あの日に会った君は愛しくて   作:レイ1020

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花火大会

視点 三人称

 

 

 

「どう?お父さん?」

 

 

 

風太郎の印象がガクッと落ちたあの事件から数日後、百合香は週に一回の検診を受けにマルオの病院を訪れていた。

 

 

 

「・・・・・・相変わらず、変化はない。だが・・・・・・」

 

 

 

「決断は早めに・・・・・・。そう言いたいのでしょう?」

 

 

 

百合香のその言葉にマルオは表情を硬らせる。まるでこのことはあまり言いたくないとでも言わんばかりに・・・・・・。

 

 

 

「もう少し待って頂戴。まだ、ちゃんとあの子たちの成長を見られてないから。そうじゃないと、私も決断したくてもしきれないわ?」

 

 

 

「こうしている間にも”治る”確率はどんどん低くなって行っているのだよ?・・・・・・なぜそこまで・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・お母さんと約束したのよ。『お母さんがいなくなっても、私があの子たちを支え、導き、そして・・・・・・守る』ってね。そう決めたのに、私は一時期とはいえ、あの子たちのことを放って置いてしまったわ。・・・・・・私のせいなのだけれどね?でも、だからこそ今はあの子たちから離れたくないの。せっかく戻って来たのにまた、私が離れてしまったらきっとあの子達すごく悲しむわ。・・・・・・そんな姿、私もそうだけどお父さんも・・・・・・お母さんも見たくはないでしょう?せめて今は、あの子達のそばにいてあげたいのよ・・・・・・」

 

 

 

「それはそうだが・・・・・・私は君のことも・・・・・・」

 

 

 

「こんなわがまま言ってごめんなさい。・・・・・・でも、今は許して?お願い・・・・・・」

 

 

 

百合香の精一杯の気持ちを伝えられ、これは自分が折れるしか無いと踏んだのか、マルオは小さく溜息をついた。

 

 

 

「全く・・・・・・そう言った頑固なところは母親譲りだ。・・・・・・分かった」

 

 

 

「ありがと。それじゃあ、行くわね」

 

 

 

「ああ・・・・・・」

 

 

 

百合香は言いたいことが言えたからか、どこかすっきりした顔つきで病院を出て行った。・・・・・・そんな顔つきになってるのは、それだけが理由では無いが。何せ今日は・・・・・・。

 

 

 

「花火大会か。・・・・・・楽しみね!」

 

 

 

花火大会に、妹達と行く約束をしているからだ。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「・・・・・・って、何で花火大会行こうとしてるのにアタシ達、宿題やってるのよ!?」

 

 

 

「お前らが週末だってのに宿題全く終わらせて無かったからだろうが!」

 

 

 

花火大会に行く予定だった百合香達だったが、会場内で偶然出くわした風太郎に自分たちの宿題が終わってないことを知られると、すぐさま家へと戻され、宿題をやらされることとなった。既に終わっていた百合香は、浴衣の着付けをし直していた。

 

 

 

「二乃〜、口を動かしてる暇があるなら手を動かしなさい?時間無くなっちゃうわよ?」

 

 

 

「分かってるわよ!もうっ!」

 

 

 

ブツクサ言いながらも二乃は何とか宿題を終わらせることに成功し、他の姉妹も全員無事に終わらせ、改めて花火大会へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

花火大会の会場は既に多くの人で賑わっていて、あちらこちらに花火大会特有の屋台が出ていた。

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・ったく、何で俺が花火なんて見に来なくちゃいけないんだ?」

 

 

 

「この騒ぎに似つかわしく無い顔して何してるんですか・・・・・・全く」

 

 

 

「・・・・・・誰だ?」

 

 

 

そんな花火を見ることに後ろ向きな風太郎に声をかけて来たのは、浴衣を着て髪型を変えた五月だったのだが、まだ風太郎には五つ子の五人を見抜くほどの力は無く、誰なのか迷ってしまっている。

 

 

 

「五月です!」

 

 

 

「髪型変えると余計に分からないな・・・・・・。頼むから変に変えるのはやめてくれ・・・・・・」

 

 

 

「そ、そんなの私の勝手です!上杉くんが見分けられる様になってくれれば良いだけの話です!」

 

 

 

「そんな無茶苦茶な・・・・・・」

 

 

 

少なくともそれにはもうしばらくかかる。そう頭によぎった風太郎だった。

 

 

 

「ほら、二人とも。移動するから早く行きましょう?間に合わなくなるわよ?」

 

 

 

「そうそう。というかフータローくん、普通この状況ならまずは五月ちゃんの浴衣姿や髪型を褒めないと〜?」

 

 

 

「そうだよお兄ちゃん!そんなんじゃいつまで経ってもお兄ちゃんには春が来ないよ?」

 

 

 

そんな二人の元に、残りの姉妹達、百合香、一花、二乃、三玖、四葉、そして風太郎の妹のらいはが戻って来た。らいはは単に風太郎について行きたく、この場まで来たらしく、既に他の姉妹達とは面識がある。

 

 

 

「早く行くわよ?貸し切ってる場所は知ってるからアタシについて来て・・・・・・・・・・・・ってそうだ。みんな、花火大会にきたら”あれ”を買わないといけないわよね?」

 

 

 

「”あれ”?・・・・・・あぁ、そうね」

 

 

 

「”あれ”は買わないとね〜」

 

 

 

「まだ買ってなかった・・・・・・」

 

 

 

「”あれ”を買わないと、ここに来た気がしませんからね」

 

 

 

「早く”あれ”食べたーい!」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

二乃や他の姉妹たちが言う”あれ”とやらが全くわからない風太郎は、首を傾げながらその様子を見続けている。

 

 

 

「なぁ?”あれ”ってなんだ?」

 

 

 

「綿飴」「かき氷」「人形焼き」「りんご飴」「焼きそば」「チョコバナナ」

 

 

 

「・・・・・・おい。ほんとにお前ら五つ子で姉妹なんだよな?・・・・・・見事にバラバラじゃねーか」

 

 

 

勉強嫌いや成績が悪いことに関しては全く一緒(百合香を除き)なのに対し、こう言ったことに関してはバラバラなこの姉妹に風太郎は心底呆れるのだった。

 

 

 

 

「もう!信じられません!何であの店主、一花には可愛いからってサービスをしたのに私にはしなかったんですか!?同じ顔なのに!」

 

 

 

「まぁまぁ、これ食べて元気だしなよ?」

 

 

 

先ほど行った人形焼きの店主の対応の違いに五月がプンスカ怒っていたが、一花が自分の分の人形焼きを渡してあげると、途端に機嫌が直り、大量に人形焼を頬張った。そんな中、前方を歩いていた二乃から声がかかる。

 

 

 

「みんな遅いわよ!何やってんの!」

 

 

 

「ふふ・・・・・・二乃ってばあんなに張り切っちゃって、よっぽど楽しみにしてたのね・・・・・・」

 

 

 

「いつも行ってるんじゃないのか?何で、ああも気合い十分な調子なんだよ?」

 

 

 

風太郎はこの花火大会に来ていた当初からずっと二乃・・・・・・いや、五つ子のテンションが妙に高いことが気になっていた。風太郎が言った通り、花火大会というのは毎年やるものだ。それなのにあんな調子でやってるのは何でなのか気になっていたのだ。

 

 

 

「そうね、多分だけど・・・・・・きゃっ!?」

 

 

 

「百合香!?」

 

 

 

百合香が何かを言いかけた時、間も無く花火が打ち上がるのか人混みが激しくなって来たこともあって、百合香はそれに呑まれて行ってしまった。風太郎は慌てて、人混みの波に逆らう様にして百合香の後を追い、何とか百合香の手をつかむことに成功した。

 

 

 

「だ、大丈夫か?」

 

 

 

「え、ええ。ありがと・・・・・・。あら、他のみんなは?」

 

 

 

「わからん。おそらく逸れたな・・・・・・せめて二乃が見つかれば先にその目的の場所に行けるんだが・・・・・・」

 

 

 

「そうね・・・・・・」

 

 

 

そうは言ったが、こんな人混みの中で人を探すとなると相当の手間になることは必至で、何か目印や声でも聞こえない限り、見つけるのは難しそうな状況だった。・・・・・・そんな時だった。

 

 

 

「っ!・・・・・・二乃!?」

 

 

 

「!!百合香?見つけたのか!?」

 

 

 

風太郎の問いには百合香は答えず、そのまま人混みをかき分けていった。風太郎もとりあえず百合香の後をついていくことにし、同じ様に人混みをかき分けていった。そして、人混みをかき分けて進むこと数分・・・・・・。

 

 

 

「二乃!やっと見つけた・・・・・・」

 

 

 

「百合香!?よかった、やっと誰かに会うことが出来た・・・・・・って、あんたもいたのね?」

 

 

 

「いちゃ悪いか?」

 

 

 

「別に?・・・・・・それにしても、よくアタシの事見つけられたわね?」

 

 

 

「二乃の声が聞こえた気がして来てみたのだけれど・・・・・・いてよかったわ」

 

 

 

二乃を無事に見つけられ、ほっと胸を撫で下ろした百合香。そんな中、風太郎が口を挟む。

 

 

 

「とにかく一旦ここから出るぞ。お前がさっき言ってた予約した店ってとこに案内してくれ」

 

 

 

「何であんたが仕切ってるのよ?正直お呼びじゃないんですけど?」

 

 

 

「二乃、やめなさい。・・・・・・そうね、そうしましょう。ここに長くいても疲れるだけだし、みんなのことも探しづらいわ。二乃、お願いできるかしら?」

 

 

 

「・・・・・・わかったわよ」

 

 

 

渋々と言った感じで、二乃は頷く。そして、三人は目的の店に向けて歩みを進めた。

 

 

 

その店は言うほど遠い場所にあったわけでは無く、人混みを潜り抜けること数分でその店にたどり着くことが出来た。その店は一つのマンションの様な場所で、その屋上で食事や展望などをできる様になってるらしい。

 

 

 

「やっと着いたな。・・・・・・って、花火始まってるけど誰もいないぞ?」

 

 

 

「そうね?二乃、あなた他のみんなにここの場所は伝えてあるのかしら?」

 

 

 

「あっ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・はぁ〜、それじゃあみんなが来てないのも無理ないわね。・・・・・・どうするの?」

 

 

 

二乃のその反応だけで、みんなにこの場所の情報が行き渡っていないことを悟った百合香は、ため息を吐きながら二人に問いかけた。

 

 

 

「仕方ない。俺が代わりに連れてくるから二人は待ってろ」

 

 

 

「え?それなら私も・・・・・・」

 

 

 

「お前はやめとけ。これ以上あんな人混みの中にいたら今度こそ体壊すぞ?ここで二乃と大人しく待っててくれ」

 

 

 

「あら?今日はやけに優しいわね?いつものお堅い風太郎くんはどうしたのかな?」

 

 

 

「うるせっ!じゃあな!」

 

 

 

百合香に優しいと言われ、少し顔を赤くした風太郎は照れ隠しのためにすぐさま屋上から出て行き、他の姉妹たちを探しに行った。残された百合香と二乃は、視線を戻し、静かに夜空に咲き誇る綺麗な花火を眺めていた・・・・・・。

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