この日、地球上からゴーデス細胞に感染したゴーデス怪獣が消え去った。失われた人々の数は多いが、軈て人類は立ち直るだろう。
そして、麟は此れから別れる者達に対して、大好きな二胡の演奏を聴かせた。
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イリヤ達の家。其処で麟は思い残す事が無いように二胡の演奏を行った。その演奏は、過去或いは神話の英霊であるサーヴァント達すらも魅了していた。
「凄い・・・こんなに透き通った演奏は初めてです」
「ジーク君。私は今、とても幸せな気分です」
「ああっ・・・何とも美しい演奏だ」
「うん・・・聴いてて和むなあ。マスターと聴けて僕も嬉しいなあ・・・」
アルトリア、ジャンヌ、ジーク、アストルフォも麟の演奏に聞き入っていた。
「あの嬢ちゃん、良い腕してんじゃねえか。ケルトでも中々見ない腕前だぜ」
「ふむ。確かに我の元で音楽を奏でるに相応しい」
「英雄王の発言は兎も角、此処まで素晴らしい二胡の腕前の持ち主は私の知る限り居なかったな」
クー・フーリン、ギルガメッシュ、エミヤも同じだ。
他のサーヴァント達も、麟が奏でる二胡の演奏に聞き惚れていた。
「ホントに・・・この荒廃した世界で・・・こんなに和む音楽は嬉しいの」
イリヤを含めた魔法少女達も、麟の演奏に聞き惚れている。
「やっぱり麟先生の演奏は綺麗だねー!」
「ああっ!私も聴いたからな!」
演奏は三十分も通して行われ、麟も満足しながら大量の汗を流していた。
そして、麟と萃香、フランの三人はイリヤ達と別れる時が来た。三人はイリヤ達の前で、旅立つ準備を整えた。
「・・・ホントに行くんだね」
「そうだね。僕は幻想郷での仕事もあるし、友達も居るからね」
「まあゴーデス細胞は駆逐したし、此方で捕まえたバット星人グルムはそっちで裁いてくれ」
『ザ・キングダム』の仕事はゴーデス細胞、スフィア、スペースビーストの駆逐だ。異変の犯人は、その世界で裁いて貰う。
「麟先生ー!萃香ー!ナラクへの門が開いたよー!」
フランの言う通り、三人は背後に黄金の門が出現した。其処からヘカーティアが姿を現し、三人を迎えに来た。
「ふふっ。どうやらお仕事は完了したようね。迎えに来たわよん」
「おう。ヘカーティア様じゃん。今まで何処に行ってたのさ」
「ダークルシフェルの行方を追ってたのよん。でも奴は中々尻尾を見せないわ」
萃香の問いに答えたヘカーティア。ヘカーティアはイリヤ達を見て挨拶をする。
「初めまして。私は地獄の女神ヘカーティア・ラピスラズリ。『ザ・キングダム』のリーダーを務めてるわよん」
その時、ヘカーティアの名前を聞いたバーサーカーは一瞬疑問の表情を浮かべたように見えた。
「・・・じゃあ、僕達は行くね。もしまた此処に来たら、その時は僕の二胡の演奏、いっぱい聴かせてあげる」
「うん!ありがとう麟さん!」
「・・・それじゃあね」
麟はナラクに向かって歩き出す。
「バイバーイ!」
「もしまた会って酒を飲めるようになったら、飲みに付き合えよ」
フランと萃香もナラクに向かって歩き出した。ヘカーティアも一緒にナラクに向かって歩いていき、四人が入っていくと同時にナラクへの門が閉じた。
この世界はイリヤ達が居るのだ。崩壊した文明は、ゆっくりと再建されるだろう。この世界がどのように復興するかは、彼女達に託された。
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ゴーデス怪獣を駆逐してから、麟は普段通りの日常に戻った。美鈴や霊夢と修行を行いながら寺子屋で二胡の授業を行ったり、二胡の演奏会を開いて里を盛り上げた。
そして今日は休日。麟はある者と出会う約束をしていた。その者と人里で待ち合わせをしていた麟の元へ、出会う約束をした相手がやって来た。
「おう。約束通り来たぞ」
「うん。萃香」
その相手は萃香であった。出会って彼女達が何をするのか。それは、報酬としてヘカーティアから貰った沢山の海鮮料理を一緒に食べる事だ。
「魚料理は酒に合うからな。麟も一緒に飲むか?昔食べた事があるんだが、海の幸と酒は合うぜ」
「うん!僕も海の幸を食べたかったからね!それに、君と食べたかったし、二人で一緒に酔い潰れてみたかったんだ!」
「ハッハッハッ!そりゃありがたいね!それに、かつての仲間の鬼達と飲むのも良いけど、人間の中で一番飲んで楽しいのは麟だよ!」
「そっか。ありがと。じゃあ僕の家に上げるよ。ヘカーティアは其処に海鮮料理を沢山用意してくれたみたいだし」
麟は萃香を連れて家に上げる。一人暮らしの麟が客を家に招待したのは、今回が初めてなのだ。況してや鬼を招待したのだ。
そして、二人は玄関から居間に移動すると、テーブルに置かれた大量の海鮮料理に目を輝かせる。
「うおおおお!?此れが海の幸!?」
「ああっ!久々に見たな!鮪に鰤、烏賊に蛸、鮭にホタテ、甘エビに白子、色々だ!懐かしいな!勇義や華仙と一緒に喰って飲んだ日を!」
「早速食べよう萃香!僕が長年夢見たマグロもある!」
「まあ待て麟。此処はまず乾杯からだろ?」
「あっ、そうだったね。ごめんね舞い上がっちゃって」
二人は畳の上に座る。二人揃って胡座をかいて座るスタイルだ。萃香は自前の盃を二つも取り出して、伊吹瓢から酒を盃に注ぐ。
萃香は麟に酒を入れた盃を手渡した。
「そんじゃあ乾杯だ!」
「乾杯!」
「朝まで付き合えよ?お前の酒の強さに期待してるからな!」
「うん。それに、もう少しで春が来るからね。萃香とお花見もしたいしね」
「そうだな。花見が来たら、良い食材持ってくるからな。期待してろよ」
「うん」
こうして、麟は萃香に最後まで付き合った。魚料理を堪能しながら萃香と飲むお酒は、此まで飲んだお酒よりも格別であった。
そして、四月の終わりを迎えた頃。本来なら桜の花が咲き誇る時期である。
しかし、何故か桜が咲かず、雪が降り続けたのであった。
(可笑しい・・・四月ももうすぐ終わるのに、冬が終わらない?また異変なのかな?霊夢と魔理沙はもう動いているのかな)
麟は外の雪景色を、家の窓から眺めていた。そして、二人の幼馴染みが動いている事を、直感的に理解したのだった。
次回、春雪異変の章に入ります。