【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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八章 大いなる休息
第一話


『…………あの、すみません』

 

 またこのパターンか。

 自分の意思では全く動く気配がないくせに自動操縦になった我が身に嘆息しながら、かつての英雄の記憶を追想することに意識を集中する。

 

 窓から見える景色は闇に包まれており、夜遅い時間だと示していた。

 

 それなりに立派な部屋だから……終戦後か? 

 基本的に野宿が大半だったから少なくとも序盤では無い。

 

『なんだい?』

『その…………本を、返しに来ました』

 

 一人称視点で勝手に動くからなんだか気持ち悪いんだよな。

 戦闘時じゃないだけまだマシだが、乱戦の追想とか最悪すぎて何も言えない。目が覚めたら寝ゲロしてる事が大半だから出来るだけ避けたいのに、絶対役に立つ情報があるから見逃すわけにいかないのだ。

 

 やれやれ、勘弁してほしいぜ。

 

『失礼します』

 

 何かを執筆していたのか、机の上にペンを置いて振り向いた。

 扉を開いて入って来たのは銀色の髪をかわいらしくポニーテールで纏めた少女。左目に眼帯をしているが特徴的な赤目が良く目立っていて────おい待て。

 

『何もこんな時間に来なくても良かったのに……』

『うっ…………続きが気になってしまって』

『そんな面白いモノじゃないけどなぁ』

 

 うげ、ダイレクトに嫌~~な感情。

 

 少しもやっとするような感覚が胸の中で渦巻いている。

 こんな簡単にヘラるような人なのに表に一切出さないように生きてたの、マジで超人すぎるだろ。あんだけ強いテリオスさんですら表に吐き出してしまうのにどうして隠し通せたんだこの人……。

 

 っと、それはそれとして。

 それよりも今は相手だよ相手。

 

 なんか見覚えがあるんだよな~~、この銀髪赤目の女! 

 

『い、いえ! そんなことないですっ』

『ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ』

 

 真正面に立った姿は見慣れない筈なのに既視感しかない矛盾を俺に見せつけてくれた。

 魔祖にボコボコにされた時と然程変わらない容姿だから……予想から大きく外れてないみたいだな。終戦直後、もしくは終戦に近い時期で間違いなさそうだ。

 

 そんな俺の考察を置き去りに、かつての英雄は嘆息しながら呟いた。

 

『言われたから書いてるけど、僕にこういう才能はないね。本職に任せたいのに……』

『好き勝手盛られるんでしたっけ』

『非常に残念なことにね』

 

 やれやれ、なんて言いながら伸びをする。

 ここを見るのは初めてだ。この記憶と共に生きてきて十年近く経ったのだが、いまだに見ることができていない部分が圧倒的に多い。

 

 幼い頃に一気に見て以降、たまにしか見ることのなくなったかつての記憶。

 

 面倒臭い。

 いっそのこと全部見せてくれれば踏み込めるかもしれないのに、俺からは一切干渉できないのが腹立たしい。

 

『英雄譚、なんて大層な呼ばれ方しなくても……日記じゃだめかな』

『に、日記……だめですよ! 貴方は英雄(・・)なんですから』

 

 英雄。

 

 かつての彼は、『英雄になりたい』と願った。

 それは戦争を終わらせる象徴になる必要があったから。国を超えて泰平の世にするためには、一個人ではあまりにも矮小すぎたから。

 

 彼は大きな象徴になることを選んだ。

 

『英雄、ね…………』

 

 ぐええぇ〜〜っ! 

 ダイレクトにドロドロする負の感情俺に伝えないでくれますか? 俺の劣等感とアンタの劣等感どっちも感じて最悪だし、なんで俺以上に何もかも持ち合わせてる癖に英雄コンプ煩わせてんだよしばくぞ。

 

『そんな大層な人間じゃないのに』

『そういう事言ってたらアステルさんに怒られますよ』

エイリアス(・・・・・)が言わなきゃ怒られないさ』

 

 はい確定〜〜〜〜っ! 

 現代よりもスレンダー(やんわりとした表現)なボディラインを保ったこの女は予想通り師匠だった。銀髪赤目がそもそも希少種だからな、自然発生するにしてもめっちゃレア。

 

 そういう意味合いでいうと師匠は作り物だから少し別ジャンルになるな。

 

『別に、言いませんけど…………でも』

 

 本を胸に抱き、少し頬を赤く染めながら呟いた。

 

『誰がなんと言っても、私にとっては──英雄なんです』

 

 ………………………………。

 

 なるほどね。

 

 ッスウウゥ〜〜〜〜…………

 

 俺、もしかして色々やらかした? 

 迂闊な事言いまくってないか。もう取り返しのつかないような発言しまくってるんだけど。

 

『…………そっか』

 

 勝手に動く身体は、まだ人間だった頃の師匠の頭を撫でくりまわす。

 あわわっ、なんて言いながら甘んじて受け入れている姿はとても新鮮だ。俺が頭を撫でられる立場だからな、あまりこういう機会はないしする気もなかった。

 

『それ、あげるよ』

『えっ……い、いいんですか!?』

 

 胸に抱えていた本を指さして、かつての英雄が話を続けた。

 

『公式に残すのは本職に頼んで、他人から見た僕を描いてもらう。僕が遺した記録は、君に持っていて欲しいんだ』

 

 あ? 

 

 あぁ? 

 ンンンン〜〜〜…………

 

 …………あっ。

 

 も…………しかして……アレか。

 此間師匠が寝てる俺に悪戯しにきた時に言ってた文献って、もしかしてコレのことか!? 

 

『は、はいっ! 命と同じくらい大切にします!』

『いや、そこまで大事なものじゃ……』

『大事です!!』

 

 今一度、強めに抱きしめて師匠は言った。

 

『私の…………憧れ、ですから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………くそが」

 

 第一声で呪詛を吐き散らしながら、窓から差し込む光を遮るように目を瞑る。

 あ〜〜〜〜〜も〜〜〜〜〜いっつもこうなんだよな! 英雄の記憶を見るといつもこうなるんだ。いい所で場面が終わって只々俺が生活しづらくなる情報だけが与えられる。

 

 もしかして俺のこと嫌いなのか、かつての英雄。

 

 身体を解すために少しだけ伸びをして、深呼吸を一度する。

 心拍数に問題はなし、思考もクリア。体調に問題は一切無いが、精神的な負担が寝てる間に増えるとかいう人体の歪さを発見してしまった。やれやれ、また一つ俺が上の位階に上がってしまったな。

 

 ていうかいい匂いするんだけど。

 美味しそうな匂いがするので、誰か俺の家に侵入してるのは確実。家主を放置して飯を作る人間に心当たりがありすぎるので迂闊に通報もできない状況です。

 

 扉を開いて寝室から出ると、ナチュラルに食卓に座ってる二人の女がいた。

 

「あ、おはようロア。ご飯あるよ」

「おはようステルラ。それより先に言うことがあるんじゃないか?」

「…………きょ、今日もかっこいいね?」

「当然だな」

 

 いや違うが。

 人の家に普通に侵入してることをおかしいと思えよ。

 モグモグ口を動かしてる銀髪赤目の女はにっこり笑っている。ぶっ飛ばすぞ。

 

「まあいいだろう。俺は寛大で心優しい聖人ゆえ、少し機嫌が悪くなった程度で怒り狂うような愚か者ではない」

「ロアは優しいよね」

「……なんだお前」

「褒めたら怒られた!?」

 

 脈絡なく褒められる方が怖いだろ。

 唐突に俺が「ステルラかわいいねチュッチュ」とか言い出したらめっちゃキモいのと同じで、冗句に対して真摯に褒め殺しという手段を用いられるとやるせなくなる。

 

 そんな俺の内心を悟っているのか、銀髪赤目のバカ女は口の中のものを飲み込んでから話を始めた。

 

「照れてるだけさ。あまり気にするものじゃないよ」

「わかった気になるなよ不法侵入者」

「これは前も言ったが、この部屋を借りてるのは私だ。君の住居登録はされていても実際の借主は私、要するに私もこの部屋に住んでなんの問題もないわけだ」

「歳の差がね……」

 

 あぶねーな。

 負けそうになったからとりあえず年齢を突きつけることで引き分けに持ち込んだ。師匠は顔と身体がマジで満点なんだが、年齢いじりをすると一瞬で沸騰するくらいコンプレックス抱いてる。別に深く傷ついてるわけじゃ無いと思うから俺もやめないし、師匠もやめろとは言ってこない。

 

 ぷすぷす焦げたがそこまで苦しくないので放置、ステルラの皿に乗ってる野菜を摘む。

 

「あっ、行儀悪い」

「気にするな、テーブルマナーなんか俺の家には存在しない」

 

 ドレッシングもかけてないただの野菜だが素材の味が口全体に広がって青臭い。

 そこら辺の野草に比べれば遥かに健康的で人間の体に適した味なので気にはならないがな。常識的に考えて人が管理して作ったものより天然で採ったものが安全なわけがない。

 

 病原菌が潜んでる可能性があるし、生の虫とか絶対食っちゃいけない筆頭だ。

 

 俺? 

 俺は食ったよ。

 それしか食うものなかったからな。

 

 そしてマナーなんて存在しないと言いつつも、立ったままで食べるのは普通に食べづらいので椅子に座ったのだが…………

 

「ちょっと待て。なんで椅子が増えてるんだ」

「なんでって……そりゃあ使うからさ」

 

 ???? 

 

 なんで俺の家は一人暮らしなのに四人分以上の椅子があるんだよ。

 おかしいだろ普通に考えて。 

 

「どうせ君の家は溜まり場になってるし問題ないんじゃないか?」

「ざけんなバカが、俺のプライバシーを返せ」

「ハッハッハ、そんなもの森に埋めてきただろうに」

 

 ……すぞ…。

 

 山よりも高く海よりも以下略な心を持つ俺としても怒るべきラインは存在している。

 こうやって表現することも数えるのが億劫なくらいだが、もうめっちゃライン越えしてるんだよなこの女。そろそろ俺の怒りというものを見せるべきなのかもしれない。

 

「じゃあ俺もステルラからプライバシーを奪う。それで対等だ」

「私!?」

 

 何『私は何もやってないのに、酷い……』みたいな顔してるんだ。

 家主の了承を得ずに家に侵入している時点で同罪に決まってんだろ。あとお前からプライバシーを奪えば俺が好き勝手出来るから代償としては丁度いい部分もある。

 

「あんな事やそんな事をしてやる。覚悟しておけよ」

「あ、あんな事……」

 

 喉を鳴らして頬を少しだけ赤く染めているが、具体的には金を出してもらったり食事を作って貰ったり身の回りの世話をしてもらう事で一切性的な要素は含んでいない。

 確かに最近ボディランゲージ(接触型コミュニケーション)が多くなっているとはいえそこまで困っている訳じゃあない。ていうかそもそも、ステルラが女性として滅茶苦茶魅力的かと言われれば別にそこまでというのが世間の評価だろう。

 

 可愛いし身長もそこまで高くはない。

 笑顔が魅力的というのがミソなのだが、実はステルラは普段から笑いまくるタイプじゃない。

 

 昔はよく笑っていたんだがなぁ……

 成長すれば変わっていくのは当然だが、俺はこいつが笑ってる姿が好きだから出来る限り笑っていて欲しい。でも不憫な時のステルラも割と好きなんだよな。

 

 以上、生涯外に出す事の無い俺の感情。

 

「どうせ食事とかお金とかだろうに」

「よくわかってますね。流石は師匠だ」

 

 再起動に時間が掛かるステルラを放置して、用意されてた取り皿におかずを盛る。

 食文化に関しては明るくないのだが、三人で食事を摂る時はなんとなく故郷の飯に寄せている。大層なもんじゃないけどな。

 

 別に誰かが言い出した訳でもない。

 なんとなく、それぞれがそういう風に寄せているだけだ。

 

 皿に盛ったおかずを口に放り込んで咀嚼する。

 

 懐かしい味だ。

 俺にとっては十年近く離れていた味ではあるが、実は師匠も何回か山籠もりの時に作ってくれてるからそこまでノスタルジーを感じている訳ではない。

 

 十年。

 

 親に会わなくなってそれくらいの時が経つ。

 

 今、どうしてるんだろうか。

 師匠から元気にしているという報告は聞いているが、顔も見ていないのだ。俺に親の立場はわからないが故に想像するしかなく、子供が成長していく過程を見る事が出来なかったのはどう思ってるんだろう。

 

 師匠はそこら辺の話を俺に一切しない。

 俺は家族との話し合いの場には同席しなかった。俺が援護しても意味はなく、師匠がいかにして両親を納得させるかどうかの話であるからだ。

 

 そこそこ小賢しいとは言っても俺は所詮子供。

 立場も何もない俺があの手この手を使うより、立場もあり合理的で倫理的な言葉を扱える師匠に任せるべきだと判断したのだ。だって俺はやりたいって言ってるのに反対するんだもん。毎日ヘトヘトになって帰ってきてるのにそれ以上に苦しむかもしれないなんて言うからだよ、全く。

 

 少しくらいは嘘ついてもいいのにな。

 

「どうしたんだい?」

「俺の親はどうしてるのか気になっただけです」

「…………会いたいか」

「そりゃまあ。出来る事なら元気な内に顔は見ておかないとな」

 

 いくら俺に前世の記憶らしき何かが混在すると言っても、俺は俺。

 ロア・メグナカルトという一個人であると認識しているし、産み育ててくれたのは紛れもなくメグナカルト家の人間である。途中から師匠が親代わりとして育ててくれたがそれはイレギュラー、

 

 記憶の代償かは知らんが高熱を出した時に献身的に救おうとしてくれた事を忘れるわけにはいかない。

 

「勘違いするなよ。俺は今の(・・)人生後悔だらけではあるが決して呪うつもりはない」

 

 俺が必要だと考えたから師匠に願ったのだ。

 誰かの手を借りないと強くなれない事を理解し、非常に不服ながら、本っ当~~~~に嫌だけど師事をしてもらいたいと思った。努力はクソだが役に立つゆえ、才能がない俺に残された道はそれしかなかったんだ。

 

「だからいちいちそんな顔をするな。俺は貴女に感謝してるさ」

「……すまない」

 

 俺は子供だが、だからと言って大人に対して過剰な希望を見たりはしない。

 そりゃあ魔祖とか魔祖十二使徒は長生きだし、その分色々経験してるだろう。そこら辺のめっちゃ経験豊富そうな老人以上に年齢を重ねてるのだから頼れるのは間違いないのだが──完璧じゃない。

 

 人は何処か完璧じゃない部分がある。

 外面を完璧に見せようとしたところで上手く行かないのさ。

 

「────で、何時頃帰省する」

「そうだねぇ……私は後半忙しいから、先に行っておきたい気持ちはある」

 

 フーン、後半忙しいのか。

 

「俺は師匠に合わせるぞ。何にも用事がないからな」

「それはそれで悲しい話なんだが……」

 

 暇万歳、暇最高。

 暇と自由という単語には夢が詰まってるんだよ。

 

「ステルラは?」

「私はいつでも…………お母さんもお父さんも去年まで一緒だったし」

 

 確かに。

 

 もしかしてどうしても帰省しておきたいのって俺だけか? 

 

「じゃあ明日から一週間くらい滞在って形で構わないかい?」

「それでいいっすよ」

「私も!」

 

 もしゃもしゃと野菜を口に放り込みつつ、予定も決まったから先程の記憶について考える。

 

 あれは師匠の若かりし姿で間違いない。

 魔祖にボコられるというか、英雄一行(便宜上の呼び名)に出会うまでは人体実験によって作り上げられた殺戮人形(キリングマシーン)だった筈だ。

 

 そこから解放されたのも英雄が全部を叩き潰したからで、その点を踏まえて師匠は『私の英雄』と言っていたのだろうか。

 単に好きだから言ってる説も否めないけどな。師匠が英雄に惚れていたのは記憶の中からも推測可能であり、尚且つエミーリアさんとかロカさんとかの揶揄い方を見るに確実なモノだろう。

 

 今でも好きなのかは知らん。

 

 俺を見る目から察するに、愛情は持ち合わせていても色恋のような感情は無いんじゃないだろうか。

 

 少なくとも俺に対しては、だが。

 好きな男が死んで数十年引き摺って隠居生活してるんだからそりゃもうドロドロのドロに決まってる。なぜ俺の事を『英雄』として育て上げたのかは、本人のみが知るところだ。

 

 俺個人としては意を汲んでくれたのだと解釈している。

 才能が無くて、それでもどうにかこうにかして惚れた女に追いつきたいから強くなりたいと願う子供。英雄の軌跡を描いていたから導いてくれたのか、俺自身を見てくれたのか。出来る事なら後者であることを願いたい。

 

「なあ師匠」

「なにかな」

「こないだ言ってた“英雄”の文献、見たいんだが」

 

 ダメもとではあるが、とりあえず話を振ってみた。

 実際彼が記した本であるなら喉から手が出るくらいに見たいし、そうじゃなくても十二使徒が抱えている秘密の文書は気になってしょうがない。

 

 少しだけ目を細め、マグカップを口元に寄せてつける寸前で止まる。

 

「…………そうだな」

 

 やはり師匠にとっても大事なモノなのだろう。

 俺が欲しいと言う機会はそれなりに多いのだが、ここまで深く思案する事は無かった。

 

「ロアがステルラに勝ったら、見せてあげるよ」

 

 はい出ました~~~! 

 

 すーぐそうやって○○やったらって条件付けるんだからさぁ! 

 

「ふふっ。いいじゃないか、勝てば見れるんだから」

「ステルラに勝つってのが難しいんだが……」

「負けちゃうのかい?」

「バカが、負ける訳ねぇだろ」

 

 なっ、ステルラ。

 肩に手を回して同意を求めたが、どうやらお気に召さなかったのか紫電での返答が来た。

 

 少しピリピリするな。

 

「負けないもん!」

「負けてくれなかったら俺はステルラの前で死ぬ」

「え゛っ」

 

 勿論嘘だし全力を出してくれないとキレるのだが。

 全力じゃないステルラに勝って何がある。そんなもの勝ちじゃない。卑怯な手段で勝ったところで一体誰が俺を褒めたたえると言うのだろうか。

 

 俺は納得しない。

 正面からぶつかり合って勝利して、やっと証明できるのだ。

 

 俺を信じてくれた人に。

 俺に期待してくれた人に。

 俺を、育てて導いてくれた人達に。

 

 親不孝者が出来る唯一の親孝行がソレだ。

 

「嘘に決まってんだろ」

「えっ、あっ…………もー!」

 

 こんなに可愛い反応をしてくれるのにどうしてあんなに強いのだろうか。 

 その華奢な身にどれだけの才が込められているのか。

 

「俺は全力のお前じゃないと嫌だ。わかってるだろ」

「も、もも勿論わかってたから!」

 

 絶対わかってなかったな……

 師匠と共に懐疑的な視線を送ってしまった。

 

「まあ、こういう所がステルラらしい」

「そうだねぇ。君も気に入ってるだろ?」

「勿論」

「ロアの意地悪……」

 

 最近こういう日常の割合が増えて来たな。

 殴られたりするより全然こっちの方が好みだ。自堕落でありたいという俺の想いが成就する日は果たして訪れるのだろうか。

 

 頬を膨らませながらもりもり飯を食らっている幼馴染。

 呑気だが、その呑気な状態こそがステルラの最も魅力に見える時だ。

 

「…………何?」

「いいや。お前はなんだかんだ言ってステルラのままだ」

「……………………そう、なんだ?」

 

 ああ、そうなのさ。

 

 マグカップを手に取って、一口。

 

 夏休みの後半は師匠が居ない。

 ならば前半でひたすら遊び尽くすしかない。思い出は作らなければ存在しないが、作りすぎて消える者じゃないのだから。

 

 暇出来ると思うなよ。

 

 静かに、それでいてゆっくりとだが。

 確かに俺達三人の日常を過ごす休日も、まあ、悪くはない。

 

 

 

 

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