吐き出した先輩を尻目に、仮に誰かの記憶があったとして、それを己の経験として消費できるものなのかと疑問を抱いた。
私に聖女の記憶があっても同じこと出来るとは思わないんだけどな……
先輩は自分がおかしいことをしてる自覚がない。幼い頃からエールライトさんが身近にいたり師匠が魔祖十二使徒だったりしたからしょうがないかもしれないけど、もう少しおかしいことをしてる自覚を持ってほしい。
そう言いたげな私の顔で悟ったんだろう、先輩は皮肉気に笑いながら話し続ける。
「この程度出来なくちゃ何も出来なかったから仕方ない。根本的に才能がないんだ」
才能。
才能なんて、私にもない。
ただ私に出来たのは幼い頃から親の教育について行く事と、憧れた両親のようになるために積み上げた努力だけ。
「そうか、俺と一緒だな」
一緒……
一緒、なんでしょうか。
私は誰にも言えないけれど、王族の血を受け継いだものとしてある程度自覚を持っている。
その上で、それを知られてはいけないことも理解している。
だから自分を分けた。
王族として高貴に振る舞う私と、ただの武人の娘として努力を積み重ねている私。
前者を使うことなんて殆どない。忘れないように家で一時間くらい思い出して一人会話をするくらいで、その姿を見せた人物なんて両手で足りる。
それを苦しいと思ったことはない。
でも、それら全ての因果が背中にあるという事実が、重たいと感じることは何度もある。
「お前の気持ちはそれなりに理解しているつもりだ。あくまで俺なりにだが」
「……聞かせてもらえますか?」
きっとそれは先輩なりの励ましだったし慰めだった。
本当なら聞き流すべきで、きっとそれを耳にしてはいけない。
先輩は私を救うと言ってくれた。
手を差し伸べてくれたんだから、その手を取るだけでよかった。
「……今ではアルスの記憶を持っていることを隠していないが、子供の頃は周囲をかなり警戒していた。なぜならアルスの記憶と英雄譚に食い違う点が幾つかあったし、何より決して楽しい記憶じゃなかったから」
「ああ……つまり、隠してたんですね」
「隠していたし、そんな答えに辿り着く奴は一人もいなかった。そのせいで剣技において光る原石みたいな扱いを受けたがな」
特に師匠から、と若干嬉しそうに言う。
先輩ってエイリアスさんのこと大好きだよね。
あのトーナメントの時も思ったけど、正直こう、よくない師弟関係って感じがして、いかがわしい空気があるのは否めない。
それに気が付いているのか気が付いてないのか、どちらかと言うと気がついてるのはエイリアスさんだと思う。
そんなどうでも良い思考は置き去りに、先輩の話に耳を傾ける。
「だが否定は出来なかった。才能がないと言い続けても、天才と褒め称えられるのは悪い気はしなかった。本当は誰かの借り物で他人の力を利用しているだけなのに、それをあたかも自分の物のように振る舞う。矮小で醜い生き物だ」
とてつもない卑下をしながら、先輩は自嘲する。
そんな風に高潔に、誰しもが生きられるわけじゃないのに。
「だから誰にも負けたくなかった。負けることはアルスを否定する事と同意義で、師匠を否定する事と同意義で、ステルラを否定するのと同意義で、あと単に俺が誰かに負けたという屈辱的な事実が心底気に入らないから負けたくなかったんだ」
「それ半分くらい後半の理由が占めてませんか?」
「そう言うこともある。俺は負けず嫌いで面倒臭がりだからな」
多分こういうところなんですよね。
先輩がどこまで行っても人誑しだと言われる所以は、多分ここ。
これだって内心誤魔化してるんだと思う。本当は前半の理由がほぼ全てだけど、それを理由にすると
そうじゃなきゃテリオスさんとの戦いで、あんなこと叫ぶものか。
そして真剣な表情で、こう続けた。
「故に、少しはお前のことを理解できる。誰にも話せない秘密を誤魔化しながら生きていく面倒くささは」
「……あ…………」
秘密。
私が王族である秘密。
先輩に英雄の記憶がある秘密。
私はそれを隠し通して密かに血を紡がねばならない事実。
先輩はそれを受け入れて己の矮小さに歯噛みしながら世界を救ってみせた事実。
「まあ、なんだ。困っている人間を見放せる程楽な性格じゃないんだ、俺は」
…………うん。
やっぱりこの人、英雄って呼ばれるだけはある。
「全部を救ってやることは出来ないが……お前が良い未来を掴めるように、まあ、再戦するくらいのことはするし、強さを伝えることを惜しまない。夢は叶った方が嬉しいからな」
少しだけ穏やかに笑った後に、先輩は椅子から立ち上がった。
心臓が高鳴る。
恋のような嬉しいものじゃない。
もっと欲深く罪深い、重たい感情が原因の高鳴り。
王族としての私が抱いてはいけない重さだった。
「早く帰れよ。また明日」
鞄を持って踵を返す先輩を見送って、見送って────いやだ。
離れようとする先輩の手を掴んだ。
わずかに驚いた表情を見せながら、それでも手を振り払ったりはせず、静かに私が話始めるのを待ってくれる。
本当に、そういうところだ。
「…………ね、先輩」
「……どうした?」
若干引き攣った頬。
あ、これなんか嫌な予感受け取ってるんだろうな。
でもそんなのはおかまいなし。
先輩には、
「マクウィリアムズ家には代々伝わる別の名前があるんですよ」
「……そうか」
「ええ。アルストロメリアの名はあまりにも有名になり過ぎたのであまり知られてないですが、英雄大戦の頃は三姉妹だったのはご存じですね?」
第一王女、アルストロメリア。
第二王女、アリアンロッド。
第三王女、アナスタシア。
その後国は解体され誰も継ぐことがなかった為に、その名残として代々受け継がれていた真名。
「第一王女は子を残すことはなく、第三王女は戦争の最中悲劇の死を遂げられました。さてさて、残った第二王女は一体どのような人生を送ったでしょうか」
先輩の顔が引き攣った。
悟ってくれたようで何よりです、やはり聡明なお方。
にっこりと笑顔で敵意なんて一つもない、完璧な表情で先輩に対して告げる。
「私の真名は、アリアンロッド・ミセリコ・マクウィリアムズ。これを異性に告げたという意味は、先輩なら理解してくれると思います」
私は、本気で貴方を捕まえます。
貴方は私の理解者だ。
アランロドとしての私は貴方に憧れて惚れた。
その果てに貴方は受け入れてくれた。本質を隠すように戯けて振る舞う私を受け入れてくれるだけなら、そこで終わりだった。
「アルスの記憶があるならわかりますよね? 王族の在り方は」
「…………ああ……」
先輩は歯軋りしながら、なんとも言えない表情で私を見つめる。
それをクスリと笑いつつ言葉を続けた。
「この世に現存する唯一の王女として、貴方に恋をしました。改めてこれからよろしくお願いしますね、ロア先輩?」
アルストロメリアの二の舞にはならない。
私は私の恋を全力で追いかける。
夢も何もかも叶えるために、このどうにもならない現実をどうにかしてみせる。
握った手から伝わるこの熱が、どうか途切れませんように。
第一王女アルストロメリア
アルスに恋をしていたがそれを伝えることは出来ずにアルスを失って生涯独身で終わった。いろんな責務とかそう言うのに追われて最終的に疲れてしまったのかもしれない。戦闘力は三姉妹の中で一番上。
第二王女アリアンロッド
戦場に自ら足を運ぶこともあったが実力は三姉妹で一番下。ゆえに歯がゆい思いをしたり色々劣等感を感じたりしたが、後世に唯一子を遺した。老衰で亡くなっている。
第三王女アナスタシア
一度国境に近い街へ政治的側面を含めた演説を目的に行ったときに襲撃を受けて殺害された。街はグラン帝国お得意の黒炎で燃やし尽くされて街を破壊することで周囲の安全を確保したので、彼女の遺体は消し炭すら残らなかった。戦闘力は二番手。
アリアンロッド・ミセリコ・マクウィリアムズ
アランロドの王族としての意識を全面的に押し出すときに自覚する名前。とかそう言うのは全部後付けで、アリアンロッドって名前と聖女を結びつけるのがどうしてもやりたくてやった。軌跡シリーズはなんだかんだ好きです。