東方怪獣娘ー怪獣を宿す幻想少女達ー   作:ちいさな魔女

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OP:『Thus Spoke Kishibe Rohan(岸辺露伴は動かないオープニング)』


古明地さとりは動かない:ザ・ラン・前編

とある和室。さとりは今、一枚の座布団で正座をしていた。さとりは左腕で右手を隠しており、その様子は何かに脅えているようにも見える。

 

そんなさとりの様子に緊張しながら彼女の目の前に座ると、さとりは此方に顔を上げた。その顔には素人目にも解る程に恐怖で染まっている。

 

さとり「……今、私は少し人と会うのが怖いんです。こいしや麟、時々地霊殿に帰ってお燐やお空に励まして貰い、レミリアやパチュリーさん達と交流したりして、何とか正気を保てています……貴方とこうして話す事も、本当は避けたかったんですよ?」

 

さとりは左腕で隠していた右手を見せる。右手は完全にギプスをしており、人差し指と親指以外には包帯が巻かれていた。

 

さとり「この右手の親指と人差し指以外は、全治一週間です。健康な人間なら一ヶ月は掛かる程ですが、妖怪である為に治癒力があって一週間で済みました。ですが、問題は其処では無いんです。私が怪我した事ではなく、その時に体験した事が私のトラウマとなりました。今回話すのは、私が体験したとある人間との出会い、そして競い合あった話です。まさか、あんな事になってしまうなんて…………ひっ!?」

 

その時、さとりは周りを見回す。まるで天敵の烏に脅える雛鳥のようである。体をガタガタと震わせており、目には涙を浮かべている。

 

さとりは闘いは苦手だが、出来ない訳ではない。読心能力に加えてブルトンの能力で次元を操れば、大抵の敵は倒す事が出来る。文武両道であり、手負いとはいえ麟を圧倒している。そんなさとりが、此処まで脅えるなんて滅多な事ではない。そんなさとりに怪我をさせる程の者は幻想郷に居ない訳では無いが、能力も無い、況してや怪獣も宿さない、ついこの前まで強さとは無縁の一般人だったにも関わらず。

 

さとりは息を吐いた。身の安全を確信して安心した後、顔を左手で隠しながら話の続きを始める。

 

さとり「……ハァ。今生きてる事ですら、奇跡と呼べるのかもしれません……………」

 

――――――――――――――――――――――――

 

橋本陽馬。彼は現在家族とは別居中であるが、彼の家族は年越しの鏡によって全員死去しており、現在は自分の彼女の家で同棲している。彼の職業は、人里で鳥獣鬼人やプリズムリバー四姉妹が演奏を行い、劇を盛り上げる劇団の団員だ。脚本は阿求や小鈴が手掛けており、演じる者の中には人間や妖怪も居る。

 

団長「あらぁ!貴男、お顔が小さいわねぇ!身長も高め!此れは原石を拾ったわ!オホホホホッ!」

 

団長は筋肉モリモリマッチョマンであるが、乙女口調のオネェキャラであった。顔も整っている上に髪もスポーツ刈りにしている体育会系の体だ。そんな体でオネェキャラというあまりにもぶっ飛んだ男だ。

 

橋本陽馬の所属する劇団は、個性的な人や妖怪が多い。最近では、草の根妖怪の影狼、わかさぎ姫、赤蛮奇も、劇団で演劇を行ってルックスと演技の良さもあり、人気者となっている。特にわかさぎ姫と影狼、又はわかさぎ姫と赤蛮奇の愛の踊りが、幻想郷においても大好評であり、ザ・キングダムでも彼女の踊りを観に行く者が多い。

 

そんな劇団に、橋本陽馬は所属した。劇団所属の初日に、団長からこう指摘される。

 

団長「劇団員というのはね?ただその場に居る、立っているだけでも観客を盛り上がらせてくれる存在なのよ。貴男はそのままでも実に綺麗だけど、まだまだ伸び代があるわよぉ♥肉体を鍛え上げなきゃダ・メ♥才能は二の次。勤勉さも大切だけど、美しい立ちポーズが優先よ♥例え太った劇団員でも、努力して美しく立ち回れるようになれば観客を魅了するのよ♥頑張ってね♥」

 

爽快で晴れやかな気分。橋本陽馬にとって、一番最高の日々が始まった。そして、人里に新しく出来たトレーニングジムに通う日々が始まった。

 

――――――――――――――――――――――――

 

陽馬が通い始めてから、一週間が経過した。陽馬の体に筋肉が付き始めて、体付きも良くなり始めた。

 

初日は辛かった。懸垂バーでは禄に掴まる事が出来なかった。しかし、一週間もすれば自分のペースで懸垂をする事が出来るようになった。

 

ランニングマシンも、今は20キロの速さまで走れるようになる。ランニングマシンは、麟の怪獣娘形態の時速480キロまで加速出来るようになっており、其処まで走れる者は先ず居ない。そのため、挑戦する場合は必ずトレーナーが必要になる。

 

さとり「結構速いわね!」

 

麟「僕のジラの速さが最高速度だからね。ほら、頑張ってさとり。後5分だよ」

 

さとりもまた、利用者の一人だ。自身も大切な家族や友を護る為に強くなろうと決意し、先ずはジムで体を鍛える事にした。

 

そしてさとりの隣で、橋本陽馬はランニングマシンで走り続けている。ランニングマシンは約20分程で脂肪が燃焼される。二人は走り続けて、十五分が経過した。

 

鈴仙「ほら!霊夢!後二十回!」

 

霊夢「ぐああっ!」

 

鈴仙は霊夢が腹筋マシンに乗って腹筋をさせており、正しいリズムで腹筋をさせる為に鈴仙が手を叩き、霊夢が合わせて腹筋運動を行っている。

 

陽馬もまた、霊夢に対抗して続けていた。

 

そして、橋本陽馬は本日最後のトレーニングに入る。バイセプスカールのマシンを使ったトレーニングだ。マシンの回転軸と肘が一致するように、シートの高さを調整して坐り、両手でグリップをアンダーで握り、パッドを肘と上腕に着ける。肘の位置を固定したまま、グリップを胸まで近付けて、肘が伸び切らない所まで伸ばす。これの繰り返しだ。15〜20回の3セットである。

 

麟「はい陽馬さん!最後ですよ!後6回!」

 

麟はこのトレーニングジムの建設を計画し、そして実行した為、寺子屋の授業を暫く休んで一ヶ月間コーチをしている。麟に指導を受けながら、陽馬はバイセプスカールの最後のセットに入る。

 

そして、陽馬は全てのトレーニングを終えた。

 

麟「はい。お疲れ様でした。此れで陽馬さんの一週間トレーニングは終了となります」

 

陽馬「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

麟「やっぱり男性だからですかね?鍛えた体が一週間でこんなに速く効果が現れるなんて思いませんでしたねぇ。凄いなぁ!でも、僕の筋肉が一番可愛いけど♥」

 

陽馬「ッ!」

 

陽馬は自分の腕の筋肉を見た。腕の筋肉に血管が浮き出ており、躍動するのが見える程に立派な筋肉が付いていた。

 

麟「僕が筋肉鍛えたら〜み~んな僕の事をもっと可愛いと言ってくれるかなぁ♥」

 

萃香「いや、鍛えたらムキムキの綺麗な奴になるが、可愛さはなくなるな」

 

其処へ萃香がやって来た。トップスとボトムを着込んでおり、萃香の体のラインが浮き出ている。細く見えてしっかりと引き締まった筋肉が付いていた。シューズやソックスも、萃香のパワーに耐えられるよう特殊な素材で造られている。

 

麟「えええっ!?そんな………綺麗なのは良いけど、僕は可愛いのが良いよ!ムキムキになったら、僕は可愛く無くなっちゃう………うわあああ!それはやだあああ!!」

 

萃香「涙目になる程か!?」

 

其処へさとりも合流する。

 

さとり「でも、私は可愛い麟も良いけど、美しい麟も見てみたいわ。可愛さを超えた美しい麟の事」

 

萃香「そうだな!」

 

麟「可愛いを超えた………“美しい”。……そうか!僕はやっぱり一番美しいんだね!僕は、可愛いを超える美しい美少女なんだね♥えへへ♥」

 

さとり(そ、其処は相変わらずなのね………)

 

萃香(まっ、麟らしくて良いな♥そんな麟も含めて私は好きだからな♥まっ、私以外のハーレムメンバーも同じだろうけどな♥)

 

さとり「あっ。どうも橋本さん」

 

陽馬「ああっ。どうも」

 

さとり「先程は綺麗なランニングでしたよ。またトレーニングしましょうね」

 

そして、さとりはその場から去る。此れが後々、さとりにトラウマを植え付ける出来事に繋がるとは、この時は誰一人として予想出来なかった。

 

鈴仙「今日で王様ゲームの命令は終わりだけど、まだ続ける?」

 

霊夢「ええっ。鈴仙のお陰で調子が良くなったわ」

 

鈴仙「じゃあまた一週間、宜しく頼むわね」

 

霊夢「ええっ」

 

此方でもトレーニングの日々が始まっているが、彼女達のトレーニングの様子は、日常編にて。

 

――――――――――――――――――――――――

 

夜。人里のとある家。

 

明菜「陽馬ー。ご飯出来たよー」

 

陽馬の彼女である明菜は、テーブルにご飯が乗ったお皿を乗せる。

 

陽馬「ああっ。ありがとう」

 

明菜「えっと……何してるの?」

 

陽馬は家の玄関で縄跳びをしていた。日課として縄跳びをしていたのだが、夕食が出来た為に縄跳びを中断する。

 

陽馬「縄跳びだよ。日課として始めたんだ」

 

明菜「家の中じゃなくて外でやってよね……でも陽馬、筋肉凄いよね〜」

 

明菜は陽馬の筋肉に惚れ惚れする。彼の腹筋の割れ具合はギリシャの彫刻のような美しさが素人目にも解る程に現れており、上腕二頭筋や上腕三頭筋は引き締まったままでもその硬さを表しており、これもまたギリシャ神話の神々を思わせるような美しさが表れている。

 

明菜「良いなぁ〜♥陽馬が劇団で主役になったら、益々魅力的だよ〜♥」

 

陽馬「ありがとな。それより、ご飯にしよう」

 

明菜「うん!」

 

こうして、今日のメニューを口にする陽馬。食べ終わった後、陽馬は明菜と皿を洗う間にシャワーを浴びに向かう。

 

陽馬「さて、シャワーを浴びたら寝るか」

 

明菜「えっ?まだ午後の7時だよ?」

 

陽馬「朝の4時に起きてランニングをするんだ。その時間は無駄に出来ないんだ」

 

明菜「折角月が綺麗だから、陽馬の好きなお酒を買ってきたんだよ?今日は朱雀酒をしようと……」

 

陽馬「明菜ちゃん。お酒は飲まないよ。炭水化物や脂質は体に必要なエネルギーだが、お酒は筋肉を減らすんだ。要らないから捨ててくれよ」

 

明菜「ええっ………」

 

すると、玄関の方から声がする。

 

『明菜ちゃーん!陽馬くーん!良いお酒が入ったから宴会しねぇかー!?』

 

それを聴いた瞬間、風呂場へ向かおうとした陽馬の顔に憤怒が表れる。そして、玄関へ走った陽馬は引き戸を開けて尋ねてきた人に怒鳴った。持ってきたのは中年の男性で、此れから初老になろうとしていた。陽馬の知り合いにして、明菜の親戚の叔父さんであった。

 

陽馬「おい!酒なんか持って来るんじゃあ無い!!そんな毒物を何度も持ってきやがって!!」

 

明菜「陽馬、やめて!!」

 

明菜は陽馬を背後から腰に抱き着いて止めようとする。明菜が抱き着いた事で踏み止まるが、殴り掛かりそうな勢いであった。

 

陽馬「今度またそんな毒物なんか持ってきたら、打ちのめすからな!」

 

陽馬は叔父さんにそう怒鳴った後、家の中へ戻っていった。

 

明菜「………叔父さん、ごめんね」

 

叔父さん「陽馬君………どうしたんだ……お酒が好きで優しい奴だったのに…………」

 

この日から、陽馬が徐々に狂い始めて行くのであった。明菜はこの時、陽馬の事をもっと強く止めておくべきだと後悔する事になるのを、明菜は知る由も無かった。

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