「あ、財布忘れた」
二乃と三玖の料理を堪能?した俺は、結局その後は時間がなかった為、僅かな時間三玖に勉強を教えた。”時は金なり”ってまさにこの事だよな。こんな事でこれからあいつら大丈夫だろうな?
と、マンションを出て帰路につきながらそうぶつくさ言ってたら、俺の財布を忘れて来てしまったことに気づき、俺は慌ててマンションへと戻った(中身はもはや入って無いと言っても過言では無いくらいなんだがな・・・・・・)。さすがにもう、オートロック機能に惑わされたりはしないが、やはりまだ慣れないな。部屋の番号を機械に入力すると、中に繋がるのだが、俺としてはややこしくなるから二乃以外が出て欲しいと願っていた。
「はい?」
「その声は・・・・・・三玖か。悪い、部屋に忘れ物をしたみたいなんだ」
「シャワー浴びてるから勝手にとって行っていいよ」
「おい、それでいいのかよ・・・・・・」
とても今時の女子高生とは思えない三玖の発言に若干ひいたが、とって行っていいと言うことなら遠慮なくと言うことで、俺は最上階のあいつらの部屋に向かった。部屋に入ってみると、リビングには誰もいず閑散としていた為、正直俺はほっとしていた。あんまり家庭教師の時間以外で会いたく無いからだ。
「財布は・・・・・・あった!よし、じゃあさっさと退散・・・・・・」
「あれ?・・・・・・三玖?シャワー浴びるんじゃ無かったの?空いたけど?」
「っ!!(に、二乃ーー!!?)」
俺のことを三玖と呼んだ声の主は、浴室から出て来た二乃であり、普段からそうなのか服を着てないでバスタオル一枚を体に巻いてる状態で出て来ていた。男の俺としては非常に目のやり場に困るんだが・・・・・・。
「ちょうどよかったわ。そこの棚にあるコンタクトケース取ってくれない?」
「(どうやら目が悪くて俺だってことに気がついて無いみたいだな。ならさっさとそのコンタクトケースを取って帰るか・・・・・・・・・・・・って棚って言ってもどの棚だよ!?)」
何とか二乃が言うコンタクトケースを取ろうとするが、もちろん俺は三玖では無いためどこにあるのか知らない。そんな俺の行動に違和感を覚えたのか、二乃がこっちまで来た。
「なにやってるのよ?これよ!・・・・・・なに?あんたもしかして、昼間のことまだ根に持ってるの?」
「・・・・・・」
「悪かったわよ。でも、それもこれも全部あいつのせいなんだから!パパとどんな約束したのか知らないけど、いきなり押しかけてきて自分勝手にやって・・・・・・・・・・・・この家に、あいつの居場所なんて無いんだから」
「(二乃・・・・・・)」
二乃が俺に対して思っている気持ちが理解できた俺は、これでこれまでの二乃の俺に対する態度に納得がいった。二乃は、家族団欒で過ごしていて快適だった場所に、異分子である俺が入り込むことに我慢がならなかったんだ。だから必死になって俺を追い出そうとしてたってわけだ。
「は〜・・・・・・あ、コンタクトつけるの忘れてた・・・・・・」
「っ!(や、やばい!早く逃げねーと!)」
ここでコンタクトをつけられては俺だってことがバレる!そう戦慄した俺は、何とかバレないようにこの場を後にしようとしたのだが・・・・・・それは叶わなかった。
「ほら二乃?そんな格好でいると風邪をひくわ・・・・・・よ?」
「っ!!(ゆ、百合香!?なんてタイミングで来るんだ!?)」
「あら?何で風たろ・・・・・・んぐっ!?」
俺は、とっさに二乃と同じように浴室から出て来た百合香の口を塞いだ。ここで俺の名前を出されては俺の人生が終わるからだ・・・・・・。百合香は二乃のように裸に近い格好では無く、薄手の半袖半ズボンのパジャマの上にカーディガンを羽織っていた。
「〜〜〜っ!!?」
「お、おい!?暴れるなって・・・・・・あっ」
しまった!ついうっかり声を出しちまった!・・・・・・と思った時にはすでに遅かったようで、コンタクトを嵌め終わった二乃がこちらに気づき、振り返ってしまった。
「百合香?男の声が聞こえたけど何やって・・・・・・・・・・・・!!?何やってんのあんた!!百合香に何してんのよ!!」
「に、二乃・・・・・・これは違う!話を聞いてくれ!」
「ふざけないで!不法侵入しただけじゃ無く、アタシの湯あみ姿まで見て、百合香を襲うようなケダモノの話なんて聞きたく無いわ!とにかく、百合香から手を離せ!!」
俺の話に聞く耳持たない様子の二乃は、俺を百合香からひっぺがえすと、百合香の元へ駆け寄り、背中をさすっていた。
「ケホッ、ケホッ、ケホッ・・・・・・」
「大丈夫?百合香?」
「だ、大丈夫よ・・・・・・。はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
そう言う百合香だが、依然呼吸は荒く、苦しそうにしていた。
「わ、悪い・・・・・・大丈夫か?」
「近づかないでよ!百合香は身体が弱いのよ!?そんな子にこんなことするなんて・・・・・・・・・・・・最低」
睨み殺さんとばかりに俺に敵意を向けてくる二乃。姉である百合香を傷つけられたことに相当に腹を立てているようだ。・・・・・・今回は明らかに俺が悪いよな。・・・・・・無事に帰れるといいが。
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「これより、裁判を始めます!」
「(な、何なんだこれは・・・・・・)」
俺は現在、まるで裁判にでも掛けられてるように、四方八方からこの姉妹たちの鋭い視線を向けられながら正座をしていた。四葉はまだ部活に行ってるようで家にいない。特に五月と二乃の視線が何より痛かったが、一番やばかったのは・・・・・・。
「風太郎くん♡・・・・・・何でこんなことしたのかしら〜?お姉さんに説明してみなさい?」
テーブルを挟んで向こう側にちょこんと座りながら、笑顔を向けてくる百合香だった。その笑顔の割に目が笑っていないのと、纏っている雰囲気が明らかにいつもと違っていたことから、とりあえず怒っていることは間違い無いようで、それが何よりも俺にとっては怖かった。
「(まずい・・・・・・このままでは今まで友好的だった百合香との関係が壊れる・・・・・・なんとかしないと・・・・・・)」
「風太郎くん?・・・・・・き・い・て・い・る・の・か・し・ら?」
「うっ・・・・・・と、とりあえず言わせてくれ!これは冤罪だ!俺はただ財布を取りに戻って来ただけだ!その時に偶然二乃と鉢合わせたってだけの話だ!」
百合香に黒い笑顔を向けられ萎縮した俺は、すぐさま自分の無実を解こうと弁明をした。
「どうかしら?本当はただ、それを口実にして私の裸でも撮りに来たんじゃ無いの?」
「そんなわけあるか!頼むから信じてくれ!」
「二乃、フータローが言ってることはほんと。私がそれ聞いて家に上げたわけなんだし、”二乃のこと”に関しては無実だよ・・・・・・」
「何であんたはこいつの味方してるのよ!」
「み、三玖〜〜・・・・・・」
三玖からの思わぬフォローに思わず抱きつきそうになるが、三玖はぷいっとそっぽをむいてしまう。
「だけど、それと百合香のことに関しては別。百合香にフータローはひどい事したんだから・・・・・・切腹で許してあげる」
「はっ!?何でそうなる!・・・・・・ってか切腹じゃ最早極刑じゃねーか!!?」
「百合香を大胆に襲おうとしたんだから、それが普通じゃ無いかな?フータローくん?」
「そうね。アタシの裸を見たことももちろん万死に値するけど、百合香に至ってはなおさらね」
「私はそれに賛成します」
「そんなわけあるか!!」
ツッコミどころが満載でいよいよ疲れて来た俺は、直接百合香に言うことにした。
「百合香・・・・・・さっきのは本当にすまないと思ってる。・・・・・・だが、あの時はああするしか無かったんだ!」
「何でかしら?私はただ、貴方の名前を呼ぼうとしただけよ?」
「それがだ!あの状況で俺の名前なんか呼ばれたら一瞬でバレるだろうが!?」
「バレたとしても、その時だったら私も何か貴方に対して擁護できたかも知れないのよ?私だってお馬鹿さんじゃ無いもの。風太郎くんが何でここにいるのか、何をしに来たのかだって考えついたかも知れなかったわよ?・・・・・・それを貴方は焦って・・・・・・・・・・・・びっくりしたわ。反省しなさい」
「そ、そう言えば・・・・・・・・・・・・す、すいませんでした」
「そう。じゃあ今回は私たちの勘違いだったってことにするわね。風太郎くんもそんな事する子じゃないものね。みんなもそれでいいかしら?」
百合香は周りの妹たちに異論があるか聞いているが、特に反対の意見は上がらなかった。
「百合香が良いなら良いんじゃない?」
「うん。良いと思う」
「百合香に感謝する事ですね」
「・・・・・・」
・・・・・・どうにも二乃が浮かない顔をしているがな。
「ありがと。はい、じゃあこれにて裁判は終了!・・・・・・それと」
百合香は俺から視線を外すと、今度は二乃の方へ視線を向けた。
「二乃も、そんなに裸が見られなく無いのならちゃんと服を着てから浴室から出なさい。今回のようなケースがあるのだから」
「・・・・・・ごめん。気をつける。・・・・・・ちょっと外行ってくるわね」
百合香に言われては頷くしかないのか、二乃はむすっとしながら頷き、外へと出て行った。・・・・・・それにしても、やっぱり百合香がいると事態の終結が早い。俺に対しての擁護ももちろんだが、妹たちへの配慮も忘れず、誰も傷つかないような終わり方に持って行っている。はぁ・・・・・・この五つ子たちにしては出来過ぎなくらいの姉だな。
「いや〜、やっぱり百合香がいてくれると助かるよ〜。私たち、何かと衝突しやすかったからこんな感じで仲介に入ってくれる存在の百合香が輝かしいよ〜。・・・・・・昔は仲良かったんだけどな〜」
「あら?今は仲良くないの?」
「百合香が戻って来て、ある程度は緩和したけど・・・・・・昔ほどは仲良くない」
「・・・・・・私がいない間に何かあった?」
「「「・・・・・・」」」
百合香の問いに三人は一斉に表情を暗くした。何か訳ありのようだが部外者の俺があまり口を挟む事じゃないと考え、俺は帰る支度をしていた。
「まぁ、それは別の機会にでも話しましょう。あ、風太郎くん。またね」
「あ、ああ・・・・・・」
今度は先ほどの黒い笑顔では無く、満面の笑顔を百合香から向けられ、不覚ながら頬を赤く染められた俺はいそいそと家の外に出るのだった。
帰る際に二乃と出会し、二乃の姉妹に対する気持ちと決意の様なものを聞かされたが、それによって今後さらに二乃への勉強の催促が難しくなると直感する俺だった。