三玖に自分の決意を告げ、三玖を何とか授業に参加させることができた風太郎は、一歩前進できたと喜びにあふれていた。三玖に至っては始めのうちは日本史を中心的にやるらしく、徐々に他の教科にも力を注いでいこうと言う工程で行くこととなった。
そんな中で迎えた週末、風太郎は家庭教師をしに中野家に訪れていた(マンションの入口のところでオートロックのことを知らずにずっと監視カメラに向かって話しかけていたところを三玖に見られたことは内緒だ)。リビングには既に、一花、三玖、四葉、五月、百合香が座っていて、『今日は集まりが良いな』と風太郎は関心する。とは言っても真面目に授業を受ける気なのは四葉と三玖だけのようで、一花は見てるだけ、五月は自習をすると言っている。百合香は自分の勉強もしたいと言うことで同じく授業を受ける気でいるようだ。二乃に至ってはリビングにすら居ない・・・・・・と思われたそんな時だった。
「へ〜?懲りずにまた来たんだ?また前みたいに途中で寝ないと良いわね〜?」
「(お前が薬を・・・・・・っと、顔に出すな俺、リラックスだ・・・・・・)二乃〜?よければ一緒に勉強を・・・・・・」
「お断り」
二階から二乃が声をかけてきて、一応勉強に誘ってみた風太郎だったが案の定断られた。仕方ないと、今日は四人だけでやろうと勉強道具を取り出そうとした時、突如二乃が口を開いた。
「あ、四葉?知り合いのバスケ部の子が臨時の大会のメンバー探してるらしいんだけど、あんた運動出来るんだし言ってあげたら?」
「え!?今から!?でも・・・・・・」
「何でも五人しかいない部らしくてそのうちの一人が骨折して出れなくなっちゃったみたいなのよ?残念ね〜、せっかくその大会のために今まで頑張って努力してきたのにメンバーが一人いないせいで出られなくなっちゃうなんて・・・・・・」
「すみません上杉さん!私、困ってる人を放ってはおけません!」
「お、おい!四葉!」
風太郎の制止も虚しく、四葉は荷物を持ち家を出て行った。
「一花も2時からバイトじゃなかった?」
「いっけない!忘れてた!」
一花もバイトの準備をして、家を出ていく。
「あ、あいつら〜・・・・・・」
「全く・・・・・・二乃は・・・・・・」
残ったのは風太郎と三玖、五月、百合香だけだった。風太郎はこの現場に頭を抱え、三玖は気にせず勉強の準備を始め、五月も特に気にせず既に自習に入っていて、百合香は妹の何とも子供じみたこの行動に苦笑いを浮かべていた。
「良いよフータロー。二人でやろ?日本史教えてくれるんでしょ?」
「あら三玖、まだいたのね?さっきあんたが間違えて飲んだアタシのジュースさっさと買ってきなさいよ?」
「それはもう買ってきてある」
「っ・・・・・・そう。五月?こんなうるさいとこでやるくらいなら図書館にでも行ってくればー?」
「そうですね。少なくともこの人がいるここよりは集中出来るでしょうし・・・・・・」
二乃にそう促された五月は自習していた手を止め、図書館へ行こうとした。だが、それをひとりが止めた。
「五月、それなら私と一緒にやらないかしら?私の部屋で」
止めたのは百合香だった。止めたと言っても自分の部屋で一緒に勉強をしようと誘っただけなのだが、風太郎にとっては願っても無いことだった。
「え?そ、それは嬉しいですけど・・・・・・大丈夫なのですか?身体は・・・・・・」
「大丈夫よ。二乃はどうする?」
「・・・・・・ちょっと三玖に話があるから良い」
「そう。じゃあ五月、先に行って準備してて頂戴。飲み物持っていくから」
「わかりました!」
百合香に先に部屋に行くよう言われた五月は、二階の百合香の部屋に入って行った。百合香は飲み物を取りに向かったが、その際に風太郎に小声で囁いた。
「今は五月は私に任せなさい?でも、いつかはちゃんと貴方が教えるのよ?」
「すまん・・・・・・恩に着る。」
百合香は風太郎にそう伝え終えると、飲み物を持って自分の部屋へと入っていった。
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視点 百合香
五月と私の部屋で勉強を始めて約1時間。私は五月に勉強を教えながら自分の勉強も進めていた。正直に言うと、お医者様からもあまり過度な勉強をするのはよろしく無いと言われているのだけど、この程度であればそこまで体調にも影響が無いと思えた為、私は気にせず続けた。そんな中、ふと五月の方を見てみると、何やら少し笑顔を浮かべながら問題を解いていた。何でかと気になった為、私は勉強する手を止め、声をかけた。
「・・・・・・」
「五月、随分と楽しそうに勉強するのね?そんなに勉強が好きだったのかしら?」
「へっ!?え、笑ってましたか?」
「すっごくにやついてたわよ?」
「そ、そうですか。・・・・・・それは多分、嬉しいからだと思います。・・・・・・こうして、百合香とまた一緒に勉強が出来てることが」
そのように言う五月は、まるで子供のように可愛らしいかった。嬉しい・・・・・・か。
「そうね。こっちに戻ってきてもこうして家族で勉強することなんて無かったものね。・・・・・・何か昔に戻ったような気分だわ・・・・・・」
「昔は私たち全員に百合香は勉強を教えていましたものね。誰かがわからない、わからないと言っても決して怒らないで、優しくわかりやすく勉強のやり方やテストの点を取るポイントなどを教えてくれてましたっけ?」
「・・・・・・そんな事も教えたわね。でも、それなのに何で今は赤点候補になるほどのお馬鹿さんになっているのかしらね〜?」
「うっ・・・・・・すみません・・・・・・」
私が(目が笑ってない)笑顔を見せると、途端に五月が縮こまってしまい、口をモゴモゴさせていた。そんなところも昔と変わらず可愛いと思いながら、私はそっと五月の頭に手を乗せた。
「冗談よ。あなた達は、今はお馬鹿さんかも知れないけれど、私はあなた達ならきっとこの苦境を五人で乗り越えられるって信じているわ。・・・・・・だけど、現状では正直厳しいでしょう?だからね・・・・・・」
「上杉くんを頼れと・・・・・・そう言いたいんですね?」
「そう言う事。今の私じゃ、あなた達全員を教えることなんて出来ないもの。五月が風太郎くんを嫌っていることはよく知ってるわ。でもね、あなたはまだしっかりと彼のことを理解しているわけでは無いでしょう?第一印象だけで、風太郎くんを嫌うのは違うのでは無いかしら?少なくとも私は彼を良い人だと思っているわよ?」
「・・・・・・」
撫でる手を戻すと、五月は何やら深く考え込み始めた。彼女の考えを簡単に変えることが出来ないのは私が一番良く分かってる。だから、せめてもの助言として言わせてもらった。今後の風太郎くんと五月の関係に進展があるようにと言う願いを込めて。
「百合香の言いたいことはよく分かりました。ですが、やはり今は彼には教わりたくはありません。まぁ・・・・・・今後の彼次第で少しは変わるかもしれませんが?」
「ふふ・・・・・・今はそれで良いわ。(風太郎くん、私は可能な限りのサポートはしたわよ?後はあなた次第・・・・・・)」
「さぁ、勉強の続きをしましょう。次はこの問題を・・・・・・・・・・・・って、何か外が騒がしくないですか?」
五月にそう言われ、聞く耳を立てると確かに何やら部屋の外から騒ぎ声が聞こえるのが分かった。大方、二乃と三玖が何やら言い争っているのだろうと考えていたが、今は五月が勉強中だ。騒がしくされるのは不快でしかないだろう。・・・・・・仕方ないわね。
「五月、私がちょっと見てくるからあなたは勉強してなさい」
「え?なら私も・・・・・・・・・・・・いえ、お願いします」
ここは私を行かせた方が良いと踏んだのか、五月は私にお願いをした後、勉強に集中した。さて、私は・・・・・・・・・・・・。
「お姉さんとして、妹達の面倒を見ないとね!」
軽く腕まくりをして気合を入れた後、部屋を出てリビングに向かった。そこで目にしたのは・・・・・・・・・・・・風太郎くんに自分の料理を見せつけて自信満々な顔をしている二乃と、お世辞にも美味しそうには見えない料理を見せて、恥ずかしそうな顔をしている三玖の姿だった。
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視点 風太郎
百合香と五月が部屋に入った後、こっちではややこしいことになっていた。と言うのも、二乃と三玖が些細なことで喧嘩を始めてしまい、最終的には料理対決をしてどっちが俺に美味しいと言わせる料理を作れるかと言う勝負にまで発展してしまったわけだ。・・・・・・とりあえず言わせて欲しい。
めんどい・・・・・・・・・・・・。
「さて、出来たわよ!【旬の野菜と生ハムのダッチベイビー】!」
「お、【オムライス】・・・・・・」
それから数十分後、二人の料理が完成すると、俺のところまで持ってきた。二乃の料理は見た事ないが・・・・・・綺麗に盛り付けられていて美味そう。三玖の料理は・・・・・・まさに悲惨といった感じで、オムライスにしては卵がボロボロに崩れてるし、ライスの方も所々焦げていて正直ビジュアルとしてはよろしくは無かった。
「や、やっぱり自分で食べるね?」
「はぁ〜、あんたってほんとに料理下手ね〜?正直勝ちは確定みたいだけど、一応感想聞かせなさいよ?」
「お、おう・・・・・・」
二乃にそう言われては食べない訳にはいかない。俺は箸を手に取り、二人の料理を一口ずつゆっくりと味わってみた。・・・・・・で、感想はと言うと・・・・・・。
「うん、どっちも普通に美味しいな」←(貧乏舌)
「はぁっ!?何言ってんの!?」
「何って・・・・・・どっちも美味いって言ったんだが?」
「フータロー・・・・・・」
「・・・・・・こいつの舌はいったいどうなってるのよ・・・・・・」
俺の判定に納得できない様子の二乃と、俺の判定に何処となく嬉しそうな三玖と言う対極的な反応に俺はどう返して良いか戸惑っていた。だがそんな時、俺に救いの手が現れた。
「あら、何か騒がしいと思って来てみれば・・・・・・美味しそうな物作ってるじゃない。私も食べて良いかしら?」
「百合香!(助かった・・・・・・)」
勉強に区切りがついたのか、百合香が二階から降りて来たのだ。俺にとってはありがたいの一言に尽きる。
「百合香・・・・・・」
「百合香!もちろん良いわよ!こいつみたいな下らない判定されるよりも百合香に判定させた方がいいものね!」
「ありがと」
下らない判定って・・・・・・俺は真面目に判定したつもりだったんだがな。
「見た感じ、二乃がダッチベイビーで三玖がオムライスかしら?」
「っ!さすが百合香ね。でも、よく”これ”がオムライスってわかったわね?」
二乃はどこか小馬鹿にするように三玖のオムライスを指さした。それは俺も思った。俺だって最初は、三玖に料理名を発表される前までオムライスだとわからなかったんだ。なのに百合香は一発で当ててしまったんだ。それは驚きたくもなる。
「ほとんど勘だけれどね。卵とケチャップライスを使っているからもしかしたらって思ったのだけれど、当たってよかったわ。・・・・・・ちょっと火にかけ過ぎているけれどね?」
「うっ・・・・・・」
百合香は俺と同じように箸を手に取ると、二人の料理を味見して行った。さて・・・・・・お前の感想を聞かせてくれ!
「うん。両方とも美味しいわね」
「「「はぁっ!?」」」
百合香以外の三人の声がハモった。何でお前まで俺と同じ答えになる!?それだと何も変わらんだろうが!?
「百合香・・・・・・あんたも舌大丈夫?」
「失礼ね?身体は弱ってるかも知れないけれど、舌までは弱ってないわよ。二乃の料理は普通に美味しかった。それで三玖の料理は・・・・・・少し面白い美味しさね、って思えちゃったのよ」
「面白い?・・・・・・どう言う事?」
「簡単に言えば、三玖の料理にはどこか気持ちが込められて作られた・・・・・・みたいな味がしたわ。何と言うか・・・・・・三玖が頑張って作ったんだって言う気持ちが伝わってくる味だったわね」
「気持ち・・・・・・」
その気持ちとやらに心当たりがあるのか、三玖はどこか照れたように顔を伏せてしまう。
「じゃあなに?アタシの料理にはその気持ちが入ってないって言いたいの?」
「そうは言ってないわよ。二乃の料理にももちろん気持ちが入っていたし、とても美味しかったわ。・・・・・・それにしても、二乃も本当に料理が上手になったわね?簡単に作れるホットケーキを毎回のように焦がしていた頃が懐かしいわ・・・・・・」
「っ!?そ、それは言わないでよ!昔の話でしょ!?」
二乃が顔を真っ赤に染め上げて百合香に詰め寄る。
「へ〜?二乃も料理が下手な時期があったんだな?」
「当たり前でしょ?アタシだって百合香に料理を教えてもらうまでは、何もできなかったわよ」
「何だ?百合香も料理できるのか?」
「ええ。今はほとんど二乃に作ってもらっているけれど、昔はよく私が作っていたわ。・・・・・・そんな時だったかしらね?二乃の方から料理を教えて欲しいって言って来たのは・・・・・・」
「だって、そうすれば百合香の負担も少なくなるかなって思って・・・・・・。ほら、あんたその頃から身体弱かったじゃない?だからなおさら・・・・・・」
「ふふ、ありがと。あの時は助かったわ。さて、この話はこれでおしまい。そろそろ片付けましょうか」
「ああ。その後にはもちろん勉強をしてもらうからな!」
「分かった」
「めんどくさいんですけど〜?」
「二乃は私の部屋に来なさい。あなたの苦手な教科、私が教えてあげるわ」
「・・・・・・」
「へ・ん・じ・は?」
「は、はいっ!」
百合香のドスのきいた言葉に二乃の声は裏返っていた。こんな様子の二乃を見るのは初めてだった事もあり、驚いたのと・・・・・・今後は絶対に百合香を怒らせないようにしようと腹に決めた俺だった・・・・・・。