花火大会から少し経ち、季節は巡り徐々に肌寒さを感じてくる10月に突入しそうになっていた。そんな秋の青空の下、風太郎はいつもの様に単語帳を片手に学校へと向かっていた。
「はぁ・・・・・・そろそろ中間試験だってのに、いまだにあいつらの成績はいまいち・・・・・・。どうするか・・・・・・」
未だに自分が家庭教師をしている
「おっはー。どうしたのフータローくん?朝から元気なさそうだね?」
「その原因になってるのは貴女達なのじゃないかしら、一花?」
「全くその通り・・・・・・ってお前ら!?いつの間に!?」
突如背後から声をかけられたことに風太郎は心底驚いた様で、後ろにのけぞってしまっていた。その声をかけてきた人物というのは、一人は先ほど話した風太郎の生徒の一人の中野一花で、もう一人はその一花の姉で風太郎に微力ながらサポートをしている中野百合香だった。
「さっきからいたわよ?風太郎くんったらずっと難しい顔して考え事してたから気がつかなかったんでしょ?」
「まじかよ・・・・・・ほんとに気づかなかったわ・・・・・・」
「それはそうとフータローくん。私たちのこの冬服の制服姿に何か一言ないの?」
「制服なんてどれも一緒だろ?一言も何もあるかってんだ。・・・・・・で?何か用か?」
無愛想な風太郎に一花は剥れ、百合香はふふっ・・・・・・と笑うが、二人は風太郎に用があることを思い出したのか、早速本題を切り出した。
「はいっ!」
「ん?スマホなんて差し出してどうした?・・・・・・くれるのか?」
「はぁ〜・・・・・・違うわよ。風太郎くんの今後のことも考えて、私たちの連絡先くらい知っておいた方が家庭教師をやる上でも便利でしょ?だから、私たちとメールアドレスを交換しましょうってことよ」
百合香は風太郎の鈍感さに呆れつつも、わかりやすく説明をし、一花と同じ様に自分のスマホを風太郎の前に差し出した。
「別にそんなのいらねぇ・・・・・・」
「あれ?フータローくん、これをみてもまだそんなこと言えるのかな〜?」
「は?・・・・・・っ!!お、おまっ・・・・・・」
風太郎は一花が見せてきた画像を見ると同時に、顔が真っ青に変化する。一花が小悪魔の様な笑顔をしながら風太郎に見せたのは、スマホの画面越しに映る一花の膝を枕にして風太郎が眠っている画像だった。側から見れば、まるで彼氏が彼女にしてもらっているが如く、甘い雰囲気が漂ってくるのが感じ取れる。
「あら、随分と甘い関係ね?二人ともいつの間にそんなに仲良くなったのかしら?」
「誤解だ!これは、花火大会の時にいつの間にか眠って・・・・・・その時にこいつが・・・・・・」
「そうだね〜。でも、それを知ってるのはこの三人だけだよ?もしもこの画像が他のみんなに見られたら〜・・・・・・」
ぎりっ・・・・・・と歯軋りをする風太郎。もちろんそんなことになったら間違いなく風太郎は、他の姉妹達から糾弾なり詰問なりされることだろう。そんなことになってはとてもではないが家庭教師どころではなくなる。つまりこれは・・・・・・。
「弱みを握りやがって・・・・・・あん時の俺を殴ってやりたい・・・・・・」
「そんなに言わないでちょうだい?風太郎くんもみんなの連絡先を知っておいた方がきっとこの先きっと楽になるわよ?だから今回は一花のいうことを聞いてあげてちょうだい?」
「・・・・・・わかったよ。・・・・・・全く」
結局、弱みを握られた状態では従わざるを得ない風太郎は、渋々二人と連絡先を交換した。
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視点 風太郎
「お断り」
「貴方のアドレスを持ったとしても、何もメリットが感じられませんよ」
やっぱりな・・・・・・。俺は内心で深くため息をつく。一花と百合香と連絡先を交換した後、学校で三玖と四葉の連絡先を交換することに成功した俺だったが、やはりというべきか、俺に良い印象を抱いていない二乃と五月には断りを入れられてしまった。・・・・・・だが、そんな事は想定済だ!だからこそ、”こいつ”を連れてきた意味がある!俺はすっと隣に・・・・・・百合香へと視線を移す。頼む!お前の力でこの二人から連絡先を聞き出してくれ!
「あら、良いのかしら?今なら風太郎くんの連絡先に加えて、らいはちゃんの連絡先も教えてくれるらしいわよ?」
「えっ!?それは本当ですか!?」
「はぁ!?百合香・・・・・・何言って・・・・・・」
なんでそこでらいはの名前が出てくる!?確かにそれなら二乃はともかく五月なら食いついてきそうな提案だが・・・・・・。こいつ、手段は選ぶなって言ったが、遠慮ないな・・・・・・。まぁ、仕方ないな。
「ああ、教えてやる!」
「うぅ・・・・・・背に腹は変えられませんね・・・・・・分かりました」
「ちょっと!身内を売るなんて卑怯じゃないかしら!?」
とりあえず五月の連絡先はゲットだ。後は二乃だけだが・・・・・・百合香はどうする気だ?未だにこいつは教える気はないみたいだが?
「二乃は教えないのかしら?」
「当たり前よ!なんでアタシがこんな奴に・・・・・・」
「そう。じゃあ残念ね。貴女は抜いて私たちだけで秘密の話をしようかしら?私の秘密や他にもたくさんの楽しかったことを・・・・・・あ、そうね。小さかった頃の二乃の話も二乃だけには秘密にしてみんなで・・・・・・」
「やめてっ!?わかったから!・・・・・・書く物貸して!」
「お、おう・・・・・・」
すごい剣幕で俺に迫ってきた二乃にたじろいだ俺だったが、とりあえず生徒手帳を渡しておいた。・・・・・・百合香のやつ、意外とドSなとこあるよな。普段はもっとおしとやかって言うか穏やかな感じで接しやすいんだが・・・・・・これも百合香の個性って呼べば良いんだろうか?
「あれ?そういえば四葉はどうした?途中まで一緒にいたよな?」
「四葉ならバスケ部の部長さんから連絡が来たからって、途中でどこかに行ったわよ?多分部室じゃないかしら?」
「バスケ部って・・・・・・あいつまさか!?」
「え?ちょっと風太郎くん!?」
百合香が後ろからなにやら言ってる様に聞こえたが、聞き流して俺は四葉のもとへと向かった。
「どうしたんでしょうか?」
「さぁね?と言うかあいつ、生徒手帳忘れていったんだけど?アドレス書いたのに・・・・・・」
「私が後で届けておくわ。全く、風太郎くんは・・・・・・」
生徒手帳を忘れていることに気がつかずに・・・・・・。