【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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幕間

 テリオスさんと魔祖が部屋から出ていってから十分程度経っただろうか。

 さっさと帰れば良いのに、俺らしくもなく寝転んで思考に時間を費やしていた。

 

 議題はずばり、テリオスさんの発言。

『かつての英雄は君で良い』────これだ。まあ確かに技はそっくりそのままだろうし、戦い方なんかも参考にしてる。本人を知る人達に言われるなら納得はしないが飲み込めるんだが、テリオスさんに言われると少し懐疑的に思ってしまった。

 

 テリオスさんの目を疑っているのではなく、どう見えているのかが気になる。

 

 なぜなら、英雄と評価されるような言動はしていないからだ。

 

 かつての英雄は品行方正清廉潔白質実剛健、清らかで根強い芯を持った人当たりのいい青年だった。

 そうあるべきだと心掛けていたのは確かだし、どちらかといえばテリオスさんと同じタイプ。本当は一人称も『俺』だし、もっとダウナー気質なところがあったのは否めない。だから本当は俺なんかより、テリオスさんの方が『かつての英雄』と一致している部分は多いと思っている。

 

 俺はヒモ志望で女性を周囲に侍らせ少しでも甘えようとするキモすぎ人間であり、世間一般から見れば不埒で信用の置けない怪しいやつという印象が先に来るだろう。

 しかもそれが真実だから否定できず、近づいてきた人は退いていく…………

 

 ……………………。

 

 おかしくないか? 

 なんか近づいてきた奴らほぼ全員懐に入ってるんだが。

 

「邪魔するわよ」

「邪魔するなら帰ってくれ」

 

 俺が自問自答をしてアイデンティティを確かめる大切な時間を踏み躙り、ノックすらせずに侵入してきたルーチェに軽口を返す。

 

「いやよ、帰る理由がないもの。────身体は大丈夫?」

「問題ない。丁寧に治してくれた」

 

 傷一つ残らず、寧ろ体調が良くなった。

 回復魔法って熱を下げるとかそういうのにはあんまり効果がない筈なんだが…………そういう点で、流石は『魔導の祖』。俺(かつての英雄の記憶も含めて)が知らない魔法があってもおかしくはない。

 

「久しぶりにあそこまでボロボロになった。心臓に傷が付く手前まで追い詰められたのは山籠りしていた頃以来だな」

「ちょっとやりすぎじゃない?」

「普通にやりすぎだが、犯人は治せばいいと思っていた節があるからな。俺の苦痛はお構いなしに放り込まれた雷撃と斬撃は今でも夢に見るぜ」

 

 部屋の外からひゅ、ひゅ〜なんて音すら鳴ってない口笛が聞こえてくる。

 

 ……あの、師匠。なんかそんなことばっかりロアにしてませんか? 

 あ、ああいやっ、違うんだ。聞いてくれステルラ、ロアなら多分耐えれると思って……

 ロアが死んじゃいますよ、そういうことばっかしたら! 大体師匠はいつも────

 

 俺を最もイジメ抜いたトップ2のレスバトルが展開され始めたところで、意識をルーチェとの会話に集中させる。

 ステルラも俺のこと死ぬほどイジメ抜いてるから絶対忘れねぇからな。いじめた側にとって些細な記憶と過去であっても、いじめられた側には永遠に記憶が残り続けんだよクソが。

 

「チッ……セクハラで倍返ししてやるからな」

「また碌でもないこと考えてたのね」

「復讐は何も生まないが、気持ち良いことだけは確かだ」

 

 詭弁万歳、欺瞞万歳。

 こんな思考してる奴がかつての英雄と似てるとか勘弁してくれないかな。あんな激烈で苛烈で熱烈なバケモンみたいな奴と比べられたら俺が如何に矮小なのかを思い知らされてヘラる。

 

 俺は腕が弾け飛んだら涙目で食いしばるが、かつての英雄は動揺すらせずに勝利のみを見つめる。その代わりに闘志を再燃させる。負けた時の悪感情の伝わり方と言ったらやばかったぜ、屈辱と侮辱と情けなさでめっちゃ自分を責めながらその場を切り抜ける方法と次に勝利するための道筋組み立ててんだもん。

 

 頭おかしいよ。

 

「セクハラですか。受けて立ちましょう」

「もうちょっと出るとこ出てから声かけてもらって良いですか?」

「殺しますよ」

 

 ヒェッ…………

 

 普段から無表情なのに完全に表情が抜け落ちたルナさんが、僅かに火の粉を散らしながら脅してきた。

 助けを求めるようにルーチェの腰あたりに抱きつくが、あまり抵抗されない。ふ〜ん、なんか今色々甘い判定になってるんじゃないか、これ。

 

 良い機会だ、利用させてもらおう。

 

「セクハラする相手を選ぶ権利もある。親しき中にも礼儀あり、という奴だな」

「越えてはいけないラインを越えました。温厚篤実と名高い私でも怒る時はあるんですよ」

「温厚…………?」

 

 ルーチェの疑問の声を気にせずに、ルナさんが飛びかかってくる。

 身長差もあり、しかも魔法をつかってこなかったので普通に俺の方が強い。ただの身体能力ならばこの学園でも上位の俺になぜ勝てると思ったのか、今一度問いただして欲しい所だ。

 

 頭を押さえて進めないようにするとぐるぐるパンチを披露してくれた。

 やってることがまんま子供なんだが、そこら辺を気にはしてないのだろうか。ルナさんの判定よくわからないところにあるな…………

 

「哀れね」

「そう言ってやるな。ルナさんにも淑女としての誇りはあるからな」

「ぐ、ぐおお、このっ……!」

 

 深窓の令嬢というには少し無理があるが、体力がないもやし娘なのは変わらないのでやがて一人でダウンした。

 ぜえはあ言いながら四つん這いで呼吸を整えている姿は淑女とは言い難い。これが淑女の姿か? これが…………なんと泥臭くて醜い姿なんだ、哀れだな。

 

 なお俺が這いつくばった姿を見られてるのはカウントしない事とする。

 

 棚に上げて自分が優位にたてるポジションでのみ戦えば良いのさ。

 レスバトルをする前提、話を逸らして相手の思考を乱して俺が有利なポジションに引き摺り込む。これを実行すれば勝利は間違いない。

 

 あ? 

 いつも煽られて先に負けに行ってるだと? 

 

 ……すぞ。

 

「俺は自意識すらマウントを取ってくるのか。最早最強に近いな」

「アンタが頭おかしいのは元から知ってるけど、何自然と抱きついてきてんのよ。ぶっ飛ばすわよ」

「い〜いじゃないか。そりゃあご飯をたくさん食べて少しお腹が出てるときに抱きつくのはデリカシー無さすぎだが、食事をとってから半日も経った後ならお腹が最も細くなっていてプロポーションとしても美しいフォルムになっている。お前はスタイルがいいからな」

「………………ふーん」

 

 口元は緩んでないが、僅かに耳が赤くなっている。

 コイツなんでか知らないけど正面から直球で伝えるとマジで耐性ないんだよな。異性との友人として清く正しい関係性を保たせて貰っているが、一線超えればどうなるのだろうか。

 

「お前は自己評価が低いが、客観的に見て美人でスタイルもよく女性的な魅力が溢れている。コンプレックス丸出しの目付きと暴力的な拳が特徴的だ」

「喧嘩売ってるでしょ? 言い値で買ったわ」

 

 まだなんとも言ってないのに俺の顔面にエルボーをぶち込んでくるその判断の速さは素晴らしいが、もう少しは躊躇いを持って欲しい。

 回復魔法があまりにも酷使されているから暴力を振るうことに違和感を抱いていないのか……!? 

 

「前が見えねェ」

「自業自得ね。……………ふん」

 

 じんわりと暖かいので多分回復魔法をかけてくれている気がする。

 でもゆっくり回復魔法をかける時の欠点として、じわじわ治っていくので損傷箇所が元に戻る歪な気持ち悪さを味わう羽目になるんだよ。

 

「照れ隠しが強烈ですね」

「……うるさい」

 

 ルナさんが煽っているがルーチェにキレがない。

 視界以外は元に戻った気がするが、一番大切な目が見えないんだけどこれって何かの間違いですか? 

 

「ロアくん、もうちょっとだけ待ってあげてください。同じ淑女(・・・・)として情けをかけてあげたいので」

「それは構いませんが、俺の目が見えないストレスを消化することも手伝ってください」

「仕方ありませんね。ステルラさんにもルーチェさんにも出来なさそうなので私がやってあげますよ」

 

 急にマウントを取りに来たルナさんは放置して、なぜか膝枕に近い形で俺の頭を撫でてくるルーチェの手を甘んじて受け入れる。

 

 これだよこれ、この護身。

 これこそが俺の追い求めたヒモ生活。

 女性に甘え男としての優越感を得て、存分に甘えられるこの環境。時たま拳と魔法が飛んでくるのはちょっとよくわからないし、それが致死級であるというのもちょっとよくわからないが、損得ちょうどいいんじゃないだろうか。

 

 いや良くねぇよ。

 なんで損してんだよ。

 痛くない思いも苦しい思いもしたくないからヒモ生活を願ってるのになんで率先して攻撃されてんだよ。おかしいだろ。

 

 働かなくていいのはいいがそれ以上に受けてる苦痛が大きすぎないか? 

 

「これも全て師匠の仕業か……! おのれエイリアス、俺は決して貴様を許さない」

「何言ってるんだか……馬鹿は死んでも治らないとは良く言ったものだよ」

「自虐ですか? 死なないから治らないのは仕方ないですね笑」

 

 フカフカの柔らかいベッドと比べて、この坩堝の壁は些か固すぎるように思える。

 骨に罅が刻まれる程度には威力が高かったのだが、師匠はいつもと変わらない雰囲気を保っている。ステルラはレスバで負けたのか? 馬鹿な、と言いたい所だがアイツはレスバ雑魚なのでそこまで違和感はなかった。

 

「目が見えねェ」

「まだ治してもらってなかったのか……どれ、仕方ないな」

 

 目が治ってないのはルーチェのせいだが、今俺が壁に打ち付けられて磔のようにされているのは貴女のせいです。

『やんちゃ小僧め』と言いたげな雰囲気で近づいてくるが、普通に元凶だからな。こういうところあるからな、この女。そういうことばっかり覚えるから好きな男が死んでもずっと引き摺ってんだよアホたれ。

 

「今なんか余計なことを考えなかったかな?」

「師匠は美麗で聡明な女性だと改めて認識を深めていた所です」

「それは良かった。もしもへんな考えを抱いていたら手が滑って頭に電撃を流し込む所だったよ」

 

 コワ…………

 

 なんで俺の周りの人間ってこんなに遠慮ないワケ? 

 アルベルトの方が俺に暴力振らないし無理強いしないのに女性陣は俺を奴隷のように扱ってくる。この格差はなんだ、これを差別と言わずしてどうするのだ。山よりも高く海よりも深い心を持つ俺からしても些かやりすぎてはないのかという意見が飛び出すぞ。

 

「御せる狂人と御せない常人。恐ろしいのはどちらだと思いますか?」

「前者は日常生活において歯止めが効かないが、いざという時に頼りになる。後者は日常において暴発することこそないが、緊急事態下では少々扱いにくいな」

 

 流石に大戦経験者は違うな。

 そう言う回答がスッと出てくるのは素直に称賛する他ない。 

 俺もずる(英雄の記憶)があるからある程度は判断できるが、あくまで普通の人間よりかは冷静に判断できるだけ。この人たちは命を賭けて殺し合いをしてきたのだからレベルが違う。

 

 少し話がずれたな。

 要約するとアルベルトですら自制できるのになんで君らは自制できないの? って遠回しにチクチクしたけどあまり伝わらなかった。

 

 やっぱ言葉はまっすぐ伝えないとダメだな。

 俺は学んですぐさま修正できるタイプ。舐めてもらっちゃ困るぜ……! 

 

「やっぱ狂人は自覚がないからダメだな」

「狂ってないと座する者(ヴァーテクス)には成れないからねぇ」

「その理論でいくならば俺は正常で普遍的な人間だと証明できる。甘いな師匠」

「誰がどう見ても君に魔法の才能がないからだが……」

 

 俺の逆鱗に触れる人はそう多くはないが、師匠は日常的に俺の逆鱗にヤスリをかけてくる。

 苛立ちとか腹立たしいとかそんな“軽い“感情はとっくの昔に通り越し、今の俺に許されているのは込み上げてる怒りに身を任せて激昂することのみ。

 

「一線越えた。表でろ」

「まずはその磔状態を解除してみたらどうだい?」

 

 クソボケがぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!! 

 お前が魔力で固定してるから俺が動けないんだろうが!!! クソバカ!!! 

 

「逆になんでその状態で強気に出れるんだ…………」

「人の意思は折れない限り輝き続けるからな。先人に倣い俺も挑戦してみたが、才能がある人間にしか許されないテクニックだったみたいだ」

 

 今の俺は祝福に魔力もないので正真正銘ただの一般人。

 ちょっと剣の扱いがうまくてちょっと体が強いだけの弱者である。アイリスさんに絡まれないことが救いだが、アイリスさんがここに来てないのは少し寂しい。

 

「どいつもこいつも照れ隠しに暴力を使いやがって。他に方法はないのか蛮族どもが。俺はこんなにも建設的で平和的で文化的で知的な方法での解決方法を提示しているのに、どうして俺の周りはこんなに領域(レベル)が低いのか嘆かざるを得ないな」

「壁画が喋るなんて珍しいこともあるもんだねぇ。さてみんな、準決勝も終わったことだしご飯でも行かないか?」

「おいコラ紫電気ババア」

 

 動けない身体に鞭打って(強制的に)痺れる(紫電によって)のは勘弁願いたい。

 これは拷問と何一つ変わらないんだよな。

 

()ふへふは(ステルラ)! はふへへふへ」

「なんでこんなに情けない人を好きになってしまったのか、自分でもたまに疑問に思う時があります」

「情けなさを常に表に出してる癖に困ってる時だけ本気出すからタチ悪いのよ……」

 

 部屋の外にいるであろうステルラに助けを求めるが、顔を一度ひょっこり見せてジト目で見てきた後に、顔をひっこめられた。要するに見捨てられた。

 

 終わった……

 

 もうこの学園に味方はいない。

 そう思うと涙が出てくるし胸の中を悲しみが支配するが、俺はこんなところで立ち止まっていられない。ありとあらゆる手段を用いてでも復讐(セクハラ)を完遂するとあの日(記憶の中の)墓標で誓ったのだ。

 

「あーあー! 今俺のこと助けてくれたら夏休み付き合ってやろうと思ってたのになー! せっかく水着とか用意した(してない)のになー!」

 

 今用意してないだけで未来の俺が用意してくれる事に賭けて大嘘をついた。

 師匠は俺が金を持ってないことを理解しているので呆れ顔だが、おそらくこの二人は気が付いていない。そうに決まってる。

 

 が、俺の淡い期待も虚しくルーチェはため息を吐きながら腕を組んだ。

 

「アンタ金ないのにどうやって用意したのよ」

「黙秘権を行使する」

「…………本当に用意したわけ?」

「当たり前だろ。俺が嘘をついたことがあるか?」

「なんなんですかねこの自信。エイリアスさん、なんなんですかこれ」

「私に聞かないでくれ。昔からこうなんだ」

 

 俺ほど誠実で正直な男はいないもんだぜ? 

 現実を知らない女性陣に世の中の真実というものを教えてやりたかったのさ。

 

 なんだかんだ言いつつも魔力を解いてくれたので、地面に着地する。

 身体中痛んでいるが打撲程度なので放置しても問題ないだろう。

 

「…………水着を用意したかはどうでもいいわ」

「そうか。ならぶっちゃけると用意してない。嘘だった」

「それは疑う余地もないくらいにバレバレだったけど、問題は前者よ。夏休みの予定合わせてくれるって認識でいいかしら?」

「あー、まあ、うん、そうだな。三日に一日くらいのペースならいいぞ」

 

 一ヶ月あるんだっけ? 

 詳しい内容を忘れたのでルナさんに視線を送ると、やれやれと言わんばかりに肩を竦めながら無表情で解説を始めてくれた。

 

「去年と同じならば一ヶ月半休みになります。理由としては遠い地方出身者がいた際、余裕を持って帰省出来るようにする為ですね。切り詰めたカリキュラムではありませんので、それくらい余裕を持っても大丈夫なのでしょう」

「首都近郊から通っている子もいるけれど、一人暮らしをしている私たちみたいなのが大半よ。実家が首都にあってここに通っていられるくらいの実力者は案外少ないの」

 

 昔ならコネ入学とか出来たかもしれんが、統一されてから建てられたこの学園には通用しないな。

 理事長が一番最強で一番影響力あるんだからコネが通用するわけない。ある意味コネ(十二使徒推薦枠)はあるんだが、それは貴重な入学枠を実力が離れすぎた人間に使わないためにある。

 

 ステルラが一般入学を余裕で首席通過、ヴォルフガングも三番手に大きく差をつけての次席だったと聞く。

 

 それくらい隔絶した実力差があるものだ。

 まあ例に出したこいつらがあまりにもおかしいって話ではあるんだがな。

 

「ルナさんは家が首都にあるとして、俺とステルラも帰っていいんですか?」

「構わないし、私も数日は向こうに戻るつもりだからそのタイミングに合わせてくれるなら送るよ」

 

 自動送迎テレポート、非常に便利だな。

 魔力で包んで高速で移動させているのか、魔力そのものに変換して移動させる狂気の手法をとっているのかの判断がつかない。エフェクトを付与できたりするから魔力で包んでいる説を推していきたい。

 

 そうじゃないと俺が魔力に分解されてる説が出てきてしまうからだ。

 怖いだろ普通に。

 

「で、ステルラはいつまで不貞腐れてるんだ」

「べっ、別に不貞腐れてなんかいないし……」

 

 ひょこひょこ扉から顔を出してそのまま入室してきた幼馴染は少しだけ気まずそうな顔をしている。

 

「一応予定的には明日が最終登校日、そこから先が夏休みになってる筈だ。長期休暇中は私も忙しくなるから、ロアの面倒は任せるさ」

「よろしく頼む。俺は一日でも世話を放置されると死んでしまうからな」

「ねこ以下の癖に無駄に尊大でムカつくわね」

「好きだろ?」

「好きじゃないわ」

「ルーチェ……俺のことを嫌いなのか……」

 

 もう何度目になるのかわからないやりとりなのだが、その度に愉快な反応をするのでやめられない。

 

「…………嫌いじゃないって、言ってるでしょ」

 

 ルナさんのルーチェを見る目が本当に面白い。

 無表情なのに呆れてるのが伝わるのがあの人の凄いところだ。無表情なだけであって感情豊かだからな。

 

「卑しい女ですね……」

「じゃあアンタはどうなのよ。嫌いなの、コイツの事」

 

 珍しく反撃してるが固有名詞が出て来なすぎて誰が何のことを指しているのかが全くわからない。

 ニュアンスから感じとるに、「じゃあルーナさんはロアの事どう思ってるんですか」で合ってそうだな。残念だなルーチェ、ルナさんにその手法は通じない。

 

「私はロアくんのこと大好きですよ。愛していると言ってもいいです。恋仲になりたいし手を繋いだりしてデートしたい所ですが、まだそれだけの立ち位置に至れていないのでもっと精進しなければならないと噛み締めているところです」

 

 大胆な告白だが、俺は一人を特別扱いしない主義でな。

 全員等しく俺に好意を持ってもらって、全員等しく相手をすれば関係性を保っていけるのさ。かつての英雄は決して好意に靡かなかったが、自分の好意にすら靡かなかったのは普通に悪いことだと思う。

 

 自分の好意と自分に向けられる好意には正直でいるべきだ。

 

 攻撃をした筈なのに反撃を喰らったルーチェは眉を顰めて不機嫌さを隠そうともしないままルナさんを睨みつけた。

 

「まあルーチェさんのようにツンデレも需要がないわけではないですが笑」

「甘えられすらしない女が何言っても惨めなだけね(身体を見つつ)」

「一線越えました」

 

 顔を掴み合ってボコスカ争い出した二人を尻目に、トコトコ俺の方に近づいてきたステルラと師匠。

 

「アイリスさんは?」

「『滾ったから発散してきます! ロアくんに格好良かったって伝えといて〜!』……って言いながら走ってったよ」

 

 ああ……

 滾ったんだな……

 

 俺に向けられなくて心底よかった。

 俺が求めてる好意ってのは極一般的な愛情を示したもので、剣と剣を交えて愛を伝え合う特殊性癖のことを指しているわけではない。誘われて気分が乗れば受けてやらんこともないが、今は無理。

 

 それを予想できる時点でアイリスさんだいぶ俺のこと理解してるな。

 ロアポイント(俺が向ける評価値)を三点追加だ。

 

「しかし、なんでわざわざ決勝を夏休みの後にやるんだ……」

 

 説明を受けた時は魔祖ならばやりかね無いと思ったが、本当に理由はそれだけなのかと疑問を抱いた。

 さっきの会話を聞いていれば少しは思うだろう。決して魔祖は何も考えていない訳ではなく、行動の裏には何かしらの理由が隠されている。そりゃまあ、たまにどうでもいい行動や我儘を通すことはあるかもしれんが。

 

「師匠。理由知らないか?」

「夏休みを挟む理由かい?」

「ああ」

「知らない。私は学園の運営には携わってないからね」

 

 どうせ気まぐれだろう、師匠もそう言ってきた。

 本当にそうだろうか。どうにも拭えない気持ち悪さがあるが、それを確かめる術はない。

 

「さ、そんな事より今日はパーティーにしようじゃないか。我が弟子の2トップが確定したし、祝うには丁度いいだろう?」

「人の金で食う飯ほど美味いものはないからな。おいそこのバカ二人、聞いてるか」

「誰がバカ二人よ。一人だけでしょ」

「自分のことを貶めるのは構いませんが、自虐はロアくん好きではないですよよよよ痛い痛い痛いです!」

 

 ジタバタ暴れるルナさんの頭をアイアンクロー、身長差もあるのでそのまま持ち上げられている姿はまるで釣られた魚のようだった。

 ルーチェの顔に青筋奔ってるし普通にキレてんじゃん……

 

 やれやれ。

 ルーチェはギリギリ怒らないで煽れる限界があるから、少しくらいはルナさんに伝授してやらんこともない。

 でも俺以外の誰かが生意気なこと言ってボコられてるの見るのは楽しいからこのままでもいいかもな。ルナさんは何故か率先して攻撃をくらいに行くが頭が悪いのではないだろうか。

 

 少しは俺を見習って欲しい所だぜ。

 

 そんな風に仲の良い二人を眺めていたら、ステルラが横に来た。

 

「……………………」

「なんだ」

「じ〜〜…………」

 

 ジト目で見てくる。

 昔のステルラはジト目なんてしない活発娘だったのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。

 

 正直可愛いからいいんだけどな。

 

「本当に私のこと見てくれてる?」

「お前まだ疑ってるのか…………」

 

 思わず本気で驚いた声を出してしまった。

 

「だ、だって全然私のこと見ないじゃん!」

「日常的に異性の事を見まくってるのは分かり易すぎるだろ」

 

 ルナさんを握りしめていた拳から力が抜けて、ルーチェがビクリと身体を揺らした。ルナさんは地面に落ちた。

 

「ふー…………いいかステルラ。お前のいう『気になる異性を目で追いかける』って行動はな、恋に恋する年齢の少年少女がするもんだ」

「えっ」

「お前が俺を好きなのは理解しているが、それはそれとして相手にも同じ行動を求めるのは愛じゃない。エゴだ」

「す、好きだけど……でも直接言ったことなんてないのに……」

 

 話も聞かずに自爆しまくってるアホを放置して、信じられないものを見た顔で俺を見ているルーチェを嘲笑っておく。

 

 気が付いてんだぜ、お前が俺をよく見てることには。

 知ってて放置してたのはそういうことさ、後々になって弄れるから言わなかっただけだ。

 

 この中で一番恋愛的な意味で好意がわかりやすいのはルーチェだからな。

 

「ロア、良心が痛んだりしないのか?」

「しませんね。複数人に好きだと言われたからって一人を選ばなくちゃいけない理由は俺にはない」

「…………どこで教育間違えたかな……」

 

 それはきっと最初からだ。

 仕方ないことだ。俺は『かつての英雄の記憶』を反面教師にすると誓ったからな。いわば究極の逆張り、人生を懸けた英雄へのアンチテーゼと言えるだろう。

 

「来るもの拒まず去るもの逃さず、一度でも俺が気に入ったら絶対に逃さないから覚悟しとけよ」

「言ってて恥ずかしくないか?」

「全く。ヒモでありたいと常日頃から公言しているゆえ、俺に痛む心は一切無い」

 

 師匠が俺を見て呆れた顔をしているが、アンタの事も含んでるのに気が付いているのだろうか。

 そういう意図がなければ冗談でも愛してる、なんて言わない。

 

 が、それを自分から説明するのは癪なので気が付かないのならそれはそれでいい。

 

 離れようとした時に離さなければいいだけだ。

 

「…………ま、それはそれで良いのかもしれんな」

「そうでしょう? 俺は気遣いが出来る男だからな」

「悲しませるなよ、ヒモ男」

「おそらく泣くのは俺だな、具体的には暴力によって涙を流すことになる」

 

 現時点ですらボコボコにされて涙を流すことがあると言うのにどうして俺が泣かせる立場になるのだろうか。

 師匠は慧眼ではあるが曇り眼でもある。

 

 少なくともかつての英雄の事を見抜けていないので、師匠も完璧ではないのだ。

 

 完璧な人間などいない。

 どれだけ外見を見繕っている人間であっても、どれだけ明るく振る舞っている人間であっても何か一つ欠けているものがあるんだ。

 

 その事実を忘れないように胸に刻み込んで生きていこう。

 

「どうしたの、そんなに真面目な顔して」

「師匠の顔と身体は満点なのになんでおばあちゃんなのかという事実について論文を書いていた」

 

 この後放たれた紫電の行方を知るものはいない。

 一つだけ確かなことがあるとすれば、俺は祝いの料理を食べ損ねたという事くらいだ。

 

 

 

 

 

 

誰が一番好きですか(ヒロイン編)

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