英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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第四話

「アンタ、私より早く順位戦やるんじゃないわよ」

 

 半ば呆れた表情で言いに来たルーチェ。

 ここは坩堝の控え室、半日授業を終えた俺は非常に不服ながら強制的に組み込まれた順位戦に臨むべく、誠に遺憾ながら待機しているという訳だ。

 

 相手を知らないからマジでどうなるかわからない。

 

「師匠に言え、師匠に。あの人が滅茶苦茶通してるだけだ」

「十二使徒、それも第二席に言える訳無いでしょ」

 

 それもそうだ。

 あの人は俺やステルラの前だとふざけるし素の自分を出すが、公的な場所では一切出さない。滅茶苦茶丁寧だし心底所作も気品に溢れているのだが、どうにも他人感が拭えない。

 典型的な身内には甘いタイプか、ガハハ! 

 

「勝利が見えて来たな。いつか泣かしてやる」

「どういう思考してるのかわからないわ」

「お前も俺と同じ思考にならないか? 共に憎き天才を負かそうじゃないか」

「誰が人の手を借りて掴んだ勝ちを有難がるのよ。私はそんな安い女じゃない」

 

 それに関しては同意する。

 俺は努力が死ぬほど嫌いでそれと同じくらい負けず嫌いだが、師匠にひたすらボコボコにされた後のステルラを倒してもなーんにも気持ちよくなれないだろう。俺がボコボコにしたうえで師匠も纏めて倒すから気持ちいいんだよ。

 

「折れないでくれよ。一緒に追いかけてくれる奴がいるなら、それはそれで良いからな」

「……理由は?」

「ンなもん優越感に浸れる仲間がいればモチベが」

 

 俺は試合前だと言うのに、顔面が凹む感覚を味わった。

 気遣いの出来ない友人を持つと苦労するよ、やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 ♯ 第四話

 

 一足先に会場に入って、ゆっくり身体の確認をする。

 広々とした空間だからこそ出来る安全確認もあるのだ、そう自分に言い聞かせて柔軟を開始する。

 

 俺の身体は所詮凡人なので、そりゃあ耐久度や強靭度は強くなったとは言え最低限の前提を守らねばならない。魔法による身体強化でブースト、初速から音速を越えさせるとかはムリムリカタツムリなのだ。これが非才な人間の限界なんだよね、あ~あ。

 

 まあ、全くの無名である俺の試合も見に来る物好きも多くは無いので観客席に知り合いが二、三人いる位で──なんか師匠が居るんだが。

 思わずギョッと目を見開いてみれば、ニコニコ笑顔で手を振ってくる。

 

 そうじゃね~~~、俺が求めてる反応はそうじゃねぇンだわ。

 

 隣には緑髪の知らない女性もいる。

 その人に視線を向けてみれば静かに一礼されたので、とりあえず俺も一礼して返しておく。

 

 礼儀には礼儀を、軽口には軽口を。

 

 読唇術を使えるような『実はすごい技能』とか無いので、何を話しているかはわからないけど楽しそうではある。

 まあ楽しそうならいいか。賭け事に使われてたら腹立つから許さない。全員俺の勝利を期待してないって事だからな、賭けは不成立なのが俺にとっては嬉しいのだ。

 

 一度途切れた集中を持ち直し、再度深く沈み込む。

 

 思考、問題なし。

 腕部、問題なし。

 脚部、問題なし。

 末端の操作、問題なし。

 指先の感覚、問題なし。

 触れた肌の感覚に差異も無く、五感も問題なし。

 

 今現在、俺の身体は戦う準備が出来ている。

 

 ……あれ? 

 こんなに万全の状態で戦うの初めてじゃないか。

 

 村に居た時は不意打ちで片腕持っていかれたし完全に格上だったから殺される寸前だったし、山籠もり開始してから永遠にボコられ続けてた所為で感覚がおかしくなってしまってる。

 あ、あはは。俺の人生、なんでこうなっちまったんだろ。

 

 視界がぼやける。

 くそっ、こんなので。

 

「あはは、ロア泣いてる~」

「は? 泣いてないし」

 

 お前は来てるなら来てるって言えよ! 

 いつの間にか最前列で身を乗り出しているステルラに返事をしつつ、俺は瞼を拭った。

 

「これは男の苦労が滲んだだけで、決して涙と言う液体ではない」

「むー、相変わらずめんどくさい言い回しするねぇ」

「師匠に言え。これは俺のアイデンティティではなく、全部元凶がいる。あの人も大概面倒くさいだろ」

 

 そう言ってから師匠の方を見れば、額に青筋を刻んでいた。

 

「今なら何言っても大丈夫そうだな。ケッ」

「絶対後でロクな事にならないと思うんだけど……」

「チマチマいくのは性に合わない。俺は何時だって豪快にチャレンジ精神旺盛だ」

 

 パリパリ紫電が滲んでいるので、後で半殺しは確定だろう。

 あ~あ、俺の人生早くも終わりか。結構頑張って来たのにこんな形で終わりを迎えるのは納得いかないぜ。

 

「結構余裕そうだね、安心したよ」

「余裕も何も相手を知らないからな。不安がる理由が無い」

「……あ~……うん、頑張って」

 

 ちょっと待ってくれ。

 ステルラ、お前がそんなに微妙な顔をするのは初めて見た。

 訂正しよう、先程までは不安が一ミリも無く現実に安心していたが今は不安が胸を覆いつくし思考は暗闇に閉ざされている。

 

「おい妖怪、どういう事だ」

 

 声を張り上げて聞いてみるが、我関せずと言った態度で顔を逸らす師匠。

 お前年齢考えろ、見た目が良いからってそういう行動取りやがって……! みんな騙されるなよ、コイツの実年齢は百と半世紀程だ。

 

「あれ? ロア、あの人知らない?」

 

 ステルラは師匠の隣の人に目線を移動させた。

 

 緑髪の知り合いとか居ないんだが。

 緑色の髪、サイドテール……うーん、わからない。例に漏れず美人なのはわかるが、見覚えは無いな。

 

「知らないな」

「あぁ~……うん、頑張って」

「それは不安になるからマジでやめろ」

 

 嫌な予感が俺の心の内を支配した。

 ステルラでも知ってる有名人で、なおかつ師匠の隣に並べる人材。

 

 ……あっ。

 

 今、最悪な答えが頭の中に浮かんだ。

 

「まさかな、まさかまさか」

 

 一番初めにぶつける相手にソレはないだろう。

 ステルラが鮮烈なデビューをして、アイツは学年主席という実績に不透明な魔法技能という謎があったから観客が多く来たが、俺にはそんなモノ一つも無い。

 よって、観客は少ない。

 

 順位戦そのものを見るのを楽しみにしている層が僅かに来る程度で、その人たちは師匠と隣の人を見てギョッと目を見開いている。

 

 あ~~~~~、嫌だ嫌だ嫌な予感してきたよマジで。

 

 鬼、悪魔、妖怪、紫電気ババァ。

 

『──さァ、今日も順位戦の時間がやって参りましたよ!?』

 

 観客が少ないのに対しテンションが振り切れてるイカれた実況の声が響く。

 もう後戻りできない、ていうか最初から後戻りできない状況にある。クソゲー、マジでクソゲーだよ。

 

『何故か魔祖十二席の方が二名(・・)いらっしゃってますが、これは一体……何が始まるのか!?』

 

 はい、確定。

 そうなると俺の対戦相手も読めてくるな、マジで言ってんのかよ。

 エ~~~~ンエンエン、俺を虐めて楽しいか? お前ら。頑張りたくないし痛い思い出来るだけしたくないのに、これ頑張るの確定だろ。

 

『そして今日試合を行う選手の情報ですが……な、なななんと!?』

 

 今、急いで外に走り出した生徒が見えた。

 これ絶対見世物にされるパターンだな、師匠がどういう未来図を描いてるのかわかってきて思わず溜息を吐く。

 

『ロア・メグナカルト──魔祖十二使徒第二席、紫電(ヴァイオレット)様のお弟子さん!? しかも数日前に試合を行ったステルラさんとは違い、十二使徒推薦による入学者だァー!?』

 

 まあ、そういう事だ。

 ここは魔祖が学長を務めていて、代が変わる事のない不老の存在にある程度の権限がある。

 それぞれ魔祖、そして十二使徒には一世代に一人だけ推薦する権利があるのだ。魔祖十二使徒推薦枠は、その年に於ける『最強の次世代候補者』として取り扱われる。

 

 つまり──師匠はステルラより、俺の事を推薦枠として使う事を選んだのだ。

 

 あの、圧倒的な勝利を収めたステルラ・エールライトよりも『上』だと示唆したのだ。

 

 その期待に応えてやりたいのは山々だが、現実は非情である。

 今すぐにでも戦うことになれば俺は負けるだろうな。

 

『既にヤバい情報が出まくっていますが、続いて対戦相手は……ウヒェッ』

 

 変な声を出しながら、そのまま五秒ほど黙ってしまった。

 

『ン゛ン゛ッ……え、えーと。対戦相手の方はですね、えー……』

「──俺だ!!」

 

 会場の反対側から、名乗りを挙げながら入場してくる。

 

 制服を着崩し、それでいてだらしなくない程度に収めている格好つけ。 

 闘争心剥き出しで悠々と歩いてくるその姿には、かつての英雄の記憶にある──『強者』の風格を感じる。

 

 鋭い目付きで睨みを利かせ、まるで獣と言わんばかりの獣性を見せつけながら一歩踏み出した。

 

「俺はヴォルフガング・バルトロメウス!! 

 魔祖十二使徒第五席、“蒼風(テンペスト)”の一番弟子であり──“暴風(テンペスト)”を戴く男だ!」

 

 まさしく暴風と表現する他ない程の風が場内に渦巻く。

 嫌な予感が的中した、そう言わざるを得ない。絶対異名持ちの中でもレベルの違う奴が出てくると思っていたが、十二使徒の弟子が出てくるとは思わないだろ。こういうのってもう少し時間をおいてゆっくり引き出してくんじゃないのか。

 

 ハ~ア。

 俺の相手ってこんなんばっか、前途多難すぎて文句すら出ねぇ。

 

「熱く厚く暑くアツく、アツい戦いをしようぜ!!」

「風なのに熱血系かよ、困るなオイ」

 

 ──だが。

 

 負ける気は毛頭ない。

 どんな奴が相手だろうと、俺は勝利を収めるのみ。

 右腕を前に掲げて、自身の身体に刻んだ魔法を起動する。

 

 俺に魔法を扱う才能は無い。

 かつての英雄の模倣をしても、俺は再現する事が出来なかった。魔力というエネルギーに絶望的に嫌われているのだ。

 

 だから俺は師匠に強請った。

 

 ただ一つ、俺に武器をくれと。

 

起動(オープン)

 

 解号を唱え、幾重にも重ねられた複雑な祝福(・・)を起動する。

 

 膨大な魔力が渦巻き、光と風が俺の掌へと収縮していく。

 それは荒ぶる暴風を抑え込み、新たな風を巻き起こしていった。

 

「……俺の風を阻むか!」

アウラ(そよ風)だ、暑苦しくて堪らなかったんでな」

 

 ニィ、と口を歪めて笑うバルトロメウス。

 やがて光は縮小し、風は物質へと変化していく。

 

 先程のルーチェの言葉──同意してはいたが、俺には耳の痛い話だった。

 

 自分一人では魔法に対抗する事すら出来ない、この絶対的な才能差。

 理不尽すぎる世界と記憶に抗うには、俺は誰かの手を借りるしかなかった。

 

『君に授ける武器ならば、最初から決めていたよ』

 

 あの時師匠はそう言った。

 ロア・メグナカルトが願うその前からあの人は定めていたのだ。俺の唯一の強さを生かすための方法を、その長い経験から編み出していた。

 俺の為だけに、新たな祝福と魔法の構築をしてくれたのだ。

 

 ああ、そうだ。

 俺は努力が嫌いで死ぬほど負けず嫌い、自堕落な生活を好む人間だ。

 光より影が好きな典型的な日陰者だよ。

 

 ……それでも。

 

 俺の為に何かをしてくれた人間の期待にくらいは、応える事の出来る人間でありたい。

 

「顕現せよ──光芒一閃(アルス・マグナ)

 

 手に握った確かな感触に、無事祝福による魔法発動が成功したことを悟る。

 

 光芒一閃(アルス・マグナ)

 師匠が名付けた銘だ。

 

 それは、かつての英雄の武器。

 

 聖なる神官によって祝福を施された劔である、『光芒一閃(ルクス・マグナ)』にちなんで名づけられた銘。俺が使うのにこれ以上ない程の因縁を感じる、俺だけの武器だ。

 

 魔力の奔流を凝縮し、一振りの劔へと収まった時。

 それは、才能という名の現実の壁を打ち破る。

 

「紫電靡かす且つての英雄、その一閃は龍をも切り裂いたそうだ」

「英雄譚の話だな? 俺もあの話は大好きだ!」

「俺は英雄じゃない。俺は決してかつての英雄にはなり得ないが──選ばれたんだ。導いてもらったのさ」

 

 両手で柄を掴んで、霞構え。

 切っ先をバルトロメウスに向ける形で準備を終えた。

 

「俺はロア・メグナカルト。紫電(ヴァイオレット)の一番弟子にして、遙か先を往く星を追い続ける者だ」

「──クハッ」

 

 一度収まった暴風が、今度はバルトロメウスへと収縮していく。

 強烈な風速全てを自らの手にかき集め、更に魔力を風へと変質させていくことで俺ですら感知できる魔力量へと増幅していく。

 

「師から楽しめるヤツが居るとは聞いていたが……まさか、ここまでとはな」

 

 風を鎧のように纏わせ、その圧を高めていく。

 魔力量だけで言えば俺が出会った人物の中でもトップクラス、既に肌に感じる鋭さで言えばあの鎧の騎士に勝るだろう。

 

「いいぞ! 俺は今猛烈に感動している!!」

 

 俺にはわかる。 

 お前は天才だ。この学園に居る人間の大半が天才だ。

 俺のように前提をすっ飛ばして入学した人間はほぼいない、なぜならいた所で追いつくことが出来ないから。

 

「同じ推薦入学者同士──さァ、雌雄を決しようじゃないか!!」

 

 嵐と見間違う程の風量。

 目を開いている事すら過酷な風圧に対し、側面を駆けながら揺さぶりを掛ける。

 会場はそれなりの広さを誇るので、俺としてはやりやすい。かつての記憶を頼れば室内戦の経験もあるかもしれないが、俺にとっては未知の領域である。

 

 風は受け慣れている。

 

 ずっと自然の中で戦ってきたのだ、今更風に怯むはずもない。

 

 風を纏い空へ浮き上がり、上空から一方的に打ち下ろしてくる。

 ……行けるな。光芒一閃を使用している状況でも俺の魔法的技能に変化はないが、この武器があるからこそ無茶を通せるようになる。

 

 身体能力はそのまま。

 五感の超強化も無い。

 

 俺に施された祝福はただ一つ。

 

 俺に向かって発射された風弾に対して、斬撃を奔らせる。

 その魔法的効力の一切を無力化し、霧散させた。

 

「……ただ砕いた訳じゃないな!?」

「さあ、どうかな」

 

 光芒一閃による絶対的魔法への優勢保持。

 魔力と魔力がぶつかれば、より強い方が勝利する。俺の祝福にはあの魔祖十二使徒第二席の魔力が込められているのだ。例えお前が第五席の一番弟子でも、どれほどの才能があったとしても、負ける事はない。

 

 それこそ、魔祖クラスでなければ。

 

 射程も足りない。

 速度も足りない。

 魔力も足りない。

 

 そんな俺が唯一足掻く方法が、これだ。

 

「────おおおォォオオ!!」

 

 互いの牽制程度の攻撃を早々に終わらせ、バルトロメウスはスイッチを一段上に引き上げた。

 

 まったく、嫌になるな。

 俺は今の風弾の破壊で腕が痺れてるってのに、お前ら天才共はどいつもコイツも容易に限界を越えていく。俺の限界値はお前らの最低限で、どこまで行っても地力じゃ追いつくことが出来ない惨めさと、それを理解していて手を伸ばし続ける無意味さを理解しているのか? 

 

 ぐんぐん込められていく魔力量に、始まったばかりだと言うのに撃とうとしている魔法を理解した。

 見に纏っていた風が全てヤツの頭上へと集い、身から零れた魔力は全て風に成る。

 

 莫大な魔力を、膨大な属性へと変換する事で放つことを可能とする()()()()()

 

 

「喰い荒せ! 暴風(テンペスト)オォォ────!!」

 

 

 荒れ狂う嵐が単体を破壊するために、渦巻く風が俺へと向かってきた。

 

 会場の保護は気にする必要は全くない。

 魔祖十二使徒が二人揃っているのだから、俺如きが出る幕は無いだろう。で、あるならば……俺がやるべきことはただ一つ。

 

 この男に勝利する、それだけだ。

 

 且つての記憶を呼び覚ます。

 

 其れは、古の奥義だった。

 魔法戦士としての極致へ至った英雄が閃き形にし、現在でも極わずかな人間のみが使用できる劔の頂き。

 斬撃、魔法、弓矢、ありとあらゆる殺傷手段が飛び交う戦場ではなく、圧倒的な個に対抗するための技だった。努力を重ね続けた最果てを作ったのは、とても()()()と俺は思った。

 

 その輝きを再現しろ。

 俺に無い才能は、()()()()()()()()()

 情けないだろう? でも、それが俺だ。

 

 どこまでも自堕落で、何処までも情けない俺らしいだろう。

 

 劔に紋章が浮かび上がる。

 幼い頃に失敗した斬撃の軌道を、幾度となく振り絞った剣戟を。

 

 俺の大嫌いな努力の結晶を、暴風へと解き放った。

 

 

 


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