視点 三人称
翌日、再び中野家に訪れた風太郎は、五月に4人の姉妹と百合香を集めてもらい、開口一番こう言った。
「お前らには昨日できなかったテストをやって貰う!このテストで合格点50点を超えた奴に関しては金輪際関わらないことを誓おう!勝手に卒業していってくれ!」
「は〜?何でアタシ達がそんなめんどくさい事・・・・・・」
「良いでしょう。受けます。これで貴方の顔を見なくて済むのであれば・・・・・・」
「仕方ないね〜、やりますか・・・・・・」
「やろう」
「みんな!頑張ろう!」
「あんまりアタシ達のことあなどってると痛い目見るわよ?」
やる気十分な五つ子に風太郎は満足げに微笑む。そんな風太郎に、今まで黙っていた百合香が口を挟む。
「風太郎くん。これは私も受けるのかしら?」
「当然だ!お前とはいえ頭が悪いんだったら俺と仲良くお勉強だからな!」
「わかったわ(お父さん、風太郎くんにちゃんと説明したのかしら?)」
「よーし!じゃあ・・・・・・始め!」
そして、風太郎からテスト開始の合図が出ると、6人は一斉に答案用紙に回答を書いていった。
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数十分後、解答用紙を集め、6人のテストの点数をつけていた風太郎は、その結果に頭を抱えていた。
「凄いぞ!100点だ!・・・・・・お前ら5人合わせてな!・・・・・・お前ら?まさか・・・・・・」
「逃げろー!!」
「お、おい待て!!」
テストについて追及されるのが相当嫌だったのか、五つ子達は即座に自分たちの部屋に逃げ込んでいった。ちなみにそれぞれの点数は、一花が12点、二乃が20点、三玖が32点、四葉が8点、五月が28点だ。残された風太郎は予想外の事態にただ呆然と立ち尽くしていた。
「まさか・・・・・・あいつら全員が赤点候補だなんて・・・・・・」
「ごめんなさいね?風太郎くん。残念だけどこれが現状なのよ。あの子達は前の学校で落第しかけて今の学校に転校して来たの。だから貴方はあの子達全員に勉強を教える事になるわ」
もう一人残っていた百合香が、風太郎に妹達の今の状況を軽く伝えると、風太郎はさらに絶望をした。
「まじかよ・・・・・・あいつら全員に教えるなんて・・・・・・そんな事・・・・・・」
「諦めたら何も始まらないわよ?ふふ・・・・・・大丈夫よ。貴方ならできるわ・・・・・・」
「百合香・・・・・・。そういえば、お前は頭が良いんだな?」
風太郎は五つ子の答案を置き、百合香の答案を手に取った。そこには・・・・・・”100”という数字が点数欄に刻まれていた。
「お姉さんの私まで頭が悪いなんて、妹達に示しが付かないでしょう?
「百合香〜・・・・・・俺の味方はお前だけだ・・・・・・」
この時風太郎は、改めて百合香の存在が大きいことを知ることとなるのだった・・・・・・。
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視点 風太郎
五つ子が想像以上のバカだということがわかった二日後、俺は登校してきた6人に会うべく、校門で待ち伏せをしていた。そんな中、校門前に一際でかい黒い車が止まったと思ったら、そこから五つ子や百合香が出てきた。さすが、金持ちは違うな・・・・・・。
「おいお前ら!一昨日はよくも逃げてくれ・・・・・・」
俺が一昨日のことを咎めようと近づいていったところ、奴らは即座に後ろへ・・・・・・正確には百合香の後ろへと下がった。
「そんな怯えんな!よく見ろ!今の俺は手ぶらだ!つまり無害だ!」
「参考書とか隠して持ってるんじゃないの?」
「怪しい・・・・・・」
俺のことを何だと思ってるんだこいつらは!・・・・・・ってか、笑ってないで百合香も何か言えよ!?
「私たちが力不足だという事は認めます。ですが、自分の問題は自分で解決します!」
「勉強は一人でだって出来る」
「そういう事。つまり、余計なお世話って事よ」
この・・・・・・減らず口をペラペラと・・・・・・。俺が怒りに震える中、突如百合香が後ろの五つ子達の方へ向き、優しく問いかけた。
「あら?じゃあ、この間のテストの復習はしっかりしているのよね?テストをしたらそれを復習するのは当然よ?」
「ほう?それは是非とも聴いてみたいものだ。お前ら・・・・・・どうなんだ?」
俺と百合香が復習をしたかと尋ねると、五つ子全員がビクッと肩を震わせたのを俺は見逃さなかった。・・・・・・・・・・・・これはというか・・・・・・やっぱり・・・・・・。
「『問一、厳島の戦いで毛利元就が破った武将の名前をあげよ』・・・・・・分かる奴、挙手」
俺は誰か手をあげるように!と願ったが、残念ながらあげる奴は一人もいなかった。
「はぁ・・・・・・貴方達?留年したくないのなら、しっかりと復習をしておきなさい。良いわね?」
「「「「「はーい・・・・・・」」」」」
まるでお母さんのように妹達を叱る百合香に俺はどこか懐かしさを感じていた。遠い昔にそんな女の子にあったような記憶が・・・・・・。
・・・・・・俺って、百合香に会ったことあったか?・・・・・・気のせいか。
今は関係ないと割り切った俺は、そのまま6人と共に学校の中へ入っていった。
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俺は五つ子に対して幾つかわかったことがある。あいつらは馬鹿な上に極端な勉強嫌い!そして、俺のこともどうやら嫌いなようだ・・・・・・。それに至ってはだいぶ傷つくな・・・・・・。
だが、一つ懸念点があった。それは、三女である三玖のことだ。あいつはさっき俺が出した問題を正解していたにも関わらず、何故か答えなかった。その理由を聞くべく、俺は昼時を狙って三玖に接触した。
「よ、よう三玖。ちょっと聞きたいことが・・・・・・ってなんだその飲み物?抹茶ソーダ?」
「いじわるするフータローには飲ませてあげない」
「いや、別にほしいわけじゃ・・・・・・って待てよ!?」
俺はその後、なんとか今朝のことを三玖に聞こうとするが、たまたま居合わせた四葉や一花に邪魔され、結局最後まで聞くことができなかった。四葉に至っては三玖が恋してるだの、わけわからんことを言い出す始末だ。あんな、学業から最もかけ離れた行為をする奴の気がしれん。そんなことをしている暇があるなら勉強しろと言ってやりたい。・・・・・・そんなことを思いながら、自分の教室に戻ってきた俺は、机の中から単語帳を出そうと手を入れてみたが、中に単語帳の他に何やら紙のような物が入っていたため、おもむろに俺は取り出してみた。その紙は・・・・・・。
「手紙か?しかも三玖から?なになに・・・・・・『放課後、屋上に来て。フータローに伝えたいことがあるの』・・・・・・は!?」
その手紙の内容に俺は困惑する。これは俗に言う・・・・・・ラブレターと呼ばれる物では無いか!?まじかよ・・・・・・三玖が恋してたのって俺!?どうしようどうしよう・・・・・・。
「どうかしたのかしら?」
「っ!百合香!いや・・・・・・実はな・・・・・・」
たまたま声をかけてきた百合香に俺はこの手紙のことを話した。もし声をかけてきたのが五月だったら話さないが、こいつならば親身に話を聞いてくれるだろうと、信じてるため洗いざらい全て話させてもらった。
そして、俺の話を聞いて百合香は何かわかったのか、微笑を浮かべた。
「何かわかったのか?」
「いえ、ただ・・・・・・三玖らしいわね・・・・・・と思って・・・・・・」
「は?どう言うことだ?」
「行けばわかるわ。行けばね・・・・・・」
俺にはいまだに何が何だかわからず、さらに百合香に話を聞こうとしたが、ちょうど授業開始のチャイムがなってしまった為、それは叶わなかった。
そして放課後、俺は三玖の申し付け通り、屋上へと足を運び三玖を待っていた。だが、数分待っても三玖は現れず、悪戯だったんじゃないかと思い始めた頃、ガチャリと屋上のドアが開いた。
「遅かったな。約束通りきたぞ・・・・・・三玖」
「本当に来てくれたんだ。・・・・・・それで話なんだけどね・・・・・・私、ずっとフータローに言いたかった事があったの。それを・・・・・・今から言うね?」
「お、おう!どんと来い!」
いよいよ俺が三玖に告られるのか・・・・・・いやいや!ここは全力で断るべきだ!俺には恋などをしている暇なんぞない!三玖には悪いが、三玖のためだ。男らしく思いっきりふってやる!
「す・・・・・・す・・・・・・」
「・・・・・・」
「
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
はっ?今なんて言った?三玖の奴・・・・・・?
「何て?」
「だから、陶晴賢。今朝フータローが出した問題の答え。・・・・・・はぁ〜〜、すっきりした!」
「もしかして、それを言うために俺をここに呼び出したのか?」
「誰かに聞かれたくなかったから。・・・・・・もう気が済んだから帰るね?」
そう告げた三玖は屋上から去ろうとする。ふざけてんじゃねぇ!!そんなたった問題の一つの解答を聞かせるために俺を呼び出したってか!?俺のさっきまでの胸の高まりやドキドキを返しやがれっ!!さっきまで浮かれてた俺を殴ってやりたい・・・・・・。
「な、なあ?三玖って歴史が好きなのか?特に戦国武将が?」
「・・・・・・だったらなに?変だとでも言いたいの?」
どこか表情を険しくしながら話す三玖。歴女ってやつか?・・・・・・確かに今時の女子高生が歴史の人物が好きってのは珍しいかもしれないが、別に変ではないがな?・・・・・・とここで、俺にある案が浮かんだ。
「(歴史や武将が好きなら、三玖は日本史を中心的に授業をすると言えばきっと食いついてくるはず!これはチャンスだ!せっかく光明が見えた好機を生かさずしていつ生かす!武将に特別興味はないが三玖のために人肌脱いでやるか!)」
「フータロー?」
「三玖!それは変な事じゃない!むしろ俺にとっては関心ものだ!それが好きならその好きなものに自信を持て!」
「そう・・・・・・かな?」
「(よし!食いついた!)俺は前回のテストで日本史は満点だったからな、俺の授業を受ければお前も知らない武将の話もしてやれるぞ?」
こんな感じで俺の方が三玖より武将や歴史に詳しいことをアピールし、三玖の興味をそそる作戦に出たのだ。歴史好きな三玖なら絶対に食いつくし、現に今の三玖は目を輝かせながら俺に自信が大好きな戦国武将の話や逸話などをペラペラと終わりなく語り尽くしている。・・・・・・これで後は・・・・・・。
「なぁ三玖?次の家庭教師の内容は日本史の内容を中心としてやろうと思う。だから、授業受けてくれないか?」
これに三玖が頷いてくれれば俺の勝ちだが、果たしてどうか・・・・・・。
「し、仕方ないな。そこまで言うなら・・・・・・良いよ?」
「まじか!?ありがとな!」
勝った!心の中でそう叫びながらガッツポーズをする。ここまでくればもう安心だ。後はいかにしてうまく日本史と他の教科を教えていくかだが・・・・・・。そんなことを考えていると、三玖が懐からなにやら取り出した。よく見てみると、それは三玖がよく飲んでいた抹茶ソーダだった。
「これ、飲んでみて?友好の印だから」
「え・・・・・・まじかよ・・・・・・」
「”鼻水は入ってないよ?”・・・・・・なんてね」
「・・・・・・・・・・・・は?鼻水?」
いきなり出てきた意味不明な言葉に俺は困惑する。何でいきなり鼻水?三玖は鼻水なんて垂らしてないし、無論俺も垂らしてない。
「え?もしかしてこの逸話知らないの?・・・・・・・・・・・・ふ〜ん?頭良いって聞いてたのに所詮この程度なんだね?」
「い、いや・・・・・・」
「この程度なら教わることなんてないかも。バイバイ・・・・・・」
どこか失望したかのように口を尖らせた三玖は、そう吐き捨てると今度こそ屋上を後にした。その後ろ姿を俺は、ただただ呆然と見送るだけだった・・・・・・。