【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

93 / 122
第四話

 

 あと三日。

 

 たった三日間が師匠の命綱。

 よくわかっていた筈なのに、それを改めて認識すると息苦しくなる。

 

 こんなプレッシャーや重圧を背中に乗せて、よくもまあ戦争を終結させる等と大望を抱けたものだ。アルスという男はやはり、生まれながらにして英雄だったのだろう。

 

「アルベルトめ……」

 

 いやらしい奴だ。

 俺がお前の意図に気が付かないと思ったか。

 気が付かなかったよくそったれ、ルナさんにやんわりと言われるまで気が付かねえよ。そんくらい追い詰められてるよ。

 

『ロアくん、死んだら私も後を追いますからね?』

 

 完全にハイライトが消えた瞳で見つめながらそう告げるルナさんを前にしては、流石の俺も黙って頷く事しか出来なかった。相変わらずの愛の重さだったが、思いの外重たい愛を向けられるのは心地が良い。結構癖になるぜ。

 

 だからと言って命を投げ捨てる事に抵抗はないんだが。

 

 最低人間の独白をしたところで、現実的な打開策を練ろうと思う。

 

 具体的なメンバーとしては、

 

 テリオス・マグナス

 テオドール・A・グラン

 ソフィア・クラーク

 ベルナール・ド・ブランシュ

 ルーナ・ルッサ

 ステルラ・エールライト

 ヴォルフガング・バルトロメウス

 

 あと付け合わせの俺ってところか。

 十二使徒メンバーを連れて行きたいのは山々だが、非常に悲しい事に俺らが首都に乗り込んでも白い怪物の侵略は続く。無限に生まれ続ける限り通常の軍隊では疲弊していくだろうし、やはり生き残った十二使徒には戦線の維持をしてもらわねばならん。

 

 兵隊が死んでも動揺なく指揮できるのは俺達の世代には誰一人としていないからな。

 

 戦線維持は経験豊富な人達に任せなければいけない。

 首都攻略メンバーはほぼほぼ学徒になるが、大陸全体でみても上位トップクラスの実力に至ってるおかしい奴らが多いから仕方ない。

 

 魔祖も私情を抜きにすればこれが一番最善だと悟るだろう。

 

 唯一英雄と剣を交えて生存可能な俺、既に超越者へと至った数人、超越者と比類するほどの実力と圧倒的な魔法センスを持つ連中。ベルナールは首都中の白い怪物を抑える役割に徹して欲しいんだよな、あの制圧力はバカにならん。

 

 本当は制圧要因として扱いたいルナさんは恐らく、人型との戦闘に赴く。

 

 俺はこんな戦いの基礎なんぞ教わっていないのにそれなりに思いつくのはやはり記憶の影響か。それとも俺が他人だと意固地になっているだけで、本当は英雄そのものなのだろうか。もしそうなら今すぐ才能を添付して欲しい。

 

 溜息一つ溢してから、目的地に到着していた事に気が付く。

 頭を回転させると疲労が大いに増える。本を読んだ結果の充実感の有る疲労ならともかく、不安を抱きながらする思考なんてなんにも楽しくない。最悪だよ。

 

 ドアを三度ノックしてから、返事が来る前に入る。

 

「…………む、小僧か」

「暫しの暇を満喫していた。方針は……決まったみたいだな」

 

 部屋の中にいるメンバーを見ればわかる。

 煤けた服に身を包んだテオドールさん、埃一つ被っていないテリオスさん、所々破れた服装だが傷が一つも残っていないヴォルフガング、滅茶苦茶嫌そうな顔で佇むベルナール、静かに瞠目したままのソフィアさん。

 

 現役の軍人に優れた人たちが居ない訳ではない。

 だがその人たちも既に戦闘不能に追い込まれていたり、その……癒えない傷をつけられ、十全な戦闘を行えない状況にあったりする。

 

 上記のメンバーが誰一人として欠けてなかったのは、一重に運が良かったからだ。

 

 どうやらあと一歩の瀬戸際はなんとか踏みこたえたらしい。

 

「……くくくっ、お前の話は聞いたぞ。随分と面白いモノを抱え込んでいたようだな」

「随分と趣味が悪いですね。流石はグランだ」

「お前が保証してくれるのならば安心だ、グランだからな」

 

 あ~はいはい、俺が悪かったよ。

 口で勝てると思わない方が良さそうだ、流石に現役で政争してる人間に立ち向かうべきでは無かった。

 

「…………テオ、やめろ。お前の悪い所だ」

 

 ソフィアさんに窘められ、肩を竦めて言葉を止めた。

 兄弟そろって意地の悪い奴らだが、どうにも俺の精神状況に対してちょっかいをかけているだけに見える。だから俺も本気で怒らないし、向こうも本気で言っている訳ではないだろう。

 

 揶揄い、それに耐える精神状況ですら無いのなら止める。

 

 多分そういう事だ。

 …………多分、きっと、いやそう思いたい。

 

「────メグナカルト!!」

 

 うわ出た……

 

 爆音で叫んだのはヴォルフガング。

 相変わらずの熱血っぷりに辟易するが、それを見たロカさんも目を逸らして知らんぷりしているのでもう筋金入りである。あなたの息子さんですよね、止めてもらっていいですか? 

 

 俺の祈りが届くことなく真っ直ぐに俺の元まで歩んで来た嵐の熱血漢は、変わらぬ熱意に満ちた瞳をギラギラ輝かせながら言い放つ。

 

 俺の力の本質を悟り、怒るような奴ではない。

 

 だが、否定されたくはなかった。

 なんだかんだこいつは、俺の事を認めてくれていたのだ。強い奴だと、尊敬に値するのだと、こんな張りぼての力を振るう愚か者にそう言ってくれた。

 

 才能にかまけることなく努力を続けてて来たお前にとって、俺の力は、醜く見えるだろう。

 

 俺の胸倉を掴み、馬鹿力で持ち上げられる。

 あまり苦しさは感じなかった。

 

「…………お前は」

 

 呟いたヴォルフガングの顔色は変わらない。

 怨嗟も嫉妬も失望も、負の感情は一切含まれていない清々しい顔つきだった。

 

「お前は────本当に凄い奴だな!」

 

 ……………………。

 

 ふむ。

 なるほどそう来たか。

 

「詳しい事情はわからんが、お前の言う『才能が無い』という言葉の意味。ただの冗談かと思っていたが、まさか本当に才能がないとは!」

 

 改めて言われるとムカつくな? 

 俺が額に青筋を立てていることに気が付いたのか、快活に笑い飛ばしてヴォルフガングは続けた。

 

「お前は英雄アルスではなくロア・メグナカルトだろう?」

「当たり前だ。だからこんな無様を晒している」

「で、あるならば。お前は0から今の強さを築き上げた努力家であり、その精神性にこそ感服し礼賛を送ろう」

 

 ……相変わらず真っ直ぐな奴だ。

 

 そうだ。

 俺に才能はない。

 

 ただ呪いのように付与された英雄の記憶のみに縋って生きてきた。

 

「お前は凄い。ロア・メグナカルトが本来辿ったであろう運命を跳ね返し、この場所に立っている事実そのものが、お前の努力の結晶だ!」

 

 やめろよ。

 俺の力の大部分は記憶によるものだ。

 あの記憶がなければきっと折れていただろうし立ち止まっていただろうし、ここまで強くなることもなかった。

 

 努力の結果、エミーリアさんを殺し師匠も死にかけに追いやって。

 

 俺を、なんて無様な人間なんだと罵ってくれれば良かったのに。

 

「…………やめてやれ、ヴォルフガング」

「む? ──…………すまん、無遠慮だった」

 

 胸倉を掴まれた体勢から解放されたが、俺の脳内を占めるのは苦痛だけだった。

 

 どうして俺を責め立ててくれないんだ。

 どうして俺に対して優しくするんだよ。

 

 そうだよ。

 俺の努力の結果がこれ(・・)だ。

 

 この様なんだ。

 

 子供の頃から必死になって、大嫌いな努力も何度も何度も逃げ出したくなる気持ちを抑え込んで続けて、才能が無いことを認めてでも成し遂げたいことがあったから、師匠に頼み込んでひたすらに強くなるために頑張ったんだ。

 

 努力は裏切らない。

 ただし、重ねた努力とそれに比例した才能の分のみ。

 

 初めから持ち合わせていない魔力も魔法も俺に応えてくれることは無く、ただこの役立たずな身体と剣すら生み出せない塵芥同然のおれだけが残る。

 

 そんな事になんの意味は無いとわかっているのに。

 

「っ…………ふ~~……」

 

 ……落ち着け。

 

 冷静に、現実だけを見ろ。

 ないものねだりは俺の特権だが、今するべきなのはそうじゃない。

 

 具体的に、現実的に、どのようにして今の戦いを終わらせるか。師匠もステルラも死なないように、三日以内にケリをつける。無理難題のようにも思えるが、それを唯一可能にする鍵は俺の頭の中にある。

 

 切り替えろ。

 

「…………俺の事はどうでもいい。それよりもマギア(・・・)、ここにいる奴は全員参加で構わないな」

「……ああ。小僧、お前の計画を教えろ」

 

 先程考えていた内容を話す。

 付け焼刃であり応急処置である感は否めないが、それでも現状出せる最善手だと思う。仲間が死んでも継続して指揮をとり続けるのは俺達若年層には無理な話だし、年上の軍人に死んで来いと命令する学生はテオドールさんくらいだ。

 

 こっちの大陸に残っている魔祖十二使徒を東西南北に分けて、それぞれの戦域の維持。

 

 そして首都に少数精鋭の部隊で殴りこむ。

 

 大目標は機能の停止(遺物そのものの破壊)、小目標は人型全ての破壊。

 

 大雑把だが、魔祖はそこそこ納得したらしい。

 というかこれくらいしか打てる手がない。白い怪物は無限に沸き続ける為倒しても意味がなく、倒すのならば人型を徹底的に排除する。

 

 最悪人型さえ全部倒してしまえば、まだ新大陸へ人を逃す時間を稼げるのだ。

 

「なるほど、合理的だ。勝たない限り首都に突入した奴は死ぬ、という重い点を除けば」

 

 テオドールさんの指摘は中々痛い所を突いてくる。

 

 そりゃそうだ。

 この作戦は負ける事を一切考慮していない、勝たなければ全てが終わる起死回生の一手なのだから。

 

 人型は事実上無限に近い魔力を保有する。

 それらを打ち倒すためには、どうにかこうにか必死になって魔力を全て失わせるか、圧倒的な一撃でこの世界から消し飛ばすか。

 

 こちらが魔力を使えば使うほど不利になる状況でそれを冷静に判断し、なおかつプレッシャーに負けないように倒さなければならない。

 

 だから俺が言える言葉は、たった一つしかない。

 

「ああ。負けた時はこう思ってくれ」

 

 ────自分が負けた所為で、全員死ぬのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分が負けた所為で、全員死ぬ。そう思い悔やみながら死んでくれ」

 

 そう告げる幼馴染の表情は、これまでの人生で一度も見たことがないくらいに怖かった。

 

 ロアの笑う顔を知っている。

 ロアの怒る顔を知っている。

 ロアの泣き顔を知っている。

 ロアの────色んな表情を知っている。

 

 たまに思い詰めたような顔をして、それを不思議に思い眺めていると、ロアは決まって誤魔化した。

 

「…………なんだ、ステルラ」

 

 そう。

 いつもこんな風に言って、私の頬を触ったり髪に触れたりして誤魔化す。

 

 きっとこれまで何回も悩んできたんだと、私はやっと理解した。

 ロアは完璧な人間じゃないとわかっていながら、どこか盲目的にロアを信じ過ぎていたのだと、過ちを抱えていたことを理解したんだ。

 

 ロアは余裕がないんだ。

 今、本当に、心の底まで追い詰められている。

 子供の頃から無自覚にロアの心に負担を押し付けてきた私でも、わかるくらいに。

 

 さっきの言葉は、すごく冷たかった。

 なんの感情も灯ってないような、友達が死地に赴くという重さを理解した上で軽く言っていい言葉じゃないって、ロアもわかってる筈。

 

 でもロアは口にした。

 ……言わなくちゃいけないって思ったからなのかな。

 

「────『英雄』が言うには、シビアな言葉だね」

 

 どこか引っ掛かる部分があるのに、見つからないからうんうん唸ってる私を尻目に、テリオスさんが話を切りだしてくれた。

 

「そこは『皆生きて帰るぞ』でもいいんだぜ?」

「気休めならそれでいいですが、今必要なのは現実を見据える事だ。夢物語で解決するなら俺もそうしてます」

「……こう言ってはなんだけど、一応俺達も前線で戦って来た。今の惨状は理解出来てると思うけど」

 

 ロアの表情は変わらない。

 テリオスさんも口で言い負かしたい訳じゃないのか、主張を通してからすぐに引き下がる。

 

 私はこういうやり取りが苦手だ。

 いや、もっと正確に言うなら、人の心を汲み取るような会話が苦手なんだ。

 

 わからないから。

 ロアや師匠が昔から迂遠な言い回しを好むのに、私一人だけそういうのが理解できない。だから二人だけの会話をずっと続けられて、そこに混ざれない事が酷く嫉妬心を掻き立てていた。

 

 …………でも、今はそれじゃ嫌だ。

 

 考えなくちゃ。

 いつもいつも頼って生きて来た。

 私が強くなれたのも、ロアのことを考えてたからだった。

 

 私はいつも助けられていた。

 勝手に心の支えにして、そして、色んな理由付けに使って来た。

 

 ロアはいつも私の事を、バカでアホだって言うよね。

 

 その通り。

 私は、バカでアホな女だから────ロアを理由にしなくちゃ、頑張る事も出来ないんだ。きっともう、バレてると思うけど。

 

「ロア」

 

 返事はない。

 でも視線が私の事を捉えた。

 

 いつものようなやる気のない瞳じゃなく、なんの感情も映らないような昏い瞳。

 

「ロアは、ロアだよ」

「……………………? 知ってる」

 

『何言ってんだこいつ』と言わんばかりの怪訝な視線に変わった。

 い、今から本題に入るからいいのっ! 

 

「わ、私が言いたいのはその~~……」

 

 いったん落ち着こう。

 落ち着いて、話したい内容をしっかり考えてから喋ろう。

 さっきテリオスさんが言っていた内容もなんとなく(・・・・・)理解できたし、あとはこれを言葉にするだけ。

 

「私達はロアより強いよ」

 

 額に青筋が浮かび上がり、ロアの手が私の頭に伸びて来た。

 

 あ、これ間違えた。

 そう悟って謝ろうとするよりも先に鷲掴みした指が頭に喰い込み、鍛え上げられた筋力によって締め付けられる。

 

「痛~~~いっ!」

「クソバカが……」

 

 うっ、酷いよう。

 

 でも痛いのは一瞬で、すぐに手を離してロアは溜息を吐いた。

 

「…………知ってるさ。俺なんかより、皆の方が強いなんてことは」

 

 痛みすらしない頭を摩って、ロアの目を見る。

 

 私は鈍い女だから、そこから感情を読み取るなんて事は出来ない。

 それでも次に何を言えばいいのか、やっとわかったような気がした。

 

「だからさ、もっと、こう…………頼って欲しいな」

 

 たぶん、こうだ。

 ロアには子供の頃から『英雄の記憶』があるらしい。

 それがどれだけ影響を与えたのか私にはわからないけど、それでも今のロアはらしくない(・・・・・)

 

 他力本願を謳いながら自分も努力する昼行灯のような男の子。

 

 自分が譲れない部分は絶対に曲げず、でもそれ以外の所は面倒くさいから他人に丸投げするような人。ちょっと最低なところもあるけど、そういう所も含めて私の大好きな男の子だ。

 

「ロアはロア。【英雄】は私達のことなんて知らないでしょ?」

 

 だから心配なんていらない。

 いつもどおり言ってくれればいいんだ。自信満々に、大胆不敵に、汗と泥に塗れながらも諦めないその姿勢を貫いて。

 

「『勝てる戦いしかしない』んだから、今回も大丈夫だよ」

 

 ロアが目を見開いて、驚きを露わにする。

 

 普段とは逆の立場になれたことで僅かに高揚感が沸いたけど、それも抑え込んで言葉を続けた。

 

「【英雄】も、星の光には届かないんだからっ!」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。