【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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第四話 超越者

 魔祖十二使徒第二席、エイリアス・ガーベラ。

 紫電(ヴァイオレット)等という二つ名を戴いてはいるが、そんな評価を受けるような大層な人間ではない。

 

 恋をした男の最期を看取って数十年、未練たらたらで引き摺ったまま生きてきてしまった。

 

 やっと表舞台に出る覚悟が出来たのも愛しい弟子が育ったからだが──詳しくは割愛する。

 

「ガーベラ様、ありがとうございました」

「気にすることはない。元を辿れば我々の発案が原因だからね」

 

 無駄に長く生きて来た経験だけはある。

 人を導けるような清い人生を辿って来たわけではないが、魔法に関する事を教えるのは造作も無い事だ。

 

「……しかし、魔法授業なんて随分と久しぶりにやったよ」

「とてもわかりやすい内容でしたが……」

「世辞は止してくれ。本職に褒められるとムズ痒くて堪らない」

 

 いつものローブの上に白のジャケットで適当に肌を隠しただけの服装だが、意外と生徒達には好評だった。

 

「皆優秀でいい子達ばかりだ。ウチの馬鹿弟子と違ってな」

「メグナカルト君ですか?」

「すぐ名前が出てくるあたり想像できるよ」

 

 問題児にはならない程度のやさぐれだからなぁ……

 

 そこら辺の調整が無駄に上手いのだ。

 誤魔化す努力も惜しまない辺りが実にロアらしい。

 

「…………ふむ」

 

 明日様子を見に行こうと思ったが気が変わった。

 丁度やるべきことも終えたのだ。愛弟子たちの事を見に行こうでは無いか。

 

「ではまた明日、お疲れ様です」

「ご苦労さま、よろしく頼むよ」

 

 珍しくステルラから二人で修行したいと言われたから喜んで場所を提供したが、気になる。

 

 仲良くやっているだろうか。

 ロアは普段から調子に乗った言動を繰り返すわりにあと一歩を絶対踏み出さないヘタレた心があるし、ステルラに関しては精神的にあまり強くないのでぐいぐい押しきるのは無理だろう。

 

 学園の外に出て魔力を練りテレポートを発動。

 ステルラは今年中には会得するだろう。ロアは無理だ。

 これが出来るようになって漸く一歩踏み出せる(・・・・・)ようになる。これはそういう魔法。

 

 僅かな浮遊感の後に視界が消え、次の瞬間には地に足付けている。

 

「む」

 

 どうやら小屋の中に二人ともいるらしい。

 

 今日の分は終わってしまったか。

 どうせならアドバイス出来ればと思っていたが……まあ仕方ない。

 夕食くらいは私がひとっ走りして用意してあげようじゃないか。少しは師匠らしい事をしてやらねばな。

 

 そう息巻いて二人の魔力の場所(ロアは本当に極わずかの探知すら難しい)まで歩みを進めた。

 

『────……いいか、そっとだぞ。そっと、裂けるからな』

『大丈夫だよ! 破れても治せばいいじゃん』

『俺が痛い思いをするんだが…………』

 

 どうやら何かを思案しているようだ。

 少しばかり外で聞いているとしよう。これは盗み聞きではない。

 

『オ、ウオオオ……ッ! 異物が俺の中に入ってくる!! 止まれ!!』

『そ、そんな簡単に出し入れできるわけないじゃん! 全部入れちゃうよ?』

『まて落ち着け。俺に一度落ち着く時間もくれ。あと痛みはないから大丈夫だ』

 

 …………うん。

 

 一体何をしているのだろうか。

 

 状況を整理しよう。

 人里離れた山の中、幼馴染の男女が二人きり。

 丁寧に用意された小屋という密室で何やら怪しい会話が聞こえてくる。

 

 …………いやいやまさか。 

 あの二人に限ってそんな、直接的な行動を取るとは……いやでも年齢的にはそういう年頃だし……

 

『ウ゛ッ…………急に来るじゃないか』

『だ、だってどこまで入れていいかわかんないんだもん……えいえい』

『馬鹿やめろお前破裂する!』

 

 ロアがやられる側なのか……

 違うそうじゃない。そこじゃないだろ納得するべき場所は。倒錯的な愛だろうが私は肯定しよう。だがまさかそっち方面に傾倒してしまうとは……! 

 

 止めるべきなのか。

 私はどうすればいいんだろうか。

 

『よ、よし。多分全部入ったぞ……』

『なんか疲れちゃったな…………』

 

 終わってしまったらしい。

 最悪だ。止める止めないとかじゃなくもう完全に終わったらしい。

 今日来るべきでは無かった。私は自分の判断を恨んだ。こんな事実を知ってしまって、これからどうやって接すればいいのだろう。

 

「何してるんだ」

「ウォヒエッ」

 

 窓から身を乗り出しているロア。

 思わず変な声を出してしまったが、それを気にすることなく呆れた顔で話を続ける。

 

「なんか居るなとは思ったが……」

 

 しまった。

 長い野生生活のせいで気配に敏感だった。

 

「今日は来ないかと思ってたから先に済ませちまったぞ」

「そ、そうか……」

 

 私が先に来てたら巻き込まれていたのか? 最近の若者はこんな過激な愛情表現をするのだろうか。いや私が教育を間違えたのか。情操教育をしっかりと終えてないから────

 

「しかし、師匠以外の魔力が張り付いてるのは違和感がある」

「…………魔力?」

「ステルラに補充してもらったんだ。祝福の奴」

 

 ………………………ああ~~~!! 

 

「良かった……私は気が気でなかったよ。次々と恐ろしい事実が発覚していってこの世の終わりかと思ってしまった」

「なんなんだ一体……」

 

 

 

 

 

 

 # 第四話

 

 

 なんだか不名誉な視線を擦り付けられている気がする。

 ニコニコ笑っている師匠が不気味でしょうがない。いや、顔立ちは非常に整っているので不快感があるとかそういう意味ではないし寧ろ目の保養にはなるのだが……なんかこう、ね。

 

「ねーねーロア、試さなくていいの?」

「おや、まだやる気なのかい」

「いつも師匠の魔力で起動してるから、私の魔力でやったらどうなるんだろーってお試しです」

 

 そういう流れにはなる。

 まず初めに、光芒一閃が魔力切れで起動できない事に気が付いた。当然訓練にもならないし今更剣技を磨いた所で意味が薄い。

 

 仕方ないからステルラに魔力を補充して貰おう! と、言う風になったのだが……

 

「ふむむ……よく解析出来たね。一応簡単に干渉できないように細かく刻んでいたんだが」

「あはは、昨日から寝ないでロアの身体見せてもらったから出来たんですよ」

「一日か…………やれやれ。才能というのは凄まじいな」

 

 全部は理解できずとも、おおよその機能は把握したらしいステルラの手によって魔力の注入が始まった。

 しかしステルラの才覚は理解していても祝福を施した張本人ではないゆえ、俺はビクビク震えながらされるがままだったのだ。失敗したら身体が破裂するのは怖すぎるだろ。

 

「ウン? という事はステルラは寝てないのか」

「もう何でも出来る気がします!」

 

 ハイになってるな。

 髪がちょっとボサっとしてるので風呂に入って寝て欲しい。

 

「ステルラ、臭うから風呂って寝ろ」

「におっ……………………」

 

 スンスン袖口のにおいを嗅いでから、ステルラは俺から距離を取った。

 まあ臭いがするのは嘘だが。いつも通りにステルラの香りしか漂ってこないので、これはただの口実。夜更かしして倒れられた方が困る。

 

「…………お風呂入って、寝ます……」

「ロア……君もうちょっとこう、手心というか」

「ええいうるさい。こういう時はストレートに言った方が伝わるだろ」

 

 ショボショボ歩いて行くステルラを見送って、服を脱ぐ。

 

「一応確認して貰えますか。大丈夫だとは思いますが」

「そうだね、誤作動起こさないかどうかだけチェックしようか」

 

 俺の胸元に手を当てて目を閉じる師匠。

 百年以上魔法に触れて生きて来た人間の人生の結晶と言って差し支えない祝福を一日である程度解析できるのはやはり、目を見張るものがある。

 

「うん。特に変化は起きていないし魔力量もほぼ満タンだ。誤差はコンマ一秒程度だろう」

「そこまでわかるもんですか」

「当然さ。君の事をどれだけ見て来たと思って…………ああいや、そういう意味じゃないからな。あくまで師としてだからな」

 

 何を慌てて訂正してるんだこの人。

 誰が勘違いするんだよその意味合いを。いや待て、もしや俺に煽られると思い先手を取ってきたと言う事か? 

 フゥン……中々やるじゃないか。俺の事をよく理解してきたと褒めてやろう。

 

「そりゃあ子供の頃から世話になってますし……」

「ウム、その通りだ」

 

 なんで若干不満そうなんだよ。

 不満というかなんか微妙に納得してない顔つきだ。でもそれに気が付いてないっぽいし指摘しなくてもいいだろ。

 

「…………ン゛ンッ。それはそうと、対戦相手の事は調べたのかい?」

「名前と二つ名くらいは」

「情報が足りてない。君は普通の人間より対策を立てなきゃいけないのは知ってるだろう」

 

 ごもっともだ。

 だが今回に限っては封殺されているのだ。

 公式がセコセコ情報を集めるのではなく正面から堂々とやり合ってね、そう宣言してるんだよな。そうじゃなきゃわざわざ公休でバラバラにしないだろ。

 

「……そ、そうだな」

 

 あ、こいつ忘れてたな。

 

 溜息を吐きつつ、自分の頭の中である程度膨らませた仮設を言葉にする。

 

「アイリス・アクラシア。

 順位戦第六位で二つ名は剣乱(ミセス・スパーダ)

 

 大人しそうな見た目とは裏腹に随分と殺伐とした二つ名だ。

 剣に乱れる、ねぇ。それでミセスなんてつけられる時点で相当極まってるんだろうな。

 

「それでいて魔法をあまり使用しない────俺の上位互換じゃねぇか!」

「気が付いてはいたんだね」

「遺憾ながら」

 

 目を逸らしたい話ではあったが、直視しない訳にもいかない。

 

「上位互換かどうかはわからない。ロアの剣の腕は疑いようもない一流だからね」

 

 剣技では師匠に負ける事はなくなった。

 かつての天才の模造体に負ける事も無い。完封と言える技量の差はあるだろう。

 だからと言ってそれに胡坐をかける立場では無いのだ。常に相手が自分より強いと考えていなければ足を簡単に掬われる。

 

「かといって私も戦ってる所見た訳じゃないからな……有益なアドバイスは出来ない」

「まあやるだけやりますよ。負ける気はない」

 

 寧ろやり易い。

 記憶の中には達人と呼ばれる部類の怪物が沢山いる。全員の戦いを見届けるのは不可能だが、剣に限定すれば難しくはない。

 

「斬るか斬られるか────魔法よりよっぽど良い」

 

 選択肢が少ないからな。

 接近して斬るか、斬られるか。このわかりやすさが戦いやすいのだ。

 光芒一閃ならばそれなり程度の剣なら叩き斬れるし、なんとなく経験上わかる。

 

「……さて、ステルラが寝てる間続きをしたい。付き合ってくれますね?」

「構わないとも。ロアは寝たのかい?」

「俺は寝てました」

 

 小屋の外に出て光芒一閃を展開する。

 

 …………む。

 

「……普段と感触が違うな」

 

 なんだろうか、ちょっと違う。

 重さ? 長さ、いや一見変わりはない。

 振るって見ても違和感はない。なのに違和感がある。

 

「ふーむ。師匠、なんか調子が違うんだが」

「どれどれ。……それ多分、魔力が違うからだと思うよ」

 

 魔力の違いだと。

 俺はそんな繊細なのか。魔力探知すら出来ない癖に欲張った性能をしているな。

 

「逆に私の魔力以外に慣れてないのさ。大戦時代は他人の魔力を浴びるのなんて当たり前だったから我々にとって問題ないが、平和になってからそういう機会も減ったからね」

「身体の中に別の魔力が渦巻いてる状況に慣れてない……? いやでも師匠の場合最初から違和感は特に感じてなかったぞ」

「あれだけ長い期間一緒に暮らしてたんだしそりゃあ慣れるだろうね」

 

 確かに。

 ていうかそれだと意図的にやられてたのか。最終的にこうなる事を見越して。

 

「……少しくらい話してくれても良かったんじゃないか」

「別に言わなくても問題ないだろう。現にボコボコにされてたじゃないか」

「は? ムカついた」

 

 今日という今日は理解(わか)らせてやる。

 普段と違う服装だからと言って加減はしない。似合ってんじゃん。でもなんかムカつくから褒めてやらねぇ。

 光芒一閃を持ち直し霞構えで息を整える。

 

「…………ふむ。そうだな、良い機会だし見せてあげよう」

「何をですか。いい加減な事だったら許さんぞ」

「なに、恐らく出場者の中でも到達しているのが二人(・・)はいるであろう領域をね」

 

 不穏だな。

 

「超越者と呼ばれる人間を越えた存在──そこに片足突っ込んでる奴らだけが扱えるモノ」

 

 師匠の指先から紫電が発生する。

 それはいつも通りだ。

 

 目を凝らしてよく観察する。

 指先の紫電が濃さを増していく──それに乗じて、指先そのものが紫電へと姿を変えていく。

 

 ジリジリと、人体から魔力へ、魔力から紫電へ────人ではないナニかへと。

 

「かつて魔祖が発見し、人類で最も始めに至った場所。自らの人体を構成する遺伝子すらも組み替えて疑似的な不老不死になる──我々はこれに成った者を、座する者(ヴァーテクス)と呼んでいる」

 

 ま、私のは未完成(・・・)だが。

 そう言いながら、腕一本丸ごと紫電と化し──次の瞬間には翼と見間違う程の出力となって吹き出した。

 

 背面にまで広がる莫大な量──そう言うことか。

 

 魔祖十二使徒達の魔力量、自らの身体を改造した……そう言うことか! 

 

「さて────文字通り腕一本。ロアはどこまでやれるかな……?」

 

 おい。

 おいおいおい。

 ちょっと待てよ。お前そのまま戦う気か? 弱いモノ虐めはよくないだろ。

 

「ハッハッハ! 先んじて経験しておくのも大切な事さ。()だって至ってない身で魔祖を相手取ったのだから、ロアにだって出来る筈だ!」

「だからと言って弟子に押し付ける奴がいるか馬鹿!」

 

 加減を知れ! 

 止まる気は無さそうなので仕方なく構え直し、先手を取る事にする。

 ステルラの魔力が渦巻き紫電の旋風を生み出し、俺の中を駆け巡る嵐となって刺激してくる。

 

「紫電雷轟────!!」

 

 痛みを堪えてとにかく動く。

 相手は完全に格上、今の俺が正面から太刀打ちできる格差ではない。

 ならばとにかく動く事だ。動いて動いて攻撃を避けて攪乱して此方の一撃を叩き込む、そのための手段だけはひたすら磨いて来た。

 

 爆発と見間違えるような破壊力の紫電が降り注いでくる。

 オイオイオイお前これで全力じゃないのかよ。以前猛特訓した甲斐もあり無事に発動出来たし動けるようになったのだが、それはそれとして攻撃が厚すぎる。隙間が存在するのが余計に誘われている様な気がしてならない。

 

 降り注ぐ紫電と地面を這いまわる紫電、この二つを対処しつつ自在に動かせる腕を文字通り雷速で叩きこんでくるので堪ったものではない。

 魔法の発動量は変わらないのに一手増えてるのズルくないか? 軌跡の決められた紫電魔法に加えて自由自在な紫電腕はセコい。

 

「こ、なくそォ────ッ!!」

 

 その誘いに乗るしかない。

 師匠が想定するよりも速く動けば突破できるだろ! 

 

 ────が、それすらも想定済みだったようで。

 

 紫電の嵐を突破した先に広がったのは紫電の波と言うほかない圧倒的な物量。

 避ける事も敵わない完全にフリーな状態で当てられ身動きが取れなくなり、そこからはもうボロボロだった。振り返る事すらしたくない程度には浴びせられた。

 

 最終的に焦げて動かなくなった俺を見てようやく手を止めてくれた。

 

 もう少し手心を加えてくれてもいいのではないだろうか。

 

 何も見えなくなった視界の中、呪わずにはいられなかった。

 

 

 

 


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