【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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第八話

 夏休みに突入してから大体一週間。

 帰省の一週間をそれなりに満喫し満足したので、今度は誰にも邪魔される事のない一人暮らしを満喫する事になった。

 

 目が覚めるのは正午を過ぎてから、だらだら布団で本を読んで腹が減ったら身支度を始めて夕方辺りに外に出る。幸い夏休み期間中という事で師匠からそれなりの金額を支給して貰ったので豪遊可能だ。

 

 飲食店に一人で行って、食べ物を頼んで腹を満たす。

 後は気の赴くままに夜を嗜むのさ。

 

「これ美味しいですよロアくん。はい、あ~ん」

「あ~~」

 

 口の中に放り込まれたデザートをもぐもぐ咀嚼して、甘さと酸味が程よく合わさった旬の果物を贅沢に使った一品を味わう。

 

「美味い」

「良かった。結構気に入ってるんです」

 

 表情は変わらんが、ルナさん的には良かったらしい。

 

 は~~…………

 なぜ一人を満喫している筈の俺が首都デートに連れ出されてしまったか。

 別に特別何かが起きた訳でもないのだが、朝起きた時点でルナさんが部屋にいた。

 

『おはようございます、ロアくん。今日もいい寝顔を堪能させていただきました』

『そうですか。満足したなら早めに出て行ってもらえると嬉しいんですけど』

『こんな美少女にそんな事を言うだなんて……罪深い男ですね』

『美少女、ね……(背丈を見つつ)』

 

 子供の女の子だね。

 そういうニュアンスを込めて視線を送った。

 

 額に青筋を立てたルナさんに消し炭にされる寸前だったが、心優しい美少女がデート一回で許してくれると言ってくれたのでそれに肖ったのだ。

 つまるところ俺の所為。

 自業自得。

 

 でも責任を他人に投げる事は止めないよ。

 そうすることで自分の心を平穏に保つことが出来る。

 自分が悪いと自責の念を抱くのは徳を積めるかもしれないが、かわりに荒んだ日常を送る事になる。

 

 それならば俺は他人に全てを擦り付ける畜生に落ちよう。

 あと面倒くさいから他人に全部助けて欲しい。

 あ~~、めんどくせぇな。

 

「ふふふ、恋人同士にしか見えなくないですか? 私たち」

「恋人同士ではありませんけどね」

「む~~、そういう時は合わせて下さいよ。ホラホラ」

「はいはい甘えん坊でちゅね〜」

「灼きますよ」

 

 ヒェッ…………

 

 人を灼くことに恐れを抱いていた筈の少女はいつしかトラウマを払拭し嫉妬と刑罰の炎を降らせるようになってしまった。

 

 怖いね。

 

 ずずず、と音を立てながら珈琲を啜る。

 普段から飲むには少し苦すぎるが、甘いものと一緒に摂取すると世に存在している飲料の中でもトップクラスに君臨する。

 

 俺は別に味にうるさくはない(うるさかったら数年間の生活で餓死している)が、どちらかと言えば甘めの味付けが好みだ。多分これを知ってるのは現状ルーチェと師匠だけ、ステルラは手料理が残念なので知らない。

 アイリスさんも家事うまそうなイメージを勝手に抱いているのだが、どうだろうか。

 

「別の女の子の事考えてますね?」

「ええ」

「ええ、じゃあないんですよ」

 

 ムキーッ、とルナさんは威嚇してきた。

 だが残念だな、俺にその手は通じない。

 なぜならルナさんにはそれなりに常識があるからだ。

 

 ルーチェのように場所を問わずに手足を出して破壊しようとする悪魔のような倫理観ならば警戒するに越したことは無いが、幸いルナさんはそんな事をするような人ではない。

 どちらかと言えば止める方……ではないかもしれないが、好んで攻撃をしようとはしないだろう。

 

「どれ、ちょっと貸してください」

「? 構いませんけど」

 

 ルナさんから食器毎奪って、テーブルマナーに従った作法で切り分ける。

 

 俗にいうケーキという奴だな。

 流石にその方向性には明るくないから原料がなんだとかは知らんが、とにかくふんわりしていて甘いクリームと合わせて食べると美味い。果物が一緒に入ってても美味い。

 

「はい、あーん」

「────……あ~ん」

 

 素直に受け入れてもぐもぐと咀嚼している。

 そのままルナさんが口を付けたフォークを使って、俺も続けてケーキを頂く。

 

 甘いクリームと絶妙に乾いた生地が混ざって美味い。

 果物の酸味が僅かに感じられるのもいいポイントだな。

 

「俺一人だと入らない店、食べない料理。新しい楽しみを知れたのはルナさんのおかげです」

「…………なら、良かったです」

 

 ふん、余計な心配はしなくていい。

 俺は自分から出掛けたとしても新たな環境を手に入れようとはしない。

 今いる環境が好きなんだ。自分から手を広げて失敗した時に責任を取れるのは俺しかいなくて、そのリスクを背負うのは少々面倒くさい。

 

 だから、誰かと出掛けるのは結構好きだ。

 結果的に言葉で文句を吐いていたとしても、どうせその内感謝する事もある。

 気負う必要はない。

 

「特に喫茶店はイイ。本を読んでいても怒られないし、いつまでも居座っていても怒られない。一日で数冊消費できる」

「そういう換算なんですね。勿論私も持ってきました」

「いいですね、何の本ですか?」

「お師匠がくれた昔の本です」

 

 は? 

 

 表紙は古びており、沢山の年月を重ねているのが一目でわかった。

 ていうか……それ…………あのさ……

 

「ふふん、どうですか。たぶん現品限りでしか存在してない百年前の本です」

「ルナさん、俺と資産共有しませんか? 俺から出せるカードは師匠が隠し持ってる英雄の書物です」

 

 バチバチと視線が交差する。

 

 ──私が八割独占します。

 ──せめて俺に五割くれ。

 ──だめです、譲りません。

 ──ならこっちだって譲らん。

 

 …………ふう、とお互いに溜息を吐いて矛を収める。

 

 俺達は与えられた餌で一喜一憂する他ないのだが、魔祖十二使徒は長く生きている特権を十二分に活用してくる。

 

 ずるくね? 

 俺も死ぬ間際に英雄カミングアウトして死んでやるからな、一生俺の事を忘れられないようにしてやるからな。覚悟しとけよ超越者共。

 

「仲良く折半しましょう。因みにこの中身はお師匠と英雄が出逢った時の話が書いてあります」

 

 書物には逆らえなかったよ…………

 俺の大目標は未だにステルラを死なさない為に強くなることだが、それとは別に成し遂げると心に決めていることがある。

 

 英雄の全てを公表する。

 残ってる問題も解決して、因縁も全部ケリつけて、そうして纏め直す。

 

 断片的に誰かの手が入った情報ばかりでは物悲しいだろ? 

 創作は創作のまま残っていても構わんが、それはそれとして真実を知って貰いたいのさ。

 

 俺は彼が正当に評価されないのは腑に落ちない。

 

 ルナさんは一度息を吐いてから、変わらない無表情のまま話を続ける。

 

「相変わらずロアくんは“英雄”の事が好きですね」

「尊敬はしてます。なりたいとは思いません」

「でもロアくんの生き方は彼の人物に劣っていないと思います」

 

 それ褒めてんの? 

 苦しみ抜いたという点に於いては確かに共通点があるだろうが、生憎彼と俺では天と地ほどの差があると言っていい。

 

「謙遜も過ぎれば嫌味になる。ロアくん、そろそろ素直に認めてもいいんですよ?」

「まあ俺がカッコいいのは事実ですからね」

「否定はしませんが……」

 

 ルナさんは優しい人だ。

 大方俺が自己否定を繰り返してる事を案じてるんだろう。

 

 安心して欲しい。

 俺は決して人格(アイデンティティ)を無くさない。

 自堕落で面倒臭がりで異性に金銭も集るし飯も要求するし世間的にみれば良くないであろう行動は一通り行える度胸は持ち合わせているぜ。

 

「俺は自分の功績なんかどうでもいいんですよ。誰かの手を借りなければ成し遂げられないのに自分の成果だと胸を張るのは少々心苦しく感じるし、そもそも名を挙げたい訳じゃないので」

 

 そこら辺はきっちりしていきたい。

 

 本質を見失わなければそれでいい。

 俺がここまで苦しみ続けているのは大切なものを失くしたくないから。

 

「ね、ロアくん」

「なんですか」

「前に言っていた、『渦巻く因果は全て英雄の名の下にある』という言葉の意味。教えてくれませんか?」

「それは無理ですね」

 

 チッ、忘れてなかったか。

 ルナさんが想像しているよりも重たい感情を俺に向けて来たから勢いで言ってしまった俺の黒歴史。

 

 匂わせとかそういうキャラじゃないだろ。

 バレたらヤバいのは理解してるから出来るだけ否定しまくってるんだが、うっかり漏らしてしまったのはひたすら誤魔化すほかない。

 

「ステルラさんやルーチェさんは気が付いてないと思います。アイリスさんも当然気が付いていませんし、私だけがこの立場に居るからこそ疑問に抱く事が出来ました」

「皆目見当もつきませんが……」

「ロアくん。幼少期から学園に入るまでの期間、ずっと山にいたんですよね」

 

 あれ? 

 これマズイ流れじゃないか。

 かなり本格的に追い詰められ始めてる気がする。

 

「エイリアスさん以外の十二使徒に会ったことは無かったと聞きました。でも君は、お師匠(エミーリア)の事を知っていた」

「特徴は聞いていましたから。赤い髪で師匠の知り合いと言えばそれくらいしか俺に思い当たる節は無かったので」

「本当にそうですか?」

「ええ」

 

 白を切る時の面の皮には自信がある。

 普段からこうやってポーカーフェイスを維持しているからこういう時に役に立つ。

 

「エイリアスさん曰く、『剣技に関しては天賦の才』だそうですよ」

「あの人が身内贔屓なだけですね」

「私はそうは思いません。ロアくんの剣技は“英雄”にそっくりってお師匠も言っていましたから」

「世間は狭いですねぇ」

「一人で抱え込むのは辛くないんですか?」

 

 別に抱え込んでる訳じゃないんだけどな……

 単に誰にも言いたくないし面倒な事になるから言ってないだけで。

 言った方が明確に得するんなら言う。でもそれは今じゃないし訪れるかはわからない未来の話だ。

 

「辛い事はありません。俺だけが知っている事があるってのも優越感があって中々楽しいモンだ」

「…………そう、ですか」

 

 どうやらうまい事流せたっぽいな。

 

 好奇心で聞いている訳じゃないのはわかってる。

 多分、俺のことを考えた末に踏み込もうと決断してくれたんだろう。

 

 それくらいはわかるさ。

 ルナさんは優しい人だからな。

 

「心配しなくても何処かに行ったりしませんよ。人知れず消えるような男に見えますか?」

「はい。ロアくんは優しいけど残酷な人なので」

 

 俺程の紳士を捕まえて酷い言いようだ。

 

「女の子が逝かないでって言ってるのに一人で逝ってしまうような男の子はダメですよ」

「俺にどうしろと……」

「たまには振り回されてください」

 

 いつも振り回されてるんだが……

 

 俺から女性を振り回すような事をした覚えはない。

 強いて言うならばルーチェヘラヘラ時期にマッチポンプ染みた接近をしたくらいだ。

 

 アイツはぐいぐい押したら押した分だけ受け入れる女だからな。

 

「ロアくんってそういう所ありますよね」

「そこら辺は他人にどうにかしてもらうつもりです」

「生粋のヒモ気質はどうにもできません」

 

 呆れるような声でルナさんが言った。

 

 俺は幼い頃から少しも変わってないと自負している。

 やる気なし展望なし想望あり羨望あり才能ナシ、これくらいのスタンスを保って生きて行かないと俺の精神が安定しないのさ。

 

「……いつか」

 

 すっかり冷めたお茶に口をつけ、喉を潤してからルナさんが口を開く。

 

「いつか、私に話してください。誰よりも先に」

 

 いつも通りの無表情だが、眼光は鋭い。

 それだけ望んでいるんだろう。俺の秘密を共有する事を────……いや、違うな。

 

 正確には、『俺の破滅するかもしれない可能性』を失くそうとしてる。

 

 これも座する者(ヴァーテクス)の勘ってヤツ? 

 別に身バレすることの恐怖はない。単に面倒臭くなるだろうから隠してるだけだ。

 

「私はロアくんの事が好きです。

 私はロアくんと一緒に居たいです。

 私はロアくんが死ぬことは耐えられません。

 私が一番じゃなくてもいいです。何番でもいいです。愛されなくても構いません。でも、ロアくんには…………」

 

 お、重てぇ~~~~~っ!! 

 

 一回落ち着いてもらうために、手を翳してストップして貰う。

 

 ふーむ…………

 まあ、そう簡単には振り切れないか。

 トラウマは払拭できないからトラウマなんだ。そう易々と誰もが乗り越えられるような薄さはしていない。

 

 きっとルナさんは自覚してる。

 喪失感が胸を締め付けるあの感覚を忘れられてない。他人に比べて重たく、現実味のある悲しみが胸の内をぐにゃぐにゃ巡っているあの感覚を。

 

 俺もわかるんだ。

 彼の記憶を見ていく内に、重たくて強い感情だけが伝わってくる。暗くて、腹の底に溜まっていくような不快感と不愉快な感情だ。劣等感に塗れた俺じゃなかったら耐えられないだろうな。

 

「成った事、後悔してますか?」

「…………いいえ。お師匠を悲しませなくて済みますから」

「俺はルナさんにも(・・)死んで欲しくない。共犯者がいれば気は楽かもしれませんが、不確定な要素を悪戯にばら撒けば何も想定できなくなってしまうかもしれない」

 

 そもそも遺物の正体が不明なんだよ。

 最後の一撃も届いてないだろうし、本体を見れてない。溢れ出てくるのはあの虹色の石で間違いないと思うんだが…………

 

「知ってますよね。俺はステルラの為にこうやって苦しんでると」

「……………………ええ」

そういうことです(・・・・・・・・)。今はそれで満足して頂けませんか」

 

 かな~りやんわりと言ってしまった感じはあるが、ルナさんを信じる他ない。

 

 顎に手を当てて何かを思案するルナさんを尻目に、俺は冷めきった珈琲を喉に流し込む。

 最初から冷えた飲料ならともかく、温くなった珈琲はどうにも好きじゃない。

 

 たっぷり三分程静寂に包まれた後に、ルナさんは俺の目をしっかりと見つめてきた。

 

「……わかりました」

「ただまあ、その代わりと言っては何ですが。俺が困ってる時は助けてくれると嬉しいです」

 

 俺は基本的に無力。

 周りの人が凄いからどうにかなっていて、どうにかしてもらってるだけ。

 

「俺とルナさんだけの(・・・)秘密です」

「────……はい。二人だけの秘密、という事で」

 

 デートと言うには些か物騒な話題だが、少しは気を持ち直してくれたのならそれでいい。

 

 未来の事は未来の俺がどうにかするさ。

 今はただ、二人きりで過ごすこの時間を楽しんでいこう。

 

 

 

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