東方怪獣娘ー怪獣を宿す幻想少女達ー   作:ちいさな魔女

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古明地さとりは動かない:トミーの呪い・その四

さとりと阿求は、雑貨店にやって来た。

 

さとり「阿求、本当に此処にあるの?」

 

阿求「ええっ。此処にトミーの人形がある筈よ。確か死亡した店長の家が捜索された時に、遺留品はまだ回収されてないからそのままになってる筈よ。そして、資料の中にはさとりが見た人形の特徴と同じ人形が描かれていたわ」

 

さとり「それが、此処に………」

 

阿求「行くわよ。見つけたら、霊夢か守谷の巫女、それから新しく幻想郷に加わったあの女僧侶に祓ってもらうわ」

 

雑貨店の中に入り、店の中の品物を見ていく二人。しかし、写真に写っていた人形は見当たらない。品物が多くて狭い為に進みにくい。

 

二人は人形だけに目星を絞って探してみるが、動物や木彫り人形を見かけるだけで、トミーが持っていた人形は見つからない。

 

さとり「まあ、そりゃそうよね。あの人形は付喪神になってるなら一箇所に留まる必要も無いし、店長があんな人形を誰かに売るとも思えないし」

 

阿求「だとしたら、店の奥にあるかもしれないわ。品物を仕舞っておく倉庫にあるかもしれないわ」

 

二人はカウンターの奥へ入り、和室に出てきた。和室の中は綺麗に掃除してあるが、子供が遊んで荒らした痕跡が多少残っている。死体があったであろう場所を示すように、白線で人の姿が畳の上に描かれている。そして、横開きの扉を開けて倉庫に入る。

 

倉庫には複数の棚があり、其処には店に置かれていない雑貨が数多く取り揃えていた。しかし、そこにも人形が無かった。いや正確には、トミーの黒マント人形が無かった。

 

さとり「………阿求、貴女は戦える?」

 

阿求「一応、宿した宇宙人の持ってる記憶のお陰で、戦い方はそれなりに解るわ。ケムール人っていう宇宙人だけど、まあ知らないわよね。でも、戦えるわよ」

 

阿求はその体を光らせた後、自身が宿す宇宙人の怪獣娘形態に変身した。頭頂部の漏斗状の器官が特徴的なフードに、目には黄色のゴーグルを取り付けていた。体はスク水を身に着けており、四肢には黒タイツを身に着けている。それは、彼女が宿した異星人、漏斗状の器官から消去エネルギー源と呼ばれるゼリー状の可燃性物体を操り、触れたものを次々と消滅させ、ケムール星へ電送・誘拐する厄介な能力を持つ。

 

さとり「な、中々個性的ね」

 

阿求「余計な気遣いやめなさいよ!気にしてるんだから!」

 

阿求は涙目でさとりを睨む。さとりは阿求を宥めた後、倉庫から出ようとした。しかし、すぐに青いローブを身体に身に付け、背中からは先端に穴がある突起を無数に生やし、袖も突起のデザインとなり、耳には突起に似たヘッドホンを着けている怪獣娘形態の服装、ブルトンの怪獣娘形態に変身した。

 

その理由は簡単だ。何時の間にか、背後を取られていたからだ。接近されてはいないが、数メートル先に奴が居る。

 

こどもつかい『ああっ。もう君達も気付いたんだね。僕の正体に』

 

黒マントの男、こどもつかい。その正体は、嘗てサーカスに居たトミーが持っていた腹話術人形。それがトミーが火を放って証拠を隠滅した際に、人形が悲しみと憎しみ、そしてトミーや子供達への愛によって付喪神と化した人形だ。

 

今は、身長2m級の青年の姿となっており、まるでサーカスの道化師のような姿だ。しかし、黒い衣服とマントが彼の異様さを引き立てている。

 

さとり「なら、話は早いわ。こんな事、もうやめて頂戴」

 

こどもつかい『そうはいかない。そもそも君達が子供を虐めるからこうなったんじゃないか』

 

さとり「貴女がそうしなくても、私達が――」

 

こどもつかい『助けられた?冗談じゃない。君達がまるで善人のように崇める冴月麟でさえ、自分の知らない所で起きてる虐待にまで手が届かなかった。本人も罪悪感がいっぱいだったろうね。自分の手が届く範囲の子供達に救いの手を差し伸べられなかった事、ほら、見てみな?』

 

こどもつかいが何処からか鏡を取り出した。其処には病室で産んだ子供を撫でながら布団で横になり、しかし悲しみに明け暮れている麟の姿があった。過去の映像ではあるが、其処には出産後で永遠亭に入院している麟と、彼女と眠る産まれたばかりの5歳児の子供が寝ていた。

 

麟『僕は……本当に駄目だ。人里で虐待が起きてたのに、それに気付けないまま普通に過ごしてて………………皆が仲良くしてたと盲信して…………ううっ………………人里の次期村長になれるとか言われてるけど…………自分の知らない所に居る人達も助けられないで…………僕、この子の母親に相応しいのかな………』

 

さとり「麟………貴女、その事で悩んでたのね」

 

阿求「麟さん………」

 

二人は心配の眼差しで麟を見ていた。そして、麟が不安を抱えて泣く姿に、驚きを感じていた。麟は皆の前では優しさを振り撒いていたが、その反面何時も不安だった。自分の知らない所、自分の手に届いたかもしれない所で起きた虐待やイジメに、手を差し伸べられなかった。そんな自分が嫌で、不安であった。

 

さとり(そんな事無いわよ。貴女は本当に優しい人よ。だから、あまり思い悩まないで)

 

阿求(そんな事を言ったら、私達だって同じだわ!私達だって自分達の知らない所まで全部を助けられるわけじゃない!でも今は、目の前に居るこのトミーの呪いを止める!)

 

さとりと阿求は身構える。しかし、人形は飄々とした態度を

 

こどもつかい『まさか、僕が呪いの元凶と思ってるのかい?勘違いしないでくれよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが僕を呼び寄せただけだ』

 

さとり「つまり……今までの被害者は皆、子供達に何かしらの形で恨まれた。それが呪いとなり、貴男を呼び寄せた。そして貴男は大人を恨む子供達の前に現れて、子供を攫っていくのね?3日後に子供を戻して、大人を殺させたのね」

 

さとりは掌を伸ばそうとする。心を読んで、人形の弱点を探ろうとした。すると、さとりの視界にある風景が浮かぶ。

 

さとりはブルトンの能力で意識を精神世界に送り込み、肉体に戦闘を任せる。人形が振り下ろす攻撃に、阿求は両腕で受け止めた。

 

そして、さとりは精神世界を訪れる。其処はトミーに燃やされる前のサーカス場だったが、その周りには多くの大人達が、苦しみながらその場で佇んでいた。

 

さとり「この人達は、皆子供達を虐めた大人達……」

 

こどもつかい『そうさ。全て子供達を虐めてきた悪い奴等さ』

 

さとりの前に、現実世界でさとりや阿求と戦うこどもつかいが姿を現す。彼の周りに子供達が集まってくる。全員目が白く、瞳が見えない。

 

さとり「………本当にお願い。もうこんな事はやめて」

 

こどもつかい『無理だね。虐待が起きれば僕はまた現れる。此れは君達自身が問題を解決しない限り、僕は何度だって現れる。子供を虐める奴等を庇う気かい?こんなに可愛い子をぶつなんて、正気の沙汰じゃあないよねぇ?』

 

さとり「貴方は生みの親であるトミーに裏切られていた。貴方はトミーを憎んでいた。でもトミーの事を父親として愛していた。なら貴方も、本当は分かってる筈でしょう!?虐待してきた親の中には、好きでそんな事をしたい訳じゃない人も居るくらい!!」

 

こどもつかい『ならどうする気だい?まさか君達なら、この子達を救えるの?君達はこれからも、知らぬ場所で虐待されてる子供達を助けられる?無理だね。なら僕に任せなよ。僕が悪い大人を、皆懲らしめてあげ―――』

 

さとり「だからって殺す必要は無いでしょ!!あの子達は自分を助けてほしいだけよ!!大人達を殺してほしいわけじゃない!!そしてあの子達が本当に心から望んでいるのは殺害じゃない!!“幸せ”よ!!」

 

さとりは心を読む悟り妖怪だ。だから子供達が心に秘めた悲しみや苦しみも理解出来る。確かに子供達の中には自分達を虐める大人を憎む者達は居る。それは否定しない。麟だって、一時期とある怪獣へ憎悪を向けていたのだから。しかし、助けられた子供達は呆然としていた。彼等が臨んでいたのは救済と幸福であり、虐めてきた者達の殺害ではない。憎む事と殺したいと思う事は似てるようで異なる感情だ。

 

さとり「貴男が虐められてる子供を救いたい。その想いや行動を否定したいんじゃあないわ。ただ、やり方を改めてって言ってるの。子供達を虐めて来た奴等を殺すんじゃなくて、救い出した子供達を幸せにしてあげて」

 

すると、こどもつかいの周りに居た子供達は白目から明るく輝く人間の目になっていく。

 

こどもつかい「ふん。それで何になる?僕は子供達に問い掛けただけだ。邪魔だと思う奴は誰だ?ってね。そして子供達は――」

 

その時だった。周りにいた子供達が突然こどもつかいに抱き着き始めた。しかし、甘えているのではなく、捕まえているようだ。そして、サーカス場の出入り口から多くの子供達が集まり、こどもつかいを拘束していく。彼等は、こどもつかいが今まで関わってきた子供達であった。

 

こどもつかい「なっ!?何をしてんだ!?僕が君達を助けてやったのに!?邪魔な奴等を始末してやっただろ!?何で!?」

 

さとり「二度も言わせないで。その子達が本当に望んでるのは幸せになる事よ。麟の元に預けられた子供達はまだ何処か空虚な雰囲気があるけど、麟のお陰で幸せを取り戻し始めてるの。そして、こう言ってたわ。「ごめんなさい」って」

 

こどもつかい「そんな!?僕は認めない!君達だって、トミーに焼かれて苦しみ続けてたじゃないか!」

 

こどもつかいは、最初に自分を拘束した七人の子供達にそう告げた。しかし、七人の子供達は拘束する力を緩めない。

 

こどもつかい「まだだ!まだ苦しんでる子供達が――」

 

「もうやめにせんか」

 

さとりの聞き覚えのある声がする。それは、現実世界でも同じようにさとりと阿求の耳に響く。

 

現実、そして精神世界の元で現れたのは、上之郷勝夫だった。さとりは精神世界から抜け出し、意識を肉体に戻す。現実のさとりと阿求は服が所々破けてボロボロだが、それは黒マント人形も同じだ。

 

上之郷「黒マントさん。私が代わりじゃああかんか?」

 

こどもつかい『お前は………あの時僕を捨てた?』

 

上之郷「息子だ。父は死ぬ間際に話してくれた。あのとき、サーカスでトミーが焼き払った時に自分だけが生き残った事を、友達を見殺しにした事を後悔していた」

 

こどもつかい『はっ?』

 

上之郷「そして、私に託したんだ。子供達と再会したら、一緒に謝ろうと」

 

そして、勝夫の隣に幼い子供が姿を現す。それは、幼い頃の勝夫の父であった。

 

すると、こどもつかいの周りに子供達が現れる。それは、さとりが見た勝夫の父親がサーカスに連れてきた七人の子供達であった。

 

上之郷『「………すまなかった!本当に!」』

 

二人は子供達に膝を付き、土下座をした。すると、子供達は上之郷達に寄り添い、手を差し伸べる。

 

子供達『『もう良いよ。僕達/私達は、ずっとお友達だよ』』

 

子供達は光の粒子となって消えていく。勝夫の隣に居た父も、勝夫に『ごめんね』と告げた後に消えていく。

 

こどもつかい「………ハハッ。そうか………僕は、やり方を間違えて居たのか」

 

こどもつかいはその場に尻もちを付く。その体は徐々に朽ちていき、軈て衣服も烏も猫も、装飾品も風化していく。

 

さとり「………もし、また現れるんだったら、その時はやり方を改めて、子供達を幸せにしてあげて。そして、大人達も殺すんじゃなくて、幸せにしてあげて」

 

こどもつかい「………………」

 

そしてこどもつかいは、灰となってその場から消えた。勝夫やさとり、阿求の三人はその光景をただ黙って見守っていた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

数日後。こどもつかいによる事件は終わった。阿求や慧音、麟等の人里の有力者達によって、被害者の大人達と孤立した子供達を保護する為に寺子屋とは別の養育施設『保育園』が設立された。保育園では孤児院としての機能もあり、孤立した子供達が其処に預けられ、幸せな人生を歩もうとしていた。

 

そしてさとりは、休暇で地霊殿に帰る最中に、ある事を考えていた。

 

さとり(こどもつかいによるトミーの呪いは、一先ず終わりを迎えたわ。でも………まだトミーの呪いは完全に消え去った訳ではない)

 

大人が子供を虐めてしまう限り、こどもつかいは再び姿を現すだろう。

 

さとり(麟も子供を産んで母親になった。彼女は心配無いとは思うけど………もしまた大人を恨む子供が現れたなら、それは呪いとなり、再び事件は起こる………)

 

しかし、さとりはある一つの結論に達していた。

 

さとり「でもそれは、私のやるべき事じゃあ無いわ。私は巫女でもなければジャーナリストでもない。地霊殿の主で、寺子屋の教師で、あくまで妖怪なんだから」

 

こうして、さとりは地霊殿の扉を開けて中に入る。

 

お燐「さとり様!お帰りなさいませ!」

 

お空「さとり様!お帰り!」

 

こいし「お帰り!お姉ちゃん!」

 

ペット達『『ウオオオオゥッ!』』

 

さとり「ええっ。ただいま」

 

そして、さとりは扉を閉じて中に入る。

 

 

 

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これで、トミーの呪い終了です。ありがとうございました。次回からは霊夢のデート編、幽々子と紫になります。

そしていよいよ、1stSeason最終章、神霊廟編に入りたいと思います。

おそらく、1stSeason史上最大の闘いが待ち受けるでしょう。

冴月麟の正妻に誰がなって欲しい?

  • 伊吹萃香
  • フランドール・スカーレット
  • 古明地こいし
  • 封獣ぬえ
  • ミスティア・ローレライ
  • 幽谷響子
  • 朱鷺子
  • 中村恵里
  • 大妖精
  • サニーミルク
  • ルナチャイルド
  • スターサファイア
  • 姫之子守
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