【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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第二話

 三人で過ごした休日を終えて、翌日。

 昼頃に俺の家に集合し、そこそこ荷物を抱えたステルラと鞄一つの俺という対極な装備で固めた一行はテレポートによって一瞬で故郷へと転移した。

 

 馬車で一週間、転移で一瞬。

 いや〜〜〜、楽でいいね。俺は楽と快楽と堕落をこよなく愛する男、手を抜くことに関しては誰よりも研究を重ねていると自負しているがこれほどまでに楽だともう離れられんな。

 

 一生師匠に世話してもらおう。

 

 そんなどうでもいい思考を尻目に、ボケーっと空を眺めていた俺に声をかけてきた。

 

「懐かしいかい?」

「十年ぶりだ。覚えているようで覚えていないような景色だな」

 

 故郷(ふるさと)

 確かに俺にとってここは生まれ育った地であるのだが、それ以上に山での暮らしが強烈すぎて塗り替えられているような感覚だ。

 

 なのに覚えているのだから、子供の頃の記憶というのは案外舐めたものではない。

 

「君にとっての故郷は間違いなく此処だ。私との暮らしは別物だよ」

「そうですかね。俺は結構師匠と暮らした数年間を大切に思っていますよ」

 

 大切に思わなきゃやってられねぇ。

 毎日答えのない拷問を受けているような気分で陰鬱とした精神のまま成長を重ねた俺を慰めるにはそれしかなかった。大切だったよ、あの日々がなければ俺はきっと後悔していた。

 

 取り返しのつかない間違いを犯す所だった────そうに決まってるんだ。

 

「そうじゃなきゃ昔の俺があまりに不憫だ」

「ああ、そういうやつ……」

 

 師匠が少し眉を顰めているが、不機嫌な様子ではない。

 なんだかんだ言ってこの人は俺の人生を預かっているという事実を滅茶苦茶重たく認識している。具体的にはお小遣いをねだると絶対多めにくれる所とか、学園に通わせてその後の進路を提示してくる所とか。

 

 百年以上生きてるからと言って精神的に超越したかと言われればそうじゃない。

 

 人並みに傷つくし人並みに悩むし人並みに苦しむ。

 

「何度言ったかわからんが、俺の人生に関して師匠が気に病むことは一切ない。俺は俺の目的があって師事を仰いだ、師匠はそれを受け取った。途中でやめるチャンスをいくらでもくれたのは忘れてないさ」

 

 みんな他人を過大評価しすぎ。

 人は人であるという点から逃れられないし、思っているより自分は優秀じゃないし、思っているより他人も優秀じゃない。考えていることが想像もつかないとは言え培った常識が存在し、また、彼ら彼女らにも各々の家族や人生が存在している。

 

 言わなくても伝わる、なんてのは幻想だ。

 

 ま〜〜じで何度もこう言ってるんだが、全然信用してくれない。

 これだけ本音をぶちまけてるのにいまだに信用されないのは少し悲しくなってくるぜ。

 

「…………相変わらず、ロアは優しい子だ」

「他人に優しくしておけばいつか報われる日が来るかもしれないからな」

「わ、私も師匠に鍛えられて感謝してます!」

 

 俺と師匠の会話に入り込む幼馴染。

 ふっ、お前は典型的なコミュ障だからな。自分一人だけ取り残されているような感覚に耐え切れなかったんだろうが、その程度俺たちは予想可能だ。

 

「……ふふっ。ありがとう、二人共」

 

 うむ。

 本当にダメな奴はここで『年下に慰められるなんて、本当に私はダメだ……』ってヘラるからな。その点師匠は真っ直ぐに受け取ってくれるからイイ。

 

「で、だ。此処はどこら辺だ」 

「西地区だね。懐かしいんじゃないか?」

 

 お前悪魔か? 

 先程まで師匠に優しくする優男ムーブをしていたが、今この瞬間取りやめることを決意した。

 

 俺の家は東地区にある。

 此処は西地区。若かりしステルラが覚えたての身体強化魔法で爆走し十分程度で来てしまった場所であり、俺にかつての英雄の最期を見せる原因となった因縁深い場所だ。

 

 そしてシンプルに家まで遠い。

 めんどくせぇ、一発で家まで連れてってくれよ。

 

「あの後ステルラに引き摺られ空を駆けたのは今でも根に持っている」

「も、もう! 子供の頃はノーカンでしょ!」

「今も大して変わらんが……まあいい。子供じゃなくてもルーチェとやらかしてるしな笑」

「う゛あ゛っ!」

 

 致命傷だったのか、ステルラが崩れ落ちて四つん這いになった。

 プルプル震えた後に頭を地面に打ち付け、周囲に人目がないのを良いことに暴れ出す。

 

「あ゛ぁーッ! 子供の頃に戻りたい!! やり直したいよぉ!」

 

 壊れちゃった…………

 

 好きな女がジタバタ暴れるのを悲しい目で眺めることになるとは考えていなかった。

 俺は子供の頃に絶対絶対絶対ぜぇ〜〜〜ったいに戻りたくないのだが、ステルラほど色々持っているならそりゃあ戻りたくもなるだろう。未来から巻き戻ってはい俺つえーは全男児の憧れだからな。

 

 勿論俺も妄想したが、別に子供になったからと言って今と思考も知っていることも特に変化がないので単純にまた苦しむだけなので諦めた。

 

 虚しくなるな、やめよう。

 

 師匠と目線を合わせて、無言で頷いた。

 

「師匠、どうにかしろ。アンタの後継者だろ」

「ロアがどうにかしなさい。君の幼馴染だろ」

「二人で押し付け合わないでよぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愚か人間ステルラが落ち着き、軽く周囲を見ながら歩いておよそ一時間ほどだろうか。

 雑談をしながらだったからそこまで長くは感じなかった。むしろちょうどいい運動になって俺も調子が良くなってきた頃合いだったのだが、到着してしまったのだから仕方ない。

 

 師匠は役場に用事があるらしく先に消えていった。

 家のある場所が変わってないのは聞いているので途中まで二人きりで歩き、なんとなく心地いい雰囲気になった。

 

 ステルラと家の前で別れてそこからおよそ三分程度。

 手土産(前日に急遽購入した適当な菓子)を持って実家に向かうと、事前に師匠が伝えていたのか両親が待ち構えていた。

 

「お久しぶりです、母上。それと父上も」

「おかえりなさい。大きくなったわねぇ」

 

 よしよしと頭を撫でようとするが、母上は背が低いので届きそうもない。

 背丈は父上を越えているからな。もうとっくの昔に両親よりも大きくなっていたらしい。

 

「元気だったか?」

「まあまあだな。それなり以上に苦しんだが、それなり以上に納得している」

 

 そうか、と答えると、父上はにこりと笑った。

 皺が増えたな。十年会わない間に俺は子供と言える容姿ではなくなり、二人は老けた。身近にいる人間が衰えを一切感じさせない超越者だから忘れていたが、普通の人間はこうなるのだ。

 

 しみじみと俺が噛み締めていると、空気を全て破壊して母上が問いかけてきた。

 

「ステルラちゃんと交際はしてるの?」

「してませんが…………」

「なんだって!?」

 

 いきなりぶち込んできたなこの女。

 子供にそういう話題を振るのは嫌われやすいぞ。大人は揶揄うように言葉を放つだけだが、幼い子供にとってデリケートな部分を踏み躙ってはいけないんだ。

 

 後父上、なんだってじゃねぇよ。

 何付き合ってるのが前提だと思い込んでんだよ。おかしいだろ。

 

「付き合う付き合わないは明言してない。俺はモテるからな、独占すると悲しむ女の子が多いのさ」

「我が息子ながら中々に気持ち悪いな」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 誰が勘違い男だ。

 勘違いじゃねーし。ルーチェが明らかに好意を寄せてきてるのもルナさんが明らかに俺のことを異性として好きなのもアイリスさんが俺を気に入ってるのも全部勘違いじゃねーし。

 

 これが勘違いだったら死ぬ。

 

「若いっていいわねぇ」

「若気の至りというヤツだ。山暮らしの反動だとでも思ってくれ」

「ああ、なるほどな」

 

 なるほどな、じゃないんだけどな。

 禁欲生活が長かった所為で反動が来てると思われるのが一番丸い。

 

 実際師匠みたいな顔はいい身体もいい最高の女性がすぐ側にいるのに性を発散できないの、控え目に言って地獄だろ。

 

「それはそれとして、俺の部屋ってまだ残ってるのか。残ってないなら適当に寝泊まりできる部屋を貸してくれるとありがたいんだが」

「ちゃんと掃除したぞ。ロアがよく読んでた本もそのままだ」

 

 ありがてぇ。

 さりげないこういう気遣いが助かる。

 十年間顔を合わせていなかった家族とか少しギクシャクしてもおかしくはないんだが、そういうのを一切感じさせないように配慮してくれている。こういう所なんだよな〜〜、こういう所。

 

「助かる。一応これが土産だ」

「あらまぁ、ロアがこんな風に気遣いできるようになるなんて……」

「まるで俺が気遣いできてないみたいな言い方になってますが、昔から俺は気遣いが出来ていたと自負しています」

 

 主にステルラに対して。

 

「昔から妙に聡い子供ではあったからなぁ。神童か、なんて思ったこともあったんだが……」

「ステルラちゃんが居たからあんまりそうは思わなかったわねぇ」

「その話はやめてくれ。俺に効く」

 

 古傷に響くぜ。

 あ〜あ、俺にも俺つえーできる時期があったんだけどなぁ〜〜! 

 まじで一瞬で消え失せた俺の最強時代はどこにいっちまったんだよ。ステルラの登場と共に俺は一般人に堕とされたんだ。あの頃の自信はもう取り戻せそうもない。

 

「さてと。いつまでも立ち話もなんだし、顔合わせするか」

「そうねぇ」

 

 顔合わせ? 

 

 ボケっとする俺を置いて母上が家の中に入っていった。

 

「誰と顔合わせするんだ。祖父や祖母はいなかったと記憶しているが」

「同居はしてないもんな。そっか、会った頃の記憶は流石にないか」

 

 ううむ、覚えていないな。

 俺が子供の頃から色々覚えているとはいえ、赤子の頃の記憶はない。

 

 それを考えると祖父や祖母にも悪いことをしているな。

 孫が顔すら見せないまま十年経過してるのに成長過程がわからないのって普通は悲しい出来事なんじゃないだろうか。俺は子供を持ったことがないし保護者と呼べる年齢でもないから想像に過ぎないが、子供の成長が楽しみという人たちも一定数以上いることを知っている。

 

 また一人、しっかりと向き合わなくちゃいけない人達が増えたな。

 

 そんな風に待つこと一分程度。

 扉が開き、中から母上ともう一人──小さい子供が出てきた。

 

「…………ちびっこだ」

 

 子供なんだが…………

 さっきまで想定していた流れが完全に崩れた。祖父と祖母の話はどこ行ったんだよ、父上の口ぶりはブラフだったのかよ。

 

「ほら、よく話してるでしょ? お兄ちゃんよ」

 

 ……………………? 

 

 思わず思考停止してしまった。

 

 お兄ちゃん。

 そうか、俺の妹か。

 

 は? 

 

 母上の身体から少しずらして顔を見せた少女は、覇気のない瞳のまま俺のことを見つめる。

 

「はじめまして」

「……はじめまして」

 

 動揺したまま返答してしまったが、少女はそれを気に留めることもなく身体を翻す。

 身長で言えば俺の腹部とかそこら辺まで、幼い顔立ちから齢も十に満たないくらいだろう。つまりこの子は、俺がいなくなってから数年で誕生した妹である。

 

「スズリ・メグナカルトです。これからよろしくお願いしますね、お兄ちゃん」

 

 ぺこり、と。

 やたらと綺麗な作法で一礼する妹に対して、よろしくと答えるのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 




最近忙しかったのでリハビリ中です(執筆)
前のペースで投稿するのは厳しいかもしれませんが、ご理解頂けますと幸いです。
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