視点 二乃
あいつがみんなを探しに行った後、アタシは百合香と一緒に夜空の花火を見ていた。アタシは立って見ていたけど、百合香は疲れたのか近くのベンチに腰を下ろして見ていた。
「綺麗ね・・・・・・。こうやって花火を見るのなんていつぶりかしら・・・・・・」
「5年ぶりくらいじゃない?・・・・・・というか、
「あったにはあったらしいけど、私はずっと病室にいたからそんな祭りに参加する機会がなかったのよ・・・・・・」
そういう百合香の表情はどこか残念そうで、寂しげな感じだった。・・・・・・そうだよね。体を治すためにアメリカに行ったんだもん。そんな暇なんてあるはずもないわよね?
「そう。はぁ〜・・・・・・せっかく宿題終わらせて来たのに、こんなことになるなんてね〜・・・・・・せっかくの花火大会なのに・・・・・・」
「小さい頃から毎年の様に行ってたものね。お母さんが大好きだったから・・・・・・」
「ええ。・・・・・・ねぇ、”お姉ちゃん”・・・・・・」
アタシはいつもの名前呼びでは無く、百合香のことを”お姉ちゃん”と呼んだ。と言っても、昔はアタシは百合香のことをこう呼んでいた。今は何となく気恥ずかしさなどもあって名前呼びに変えたけど、今回は・・・・・・何と無く昔の呼び方で呼びたくなったんだ。
「あら、久しぶりに聞いたわね。二乃の”お姉ちゃん”。いつもそう呼んでくれて良いのに・・・・・・」
「みんながいるときは言わないわよ。恥ずかしいし・・・・・・。それでさ・・・・・・・・・・・・少し話聞いてもらっても良い?」
「・・・・・・良いわよ。どうしたの?」
百合香は嫌な顔せず優しい顔で承諾してくれた。昔から百合香はそうだった。アタシがどんなに悩み事を抱えていたとしても、百合香はアタシのために必死になってそれを解決しようと動いてくれたり、アタシの悩み事、悲しいこと、嬉しいこと、その全てをいつも笑顔で最後まで聞いてくれていた。まるで、お母さんの様に・・・・・・。そんな百合香だったからこそ、アタシたちは慕うし、甘えたくなるんだ。
だから・・・・・・今回もアタシの話を聞いてほしい。
アタシは百合香の隣に座り、花火を見ながら静かに百合香に話した。
「アタシね、ずっと怖かったのよ・・・・・・」
「怖い?なにが?」
「今まで当たり前だったことが変わっちゃうかも知れないことによ」
「当たり前ね・・・・・・」
「そう。お姉ちゃんは気付いてるかも知れないけど、アタシ達って昔に比べると仲良いとは見えないでしょ?それは、徐々に一人一人が自立して行ったからなのよ。もう五人じゃ無くて一人でも生きていける、進んでいけるって言わんばかりにね?」
「・・・・・・」
百合香は何かを考えている様子だったが、アタシは気にせず続けた。
「それが原因で。それまで当たり前だったことも当たり前じゃ無くなった。今回の花火大会もそう。今まではお母さんとお姉ちゃん、そしてアタシ達七人で見にくることが当たり前だったのに、それも崩れちゃったでしょ?」
「そうね・・・・・・」
「お母さんがいなくなった事で、だいぶアタシ達塞ぎ込んでたけど、そのときはまだお姉ちゃんがいたから何とか持ち直すことが出来た。崩れた日常を、お姉ちゃんが補正してくれたんだよ。それからしばらくは楽しかった。お母さんがいなくなって六人になっちゃったけど、それでもアタシ達姉妹は幸せだった。だから、そのまま何事もなく進んで行けたらアタシ達は今も昔の様に仲良しだったかも知れなかったのよ。・・・・・・だけど」
「その私までいなくなったせいで・・・・・・壊しちゃったのよね?」
百合香のその問いにアタシは力なく頷く。
「お姉ちゃんはアタシ達が唯一甘えられる存在だったから、その頃子供だったアタシ達にとってはまさに絶望そのものだったわ。その年に行った花火大会も、五人だったからか楽しさも欠落してたわ。・・・・・・そこからね。アタシ達が今みたいな関係になったのは・・・・・・」
「ごめんね?・・・・・・肝心なときにそばにいてあげられなくて・・・・・・」
「良いのよ。病気だったんだし。・・・・・・でもね?やっぱりアタシ達が大事な人が次々にいなくなっていく事ってとても怖い事なのよ。親と逸れた迷子みたいにね。・・・・・・もう会えないんじゃないか?もうあの頃には戻れないんじゃないかって考えると・・・・・・怖くて怖くてたまらないのよ・・・・・・」
気づくと、アタシの体は震え上がっていた。今までため込んできたものがぶり返して来たのか、震えは治るどころかさらに激しさを増して行った。
「だから・・・・・・お願い、お姉ちゃん・・・・・・・・・・・・もう、アタシ達の前から・・・・・・いなくならないで?・・・・・・お願い」
震える体に鞭を打ち、アタシは百合香に縋り付いた。すると、百合香はまたフワッと優しい笑みを浮かべると、アタシの頭を優しく撫でて来た。
「ええ・・・・・・。こんなに手間がかかる妹達がいるのだもの。いなくなる訳にはいかないわよ。・・・・・・だから泣かないの」
「っ・・・・・・わ・・・・・・わかってるわよ・・・・・・・・・・・・」
百合香の昔から変わらない暖かい感情を向けられ、ついにアタシの涙腺が限界を迎え、ポロポロと涙がこぼれ落ちて行った。正直、自分でもなにを言ってるのかはよく分かってない。百合香にもきっとアタシはなにが言いたいのかって思われてるかも知れない。だけど、この時のアタシは、そんなことを考える余裕など無く、ただただ百合香の胸の中で泣き喚くだけだった。