本当に間が空いてすみませんでした!
視点 三人称
「マジかよ・・・・・・生徒手帳、二乃の奴、中を覗いてないといいが・・・・・・」
家へと戻っていた風太郎は、生徒手帳を二乃から返してもらってないことに気が付き、内心でかなり焦りを抱いていた。結局、四葉はバスケ部からの助っ人申請・・・・・・もとい、バスケ部への入部の勧めを風太郎との勉強の為に断ったので、大事にならずに済み、風太郎も胸を撫で下ろしたのだが、それとこれとは話が別。風太郎にとって、あの手帳の中身を見られると自分にとってかなり都合が悪いのだ。
「何だ?”あの子”との写真は、今も生徒手帳の中に入れているのか?はっ・・・・・・お前も隅におけんな!」
「うるせぇ親父!・・・・・・俺にとってあの写真は、俺の人生を変えてくれた奴との大切な思い出なんだよ。だからこそ、あれをあいつらにだけは見られたくねぇんだ」
父である勇也からどこか茶化したような声が飛び、頬を赤く紅潮させながら怒る風太郎。風太郎の懸念点は、生徒手帳の中身に入っている一枚の写真のことであり、それは風太郎も言ったように彼にとってかなり大切な物であるので、それを他者に見られたくはないのだそう。
「それだけじゃねぇだろうが。お前、修学旅行から帰ってきた日『一つ歳上の姉ちゃんと同い年の女子と約束したから絶対に頭良くなってやる!』って叫んでたのは今でも忘れちゃいないぜ?・・・・・・なぁ?同い年の女子ってのは、あの写真の子で間違い無いと思うが、その歳上の姉ちゃんってのは誰なんだよ?」
「・・・・・・さぁな。もう5年も前の話だし、忘れちまったよ。それに、多分名前だって聞いてないし、知ってる方がおかしいってもんだろ。ただ、覚えてる限りではあの写真はその人に撮ってもらった。それ以外は何も思い出せないな」
「ふ〜ん・・・・・・。まぁ、これ以上は深入りせんが、大事な物ならちゃんと返してもらってこいよ?」
「分かってるよ」
その話はあまり進展のないまま終了を告げた。5年も前の話なのだから、そんな細部のことまで覚えている事は難しいのかもしれない・・・・・・。だが、もしもこの時に風太郎がその人物を察する事が出来たのだとすれば、もしかすれば違った結末になったのかもしれない・・・・・・。
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「信じられないっ!不法侵入しただけでなく、アタシの寝込みを襲うだなんて、あんたどう言う神経してんのよっ!?」
翌日の朝、五つ子と百合香が住むマンションの部屋内に二乃の怒号が響き渡り、リビングにて正座をさせられている風太郎は肩を震わせる。何故二乃がこの様に怒っているのかと言えば、単に風太郎が二乃の部屋に忍び込んで、生徒手帳を強奪しようとしたからだ。知っている顔とはいえ、流石に自分の部屋内に異性が侵入したとわかれば当然、恐怖も覚えるし、怒りも覚えると思えるので、これに至っては風太郎が悪いとしか言えない(ちなみに、マンションの中に通したのは三玖で、彼女もすでにこの場にいる)。
「朝から大声出してどうしたの・・・・・・って、風太郎くん?」
「おはようございます、上杉さん!」
二乃の大声に反応して、階段を降りてきたのは百合香と四葉。それに続いて眠そうに欠伸をする一花と、風太郎の顔を見て嫌そうな顔を浮かべる五月も降りてくる。
「聞いてよ!こいつったら性懲りも無く、またアタシの身体狙いで部屋に侵入してきたのよっ!?」
「それは断じて違う!俺はただ、生徒手帳を一刻も早く返して貰いたかっただけなんだ!」
「生徒手帳?これの事かしら?」
言い争いを続ける二人に対し、百合香はポケットから一つの手帳を取り出す。・・・・・・風太郎がここにきた目的である生徒手帳だった。百合香は事前に二乃から手帳を受け取っており、次に学校で風太郎にあった際に返そうと決めていたのだが、ある意味手間が省けたようだ。
「そう!それだ!早く返してくれ!」
「それよりも前に、まずは二乃に謝りなさい。女の子の部屋に無断で男の子が入り込むなんて、下手をすれば犯罪よ?」
「ぐっ・・・・・・す、すまん二乃。お前の気持ちも考えずに・・・・・・金輪際二度とこんな事はしない」
「・・・・・・次はないから」
何とか、二乃に許しをもらえた風太郎は百合香から生徒手帳を返してもらった。ようやく取り戻した生徒手帳を胸に抱きしめながら、風太郎はほっと息を吐いた。
「さてと・・・・・・二乃、さっきの事もあって疲れてるだろうし座ってて良いわよ?朝食は私が作るわ」
「・・・・・・へ?い、良いわよ、そこまで疲れてるわけじゃないし、むしろあんたの方こそ座ってなさいよ?」
「大丈夫よ。たまにはお姉さんらしい事させて?あ、風太郎くんも良ければ食べていって頂戴?朝ごはん、まだでしょう?」
「・・・・・・は?いや、だが・・・・・・」
「それ良いですね!上杉さんもご一緒しましょう!」
「強制かよっ!?・・・・・・はぁ、仕方ねぇな」
半ば強引に、この場で朝食を摂る事となった風太郎。二乃と五月はそれに対して苦い顔を浮かべるが、結局拒否する事はなく渋々と言った感じで席についた。それを微笑ましく見ていた百合香は、可愛らしい花柄のエプロンをつけると早速朝食作りに励む。その手つきはかなりの物であり、とても手慣れているように見える。
「むぅ・・・・・・アタシがやるって言ったのに・・・・・・」
「まぁまぁ良いじゃん。久しぶりに百合香の手料理が食べられるんだから。うん、今からでも既に楽しみになってきた!」
「そうですね。私もお腹が空いてきました」
むくれている二乃に対して、他の4人は満面の笑みを浮かべながら朝食ができるのを待っていた。久方ぶりに食べる姉の手料理にウキウキ感がおさまらないといった所なのだろう。
「なぁ?百合香の料理ってそんな美味いのか?」
「美味しいよ?二乃の料理とはまた違った美味しさがあるの。・・・・・・何というか、”お母さんが作ってくれた”みたいな、優しい味がする・・・・・・って言えば良いのかな?」
「お母さんねぇ・・・・・・。俺のお袋は小さい時に死んだし、もう覚えちゃいねぇな・・・・・・」
「へぇ〜?フータローくんもそうなんだ?私たちとお揃いだね?」
「いや、そんなの嬉しく・・・・・・って、何だ?お前らも母親がいねぇのかよ?」
「「「「「・・・・・・」」」」」
風太郎の口から出たその思わぬ言葉に、5人は一斉に口を閉ざし、雰囲気が重くなる。その様子を見た風太郎は、何となく地雷を踏んでしまったと自覚した為か、すぐさまフォローに入ろうとする。
「わ、悪い!聞いちゃまずい事だったか?」
「う、ううん!ごめんね、急に空気重くしちゃって。とはいえ、この話するのはこちらとしてもあまり楽しくない事だし、こっちから言っておいて何だけど、追求はしないでもらえると嬉しいかな?」
「わ、分かった(過去にこいつらに何かあったのか・・・・・・?)」
流石に追求するなと言われて追求をする程、風太郎もデリカシーがない男では無いので、これ以上問質する事は避けた。それもあって、重かった空気が一気に軽くなり事なきを得たのだが、風太郎の中で引っかかる違和感は未だに謎めいたままだった。
「出来たわよー。飲み物とかは適当に出しておくから、各自で自由に注いで飲んでちょうだい」
料理に集中していた事もあって、先ほどの話が耳に入ってなかった百合香は元気そうに作った朝食をテーブルに並べていく。並べ終わった百合香は、そのまま自身も席へとつく。さて、今日の献立は・・・・・・
・フレンチトースト
・卵とわかめのスープ
・スクランブルエッグとウインナーの盛り合わせ
・チキンとブロッコリーのシーザーサラダ
・フルーツポンチ
の、計5品だ。朝にしてはかなり気合の入ったメニューだが、本人曰く『朝ご飯は3食の中で何より大事!』との事らしいので、百合香が朝食を作ると、いつもこんな感じで豪勢な食卓となるのだ。因みにドリンクとして、テーブルに水、麦茶、牛乳、オレンジジュース、コーヒーが置かれている。
「お前ら・・・・・・。いつもこんな美味そうな朝飯食って登校してたのか?」
「そんな訳ないでしょ?百合香が特別なだけ・・・・・・それにしても、相変わらず豪勢ね・・・・・・。アタシでも作って3品なのに・・・・・・」
「しかも、所要時間が約15分って・・・・・・やっぱり百合香は凄いなぁ・・・・・・」
風太郎は勿論の事、久々に見る姉の手料理を見た妹5人もまた、姉の手腕の凄さと料理の豪勢さに度肝を抜かれていた。こんな多くの料理を7人前、それもそこまで時間をかけずに作り上げたと言うのだから、驚くのも無理はないが・・・・・・。
因みに、百合香の分は他の6人に比べて少なめに作られている(少食なので)。
「早く食べませんか?私、お腹が空きすぎて・・・・・・」
「そうね。じゃあ、みんなで手を合わせて・・・・・・せーの!」
「「「「「「いただきますっ!」」」」」」
「っ・・・・・・い、いただきます・・・・・・?」
・・・・・・約1名、外した者がいたが、それを気にする事もなく皆はそれぞれ料理を口に運んでいく。
しつこすぎない甘さでふんわり柔らかに仕上げられたフレンチトースト、出汁の効いたわかめと卵のマッチが素晴らしいスープ、ふわふわでほんのり生クリームの風味を感じるスクランブルエッグ、サラダチキンとブロッコリーに添えられた百合香特製のドレッシングが印象的なサラダ、さまざまなフルーツがてんこ盛りなフルーツポンチ。
どれも満場一致な美味さであり、食べた後しばらくの間その余韻に浸る6人なのだった。そして、そんな6人を百合香はお皿洗いをしつつ微笑ましそうに眺めているのであった・・・・・・。
「ねぇ、百合香?あいつの生徒手帳の中に入ってた写真に写ってた男の子の事なんだけど・・・・・・」
「・・・・・・?あの、金髪の男の子?その子がどうかした?」
「アタシ、あの子凄くタイプなのよね〜。あいつの親戚か何かかしら?・・・・・・今度会わせてもらおうっと!」
「(あの子は風太郎くんなのだけど・・・・・・まぁいいわ)いつか会えると良いわね?」
「ええ!絶対会ってやるんだから!」
・・・・・・実は、風太郎に返す前、こっそり二人は写真を見ていたのだが、それを風太郎は知る由もない。だが、不幸中の幸いというべきか、自分の写る写真の中の”女の子の方”は見られていなかったので、そこはほっとして良い所なのかもしれない。
基本的に、百合香は料理をしませんが、それは単に二乃に任せているだけであって、やろうと思えば今回のようにきちんとした料理を出してくれます。・・・・・・正直、百合香にもっともっと料理を作って貰いたいです。体に無理のない程度に。
それと、風太郎・・・・・・そこ、代わってくれ。