【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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第二話

 さて、ルーチェを引っ張り出す事には成功した。

 街中を堂々と制服で歩く訳にも行かないので裏道的な場所を通りつつ、人気のない公園までやってきた。子供も遊びまわってるわけじゃないし秘密の会話をするにはうってつけの場所だろう。

 

 本来ならばもう少しこう、飲み物とか軽食用意しておくべきだ。

 

 だが残念な事に俺は無一文である。

 ルーチェに金をタカって軽蔑される未来が見えたから計画変更した。いや~、師匠に貰っとけばよかったな。

 

「単刀直入に言おう。お前は過去に何があった」

「直球過ぎないかしら」

「俺は才能が無いからな。他人の感情を読みとるなんて芸当は出来ない、言葉にしてくれない限りは」

 

 さっさと吐いてもらうに限る。

 わざわざその為に授業抜け出して来てんだ、俺の養育費支払ってる師匠に申し訳ないからあんまり取りたくない手段だった。推薦枠貰ってる人間が素行不良は普通に駄目だろ。

 

「……別に、大したことじゃないわ」

「拗ねるな拗ねるな、まったく。どいつもこいつも裏側で感情を抱えすぎなんだよ」

 

 ステルラも師匠もルーチェも全員そうだ。

 俺は常に口に出している。かの英雄の記憶ですら、全てを理解してくれる人間は一人しかいなかった。腹を割って話し合った唯一の親友、ただ一人だけ。どれだけ清い心を持っていても、どれほど素晴らしい心意気をしていても、口に出さない限りその感情は受け取られることはない。

 

 だからこそ俺は常に正直でいる。

 

「お前から話せないというなら俺から話してやる。そうだな、どこから話すべきか。俺とステルラの出会いから話そうか」

「聞いてないのだけど」

「あれは今から十年程前の事だった」

「続けるのね……」

 

 うるさいな、折角俺が自分語りをしてやろうというのに。

 俺がここまで詳細を語ろうとした人間は居ないぞ? ここまで手間をかけてるのもお前だけだ。

 

「まあ聞け。俺は昔ある事情から『自分は本当は凄い奴なんだろう』と思い込んでいた時期があった」

 

 若干苦しい顔をしながら聞いてるので多分思い当たる節があるのだろう。

 俺もかなり苦しいから安心しろ、その苦しみはお前だけのモノじゃない。恥ずかしすぎて憤死しそうだ。

 

「その実魔法は使えない運動も出来ない、出来たのは歴史の文献を読み漁る事くらいだ。そんなときに()()はステルラに出会った」

「あっ……」

 

 察したな。

 かな~り顔を引き攣らせてるのでありありと想像できるのだろう。

 

「俺はアイツに勉強でボコボコにされた。

 それに加え運動力でボコボコにされた。

 そして更に魔法力でボコボコにされた。

 魔法の詳しい使い方も知らないガキがただちょろっと教えただけで魔法使うとか誰が想像できるんだ。あれ……今思えばアイツが天才的な方向を極め始めたのって俺が原因か……もしかして……」

 

 なんてことだ。

 俺を苦しめ続けてステルラ・エールライトの覇道を歩ませ始めたのは俺だったのか。

 なんて……ことだ。俺があの時魔法さえ教えなければ……いや、あんまり関係ないな。多分勝手に強くなってるだろ。あの村には師匠だって隠居生活してたし、英才教育を施されていたのは否定できない。

 

「ともかく、俺はお前より先にアイツにボコボコにされている。ちょっとした事故が起きてからは会って無かったが」

「…………でも、選ばれたんでしょ」

 

 ふ~~ん、なんとなくわかってきたな。

 過去に『誰かに選ばれる事はなく』、『才を認められることが無かった』。

 ルーチェのコンプレックスの根底が少しずつ見えて来た。

 

「師匠に出会えたのは()が良かった。俺はあの人に会わなければ今でもあの村で燻ったままだったし、後悔も今の比じゃないくらい積み上げている」

 

 決して今、後悔を抱えてない訳ではない。

 それでも選んだ道を悔やみたくないのだ。俺は自分が重ねて来た大嫌いな現実と、他人が期待してくれた嫌いな努力を否定したくない。そうでなければ俺の十年間は無駄になってしまう。その否定をしてしまうのは簡単だが、勿体ないだろ。

 

「お前はどうなんだ。ルーチェ・エンハンブレ」

 

 お前は否定してもいいのか。

 自分の積み上げてきた現実を、使ってきた時間を。

 

「……………………そんな簡単なモノじゃない」

「そうだろうな。俺も、一人(・・)だったら割り切れなかった」

 

 どれもこれもあの記憶が悪い。

 子供にあんな映像見せやがって、普通だったらトラウマものだぞ。

 

「急に全部話せとは言わん。俺はお前の事を気に入ってるし、友人として楽しく過ごしたいと思っている。だから最低限配慮できるようにしたい訳だ」

 

 会話の流れで地雷を踏む可能性を極力配慮すればルーチェもそこまで不快にならんだろ。

 アルは知らない。殴る事でどうにか対応してくれ、たのむ。

 

「……いや。話したくない」

「そうか。それならそれで構わない」

 

 俺は俺で勝手にお前に配慮する。

 互いに別の人間なんだ、全部を全部許容できる筈もない。

 

「適度に仲良くやろう。友達だろ」

 

 

 

 

 

 ♯ 第二話

 

 

「所でルーチェ、一ついいだろうか」

 

 公園を離れ放課後の時間帯になった頃。

 俺達と同じ学生服の連中が出没すようになってから俺達は移動を始めた。

 

「なによ」

「実は俺は今金が無い。正確に言うと金を得る手段が無くて俺は金欠なんだ」

「……アンタよくそれであんな事言ったわね」

 

 おっと、先程まで頑張ってあげたルーチェの温度が急激に下がっていく気がする。

 こんな筈ではなかった。俺だって頑張ったんだ。でもどうしてもお金を得るためには働かなければいけないし、でもそれは面倒くさい。俺は誰かが養ってくれるのを希望しているのだ。

 

「まあ待て。俺は甲斐性は無いと自負しているし、極端に面倒を嫌う。努力も序に嫌いだ」

「何も誠実な部分がないのだけれど」

「結論を急ぎ過ぎているな。もっと緩やかに生きた方がいい」

 

 俺は説法を説くのに向いていないかもしれない。

 ルーチェの右ストレートが頬に突き刺さった感触を受け流しつつ、痛みを堪えながら言葉を続けた。

 

「ストレスを解消するのは食べ物を食べるのが一番だ。なので飯を食べに行かないか?」

「奢らないわ」

「友達じゃないか。俺はお前を頼りにしている」

「……奢らないわ」

 

 お前ほんとチョロいな。

 コンプレックス抱えすぎて求められると断れないのだろうか。ふ~~む、それが目的で友人を続けようと思ってるわけじゃないから気軽に断って欲しい。これは俺なりの冗談だ。

 

「ではこうしよう。俺かお前、どっちかの家で飯を作ればいい」

「……いやよ。アンタの家に入ったらどうなるかわからないもの」

 

 人を獣にするな。

 俺程自制が利く理性的な人間は居ないぞ。性的欲求もあるにはあるが、なんか、こう……薄いんだよな。これも全部英雄の所為にしておこうか。

 

「安心してくれ。俺の家には勝手に侵入してくる妖怪がいるかもしれないから、いざとなればどうとでも逃げられる」

「どこが安心できるのよ!」

「俺が知りたい。どうすればあの家で安心して暮らせるのだろう」

 

 ある意味で最強の防犯システムである。ステルラは遠慮して攻めてこないのにあの妖怪マジで気にせず突っ込んでくるからな、どっちが大人かわかりゃしねぇよ。

 

「じゃあお前の家だな」

「ちょっと待ちなさい。そもそもこれから何で付き合わなきゃいけないの」

「付き合う……俺とお前が? すまん、そういう意味では無くて」

 

 右の頬を打たれたなら、左の頬も差しだせ。

 俺は偉人の教えを遂行する完璧な紳士だと自負している。今この瞬間痛みを代償に称号を得た訳だ。

 

「ぶっ飛ばすわよ……!」

「まあ待て。身体強化して殴るのは流石にズルだろ」

「ふぅ~~……ッ……!」

 

 俺の説得も虚しく、ルーチェは往来の最中でその握り拳を解き放った。

 響く打撲音と俺の乾いた呼吸だけが響く。

 

「ぼ、暴力反対。いいかルーチェ、俺は身体強化すら出来ないんだ。わかるだろうその意味が」

「十二使徒の弟子で最上級魔法撃てる化け物に勝てる奴に遠慮するわけないでしょ!!」

 

 お、少しずつ本音が出て来たな。

 頬が抉れてるのかってくらい痛むが、まあそれは飲み込んでやろう。

 

「ふーむ。お前は勘違いしているな」

 

 この話をするのは別に構わないのだが、他の人間に聞かせたい話題ではない。

 折角ここまで話を持っていけたんだ。上手い事人がいない場所に誘導したいところなんだが……

 

「俺の魔法は魔法じゃない。これは祝福(・・)だ」

「は?」

 

 まあいいか。

 英雄なんて異名も付けられたし、正直逃げられないと思ってる。魔祖十二使徒にもその内広がっていくだろうしあの男を否定する人物は居てもその功績を否定する人間は居ない。

 

 常識的に考えれば『魔祖十二使徒第二席が昔の初恋を忘れられずに拗らせまくって新たな英雄を作った』とか思う筈。少なくとも魔祖はそう思ってる。

 

 悪いな師匠、俺はそれを否定も肯定も出来ない。

 

「より正確には師匠が俺の為だけに考えた魔法を発動するための祝福、それを全身に刻んでいる。俺は魔力に関係する才能が著しく低いから魔力感知すら出来ない。だからあの魔法を起動するのに『誰かの魔力』を必ず必要としてい」

「一旦黙りなさい! ああもう、なんなのよホントこいつ……!」

 

 俺の腕を掴んでどんどん歩みを進めてしまった。

 

「馬鹿じゃないの? こんな場所で話していい内容じゃないでしょうが」

「お前がどうしても拒否するからな。仕方が無かった」

「~~~~ッ……それならそうと言いなさい!」

 

 結構人目を引いているが、今はそれどころではないらしい。

 先程の公園まで戻るのも良かったが、今の時間帯は学校が終わった時間帯だ。子供たちがいる可能性が高い。

 

「急に積極的になったじゃないか。いつぞやの時を思い出すな」

「うっさいわね。……いつぞやの時?」

「失言だ。忘れてくれ」

 

 下着の色を聞いたことを掘り起こされては敵わない。

 俺はあの時の記憶に蓋をした。悪いなアル、お前の犠牲は忘れないよ。

 

「で、どこに向かってるんだ」

「…………よ」

 

 声が小さすぎて聞こえない。

 

「もう一度頼む、どこだって?」

「だから、………えよ」

「すまんもう一回」

「私の家! 文句あるの!?」

「急にキレなくてもいいじゃないか。カルシウムが足りてないな」

 

 握っていた手に思い切り力を入れられたらどうなると思う。

 俺はそんな想像もしたくない痛烈な刺激を加えられて内出血を繰り返す自らの腕を見て青ざめながら、抵抗を試みた。

 

「俺が悪かった。たのむ、落ち着いてくれ」

「本当に黙っててくれない? 今の私ならその腕を破壊する事も厭わないわ」

 

 怖すぎだろこの女。

 俺はルーチェの事をいい奴だと言ったが、その評価を覆さなければならない日がくるかもしれない。今命の導火線を握っているのは俺なのだ、その事実を正しく認識しておく必要がある。

 

「つまり、俺の話を聞く気になったんだな」

「同情はしないわよ」

「俺だってしないさ。互いに配慮しましょう、そういう話だ」

 

 俺は別にどうでもいいんだが、こう言った方が効く気がする。

 

「で、どこら辺なんだ」

「南区」

「そうか。俺は北だから少し離れるな」

 

 魔導戦学園は中心部に近い場所にあるので、一応何処に住んでも通学時間に差はあまりない。

 端から端……村……鬼ごっこ……やめよう。嫌な記憶を呼び覚ます事をフラッシュバックと呼ぶらしい。

 

「一人暮らしか」

「ええ、そうよ。何かしようとしたら凍らせるから」

 

 俺は祝福を起動しない限り勝ち目がないんだが。

 そもそもあの部屋全て凍らせられるような規模を撃てるんだから、お前自分が十二分に優秀な魔法使いって事を忘れてないか。劣等感に苛まれるのは仕方のない事だが、自身の強さはしっかりと見つめていて欲しい。

 

 そうでなければ俺のような凡人が辛い。

 

「任せておけ、肉を焼くのは得意だ」

「冷凍したらどれくらい保つかしら」

「なんて猟奇的なんだ……俺は美味しい人間じゃない」

「氷漬けにされたくなければ余計な口を叩くのをやめなさい」

 

 やれやれ、俺の気遣いが伝わってないみたいだな。

 焼肉って全世界共通の美味い飯じゃないのか。少なくとも俺は数年間焼肉と焼き魚ばかり食ってきたせいで食生活が完全にイカれている。味が濃いモノを食べるより味の薄い自然な食事をとるのが一番だ。これも師匠の所為である。

 

「氷漬けか。俺はお前の魔法を良いモノだと思う」

「……こんなの、良いモノでも何でもない。私にとっては呪いみたいなもの」

 

 呪い、か。

 

 本当に俺とお前は似た者同士だ。

 お前は呪いのような魔法を使い、俺は呪いのような記憶を持つ。

 お前は魔法を育てた。それこそが生きる道であったから。俺は呪いに従った。それこそが自分の道を作る力になるから。

 

「案外運命かもな。俺達が会ったのは」

「…………気持ち悪い事言わないでよ」

「宿命は既に抱えているからな。俺の容量は一人分しか無いんだ」

「物は言い様ね」

「星の光に目を焼かれてしまった。それが分かれ目だった」

 

 他人を理由にしなければ強くあろうとすらなれない俺だ。

 どこまでも鮮烈な光を何時までも脳裏に描いて、未来に起きるかもしれない破滅を避ける為に今を生きている。それすらも、誰かを理由付けして。もっと意志を強く生きて行きたい。

 

「お前はどうだ。ルーチェ・エンハンブレ」

「…………そうね」

 

 やがて歩みは緩やかになり、一つの家の前で立ち止まる。

 至って普通の賃貸物件だ。学生一人が生きて行くのに支障は無く、十五歳の女性が一人で暮らすのに支障のない安全性が保たれている。

 

「私もそう。憧れた何かに呪われてるの」

 

 人は存外そんなものじゃないだろうか。

 かつての英雄も、覇を唱えた人々も、今を生きる俺達も。何かに憧れてその生を歩いているのだ。

 だからこそ俺は否定しない。嫌いだ、憎い、そんな感情を抱いても無くなれとは言いたくない。どうしようもなく追い詰められればそりゃあ罵倒ぐらいするが、その程度で済ませる。

 

 扉を開き、部屋の中に入る。

 

 よく整頓された部屋だ。

 俺の部屋と間取りは似てないが広さは同じくらい。机の上に乱雑に置かれた本とかは努力の証だろうか。

 

「私の両親は魔法使い。それも、私なんかじゃ手も足も出ないくらいに立派な」

 

 オイ、急に不穏な話になってきたぞ。

 あ~~~~~、そう言う事か。あ、あああ。うわ、全部一気に情報が繋がってきた。

 

 幼い頃から劣等感を持っていて。

 その出所は両親で。

 でも負けるのが嫌い。

 

 コイツ……くそめんどくさいな……。

 俺が言うのもなんだがとても回りくどい。

 とことん俺と同じような因縁に絡まれてるな、おまえ。

 

「魔祖十二使徒第四席、第六席────その二人の間に生まれた出来損ないの魔法使いが、私」

 

 そりゃあ拗らせもするし、俺なんぞに劣等感を抱くだろう。

 俺とステルラとか超地雷じゃないか。未だに付き合いを続けてくれてるのを感謝する。

 

「私はどちらの弟子でもない、ただの魔法使いなの」

 

 

 

 

 

 

 

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