【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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書いてはいましたがコロナでダウンして投稿もクソも無かったお話です。


ヴォルフガング珍道中

 

 強くならねば。

 

 強くならねばならない。

 幼き頃、木賊色の髪を靡かせながら、なんとなくそう思った少年が居た。

 

 強くなりたい。

 誰よりもどんな存在よりも強くなりたい。

 どれだけ傷ついてもいい、どれだけ苦しんでもいい。

 

 そんな己の感情よりももっともっともっと上へ──最強に、なりたい。

 

 少年────ヴォルフガング・バルトロメウスは、風を手にした。

 

 母から受け継いだ魔法特性。

 魔祖十二使徒という圧倒的上位者の腹から誕生したヴォルフガングには、何よりも強い渇望が芽生えていた。

 

 どこまでも透き通った、なによりも透明で、そして真っ直ぐな渇望が。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 魔力を全身で膨らませ、背から生み出した嵐の如き翼を縦横無尽に薙ぎ払う。

 

 ただそれだけ。

 たった一つ魔法を行使するだけで、己の実力がわかる。

 ヴォルフガングは天才だった。強くなりたいと愚直に願い続けられる異常な精神を持ち合わせた上で戦いの才能もある、麒麟児と言っても過言ではない青年。

 

「──参った。私の負けだ」

「──……うむ! とてもいい勝負でした、ありがとうございます!」

 

 悔しさを滲ませ、一回りも年齢が下の学生に頭を下げる大人に感謝を告げる。

 

 ────もう、苦戦する事もないか。

 

 彼は現役の軍人だった。

 上級魔法使いとしてそれなりに高名で、指導資格すら持っている熟練の者。

 同い年の平均的な実力を持つ者が戦ったとすれば、まず間違いなく埃一つ付ける事すら出来ずに敗北するだろう。

 

 そんな相手に、ヴォルフガングは勝利した。

 

「流石は魔祖十二使徒の息子と言った所か……」

「まだ若い。が、既に実力は我々を優に超えている」

 

 大人達の称賛を浴びながら、心の内で渇きを訴える闘争心を押さえつけ、ヴォルフガングは静かにクールダウンを測る。

 

 戦闘狂の自負がある。

 そしてそれらが一般的に受け入れられるものではないこともまた、理解している。

 もう戦争をするような時代ではなく、戦いを称賛するような時代でもなく、これからは平和な世へと導いていかなければならない。魔祖十二使徒を継ぐ人間としてその理解はしているのだ。

 

(──物足りんな)

 

 ギラついた瞳を輝かせながら、ヴォルフガングは嘯く。

 

(足りん。何もかもが足りん)

 

 己の糧とするべく強者との戦い。

 血肉沸き踊り高揚感と緊張感に包まれた命のやり取り。

 一歩間違えれば相手の命を、自分の命を奪い去るであろう凄惨な鬩ぎ合い。

 

 母より受け継いだ木賊色の髪が真紅に染まるような争いを、心の底から望む彼にとって、現状は不満なものだった。

 

 魔法道場(一般人向けから軍人向けまで幅広く全国に展開されている施設)を出て、快晴の空の下でヴォルフガングは力強く歩く。首都に居を構えている道場は全て打ち破り、夏休みも半ばを過ぎようとしているこの時期に、困ったと頬をかく。

 

「もう候補が居ないぞ」

 

 噴水に腰掛けて淡い冷気を浴びながら、ガイドブックに記された×印を閲覧していく。

 

 道場破り。

 ヴォルフガングが行っていたのはそれだった。

 かつては道場の札をかけて争い合う地獄の如き奪い合いだったが、時を経る度に形を変え、今の時代では道場破りは実力向上を図る学生の恒例行事と化している。

 

 全部制覇した者は数える程しかおらず、片手で数える程の名前の中にはヴォルフガングが敗北を喫したテリオス・マグナスの名もあった。

 

 故に自分を高めるために参加したのだが……

 

「まさか、全て呆気なく終わってしまうとはな」

 

 当然である。

 ヴォルフガングは超越者に片足突っ込んでいる。

 他の連中がドロドロした重い感情をもって覚醒してるのに対し一人だけ強くなることだけを考え続けて至った気狂いだ。

 

 そりゃこうもなる。

 

「こうなったらメグナカルトでも襲うか……? いやしかし、流石に唐突に戦闘を仕掛けるのはどうだろうか」

 

 強者に飢えているヴォルフガングは支離滅裂な思考をしている。

 

 それでも一線を越えないあたり、どこぞの超越者より倫理観が保たれているようだ。

 

「恐らくメグナカルトを襲えばエールライトも出てきて、しかもガーベラ氏も出てくる可能性がある。エンハンブレもアルベルトも出てくる……!?」

 

 まるでバイキングだとヴォルフガングは思った。

 この思考をロアに知られれば二度と近寄るなと冷たく見放されるのだが、当の本人はそんな可能性を考える事も無く旅行に出かけている。運のいい男だった。

 

 次は誰と戦おうか、そんな物騒な考えを張り巡らせているヴォルフガングの目の前にふらりと一組の男女が足を運ぶ。

 

 噴水の縁に座り込み、何やら深刻な表情で思案する姿に何か思ったのかもしれない。

 わずかな逡巡の後に結局声を掛けたのは、女性だった。

 

「ううむ、悩みどころだな……」

「────あら、こんなところで何してるの?」

「むっ……ああ、母上!」

 

 魔祖十二使徒第五席、蒼風(テンペスト)のロカ・バルトロメウス。

 

 ……と、隣に佇む一人の男性。

 金色の髪を靡かせて、簡素なシャツと七分丈のズボンでラフな格好をした青年。

 かつてヴォルフガングが敗北を喫した超越者の一人──テリオス・マグナスが何故か共に居た。

 

「……どういう組み合わせで?」

「あー……成り行きというか何というか、仕事中?」

 

 何とも言えない顔で誤魔化す母に何事か、と思ったが、そう言えば最近大人達がコソコソ動いていたのを思い出す。

 

 それに巻き込まれているのだろう。

 まだ学生の身分であると言うのに大人と同格の扱いを受けているテリオスに畏敬を深めつつ、ヴォルフガングは立ち上がりながら挨拶をした。

 

「お久しぶりです、マグナスさん」

「ああ、うん。久しぶり、バルトロメウスくん」

「ヴォルフガングで構いません。わかりにくいでしょう」

「では遠慮なく。久しぶりだね、ヴォルフガング」

 

 相も変わらず覇気を漲らせ闘争心に満ち溢れているヴォルフガングに苦笑いしつつ、テリオスは話を切りだす。

 

「それよりどうしたんだ? こんなところで黄昏て」

「大したことではありません。道場破りに参加していました」

「……ああ、アレか。その様子から察するに、もう終わったようだね」

「はい。お陰で手持無沙汰となりまして、次は誰と戦うか考えていたところです」

 

 なるほどとテリオスは頷いた。

 

 既にヴォルフガングは超越者の道を歩み始めている。

 如何に現役の軍部に務める人間でも、そして軍部を指導する熟練の魔法使いでも、単純にスペックが化け物な彼を抑えるのは至難の業だ。

 

(当時の俺がやらかしてるからな……)

 

 数年前の時点で既に超越者へと至っていたテリオスにもやらかした記憶が蘇る。無双状態だった、どうしようもないくらいに。思わずもう参加を取りやめようかと思うくらいには。

 

 最後までやり通したのは大人達に対して失礼になるから、自分にとって糧にならないと分かっても、それを公に晒すわけにはいかないと思ったから。敵は作らない方が得だと悟っていたテリオスはそうした。

 

「ちなみに誰が候補なんだ?」

「一番はメグナカルトです。恐らく受けませんが無理矢理襲えば付随して複数人の超越者とも戦えるのでお得ですね」

 

 この子ヤバい子だなとテリオスは悟った。

 

 ロカは目を逸らして左腕を右手で摩った。

 

「……そ、そうなんだ。それはちょっとやめておいた方が良い気がするんだけど」

「逆鱗に触れる事で手に入る事もあります」

「ウ~~ン、そっか……」

 

 それはそうだとテリオスは納得してしまった。

 もう反論は出来ない。

 ロカは余計な事をするなと睨みを利かせた。

 

「やめなさい、ヴォルフガング」

「冗談です。地雷を踏み抜くのは戦闘時だけで十分でありますがゆえ」

「ああ、自覚はあったんだ……」

 

 戦闘時に於いて地雷を踏み抜く事は役に立つ。

 

 特に勝つためならば、手段を選ばなくていいのならばなんの躊躇いもなく踏み抜く覚悟がヴォルフガングには──と言うより、この場にいる三人全員に共通して備わっていた。

 それは当然だ。

 敗北とは即ち死である。

 そういう価値観の世界を生き抜いた女がいた。

 その女から生まれ育てられ強さのみを求める気狂いがいた。

 そして、それら全てよりもっと偉大で強大な存在の息子として、敗北のできない生涯を背負った男がいた。

 

 ここにいるのは誰も彼もが狂人であり超越者であった。

 

「本気を出せぬと言うなら感情を昂らせることはやりましょう。本気の本気、生と死の間際を交差するような刹那の全力を正面からねじ伏せてこそ力は増していくと思っています」

「……はあ、本当どうしてこうなっちゃったのかしら」

「親の背を見て育つものですよ」

「何も言い返せない……」

 

 ロカはため息を吐いた。 

 その姿を見て申し訳ないと思いつつ、その道を曲げることはないとヴォルフガングが再度決意を固めた。

 困らせたいわけではない。

 ただ強くなりたいだけなのだ。

 ヴォルフガング・バルトロメウスという少年の抱く渇望はそれだけでしかない。

 誰よりも強くなりたい。

 魔法で、白兵戦で、戦闘で。

 個人で戦争を演じられるような超越者へ足を踏み入れてなおその想いは途切れない。

 

 それはきっと、この世界でただ一人存在する怪物と成り果てたとしても──消え失せない。

 

「……ですが、俺は恵まれました。ライバルの存在、目指すべき目標、容易く超えることはできない先達の壁。手を伸ばしたいものがいくらでもある」

「まあ、それは本当に同意するわ。時代の節目なんでしょうね」

 

 これだけの数の新世代が出揃ってきた現代。

 きっとある少年を中心に、嵐となることは間違いない。

 少なくとも既に敗北を喫しているテリオスにとって、彼こそが主役で輝かしい舞台に立つ人物だという諦めはあった。

 

 ──超越者に至ってもなお、母の感情に気がつくことができなかった愚か者が俺だ。

 

 彼のような立派な男に、憧れても仕方ないだろう。

 

「…………全く、うかうかしてられないな」

「ええ、本当に。それとももう譲っちゃおうかしら」

「あ、それはまだ待っていただきたい。いつか母上を超えるので、その日に正式に継ぎます」

「……生意気ね」

 

 周囲に風を散らし威圧するロカ。

 その魔力は圧倒的で、人の形に押しとどめたハリケーンそのもの。

 かつての戦争で多くの命を奪い去った究極の嵐が未だ健在だと、平和な世界がひび割れるように顕現する。

 

 それに目を細め、周囲の人に影響が出ないように気配りされているのを察知しつつ、テリオスはいつでも止められるように構えた。

 

「──蒼風(サイクロン)。殺傷能力を極限まで低め、しかし破壊力は残した。人体は破壊せず魔法を破壊することに特化させたそれを破れてようやく、第五席を名乗れると言ってもいい……!」

 

 欲望を滲ませた瞳をギラギラ輝かせながらヴォルフガングが立ち上がる。

 

(冗談だろ……)

 

 テリオスはドン引きした。

 こんな衆目のあるところでガチ戦闘をするわけがない。 

 仮にも超越者で、本気で暴れた際どのような被害が発生するか想像すらしたくない。

 テリオスは心配した。

 かつてヴォルフガング以上の暴れ馬だったロカ・バルトロメウスが我慢できるのかできないのか。

 そんなことより調査の続きをしたい。

 もしかして暴れることを知っててみんな押し付けてきたのか? 

 そこまで考えた。

 

「まだアンタ如き(・・)に越えられるような甘い鍛え方はしてない。ぶっ飛ばされたいか?」

「ああ、是非ともそうして頂きたい! そして俺はまた一つ強くなれるのだから!」

 

 史上最悪の親子喧嘩が始まる。

 

 高まった風は互いに共鳴のようなぶつかり合いを起こし、周囲が徐々に竜巻に包まれていく。

 周囲の人間が退避する暇もなく始まりそうになった戦いに──テリオスが水を差した。

 

「──それ以上やるなら、母さんを呼ぶ。情け容赦なく叩き潰す」

「……俺はそれでも全く構わないが──」

「……全部纏めて相手してもいいけど──」

 

 流石に死ぬのでやめておく。

 二人揃って風を収めたので、テリオスは内心ほっと息を吐いた。

 

(なあ、母さん)

 

 風の影響で舞う落ち葉や砂埃に塗れながら、テリオスは思う。

 

(俺、本当にあなたの後釜やれるかな)

 

 超越者を制御するなんて不可能なのではないか。

 親子で全力の戦いに発展しかけた二人に呆れつつ、この人たちより強くならないと抑えきれないんだと悟ってため息を吐く。

 

 後世で色々とやらかす男の真面目な悩みだった。

 





ヴォルフガング・バルトロメウス

とにかく強くなって色んな強者とずっと戦っていたい系男子。母親譲りの闘争心と魔法力でマ~ジでこんな感じでずっと生きていく。500年後の大地で最強になるのはこいつ(鋼の意思)、それぞれの子孫を見てちょっと懐かしい気持ちを抱いたりしてくれる。

ロカ・バルトロメウス

元グラン帝国所属の魔法使い。要するに戦争起こした側に所属してた人。エステルと一緒にアルス一行と何度も戦ったり殺し合ったり潰し合ったりした後合流。人を殺した数はエミーリアの次点。

テリオス・マグナス

魔祖を継ぐ予定だが超越者を扱いきれない気がする不安を抱いてる男。この段階だとまだ吹っ切れて良い感じになり始めてるくらいだが、将来的にヤバいことを何度も繰り返し魔祖の息子だと世間を戦慄させることはまだ誰も知らない。



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