【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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短めです


第五話

 

 勝てる戦いしかしない。

 

 俺は常々そう嘯いてきた。

 元来持っていたプライドゆえか、そうやって虚勢を張ることを良しとした。

 

 手が届かない英雄の記憶を見せつけられ、彼我の差をまじまじと見る羽目になり、虎の威を借る狐のように打ち立てたハリボテのプライドは容易く打ち砕かれた。

 

 本物の天才には届かない。

 俺に与えられた才能(記憶)では、絶対に届かない世界がある。

 

「…………英雄も、星の光には届かない、か……」

 

 オロオロする幼馴染はさておき、その言い放った言葉には思わず唸らざるを得ない。

 敵対するのはかつての英雄、大陸中を巻き込んだ戦争を止めて統一国を打ち立て百年の平和を完成させた偉大すぎる人物。

 

 恐れ多くも、そんな偉人の記憶を持って生まれたおれ。

 魔力もない、魔法の才能もない、持ち合わせた肉体と記憶だけで彼を再臨するのはほぼ不可能であり、他人から魔力と武器を与えられているのだから無能もいいところだ。

 

 それでも言い続けてきた。

 負けたくないから、これ以上の努力などしたくないから勝てる戦いしかしないのだと。

 

 そんな保障はどこにもないとわかっていながら。

 

「え、え〜とね! ほらその、勝てる戦いしかしないんだから今回も大丈夫だよねってお話をですね〜……」

「とりあえず黙ってろ」

 

 ションボリしながら引き下がったステルラとは裏腹に、全くもってその通りだと俺は理解を示していた。

 

 いつも自分を鼓舞するために言っていた。

 いつも自分が絶望しないために言っていた。

 戦う相手の強大さに押し潰されないように、虚勢を張って気持ちを偽り勝つために信じ続けていた。

 

 俺は勝てる戦いしかしないのだ、と。

 

「…………ちっ。全くもってその通りだ」

 

 俺らしくなかった。

 確かに師匠が死にかけでエミーリアさんが死にルナさんの心にダメージが入り、挙げ句の果てにはこの国の存亡がかかっている事態にまで広がった。

 

 だからと言って、ここで余裕をなくしても良いことは何もない。

 

 無茶無謀を通さなければならないのはこれまで通りだ。

 何一つ動揺することはない、相手はかつての英雄であり偉大な祖ではあるが、俺はそんな相手の記憶を持っている上に十年以上戦い続けてきた。

 

 この世界で誰よりもあの男と戦い続けて来てるんだ。

 

 それが国規模に上がっただけだろ。

 

 髪をガリガリ掻きむしって気持ちを入れ替える。

 

 基本的にさっきまでの作戦で変更点はない。

 全員が戦い全員が勝つ、負けたら滅ぶがそれまでという条件も変わらない。

 

「────変更だ。全員、必ず勝て」

 

 負けることなど許さない。

 敵は強大だが俺達も、いや、俺以外のみんなは強いんだ。

 それは俺が誰よりも知っているだろう。誰よりも弱くて誰よりも情けない俺だからこそ、見誤ってはいけなかった。

 

「首都に突入した奴も、外で戦う奴も、全員負けることは許さん。この作戦は全員の勝利の前提で成り立っているのだから、絶対に負けるな」

 

 俺は負けない。

 俺は勝てる戦いしかしない。

 一番弱い俺が勝つと決めたんだから、他の連中が負けては困る。

 

 言いたいことは伝わったのだろう、笑いを抑えきれないと言った様子で口元を覆い隠すテオドールさんが呟いた。

 

「そこまで言うのなら十分。俺はお前に賭けることにしよう」

 

 こういう時はありがたいぜ。

 

 どの道数世代時を経て挑むより、今戦力が整っている状況で戦った方が確実に良い。

 魔祖十二使徒は敵に回らず人型の数は多くない、問題となる英雄を抑えられる唯一が全盛期を迎えている。それならば賭けは成立する筈だ。

 

「……さっきまでのロアくんは信用できませんでしたが、今のロアくんなら大丈夫です」

 

 そんなに駄目な作戦だったか……? 

 それなりに合理的だったと思うんですけど。

 

 ルナさんにその旨を告げたものの、嘆息しながら呆れられた。

 

「自棄とまでは言いませんが抱え込んでる様子だったので。確かに今を解決したいのは山々ですが、無駄死にして欲しい訳じゃありません」

 

 いつもと変わらない無表情だが、そこには確かに心配が存在した。

 

 愛されてることは自覚している。 

 もしも寿命を投げ捨ててでも勝ちを拾えばどんなことを言われるかわかったもんじゃないな。……必要ならやるんだけど。

 

「メグナカルト」

「なんだ熱血バカ嵐」

「ひどい言われようだな!」

 

 はっはっはと豪快に笑い飛ばすヴォルフガングに辟易する。

 さっきは滅茶苦茶地雷を踏まれまくったが、今はそれなりに持ち直したからドンと来いだぜ。でも戦いだけはノーサンキューな。

 

 そしてひとしきり笑って満足したのか、やたら真面目な顔つきになってこう言うのだ。

 

「安心しろ。お前の師は死なんぞ」

 

 ────…………。

 

「それは高度なギャグか?」

「意図せずそうなってしまったのは肯定しよう。だが、これは俺の本音だ」

「…………そうかよ」

 

 当たり前だ。

 師匠が死ぬ訳ないだろ。

 俺が、俺達(・・)がここで全部終わらせるんだから。

 

「ゆえに、努力は無駄にならん。お前がここまで積み上げた全てが、この戦いに収束しているんだ」

「忌々しいことにな」

 

 努力はクソだが役に立つ。

 

 ああ腹立たしい。

 望むのならばこんな努力など必要としない世界が良かった。

 英雄が全てを終わらせてくれれば、俺のような出来損ないの力を借りなければならないほどに逼迫した世界じゃなければ良かったのに。

 

 俺を見る幾つもの視線。

 その全部が期待と信頼を寄せているように、俺には思える。

 

 この戦いが起きてしまった以上、この立場にあることは非常に望ましい。

 仮におれが研鑽を一度も積まなかった場合、ただ蹂躙されるだけの一般人となり、もっと甚大な被害が出ていたとも言える。それこそ此処にいる数人が死んでいてもおかしくはなかった。

 

 それが避けられたのは今までの俺の努力の証であり、取り零してしまった命は、俺の功罪である。

 

 くそ、真に人生とはくそったれだ。

 

 溜め息ひとつ吐いてから、絞り出すように言った。

 

「作戦時間は今から大体十時間後、夜明けと共に首都へと転移(・・)する。魔祖、頼むぞ」

「ふん、小僧に言われなくともやっとるわ」

 

 あんなに昔ブイブイ言ってたのに人は変わるものだなと視線に籠めて伝えていると、睨まれた挙句魔力が掌に集まりだしたのでステルラを盾にした。

 

 盾にされた側はぎゃあぎゃあ文句を言っていたが知ったことではない。

 作戦開始までの時間なにをしてもいいが、俺にはやるべきことが────というより、ステルラに協力を仰がなければならない。

 

「ステルラ、お前師匠の祝福解析してたよな」

「えっ? ああうん」

「俺の身体に残る祝福をお前の手で受け継いで、その上で魔力を分けてくれ。お前にしか頼めない」

「…………うん……」

 

 これである程度問題は解決したか。

 

 エミーリアさんが一人でも敵を打ち倒したのか、それとも抵抗虚しく誰一人倒すことが出来なかったのか、全ての人型を把握しているわけではないから判別がつかないが戦力不足にはならないだろう。

 

 ヴォルフガング、テリオスさん、テオドールさん、ルナさん、ステルラ、俺。

 ベルナールは怪物を押しとどめてもらう大役を担ってもらうので負担がデカいだろうが頑張ってもらう。

 

 …………一手、足りないような気もするが……

 

「ロアくんロアくん」

「なんですかルナさん」

「私の魔力も分けてあげましょうか?」

「え゛」

 

 …………あ〜、その手があったか。

 別に一人だけの魔力である必要はない。一番手に馴染む師匠の魔力は期待できないし、誰からどれだけ貰ってもあんま変わらないからな。

 

「むしろここにいる全員から貰った方が回復するだろうし効率的では?」

「じゃあ祝福だけステルラに確認して貰ってそうします。そういうわけでステルラ」

「…………はい……」

 

 しょんぼりしている。

 英雄は星の光に届かないとお前は言ったな。

 覚悟しとけよ。かつての英雄は届かなくても、俺は絶対に届かせてやる。今誓ったからな、マジで覚えとけよ。

 

「あ、あ、ロア? なんか顔が怖いな〜って」

「良いから来い。それじゃあ十時間後にまた来ます」

 

 ステルラの腕を引っ張って本部を後にする。

 

 次来るときは決戦へ向かう時だ。

 

 覚悟は既に決まった。

 あとは、この身に刻んだ経験を遺憾なく発揮するのみ。

 必ず届かせて見せるのだと、師から授かった剣に大望を宿すだけ。

 

 首を洗って待ってろよ、英雄。

 

 現代に英雄は二人(・・)もいらないんだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………え?」

 

 荷物を纏めていた私の場所に母様がやってきて、言い放った。

 

「だから、このあと攻勢に出るの。失敗したら後のこと頼むわね」

 

 ローラ・エンハンブレ。

 

 それが母様の名前。

 魔祖十二使徒として名を馳せ、今も人のために戦い続けている偉大な人。重傷を負いながらも戦うことをやめないその姿勢はすごく頼もしいけど、もう、休んで欲しいとも思ってた。

 

 新大陸に撤退する(・・・・・・・・)と言われていたから纏めていた荷物を床に落とし、思わず聞き返してしまう。

 

「…………誰が……?」

「生き残った私達十二使徒と十二使徒候補、それとグランの次期当主に英雄のガキね」

 

 …………ロア。

 

「ロアが……?」

 

 確かに師匠────エイリアスさんが死に瀕していると聞いた。

 それを解決するような術を持ち合わせている人はおらず、このままで死んでしまうだろうという話も、耳にした。

 

「あー……うん。あんたは気にしなくていいのよ」

 

 よくない。

 何にもよくない。

 私の知らないところでなにが起きてて、一体なにをしようとしているのか。

 

 それを母様に問いたいけれど、優しげな瞳の裏にある言葉が怖くて、口に出せない。

 

「それじゃあね、ルーチェ。元気でやってなさいよ?」

 

 なんでそんな別れのような言葉を言うのか。

 手を伸ばそうとした私のことを置いていくように、母様はテレポートでその場から姿を消した。

 

 一人取り残されたまま、事態がどう動いているのかも知らないまま、力無く拳を握った。

 

「なにが、起きてるのよ……」

 

 わからないことばかりだ。

 突然襲いかかってきた怪物たちに、坩堝でロアに斬りかかった真っ白な人型。

 首都から離脱するときに化け物は数体打ち倒したけれど、それが今敵となっていることだけはわかっていた。

 

「…………何処にいるの?」

 

 探さなくては。

 私が知らないことを知らなくては。

 確かに私は弱い。魔祖十二使徒なんて圧倒的な人たちに比べて、あの怪物を数体打ち倒した程度で強さは誇れない。

 

 あの怪物が無限に湧く最悪の戦場が今この大陸なのだと、それくらいのことは知っているけれど、今なにが裏で進んでいるのかを知らなくては。

 

 差し伸べられた手を取るだけの自分とはもう決別したの。

 

 進むんだ。

 自分の足で、自分で考えて、自分の手で掴み取る。

 そう生きてみろと、そうやって生きた結果を肯定してくれた男の場所に──全てを知りに。

 

 




次回ルーチェ回(自分を追いこむ宣言)
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