英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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第六話 開幕

「……さて、準備できたかな?」

「…………問題ない」

 

 朝起きて、身体を日の光に当てて起こす。

 この何気ない行動が大切だ。

 

 体調不良、なし。

 各部位の健康状況問題なし。

 祝福の補充された魔力の量も完璧である。

 

「はぁ……胃が痛いよ」

「なんだステルラ。お前今日戦わないだろ」

「ロアが勝てるかどうかハラハラしちゃって」

 

 まあ負けるつもりはないが……応援してくれているのだろう。

 その気持ちはありがたく受け取る。だが俺が負けると思うのは心外だな。ここ一週間必死こいて足掻いてる俺の姿を見ているのに。

 

「いや、勝つとは信じてるんだけど…………」

「じゃあなんだ」

 

 一瞬躊躇った後に、俺の様子を伺いながら呟いた。

 

「…………怒らない?」

「内容による」

「ウ゛ッ……じゃ、じゃあ言わない!」

「怒らないから答えろ」

 

 両方の頬をムニィ~~~っと引っ張る。

 柔らかい。俺のカサカサでゴツくなってしまった皮膚(恐らく電撃を喰らいすぎによる後遺症)に比べてこんなにも女性らしい身体つきに変化している。

 俺的にはそっちのほうが嬉しいがな。幼馴染がゴリラに変身とか考えたくも無いわ。

 

「い、いふぁい」

「ええい口を割れ! なんか気になるだろ」

 

 手を放したら師匠の裏へと隠れてしまった。

 チッ……仕方ないから許してやる。

 

「やれやれ。ロア、子供みたいな事をするんじゃないよ」

「やかましい。モヤモヤするんだよ」

「…………ロアのばか」

 

 なんで俺が責められなきゃいけないんだよ。

 女性二人と男一人、悪いのはいつも男になる。やれやれだ、俺はこんなにも誠実だというのに。

 

「その、さ。今更ですごく申し訳ないんだけど……」

 

 何をもじもじしてるんだ。

 

「……ルーチェちゃんの時もそうだけど、あれだけ頑張ってたのに負けたらと思うと…………」

 

 …………本当に今更だな。

 他に言うことがない。今更すぎるだろ、勝負をする上で敗者と勝者に分かれるのは必然である。

 なのでどちらかが負けるのだ。そこに重ねた努力の量は関係なく、如何に上手に丁寧に積み重ねたかと言う精密さが求められる。

 

「……成長したなぁ」

「成長したねぇ」

「なんで二人共そんな目で見るの!」

 

 その上で俺が『いつかお前に勝ってやる』と宣言していることの重さを理解してほしい所だ。

 

 ……いややっぱ理解しなくていいわ。

 クソ恥ずかしい告白みたいで嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 # 第六話

 

 

「や、久しぶり」

「そんなでもない」

 

 およそ一週間振りにアルと挨拶を交わした。

 見た目は特に変わってない、それもそうか。一週間で劇的に見た目が変化するとかよっぽど危ない薬使ってるだろ。

 

「初戦を勝つ自信はどれほど?」

「勝つさ。問題なくな」

 

 苦戦は免れないだろうが、最後に立っていればいい。

 

「……ふーん。本気みたいだね」

「当たり前だろ。俺はいつだって本気だ」

 

 勝ちに執着していると言ってもいい。

 それほどまでに焦がれているのだ。負けず嫌いとしての性格が悪い方向にねじ曲げられて行った結果、これ以上の敗北を容認しない程度には狂ってしまった。

 

 それで勝ちにつながるならいいだろう。

 堕落な俺の本質は変わらず、だが勝つためならばどれほど憎んでいる努力であっても重ねることを厭わない。

 我ながら都合の良い変化をしたものだ。

 

「お前はどうなんだ」

「そりゃあやるだけやるよ。僕としては優勝が目的じゃないからね」

「……そうなのか」

「うん。楽しくやれればなんでも良いのさ」

 

 ウワ…………

 刹那快楽主義者みたいなこと言い出したぞこいつ。

 本当に大丈夫か? 普段殴られまくってるけどジュクジュク音を立てて再生している姿を知っている身としては確実に凄惨な殺人現場が生まれそうで怖い。

 

「ハッハッハ! 大丈夫大丈夫、魔祖様直々にオッケーもらってるから」

「なんの許可だよ。絶対ロクでもないことだ」

 

 嫌だなぁ。

 アルの魔法は気になるが正直近寄りたくなくなってきた。なんで十二使徒門下が相手なのに全然プレッシャーないんだろ。

 

「朝から元気ね馬鹿ども」

「お、三銃士が揃ったじゃないか。決め台詞でも用意する?」

「死ね」

 

 随分な挨拶だな。

 構うのも面倒くさそうなのにしっかり相手してやるあたりこいつら互いの距離感を理解している。仲がよくて何よりだ。

 

「ようルーチェ。勝つ算段はついたか?」

「…………それ聞く?」

「もちろん、気になるからな」

 

 ため息を吐きながら椅子に座り込んだ。

 態度が悪い。一週間、各々好きに修練を積んできた訳だが────ルーチェが一番飛躍しているかもしれん。

 歩き方と言うかな、なんと言うか……元々体のブレがごく僅かしか無いくらいにはバランス取れてたんだが、今はそのブレがなくなっている。尻の揺れが少なくなった。

 

「……どこ見てんのよ」

「尻」

「…………は?」

 

 やべ、そのまま言葉が出た。

 怪訝な顔で覗き込んでいるルーチェ。どうにかして誤魔化さないとナチュラルスケベ扱いされてしまう。

 

「いや、尻(の揺れ)が小さくなったと思ってな」

「…………褒めてるのか貶してるのか、どっちだと思う?」

「僕はお尻が大きい方が好きだよ」

「聞いてないわ下衆」

 

 ヨシ、アルに擦り付けられたな。

 

 言い訳をさせて貰うと別にいつも尻を見ていた訳じゃない。ただ身体の揺れ方、要するに体幹の強さを測るのにそういう重心の取り方を参考にしていたのだ。

 我流じゃなくある程度ちゃんとした指導を受けた人間なんかはそっち側に偏るからな。ルーチェはぐちゃぐちゃなのにバランスいいから意味わからんと思って常々観察していたのだよ。

 

 因みにアルベルトは気持ち悪い位にしっかりと(・・・・・)歩いている。

 ムカつくよなコイツ。

 

「……はぁ、まあいいか。今日はアンタからでしょ?」

「ああ。体調は万全、いつも通りだな」

「ま、応援してるわ。勝ちなさいよ」

 

 これだよこれ。

 俺が求めてるのはこれなんだよ。

 普段ツンツンしてる奴が性根は真っ直ぐで優しいから偶に漏らす素直さがいいんだ。

 

「お熱いねぇ」

「だろ? 俺達仲良しだからな」

「……否定はしないわ」

 

 お前ほんとさぁ…………

 

 理解(わか)ってるよな。

 

「さて、大仰な開会式も無し。事前通告してあるから出場者は会場入りしていいらしいよ」

「お前がいると楽で助かるよ。これからも良き友人程度の距離感を保てることを期待している」

「格別なるご厚情を賜り、誠に恐悦至極に存じます」

 

 無駄に気品に溢れた返答に少し苛立った。

 腐っても元貴族である。落ちぶれてはいないガチガチの御家なので、正直俺みたいな平民出身が陽気に絡んでいい相手じゃないんだが……まあ、そういうのひっくるめて無くしたかったんだろうな。

 

 結局生まれも何もかも最終的にはどうでもよくなる。

 

「あ、それと観客には色々な人達が来るってさ」

「それを早く言えバカ」

 

 もう嫌な予感がするんだが? 

 確実に十二使徒が揃い踏みするだろ。んで予定の空いてる弟子達が沢山やってくるし、十二使徒と繋がりを持ちたいお偉いさんとかも沢山……

 

 めんどくさ。

 

「何せ初めての試みだからね。創立から百年近く経つ学園で、ず〜〜っとトップが変わらないとは言え学園主体のトーナメントは前例なし。そりゃあ注目も浴びるよ」

「なら優勝すれば永遠に名を刻めるな」

 

 そのうち最強議論とかされるようになるんだろ。

 

「…………それくらいは、残してやりたいな」

 

 名前くらいは残してやりたい。

 将来的に、ステルラより先に逝くのは決まっている。

 アイツが座する者(ヴァーテクス)に至っても俺は成れない。ただそれだけの事実だが、擬似的な不老不死になった幼馴染みに手は届かないのだ。

 

 ならばそれより先に、誰でも覚えていられるように名を残す。

 

 紫電(ヴァイオレット)を継ぐのはステルラだ。

 それでも一番弟子は俺だ。俺の方が先に師匠に師事を受けている。

 

 これは譲らない。

 

「……さて、行くか」

 

 まずは目先の相手に集中しよう。

 アイリス・アクラシア────またの名を、『剣乱(ミセス・スパーダ)』。

 

「絶対強敵だよなぁ……」

「アクラシアさんは強いよ。僕が正面からやりたく無いと思うくらいには」

「楽しめないタイプか」

「……よく覚えてたね。楽しめない訳じゃ無いんだ」

 

 少し驚いた表情を見せたアルベルト。

 

「ただねぇ。僕とは相性が悪すぎるのさ」

「お前と相性いいのは誰なんだ?」

「うーん、ソフィアさんかな」

 

 これまた絶妙なラインを突いてきたな。

 

「僕は魔法を扱うのが巧い人ほど相性がいい。ルーナさんは火力が高すぎて駄目、テリオスさんはあの手この手で突破してくる、兄上は……多分直接斬ってくる。君のところのお姫様はなんかよくわかんないけど突き抜けてきそうだし、候補としてはプロメサさんとソフィアさんだね」

「いろいろ情報が垂れ流しになってるんだが……」

「まあ大丈夫でしょ。二つ名の時点で察せるんだし」

 

 それもそうか。

 

「それに君も兄上も二つ名抽象的すぎるし、そんな特徴的なの付けられる時点で一発屋さ。十二使徒を継いでる人たちは別だけど」

「言うじゃ無い。アンタこそそのまま(・・・・)のクセに」

「おやおや。薄氷(フロス)さんじゃあ無いか、溶け無いようになったのかな?」

 

 それは怒られて当然だと思う。

 いつものように顔面が凹んでおかしい形になってるが、こいつの顔の骨はどうなってるんだ。もう打たれ過ぎて鉄くらいには固くなってそうだが。

 

「こんなカス放っておいて行きましょう。時間の無駄よ」

「く……口で勝てないからと言って暴力を振るうのは敗北の証明さ。これ以上ないほどのふべっ!」

 

 こいつ本当楽しそうだな。

 殴られてるのにニコニコしてるのが伝わってくるのが余計キモいわ。

 でもそれでこそアルベルト・A・グランって感じがする。最悪なことにな。

 

 

 

 

 

 会場となる坩堝へと到着したが────いや、工事で広くしすぎだろ。

 

「学園中すべての人間集めても半分も埋まらないぞ……」

「随分と張り切ったみたいだ」

 

 顔の傷がスッキリなくなったアルベルトが追いついた。

 この回復速度は目を見張るものがある。俺も欲しいな、そうしたら幾らでも師匠とステルラに敗北を叩きつけられる。

 

 ルーチェ? 

 ルーチェはそんなことしなくても勝手に負けてくれるから大丈夫。

 

「お前どうやってそんな早く自己修復してるんだ?」

「企業秘密さ。負債を上手に取り扱っている、とだけ」

 

 ……………………負債、ねぇ。

 お前は公爵家の子孫だ。当然、過去の大戦の記録は一般家庭に比べてたくさん残してあるだろうし、色んな書物を保有してるだろう。

 あーあー、知りたくなかったわそれ。

 

 魔祖の許可が出てるってお前それさ……改造しただろ、当時の悪い(・・)魔法。

 

「一気にお前と戦いたくなくなった」

「逆にこの程度のヒントで正解に辿り着くのなんなの?」

「俺は天才だからな。この程度訳ないのだ」

「はいはい天才天才(笑)」

「ルーチェ、やれ」

「いやよ汚い」

 

 ルーチェに拒否られたので仕方なく俺が殴ることにした。勿論左手でグーパン。

 戦いの前に利き腕で殴るのはアホだろ。

 

「ウ〜〜〜ン、やっぱり魔力の篭ってない物理は痛いなぁ!」

「お前ついに隠さなくなったな。正体見えたぞ」

「実際君と戦う場合どうなるか予想できないんだよね。その魔力の元に飛ぶのか、それとも君自身に飛ぶのか……ちょっと試してみてもいい?」

「駄目に決まってんだろはっ倒すぞ」

 

 なんで本番の前に実験体になんなきゃいけないんだよ。

 

「相変わらず仲が良いな!」

「出たな熱血暴風」

 

 そんな俺たちの目の前に現れたのはヴォルフガング。

 少し着崩した制服が無駄に似合っている。厳つい顔してるけど男前ではあるのだ、多分男の羨むイケメンタイプ。

 アルベルトは優男で甘いマスクなんだが、どうにも中身がサイコパス臭すごくて近寄りがたい。逆にそれが良いのか? 時代が違えば大量殺人鬼とかになってても俺は違和感ないが。

 

「応援にきたぞ」

「それはありがとう。でもお前も今日試合だよな」

「ああ。戦う前から結果を語るのは良くないが、おそらく勝てないだろうな」

 

 ……冷静だな。

 俺がそう言う結論に達したらもう取り乱す自信がある。視界がぐにゃあ〜〜〜って曲がったりすると思うわ。

 

「実績を考えれば当然でもある。数年間一位の座にいる人間が、十二使徒一番弟子とは言え一属性しか極められてない人間に負けると思うか?」

「客観的に考えればな。でもそんなのどうでも良いだろ」

「それはそうだ! 負けるかもしれない、と分析する自分と負けるはずがない、と奮い立つ俺は両立できる」

 

 良いね。

 そう言う精神性、俺は好きだぜ。

 諦めない力ってのは存在している。思い込みだろうがなんだろうが、諦めなければいつかは星にだって手が届くかもしれないのだ。

 

「当たって砕けろなんて言葉もある。今度こそお前にリベンジしないといけないからな!」

「俺としては拒否したいが……まあ、なんだ。俺も勝つ。勝ち続ければ戦える」

 

 握り拳を掲げ、そのまま俺に向かって突き出した。

 

「互いにいい勝負をしよう。満足できる位に、出し切った勝負を」

 

 ……青臭い野郎だ。

 だが嫌いじゃない。

 そう言う実直さが世界を救うことだってある。

 

「ああ。互いに(・・・)な」

 

 拳同士を突き合わせる。

 もう言葉は必要ない。振り返って観客席へと歩いていくヴォルフガングを見送って、アルベルトも歩き始めた。

 

「ま、頑張りなよ。僕も応援してるぜ」

「任せとけ。華々しく……は、無理だが。勝ちは譲らん」

 

 ルーチェも後ろに続き、歩いていく。

 

「……勝ちなさいよ」

「当然。お前こそ目を離すなよ」

 

 通路の先を進む。

 ここを抜ければ場内だ。

 足を踏み出したが最後、始まってしまう。

 

 ……緊張ではないな。

 

 武者震い。

 変な感傷に浸るよりよっぽどいい。俺の闘志は今が全盛を迎えていると確信した。今この時、俺は俺自身の最強を更新した。

 

「…………行くか」

 

 足を踏み出す。

 光溢れる会場へと。

 

 

 

 


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