英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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 一章と明記していましたが、よく考えたら序章だと気が付いたし言われたので序章に訂正します。

 いや~申し訳ない。

 なのでここからが一章、物語の本編になります。


一章 首都魔導戦学園
第一話 


「……おぉ」

 

 眼前に広がる光景に思わず声を漏らす。

 かつての記憶と比べても、立派に発展したこの街──首都ルクスマグナ。

 

「どうだい? 久しぶりの文明は」

「それ、師匠が言っていい言葉じゃないですよね」

 

 ()が暫く文明に触れてないのはあなたの所為であり、大自然に触れる事を選ばざるを得なかったのもあなたの所為である。

 何を好んで虫と獣に塗れた山の中でバチバチに剣戟しなきゃいけないんだ。

 

 あ~、辛かった。

 

「ちゃんと世話してあげただろう? いいじゃないか植物に囲まれて生きるのは」

「俺は自然より科学を愛してます。師匠みたいに長生きしすぎて精神が植物と一体化してるヤツと一緒にしないでください」

 

 街の往来だと言うのに、俺は気が付けば地に伏せていた。

 

「こ……こんなことしてタダで済むと思うなよ……」

「私の顔を知ってるのは一部だけだから、何も躊躇う事はない。時に恥も外聞もかなぐり捨ててでもやらなければならない事があるんだ」

 

 こんな野蛮な師匠に育てられた人間の今後が不安になる台詞だ。

 

 これで齢百以上なのだから、人の精神成熟度は年齢によらないと証明できたな。

 なぜなら俺は十五歳(・・・)なのに師匠より大人だからだ。我慢強いし。

 

「さ、行くぞ馬鹿弟子。急がないと間に合わなくなってしまう」

「俺今日入学式なんですけど……」

「全く。十五歳になってまだ自己管理が甘いのか?」

「喧しいぞ妖怪」

 

 俺は必死に立ち上がろうとしていた筈だが、気が付けば空を見上げていた。

 あー言えばこう言う、ていうか俺は一方的にやられるのが嫌だから反撃しているだけなのにどうして更に反撃されるのだろうか。

 

 目には目を歯には歯を、軽口には軽口を。

 

 きっと師匠は長く生き過ぎた代償に常識を忘れてしまったのだろう。

 

「やれやれ。困っちまうぜ」

 

 空の色はどこでも変わらず蒼色である。

 山の中から見た幻想的な星空も、文明に囲まれた首都から見上げた青空も変わる事はない。

 

 世界の広さに比べれば、随分と自分はちっぽけだ。

 

 思い上がる事が無いように刻んでいこう。

 徹底した敗北思想の上に、俺は立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 ♯ 第一章 第一話 

 

 

 首都魔導戦学園(しゅとまどうせんがくえん)──魔学なんて呼ばれ方をする、魔法戦闘におけるプロフェッショナルを育成する学園である。

 

 学長を務めるのはかの高名な魔祖、そのネームバリューの大きさと卒業生の実績の積み上げにより戦後の教育機関として頂点に君臨する超人気学園。師匠が正体を明かし、俺を本気でボコボコにし始めたあの日に結んだ約束の一つだった。

 

『ロア、将来的に首都学園行ってもらうから』

『承知した(意識が朦朧としている)』

 

 この会話したの、全身ズタボロになって折れてない箇所ないんじゃないのかと思う程に痛めつけられてる最中だった。

 普通に酷いと思うのだが、約束は約束だ。

 

 俺からしても学園で一番を取るのは目標なので、まあそれに関しては許そう。

 

「俺の席は……ああ、あそこか」

 

 必死こいてしがみついて来た結果として、なんとかその約束は果たした。

 師匠の提示する条件をクリアして、自分でもある程度の地点まで到達したと自覚したので入学したのだ。

 

 指定された座席に座り、その心地よさに思わず腰が抜けそうになる。

 

 ああ、やっぱコレだよこれ。

 人類の進歩は素晴らしい。もう硬い切り株に腰掛けなくていいし、虫の這いずる地面で寝なくていい。寒さに震えながら火を起こして焚火で暖まるとかしなくていいんだ。

 

 地獄のような八年間だった。

 かつての英雄に負けず劣らず、気が付けば懐柔されていた両親の許可が出た所為で師匠は自重を止めてしまったので日々歯軋りと身動ぎの止まらない生活だった。人里離れた山奥で師匠と二人、定期的に襲撃してくる模造体に対応しながら基礎も身に付け、師匠に魔法でボコられる。

 

 思い出すだけで身震いしてしまう。

 

「入学初日なのに随分と眠そうだね」

 

 そんな風に恐ろしい記憶を消し去ろうと睡眠に移行しようとしていたら、隣の席から声を掛けられた。

 

「ようやく悪夢から解放された門出なんだ。安眠出来る環境であれば寝ておけというこれまでの経験が睡眠を促した」

「そ、そうなんだ……大変そうだね」

 

 明らかに引かれたが、今の俺にとって最も重要なのは「自堕落>越えられない壁>関係形成」である。

 

 ふ、ふはは、ワッハッハ! 

 俺の事を見ている奴は既に誰一人としていないし、師匠の監視の目も無い! 

 八年、いいや九年ぶりの自堕落生活が俺を待っているんだ。そう思えば未来も明るいし心も軽くなるモノだ。

 

「僕はアルベルト。君は?」

「ロア」

 

 アルベルトか。

 いい名前じゃないか。

 

「ロア・メグナカルトだ。よろしくな、級友」

「こちらこそよろしく。アルベルト・A・グランだけど長ったらしいからアルでもいいよ」

 

 もしかしてステルラ以外の友人が出来るの初めてじゃないか? 

 アイツは村の学び舎に足を運んでいたのに、俺だけ山に拉致されたので交友関係がそこで閉ざされている。嫌だよ魔獣が友達とか、認めませんから。

 

 藍色の髪を流したナチュラルヘアを爽やかに靡かせつつ、アルは楽しそうに話を始めた。

 

「僕は東の方から来たんだけどロアは何処から?」

「南の辺鄙な村から出て来た田舎者だ。倒錯的な師匠に苛め抜かれてここに入れられた」

「随分と過激な師だね」

「七歳の俺をボコボコに打ちのめした悪魔だ。俺はようやくその支配から逃れる事が出来て、本来の自分を見つめ直してる最中だ」

「ごめん、気楽に触れていい話題じゃないね」

 

 ハハハ、なんて笑い声と共に返答していたら謝られた。

 見たか師匠、これが世の中の回答だ。世間的に見ればおかしいし、普通は山に何年も閉じ込めないだろ。

 裁判を起こせば勝つ自信が湧いて来たな。

 

「お陰で暫く嫌いな努力をしなくても良くなった。先に死ぬほど痛くて苦しい目に遭うか、それとも後に死の危険と共に辛い目に遭うかの二択だっただけだ」

「なんでそんなに追い詰められてるのかな。今の世の中、そんなに心配しなくてもいいと思うよ?」

「俺と師匠は心配性なんだ」

 

 まあ、そういう事だ。

 あの時師匠が祓った異形はかつて英雄が死した後に零れた連中らしく、封印が徐々に解け始めている。確認できる分はちまちま回収しているがそれでもなお追いついてない──そう、後に語っていた。

 

「そんなに言う人も見たこと無いなぁ。ロアの師匠って高名な方?」

「ネームバリューはある。長寿の妖怪だ」

「よ、妖怪……」

「アルは師は居るのか?」

 

 コイツ、ぱっと見気安い男だが多分イイトコの人間だ。

 話すときの声のトーン、僅かな所作、整った容姿。金持ちの家なのは間違いないだろう。

 

「子供の頃から教えてくれた人はいるよ」

 

 家庭教師か。

 ステルラと同じパターンか? 

 アイツは村娘なのに周囲の人間が英才教育を施した所為でどこに出しても恥の無い天才娘に進化を遂げたと聞いている。

 

 何故知ってるか? 

 

 師匠に聞いたに決まってんだろ、言わせるな恥ずかしい。

 

『これより入学式を始めますので、新入生の皆さんは移動をお願いします』

 

 どうやらお喋りはここまでらしい。

 教室集合にしたくせにロクな打ち合わせも無く入学式とは、流石はあの魔祖が学長なだけはある。色々すっ飛ばしてやらかしてても疑問を抱かない程度には、かつての英雄の記憶で理解している。だってあの老人やべーもん。色々イカれてる。

 

 あの老人に比べれば我が師は相当にまともだ。

 

「いや、師が問題を抱えすぎているがゆえにマトモに……」

「自信家だね」

「俺は何時だって正しく自分を見詰めている」

 

 怠惰を好み努力を嫌う、そんな性質が根本にある。

 それにしてはよく頑張ったと自分を何度も褒めてやりたい。

 

「この理屈で行けば俺は聖人になれるな」

「逆にどれだけヤバいのか気になってくるね。他にエピソードある?」

「村で最上級魔法をぶっぱなした」

「やば……」

 

 最上級魔法をポンポン撃てるのもヤバいし、それを普通に村で撃つのもヤバい。

 実際は俺達を守る為に撃ったんだが、嘘は一つも吐いてないので問題ない。このまま俺の師匠=ヤバい奴扱いしてどんどん擦り込んでやる。いずれこの学園中に『ロア・メグナカルトの師匠はヤバい奴』と根強く理解されるようにしてやるのだ。

 

 これは俺の正当な復讐である。

 

「運が良ければ、今日見れるかもな」

「そんなに高名な人なの!?」

 

 首都魔導戦学園は仮にも魔祖が学園長を務める国営教育機関であるので、行事があるたびに有名人が来る。

 その都度待たされる生徒側としては非常に退屈だが、たまに滅多に表に出てこない仙人みたいな人も来るらしいので一大イベントになっているそうだ。

 

 なお、学長の挨拶は『めんどいからパスなのじゃ』とかいう適当過ぎる一言で無くなった。

 

 どうして教育者をやろうと思ったのか甚だ疑問である。

 

「ネームバリューだけはあるのさ」

 

 

 

 

 

 

 大きい別館に集められた俺達新入生、そして在校生が並んで立つ。

 軍隊でもないからそこまで丁寧さを求められてないが、この学園に入学する位の連中なので必然的に綺麗な形になる。俺も一通り叩き込まれてしまったので、右に倣えで同じようにしている訳だ。

 

「……ね、ロア」

「なんだ」

「来てる? 君のお師匠さん」

 

 細々とした声で問われたので、それとなく見渡してみる。

 あの人の魔力を浴びすぎて分かるようになってしまったから、ここの会場に居る事は分かる。場所は来賓席だが、俺の身長より高い奴が周りに居るので見えない。

 これでも結構成長したんだが傷つく。また俺の鋼のようなプライドに傷をつけられてしまった。

 

「いる。来賓席だ」

「おぉ、楽しみだな」

「──そこ、うるさい」

 

 コソコソ男二人で話していると、更に隣の女子生徒に咎められてしまった。

 あーあ、俺は悪くないからな。アルが話しかけてきたのが原因で、心優しい俺は出来た友人のささやかな問いを断ずるという行動をしたくなかったので答えてあげたのだ。つまり『話しかけてきたアルが悪い』という図式を作れる決定的なチャンス。

 

「ごめんね、つい気になってさ。でも最上級魔法を村でぶっぱする人って言われたら君も気にならないかな?」

「……最上級魔法を?」

 

 おいおいお前が釣られんのかよ。

 ていうかアルに先手取られたが、まだ決定的な敗北には繋がっていないな。

 

「そう、最上級魔法。あの魔祖十二使徒達が編み出した、それぞれの属性における()()の技だよ」

「あり得ない。最上級魔法は国中探しても使える人が限られてるし、魔祖十二使徒以外で撃てる人なんて──」

「今は静かにしておいた方がいいんじゃないか?」

 

 はい、決まった。

 

 女子生徒はハッと顔を驚かせ、やがて俺を睨んで来た。

 はい俺の勝ち。謀略ってのは周囲の偶然も利用して積み上げてくモノだからな、いい勉強になったんじゃないか? 

 アルはやれやれ、なんて肩を竦めている。

 

 もしかしてコイツナチュラル畜生か? 

 

 わかっててやった節があるな、これ以降コイツの前での言動には気を付けよう。いつ足を掬われるかわからない。

 

『──ありがとうございました。では次に、新入生挨拶』

 

 新入生挨拶、か。

 実技・筆記・面接全てにおいてトップを獲った人間が選ばれるこの新入生挨拶。本当なら俺が目指して堂々と見下げながら『一般生徒の皆さん、こんにちは!w』と言ってやらねばならないが、生憎俺は一般入試を受けていない。

 

 よって、そもそもこの選択肢に入れない訳だ。

 

 いや~特別扱いされちゃって困るな~。

 

 

 

 

『新入生代表、ステルラ・エールライト』

 

 俺は血の気が引いた。

 愕然とする、そんな言葉を今体現している。

 声にもならない悲鳴を内心であげながら、思わず壇上を見た。

 

 静かに、あの頃とは比較にならない程丁寧な所作で壇上へと登っていく幼馴染。

 

 バカな。

 俺は、()()はあの頃とは違うんだぞ。

 才能が欲しい楽がしたいと嘆くだけの非力な凡人から、楽がしてぇ寝ていたいと願う自堕落に焦がれた男へと進化したんだ。それなのに何故、どうして勝利を誓った相手に見下されている? 

 

 まさか、まさか……あの雷ババア! 

 

 俺を嵌めたな? 

 

「……ハ、ハハッ」

 

 キッと隣の女子生徒に睨まれるが、それどころではなかった。

 儀式とか礼儀とかどうでもよくなって、()()は乾いた笑いを挙げてしまった。アルがギョッとして俺を見て来た。

 

 ステルラじゃなければ。

 ステルラ・エールライトじゃなければ。

 

 俺が勝利を誓った幼馴染(英雄)でなければよかった。

 

『誉ある魔導学園に入学できたこと、大変うれしく思います。私は──』

 

 声も少しは変わっているが、あの頃と大差ない。

 ウ、ウワアアァ────ッ!! 今すぐ殴り込みたい、今すぐ入試受けたい、今すぐここから逃げ出したい。

 

 いる事を言えよ! 

 あの妖怪、長く生きてるからロマンチストな部分がある……そこが悪さをしたな、間違いない。

 絶対『暫く会ってない幼馴染が同じ学園に通うのいいな……そうだ! 秘密にして入学式で驚かせてやろう、きっと喜ぶぞ~』みたいな思考をしているに決まってる。

 

 かつての英雄と同じ剣筋を自然に出してる子供を英雄に仕立て上げようとするくらいだ、おかしくない。

 

「カ、カヒュッ……」

「ロア!?」

 

 既に女子生徒へのマウント合戦での勝利は記憶から消えた。

 九年越しの敗北を師匠と幼馴染に叩きつけられた俺としては内心煮えくり返り、既に温度は融点を越え、臨界点に至ろうとしている。

 

『──以上。新入生代表、ステルラ・エールライト』

 

 一礼をして、ヤツは壇上から降りていく。

 同じクラスにはいないから別のクラスだな。後で殴り込みに行ってやる。

 

「……相変わらずお上品な子」

「知り合い?」

「私が引っ越してから大体三年、ずっとボコボコにされてた」

 

 おお同士よ。

 お前と俺は同じだ。天賦の才を持つ化け物に蹂躙される凡人枠、さっきはマウント取って悪かったな。仲直りしよう。

 

『では続いて来賓祝辞へと移ります』

 

 おい。

 既に嫌な予感がしてきたぞ。

 どんだけ鈍くてもこれはわかるだろう、この流れ。

 

『魔祖十二使徒第二席、エイリアス・ガーベラさまより祝辞を戴きます』

 

 オアアァ────ッ!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいロア、大丈夫?」

「おれはだいじょうぶだ」

「大丈夫には見えないけど……」

 

 クソが。

 絶対師匠の仕業だろ。

 アイツこの時の為に仕込んでたな、そうに違いない。

 

「まあビックリするよね、第二席って言えば数十年外部露出の無い人だって言うし」

 

 俺の師匠です。

 正確には新入生代表のステルラ・エールライトの師匠でもあります。あの儀式は師弟による宣誓の儀だったんですかね。俺の方が先に門下入りしてる筈なんだが? 

 

「やっぱり来たって事は本当なのかな、あの噂」

「噂?」

「聞いたこと無い? 第二席の弟子が入学するって噂さ」

 

 俺とステルラです。

 

「あ、あぁ……初めて聞いた」

「他にも第四席、第六席、第七席の弟子も入学してるらしいし本当っぽいね。同学年がこんなにバリバリしてると僕としては困っちゃうよ」

「まったくだ。俺は努力が嫌いだから困る」

 

 教室へといつの間にか戻っていたようで、俺にはその間の記憶がない。

 あまりの敗北のショックで意識を飛ばしてしまったようだ。自己防衛がしっかりしているいい意識だと思う。

 

「お前はどう思う? 同士よ」

「誰が同士よ」

 

 さっき俺がマウント取って負かした女子生徒に話を振る。

 気が付かなかったがどうやら俺達の横だったようで、栗色の髪をショートヘアで揃えているのが特徴だ。

 

「……噂の真偽はともかく、あの女には勝つ」

 

 お前は俺か? 

 俺がいない間にまた新たな犠牲者が生まれていたとは……恐ろしきステルラ。

 

「譲れない女の戦いってヤツ? 怖いねぇ」

「うっさい、黙ってなさいよ」

 

 おーこわ、なんて言いながら飄々と躱している。

 コイツやっぱ畜生で正解だな。気を付けてないと後ろから刺してくるタイプだ。

 

 軽薄な笑みもそう思うと怖く感じる。

 裏で何考えてるかわからないな、結構冗談は通じるけど。

 

「そういえば何でロアは悶絶してたの?」

「それを説明するには長い時間が必要になる。あれは今から九年前の事だった」

「長くなるっていうか日が暮れるよね」

「簡潔に告げるとトラウマが刺激されて呼吸困難になった」

「昔何があったの!?」

 

 それはもう辛く厳しい毎日だった。

 

 人力で凧あげをされた時は大変だった。

 あの後暫く悪寒が止まないし、その所為で見たくもない光景見せられるし。あれ、全部大体ステルラの所為じゃないか。

 

「同士、名前は何と言う」

「だから誰が同士よ。なんで言わなきゃいけないの」

「言わなければ同士と言い続けるが」

「やめなさい。……ルーチェ、ルーチェ・エンハンブレよ」

「俺はロア・メグナカルト。こっちの畜生はアルベルトとでも呼んでやればいい」

「僕凄い軽視されてない?」

 

 事実だが。

 これでさっきの貸し借りはなくなったぞ、ルーチェ。

 主に俺が勝手に勝利した戦いはこれでチャラだ。

 

「ていうか何で同士呼ばわり?」

「それは簡単な話だな」

 

 教室の扉が開かれて、誰かが教室内に入ってくる。躊躇いの無い足音から察するに教員だろうか、いずれにせよ相当の自信を持った人間だ。

 これで話は終わりだと言わんばかりに、俺は振り向きながら言葉を続けた。

 

「俺も、ステルラ・エールライトに負かされ続けてるからだ」

 

 だからこそ、ここへ来た。

 頂点を目指す環境の整った、この国で一番の教育機関へと。

 

「勝負だな。俺とルーチェ、どっちが先にアイツに勝つのか」

「ちょっと、その話詳しく……ああもう! 後で聞かせてよ!」

 

 先程まで絶望していたが、案外面白い学生生活を送れそうだ。

 

 ──ああ、そうさ。

 

 ここからは常勝するのみ。

 俺が掲げるのは敗北の理念ではない、勝利への渇望である。

 

 

 ──常勝不敗。

 

 

 それこそが俺の銘だ。

 

 

 

 

 


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