宴会が終わってから2日が経過した。紅魔館はまだ修復が終わってない為、紅魔館の住人達は未だに人里でお世話になっている。
人里はあれからかなりの賑わいを見せていた。新しく外の世界からやって来た西洋の妖怪達とも打ち解けて、争う事も無く平和に暮らしていた。
そして、宴会を終えた博麗神社に、一人の訪問者がやって来た。それは、人里で自分の楽器である『六角二胡』を扱う演奏家にして、霊夢と魔理沙の幼馴染みでもある少女『
「霊夢~!可愛い麟さんが来たよ~!」
麟は階段を登って博麗神社までやって来た。神社の隣にある平屋で空中に浮きながら座禅を行っていた霊夢は目を開き、訪問者を見て畳に足を着けてそのまま立つ。
「あら?麟じゃない。宴会以来ね。元気にしてたかしら?」
「勿論。僕が元気じゃない時は二胡をミスした時さ。ってそうじゃなくて、君の怠けた姿をからかいに──」
「なあにか言ったかしら?」
霊夢は笑いながら麟に尋ねる。しかし、目元が黒く染まっているようにも見える。麟は冷や汗流しながら答える。
「じょ、冗談だよ~。君が最近修行するようになったって寺子屋のフランちゃんから聞いて、まさかと思って様子を見に来たんだよ。そしたら畳から浮きながら座禅をしてたんだから驚いたよ~」
「見習ってくれて何よりだわ。あの紅霧異変で自分の無力さを思い知ったのよ。だからこうして、自分を叩き直す為に修行をしてるって訳」
麟は霊夢の変わった所を見て、思わず笑ってしまった。あの怠惰な幼馴染みがこうして修行に励む姿を見ると、安心してくるのだ。そして、自分も思わず突き動かされてしまう。
「・・・ねえ霊夢。僕も、君に鍛えて貰いたいんだ」
「麟?私は別に良いけど、急にどうしたのよ?もしかして、宴会の時に言ってた“宿した怪獣”の事?」
「うん。僕もそれなりに強いつもりだけど、君達程じゃないんだ。それに怪獣の力だけに頼ってたら、もし力を封じられた時に対処出来なくなる。まあ本当の理由は、もし力の強い相手に襲われても自分だけで対処出来るようにしたいんだ」
「成る程。解ったわ。但し私が修行で教えられるのは基本的な体術だけよ。本格的な格闘と武術、そして筋力トレーニングなら、レミリアか美鈴に教わってみてはどうかしら?」
「ありがとう霊夢。じゃあお願い」
「ええっ。行くわよ」
こうして、霊夢と麟の修行が始まった。霊夢は麟に博麗流体術ではなく基本的な体術を教えていくのだ。博麗の巫女に代々伝わる博麗流体術は、それなりにしか戦えない麟には荷が重すぎるからだ。
麟は霊夢と四時間も体術の修行を行い、基本的な体術を学んだ。麟は霊夢に別れを告げて、博麗神社から人里へ向かった。不思議な事に、以前よりも階段を降りるのが楽になったような気がした。
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午後三時頃。場所は変わって、人里の近くにある平野。其処で麟は、紅魔館の元門番で今は定食屋の中華の鉄人である美鈴と向き合い、本格的な体術の修行に励んでいた。美鈴は本来なら定食屋で料理を振る舞っている筈だが、咲夜と店主が修行に付き合う事を許可してくれたのだ。美鈴も武術を教える相手が出来て嬉しかった為、麟の誘いを難なく受け入れた。
「美鈴さんありがとう。わざわざ時間を空けてくれて」
「いえいえ。これくらい安い物です。それに、店主さんや咲夜さんの意向でもありますから」
「じゃあ。初めて良い?僕も本気で行くからね!」
「怪獣の力無しでの模擬戦。しかし、この紅美鈴!決して容赦はしません!」
麟が走り出すと同時に、美鈴も駆け出した。其処からの攻防は、彼等の体感時間は三分。実際の時間は十秒にも満たなかった。
麟は肘を立てて飛び蹴りを美鈴に向けて放つが、美鈴は片手で肘蹴りを叩いて避ける。麟は地面に四つん這いになって降り立った後、美鈴に足払いを仕掛ける。しかし、美鈴は足払いを跳んで避けた後に麟の尻に蹴りを入れた。麟の体は蹴られた事で一瞬浮いてしまうが、麟は両手を使って跳んで立ち上がる。再び麟は美鈴に向かって走り出した。
「やっ!はっ!うぐっ!?」
「足元がお留守です!お腹も隙だらけですよ!」
美鈴が麟の振りかざす拳を避けて、足払いを掛けた後にお腹へ右手の掌を叩き込む。麟は肺の息を全て吐き出した後、後方へ横向きに転がりながら後退した。激痛が走るお腹を両手で押さえるも、喉の奥から来る感覚を押さえられず、軈て嘔吐した。
「うぉえええええ!!えほっ!えほっ!」
「どうしました?まだ始まったばかりですよ?」
「ひ、ひぇぇ~・・・お手柔らかにお願いします~」
「手を抜いては修行になりません!安心してください!死なない程度にやりますので!」
「手厳しいなあ~・・・」
この後も厳しい訓練は続く。武術の修行の後は、基本的な筋肉トレーニングだ。通常レベルの筋トレではあるが、効果は充分である。
「ほら!上体起こし、後百回です!」
「き、キツイ・・・でも、なんか体が解れた気がする」
上体起こし百回×2。しかし百回終わった後に五分間休憩が入るが、その後に百回も腹筋を行う。二回も上体起こし百回を行った後、10分も休憩を入れて次の筋トレに入る。
「腕立て伏せはリズム良く、そして自分のペースでやるのが一番です!」
「腕が・・・痺れて来たあ・・・」
腕立て伏せ百回×2。
「後は柔軟体操です。女性の体は柔らかいので、此は楽な筈ですよ」
「そうは言っても、やっぱりキツイなあ~・・・」
関節の柔らかさを鍛える為に、柔軟体操を行う麟。体は固くないが、普通の女性より柔らかくないのだ。その為、柔軟体操は体に良く効くのだ。
この後もトレーニングは続き、美鈴とのトレーニングは終了する。
美鈴に痛い目に遭わされた麟だったが、それ以上に良い経験となった事を実感していた。
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「・・・ふう。今日は凄い修行だったなあ」
夕方。麟は自宅のお風呂に入り、修行の疲れを癒していた。体の節々はまだ痛むものの、それでも修行の成果は早くも出つつあった。修行を終えてから家に帰るまでの間、平野と人里の自宅はとても離れた距離にあるのだが、歩いて辿り着くまでそんなに疲れなかった。
麟の住む家は和洋折衷の家であり、人里に存在する家の中でも異彩であった。しかし幻想郷は滅び以外なら何でも受け入れてしまう。その為、和洋折衷の麟の家も咎める者は居ない。思い返せば、妖怪や妖精も西洋風の衣類を身に纏っているのだ。和洋折衷の家が有っても、不自然ではない。
風呂場から出て、寝間着である白装束に着替えようとする麟。
「ふあぁ・・・眠い。明日はミスチーの屋台で八ツ目鰻でも食べよう。でも叶うならマグロ食べたいなあなんてね。まあ今日は早く寝よう・・・・・・誰っ!?」
ドロワーズを履いて、寝間着の両袖に両腕を通して帯を絞める前の半裸の状態になった所で、麟は何かの気配に気付く。それはまるで、何者かに見られているかのような視線。胸元を左腕で隠しながら、もう片方の腕を黒い異形化した四本指の手を持つ怪物の腕に変えながら構える。背中には、刃のような背鰭が数本も生えて、腰には太くて黒い尻尾を生やしている。
視線を感じた所には、何もない壁だけである。
「・・・気のせい?いや、寝ながら警戒するか」
麟は寝間着を上手く整えた後、寝る事にした。そして翌日、視線の正体が、その姿を現すのだった。
視線の正体は紫でも、隠岐奈でもありませんよ?次回で登場するのは、かなり後の異変、そしてこのシリーズで最大規模になる異変の一つで出る筈のキャラになります。その人が視線の正体です。さあ誰でしょうね。
番外編は後二話で終わり、其処からコラボに入ります。この番外編とコラボは繋がるようにしますので。因みにコラボする作者名は『クレナイハルハ』さんです。コラボ予定の作品は、後日発表します。
宿した怪獣
冴月麟:ゴジラ/二代目ジラ(ゴジラ・ザ・シリーズ)