麟は家で複数の少女達と昼食を食べていた。
「いや~マジで美味いなこの鮪の刺身!」
萃香が箸で鮪の刺身を摘まんで食べる。
「良い鮪をヘカーティアさんが仕入れてくれたからね。青森県で取れた鮪らしいし、かなり新鮮なんだ。此は箸が進むよ」
麟は大好物の鮪の刺身を、ザ・キングダムの面々と食べていた。
「ラステルさん、箸に慣れたんだね」
「ええっ。初めは苦労したけど、慣れたら非常に便利ね。箸って」
エリスとラステルだ。エミリーはベルと共に別の世界へ赴いており、今は麟の家で鮪パーティーを行っている。エリスは麟の誘いで鮪パーティーに参加し、少人数とはいえ鮪が食べられるのは嬉しい。
「わちきがもーらい♪」
「あっ!大トロ取らないでよ小傘ちゃん!」
麟が狙ってた大トロの刺身を取って食べる小傘。
「早い者勝ちだもーん♥️美味しい♥️」
「ハハハハッ!まあそりゃそうなるな!好きなモンは速攻で喰うべきだ!何時どうなるか分かんないなら好きなモンは始めに喰っちまえば良いね!」
萃香は酒を飲む。すると、ラステルが反論した。
「いえ。好きな物は最後まで取って置くべきよ。最後に楽しみが待ってるなら、どんな物だって美味しく食べられる筈だから」
「それなら最後までじゃなくて、途中まで残した後に取るべきじゃないの?最後まで取って置くから取られちゃうんだから」
エリスがそう言うが、大トロを食べた麟がある事を告げる。
「食べる順番、好きなものは関係無いよ。食べられる物はみんな美味しいんだから。ただ美味しく食べるだけだからね」
すると、小傘が口を挟んだ。
「どうでも良くない?お腹空いてる上に目の前に美味しい物があるのに食べないなんて、そんな奴の方が可笑しいよ。モグモグ」
「いや小傘はどれだけ食べるの!?」
エリスがツッコミを入れた。思えば小傘が誰よりも食べてる。
「人を驚かす方法を色々見つけたし、手品とか色々ね。前は空腹に苛まれてたから、食事が好きなんだよ。あっ、この中トロもーらい♪」
小傘が中トロの寿司を三つ掴んで醤油に浸けて、そのまま食べる。ネタを下にして食べる小傘。
「ヤバい!小傘に全部喰われるぞ!」
「い、急げぇ!」
「僕の鮪ー!」
「皆、ゆっくり食べて・・・喉が詰まっちゃうわよ」
冴月家は賑わっていた。鮪パーティーは、鮪が無くなるまで続いた。
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麟は鮪パーティーの片付けを萃香達と済ませていると、突然家の玄関から扉を叩く音がした。エリスが代わりに出た。
血相変えて入ってきたのは、一人の男と少女だった。少女は「テン・・・ソウ・・・メツ」と連呼している。
「助けてください麟先生!娘が白い妖怪に何かされました!」
男の声を聞いた麟が出てきた途端、彼女の表情に憤怒が宿る。
「何をしたの!?」
男に掴み掛かる麟。娘の頭を撫でた麟は、彼女を布団に寝かせてその場でお経を唱える。萃香が娘の様子を見て、原因を特定する。
「こいつ・・・ヤマノケにとり憑かれてるな」
「ヤマノケ?」
「そっか、ラステルは最近来たばっかだもんな。ヤマノケは山に捨てられて死んだ女の霊が集まって産まれた妖怪でな。今のように女に憑依して魂を吸収するんだ。『テンソウメツ』ってのは、漢字で『転操滅』。女に転移して操り、一族を滅ぼす。それがヤマノケの本質さ。まあ自分より格上の相手には憑依出来ないが、憑依した奴の数が多い程に強くなる厄介な特性があるんだ。待てよ?」
其処で萃香は、男に掴み掛かる。
「おいお前。この家に来るまでに、まさか人通りの多い所を来たのか?」
「えっ?は、はい・・・ぶべぇっ!?」
「馬鹿野郎!!!」
萃香が男の顔を殴る。勿論かなり手加減はしており、気を失わない程度にだ。
「ヤマノケの事を知らなかったじゃ済まされないぞ!お前は人里中の女をヤマノケに憑依させたんだ!」
「そ、そんな・・・」
「ったく・・・此れじゃあヤマノケがどれだけ強くなったか想像出来ないな。人里に居る女は結構多いからな」
恐らく今もかなり広がってるだろう。
「萃香さん・・・どうすれば良いの?」
「もしかして、皆は助からないんですか?」
エリスとラステルは不安だった。しかし、萃香はある提案を出した。
「いや、手はあるぞ。本体のヤマノケを倒しちまえば、こいつ等にとり憑いてるヤマノケも消え去るぞ」
「萃香。ヤマノケは何処に居るの?」
小傘が尋ねた。
「おいお前、ヤマノケを見たのは何処だ?というか娘と何処を歩いてた?」
「は、はい・・・妖怪の山で見ました。でも、入ってないんです!ちょっと足を入れただけなんです!なのに向こうから現れて、それで娘がヤマノケに怯えて俺の後ろに隠れたんですが、憑依されました。ヤマノケは居なくなってましたから」
「だろうな。ヤマノケは本体は妖怪の山に隠れて、分霊を送って憑依・・・いや外の世界風に言うなら“感染”と呼ぶべきだな。カールやドナも感染者だったな。それより、ヤマノケの本体は妖怪の山に隠れてるんだが、場所は分かってるさ」
萃香が立ち上がる。
「私はヤマノケを倒しに向かう。他に誰か行くか?」
「僕も行くよ。ラステル、君は此処で娘さんを見てて」
「ええっ。解ったわ」
ラステルは麟の家に残る事に。
「エリスは僕や萃香と来て。小傘ちゃんは此処で皆を見ててね」
「解ったよ。麟が戻るまで留守番はわちきがやるから」
小傘も留守番をする事に。
「ヤマノケかぁ・・・本体はどれだけ大きいんだろ?」
「エリスちゃんが想像してるより大きいぜ。なんせ無数の人間の魂で出来てるからな」
「行こう、妖怪の山へ」
こうして麟達は、妖怪の山へ赴いた。それは、霊夢達が苦戦の末に秋姉妹を倒した時期である。
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麟は萃香とエリスにしがみついて空を飛んでいた。麟は空を飛べない。新しい形態を使っても良いが、成るべく戦闘以外で使いたくない。何よりあれは強い相手にしか使わない。
「ねえ、あれ見て」
麟が指を差した。彼女が指を差した先には、「ハイレタハイレタハイレタ」と連呼する妖精や「テンソウメツ」と連呼する妖精が、地面に倒れていた。一体だけでなく、数十体にまで及ぶ。空から見てるせいで見えないだけで、実際はもっと多いのだろう。
「妖精達は今の幻想郷の自然界の食物連鎖の頂点に立つ存在なのに、そんな妖精達がああなるなんて・・・」
「ヤマノケが力を増してる証拠だな。急ごう」
三人の空を飛ぶ速さが上がる。エリスの体はイーヴィルティガのスーツとなっているが、黒みの部分が灰色に変わっていた。萃香は変身しておらず、素の状態のままである。
「彼処がヤマノケの住み着く場所だ」
萃香が指差した場所は、底の見えない深い洞穴であった。洞穴はまるで巨大な生き物が出入りするような大きさをしており、何か巨大な生き物が出入りしたような跡も見られる。
三人は洞穴に向かって飛ぶ速さを高める。
それは、霊夢達が白狼天狗達と闘い始めた時期であった。