一週間前。ジムのトレッドミルを使ってある対決が行われた。陽馬とさとりがトレッドミルを使った初めての対決であり、最高速度に達した瞬間にどちらがリモコンを速く取れるのか。そんな勝負をしていた。
最高速度に達した瞬間、二人はお互いの間に置かれた台にあるリモコンに向かって手を伸ばす。
しかし、此処でさとりはサードアイを使った。心を読んで、陽馬が手を伸ばす瞬間を読んだのだ。
そして、さとりが陽馬より速く動き、リモコンを掴んで勝ち誇る。そして、陽馬はトレッドミルから吹き飛ばされてマットに落ちた。
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一週間後。さとりと陽馬は麟の監視の元、リターンマッチを行っていた。
そして、陽馬が現在上半身に着ているパーカーを脱ぎ捨てて上半身を露にする。そして、人間を辞めたと言わんばかりの美しい筋肉美に、麟とさとりはドキッとしてしまう。
麟「ーーーっ!!////////」
麟は陽馬の体を見てときめいてしまい、顔を赤らめながら顔を反らしてしまう。しかし、やはり一時的とはいえトレーナーとして見なくてはならない。自分の知らない内に陽馬が此処まで美しく強い筋肉を持っていたなんて思わなかった。
さとりもまた、陽馬の筋肉に惚れ惚れとしていた。
さとり「す、凄い筋肉じゃあないですか。橋本陽馬さん、でしたよね?/////」
麟「凄い……その脇腹の所、中々筋肉付いてる人見かけませんよ……格好いい////」
前鋸筋。日常生活では、刺激されにくい筋肉の為、鍛えるのが難しい場所だ。スポーツをやり込む人にとってはかなり重要な筋肉の為、一流アスリートはこの前鋸筋がよく付いている人が多い。とはいえ、普通のトレーニングで付く事は無く、サボり筋になりがちである。しかし鍛え上げて盛り上げれば、スポーツパフォーマンスの向上に加えて、筋トレの効果上昇、そしてボディを引き締められる等、かなりメリットは強い。
麟「でも、前鋸筋が胸筋の下に前鋸筋が盛り上がって陰影が付いてる人なんて………えっ!?/////」
麟は陽馬の筋肉に惚れ惚れとしていたが、此処である事に気付く。何時から付いていたのか、背中の筋肉に翼のような形をした筋肉が浮き出ていた。そしてそれは、両足のくるぶしにも見えた。そして、陽馬から神の気配を感じた麟。
麟(あの筋肉の形………それに、神の気配!?まさかあれは!?いや、この橋本陽馬はまさか!?)
さとり「ッ!!」
さとりも、橋本陽馬の心を読んで彼の異常性に気付く。
・《明菜》:削除済み
体に悪い物を飲ませようとした上に家の中でのトレーニングを止めようとした。だからその首をへし折って殺した!庭の井戸に投げ捨ててセメントで埋めた。
・《明菜のおじさん》:削除済み
あれ程酒を持ってくるなと言ったのに持ってきたので、家に引きずり込んで頭を玄関の柱に叩き付けて潰した。今は壷の中に入れてセメントで満たし、霧の湖の底に沈めた。
・《ジムの客》:削除済み
俺を指導してくれるトレーナーを取った。水に沈めて窒息させた。今はセメントで固めて自宅に吊るし、ボクサー用のサンドバッグにしている。
そして、さとりは陽馬の心を読んだ瞬間、橋本陽馬の異常さに体を震わせてしまう。
・《博麗霊夢》:削除予定
トレーナーを独り占めしている。後に殺害予定。
・《古明地さとり》:削除予定
心を読んで俺が取るより速く取った。徹底的にやっつけた後に削除予定。
さとり「なっ!?あ、貴男、まさか!?」
陽馬「時速30キロ!古明地さとり!前回お前は、俺の心を読んで俺が取るタイミングを読んで、俺より素早くリモコンを取ったな?あれは公正ではなく、古明地さとりによるイカサマによる淀んだ勝負だった!イカサマは公正ではないんだ!今回はそういうわけにはいかない!今回は公正にやるんだ!」
さとり「な、何を言ってるのよ!?此れはゲームよ!」
陽馬「そうだ!だが今からやるのはただのゲームではない!此れは俺とお前の命を懸けた公正な勝負だ!リベンジマッチなら尚更だ!公正にやらなくては意味が無いんだ!リベンジマッチはマトモにやるんだ!」
さとり「私は自分の力を使って勝負しただけよ!イカサマだの言われる筋合いは無いわ!」
陽馬「なら心を読んでみろ!読んだとしても意味は無いからな!」
それを見ていた麟は、この試合がこれ以上長引けば危険と判断した。現在時速32.6キロ。
麟「陽馬さん!このゲーム中止しま―――」
陽馬「邪魔すんじゃあねぇ!!」
リモコンに手を伸ばした麟。しかし、陽馬は拳を麟の眉間に振り下ろした。眉間を殴られた麟は8メートルも吹き飛ばされ、ダンベルが置かれた棚に後頭部からぶつかった。棚が崩れ落ちて、空中へ飛んだダンベル4つが落下して、全て麟の頭に当たる。麟は連続した後頭部へのダメージによって、その場で倒れて気を失ってしまう。顔を見れば、麟は鼻血を垂流しており、口から吐血している。
さとり「麟!貴男、何をして―――なっ!?」
その時、さとりは見た。自分と陽馬の背後の空間が開いていた。それが時空間の穴であり、永劫に続く入り乱れた時の狭間だとさとりは気付く。そしてそれは、先程陽馬が腕を振るって開いた物だと理解する。
さとり「嘘!?ただの人間の筈!?って、まさか!?」
さとりは更に気付いた。もしこのままどちらかが負ければ、確実に一人は時空の狭間へ飛ばされてしまう。
陽馬「どうだ!!此れで公正になったぞ!リモコンを素早く取った方が、完璧な勝利だと分かる!もう逃げられない!逃がしもしないぞ!古明地さとりぃ!!」
さとり「貴男、誰!?本当に人間なの!?」
陽馬はさとりの問いに答えない。現在のトレッドミルの速度は34.8キロ。
さとり「ーッ!!もう付き合っていられないわ!」
さとりはリモコンに手を伸ばす。しかし、そのせいで陽馬に一瞬目を向けられず、陽馬に片手で右手を掴まれた。その瞬間、陽馬によって右手中指、薬指、小指を握り潰され、親指と人差し指以外の右手は骨諸共やられてしまう。
さとり「ーーーッ!!!」
さとりは右手を握り潰され、その激痛で泣き叫び悶えた。
陽馬「ボタンを押すにはまだ早いぜ!停止ボタンを押すのは時速40キロに到達した瞬間だ!ボタンを押す為の指は2本残しておいた!最高速度に達するまで走り続けて、到達したらリモコンを素早く取った者の勝ち!それが公正さだ!後日恨みが残ったりしてはいけない!勝負や競争は公正に決めなくてはならない!そうだろう!?古明地さとり!!」
さとり(そんな………ひっ!)
瞬間、さとりは見た。
さとり「ッ!!なら、付き合ってやるわよ!!私が勝っても恨まないで頂戴!!」
陽馬「上等!!」
そして二人は走り続ける。最高速度まで残り0.1キロ。
陽馬「ーーーーーっ!!!!」
さとり「ーーーーーッ!!!!」
二人は粘る。転ばないよう走り続け、走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って、そして遂にその時が来た。
瞬間、さとりは心を読んだ。陽馬がリモコンを取るタイミングを読んだのである。
最高速度、40キロに到達。
さとりは陽馬より一瞬早く手を伸ばし、リモコンを掴もうとした。しかし、陽馬は遅れて手を伸ばしたにも関わらずアッサリとさとりに追い付いた。
そしてリモコンは、陽馬の手に渡る。
さとり「ッ!!」
陽馬「う、うおおおおおおおおおっ!!勝った!勝ったぞおおおおおぉぉぉっ!!」
さとり「………まさか、心を読んで先に動いたのに追い抜かされるなんて思わなかったわ。認めるわよ。人間の力を甘く見た私の負けよ………ただ、此れだけは言えるわ」
さとりは変身していた。青いローブを身体に身に付け、背中からは先端に穴がある突起を無数に生やし、袖も突起のデザインとなり、耳には突起に似たヘッドホンを着けている怪獣娘形態の服装に。それは、さとりが宿す四次元怪獣ブルトンの怪獣娘形態であり、さとりが本気で次元を操る時に扱う力だ。
さとり「悪いけど、ちょっと仕込ませてもらったわ。私のブルトンは、次元を操る力があるの。でも、勝負は貴男の勝ち。それで良いわよね?」
そして陽馬はリモコンをトレッドミルに向けた後、停止ボタンを押した。陽馬のトレッドミルのマシンの画面に『止まります』の文字が表記されて、陽馬のトレッドミルは……止まらなかった。その代わり、さとりのトレッドミルの速さが緩やかになる。
さとり「あら?機材の故障かしら?」
さとりは次元を操り、穴を塞ごうと考えた。しかし、この男が危険と判断し、時空の狭間へ追放することにした。そして、次元を操ってさとりと陽馬のトレッドミルの上部の位置をすり替えた。見た目は変わってないが、実際は入れ替わっている。陽馬はリモコンを自分のマシンに向けているが、実際はさとりのマシンに向けてしまっているのだ。ややこしい話ではあるが、さとりは次元操作でこの辺りを弄ったのだ。
陽馬「なっ!?」
陽馬はトレッドミルの速さに投げ出され、時空の穴に放り込まれた。リモコンはその時に手放し、床に転がった。
さとり「あ」
さとりは振り向いてしまった。振り向いてしまった事を、瞬間後悔した。体中の鳥肌が立ち、冷や汗と目から溢れる涙が頬を濡らす。
陽馬はさとりを睨んでいた。その目は、人の気配を感じさせなかった。陽馬は時空の狭間へ消えていく前に、さとりに対して一言だけ呟いた。
陽馬「……さとりぃ!!」
さとりのマシンが止まり、さとりは疲労でその場に座り込み、両腕を組んで震え出した。
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麟「……ハッ!さ、さとり!!」
麟は目を覚ました。陽馬に殴り飛ばされ、鼻血を垂らしながら口の中の血の味に不快感を感じながらも、その場で座り込みながら震えるさとりに近付く。
さとりは両腕を組みながら震えており、先程で何か危険な何かに出会った事を状況とさとりの様子が物語っていた。
さとり「ひいぃぃぃっ!!いや!来ないで!来ないで!」
さとりはその場で腰を抜かしながら後退り、麟から離れようとする。
麟「落ち着いて!さとり!僕だよ!冴月麟!大丈夫!大丈夫だから!」
さとり「…………あっ、り、麟」
麟はさとりの右手を見た。強く握られた痣があり、それが陽馬によってやられたのだと理解する。
麟「……ごめん。僕が気絶しなきゃ、さとりがこんな事には……いや、ジムなんか開かなきゃこんなことにはならなかったかも……」
さとり「……麟。貴女は悪くないわ。少なくともこの施設は人里の皆に必要とされてる。それに、私は自分で橋本陽馬に挑んだのよ」
麟と話して、少しは落ち着いたさとり。とはいえ、人と会うのが暫く怖くなってきた。
さとり「それより、今はこの場から逃げましょう。皆にこのことを伝えないと」
麟「……うん。そうだね」
さとりと麟はその場から離れ始める。さとりは麟に手を繋いでもらいながら歩いていた。右手は折れてる為、左手を握り締めてもらうさとり。
その時、麟がある事を話した。
麟「さっき、橋本陽馬の背中や足のくるぶし、更に風で髪がなびいた時に耳の後ろにも見えたんだ。翼の形をした筋肉がね。あれはただの筋肉じゃない。あれは印。化身の印」
さとり「化身………神の力を感じたけど、橋本陽馬がそうなの?」
麟「今思えば、前からその気配や感じはあったんだ。橋本陽馬の髪にある黒い模様……アレもある神の化身を表してた。彼は、筋肉の神であり、伝令や旅行、商売、更には泥棒の神でもあるギリシャ神話のヘルメス神に取り憑かれた男」
さとり「ヘルメス神………汚れてるんじゃなく、寧ろ純粋であったが故の狂気……」
麟「でも、あの次元の穴はもう、閉じてるよね?」
さとり「ええっ。もう閉じてるわ。でも、貴女だって怪我してるわ」
そして、一番の疑問。次元の狭間に飲み込まれた橋本陽馬が死んだかどうか、だ。
さとり「それで、橋本陽馬だけど……死んでいないわね」
麟「だろうね………あの場に居続けたら、僕等はきっと殺されるよ。今はただ、永遠亭に逃げよう」
こうして、さとりと麟は非常階段に通じる扉を開けて通った。出入口の避難通路を示す看板が光り続けていた。
橋本陽馬の行方は誰も知らない。
皆さん、体を鍛えるのは良いですけどのめり込み過ぎないように。ヘルメス神に取り憑かれなくとも、やり過ぎは良くないですよ。