幻想郷に戻ってきた魔理沙は、早速霊夢に事の重大さを伝えた。そして、博麗神社へ霊夢の様子を見にスキマから現れた紫も、事の経緯を全て聞いたのだ。
短い期間ではあるが、襲撃するまで恐らく後五日。此方から仕掛けるよりも、向こうから向かってくるのを待つ方が良い。何処に居るのかも解らないのに動いてしまえば、戦力を分散させられる。況してや、幻想郷に居る今の少女達では歯が立たない。
しかし此処で、紫が提案する。五日間の間、霊夢を含めて戦う事の出来る幻想郷少女達には、修行を積んでもらう事にした。
魔理沙から麟を通じてヘカーティアにも話が通り、そしてクロエ達にも伝わった。辰己もトレーニングに参加するようだ。
そして、ナラクの中で麟はある者と相対していた。
「じゃあ、皆。五日間しか無いから手荒になるわよん」
「ギルの事です。きっとかなりの軍勢になるかもしれません。という事で麟。貴女には修行がてらクロエと一騎打ちをして欲しいのです」
「私達が審判を行うわ。モンスターバトルルール、此で成立するわよん」
麟とクロエの試合となる。
「まさか本当に成立しちゃうとは。で、クロエちゃんだっけ?君はこの試合に同意する?お互いの合意が無いとモンスターバトルって成立しないからさ」
「私?勿論引き受けるわよ。ルールならさっきマイ・ロードと読んで覚えたわ」
「ならよし!ヘカーティア、ノア。僕達二人でやるよ」
両者の合意が成立した。
「合意したわね?では此れより、モンスターバトルルールに乗っ取った試合を始めるわ!冴月麟対クロエ・フォン・アインツベルン!両者構えて・・・」
クロエは両手に『干将・莫耶』という夫婦剣を投影して、両手に持ってその一つの切っ先を麟に向ける。麟は所持している二胡をノアに預けて、その身体を仮面とビキニと尻尾と背鰭を生やした異形の姿へと変貌させる。そして、麟はクロエに向かって吠えた。クロエもかつて聞いた事がある、ゴジラの鳴き声だった。最も、クロエの知るゴジラは日本製だが、麟のゴジラは海外製である。
「あっ、始める前に一つ聞いて良いかい?クロエにだけど」
「私は良いわよ。どうしたの?」
「君は、自分の命をどう思ってるの?」
「・・・私は偽物よ。あの子達のね」
「・・・」
麟はクロエの答えに対して、何かを言いたそうにしていた。しかし、それはすぐに出さなかった。それは、勝ってから言う事にしたからだ。
「良いよ、ヘカーティア。ノア。始めて」
「合意したわね。では改めて、クロエと麟のモンスターバトルを始めるわ。よーい・・・」
改めて二人は、それぞれの構えに入る。ヘカーティアは平手のまま腕を上げた。
静寂が一瞬場を支配するが、すぐに沈黙は打ち破られる。審判を務める女神の言葉によって。
「スタート!」
ヘカーティアがモンスターバトル開始を宣言。それと同時に、二人は走り出した。
麟がクロエの元へ速く辿り着き、そのまま飛び上がって膝をクロエに向けて突き立てる。クロエの顔に膝による突きが命中し、クロエは後ろへ後退した。麟は地面に片膝を着きながら着地した後、身体を起こして追撃に出る。クロエはよろめいたにも関わらず、麟の爪による攻撃を干将・莫耶で防ぐ。しかし、怪獣の攻撃力を持つ麟の爪で、干将・莫耶はアッサリと引き裂かれた。クロエは距離を少し離して右手に黒い聖剣を、左手に銃剣を投影し、それぞれ手に持った。クロエは銃剣から弾を放つ。麟は身体を横に傾けて避ける。麟は口から『パワーブレス』を放つ。すると、クロエは花弁のような半透明の盾を展開し、麟のブレスを防いだ。ブレスが盾に当たり、ナラクの床が水のように吹き飛ぶ。
麟は片足を振り上げる。クロエは黒い聖剣で蹴りを防ぎ、銃剣を振り下ろす。麟は片腕で銃剣を弾き飛ばし、クロエの胸元に左ジャブをぶつける。クロエは再び後方へ、地面に背中を引きずりながら下がっていく。
麟は隙を突いて、背鰭を輝かせて喉元を光らせた後に、パワーブレスを再び口から放った。緑色の火炎をしたパワーブレスはクロエに当たり、爆発を起こす。
「手加減してるから大丈夫だよ。本当の威力ならとっくに死んでるからね。実力のある人が生身で直撃したら、せいぜい全身に火傷が出来るレベルだよ。まあ一般人なら重症だけどね」
「・・・いや、普通に死にかけるわよ」
全身に火傷を負い、外装が全て焼け落ちたクロエ。皮膚が所々焼けた事による傷が出来ており、服の焼け具合は際どい所が見えそうになっていた。
「しっかしホントにタフだね。手加減してるとはいえ、怪獣の一撃だよ?人間サイズで耐えられる筈が無いのに」
「貴女もね。ってそうじゃないわ。貴女、私に勝ったら何を私にさせるつもり?」
クロエから尋ねられた。麟は勝ってから言うつもりだったが、やはり此処は変に先伸ばしにせず言うべきだろう。麟は質問に答えた。
「君に、自分の事を偽物と呼ぶのを止めて欲しい」
「・・・ハァッ?」
クロエの表情が憤怒の物に変わる。地雷を踏んだのだろう。しかし麟の進撃は止まらない。
「君は自分の命を軽んじてる。産まれてくる命に偽物も本物も無いんだよ。僕の宿したゴジラもそうだし、君だって───」
その瞬間、クロエが有無を言わさず麟の首に向かって黒い聖剣を振り下ろした。麟は両手で聖剣を白刃取りして受け止めた。明らかに殺しに来た攻撃であった。
「ちょっとおお!?」
クロエは更に攻撃を続けていく。
「アンタに!!何が!!解るのよ!!」
明らかに、先程のような冷静に対処していたクロエとは違う。
「何があったのかは知らないし、僕だって君を思わず傷付けた事は沢山ごめんって思う。でも、その反面君に対する沢山の怒りが込み上がってるんだ」
麟はクロエの両手にいつの間にか握り締められている干将・莫耶を、爪で軽く引き裂いた。
「私は、クローンよ?」
「知らない」
クロエの攻撃が止まる。麟に両腕を掴まれて、身動きが取れない。
「私は作られたのよ?」
「関係無い」
クロエは蹴りを入れようとしたが、麟がジラの足となった靴で彼女の足を踏みつけて、蹴りを抑える。
「私は・・・同じ境遇だったイリヤと美遊を・・・」
「殺したんだね?」
「・・・」
「沈黙は肯定なり」
麟はクロエの拘束を止める。抵抗しないと理解したからだ。彼女には戦意が感じられない。このまま戦って勝っても、此れでは勝ったとは言えない。やはり立ち直って欲しい。
「・・・殺した過去は変えられないよ」
麟はハッキリと言う。
「それは君だって解ってる。でも、君は其処から先に進めていない」
麟の言葉は、まるで怪獣の牙のように、爪のように、クロエの心に迫る。
「何故か解る?今の君は人を救って回ってるけど、君は人を救って気を楽にしたいだけ。自分が殺してしまったそのイリヤと美遊だっけ?その二人を救おうとしてるだけ。だって君はヒーローでも英雄でもない。その二人を殺した時点で、いやもっと前に何をしたのか知らないけど、君は人を救った事に満足したい、ただの人殺しだよ」
「そんなこと───」
クロエの反論を許さない麟の言葉は牙となり、クロエの言葉を意図も容易く噛み砕く。
「いや何を言おうとしてるか分かるよ。「そんなことは無い。私は人を現に助けてる」って。でもそれは結果論の話。結果的に人を助けても、君は全く救われてない。人殺しという足枷を着けて、自分が偽物と信じ込む盲信の檻に入って満足する、ただの人殺しだよ」
なんとも冷たい。そしてえげつない。麟の言葉は怪獣の爪であり、牙でもあった。クロエの叫びを許さぬ怪獣の猛攻は、全く止まらない。
「君は救われてない。さっき知らないと嘘言ってごめんね。本当はノアやヘカーティアから事情を聞いたよ。でも、ノアに生き返らせて貰っても、義理の父親と共に歩めても、君は彼等から救われたのに全く救われてない。君が、救われたい筈なのにその気持ちを無理矢理押し殺して、自分は救われたくないと強く思い込むようにしてるからだよ」
「違う──」
「違わない。偽物と呼んでるのも誰かに救われたいから。自分の事を偽物と呼ぶ事で誰かに否定してもらい、自分の命を肯定してほしいんだよ。そして救われたくないと嘘言って心を閉ざし、本当の気持ちを押し殺す。でもね、どんなに救われたくないと言っても、救われたいと願っても、君は永遠に人殺しという肩書きを背負うんだよ。それは全く変わらない。でもさ、やり直す事は出来る」
麟はクロエの肩を持つ。さっきまで真剣に語ってた表情は一変、まるで聖母のように優しい笑みに変わっていた。
「それはきっと、イリヤと美遊も望んでる。やり直して、幸せになって、自由に生きて、ありのままの自分で居る事を、二人はきっと望んでる。だからさ、自分の事を偽物だなんて言わないで。確かに君は作られた存在かもしれないけど、ちゃんと自分の意志があり、心を持っているんだ。君は偽物なんかじゃない。君はもう『クロエ・フォン・アインツベルン』本人なんだよ。単に在り方が違うだけ。本物になる必要は無い。此れから形作って行けば良いんだよ」
麟はクロエを抱き締める。クロエは、その抱擁を拒絶出来なかった。
「君自身が思い描く、君自身の『クロエ・フォン・アインツベルン』にね」
「・・・ありがとう。私、明日が見えた気がしたわ!」
クロエの顔が、自信と赦しに満ちた笑顔になっていた。彼女にはもう、自分を偽物と考える思考は無くなっていた。あるのはただ一つ、この場において一番やるべき事。
「・・・私、モンスターバトルに勝つわ!勝って、麟さんに美味しい物を沢山奢って貰うんだから!」
「・・・うん!じゃあ、続きをやろう」
麟は抱擁を止めてクロエから距離を取り、再び戦いの構えを取る。
「行くわよ。決着を着けるわ!」
「さあ、来い!」
麟は走り出し、クロエも同じく駆け出した。麟の爪と、クロエの黒い聖剣が、お互いにぶつかり合った。
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「・・・此れから復讐の時だ。幻想郷を制圧し、俺は再び返り咲いてやる!」
「・・・ふん。ギルと言ったか?子供のように我が儘だな」
「ええっ。モルド兄上」
「モルド兄上、ギナ姉上。彼は信用出来ますか?」
ギナはギルを睨み、ジュダはモルドとギナに尋ねる。
「信用出来ん。恐らく我等が一体化するのを待っている。まあ奴の策に乗ってやろうではないか」
「ええっ、兄上。しかしギルも呆れたものだな。
「哀れなものですな」
グア三兄弟は呆れていた。活動拠点で力を失ったギルを、あざけ笑う目線で見ていたのだった。
クレナイクレハさん。私は此処で、そして私なりのやり方で、クロエの考え方を改めさせますよ。ウルトラマン達もきっと言いそうな台詞ではありますが、クロエに対する私なりの思いを麟を通してぶつけさせて頂きます。
それと、良い案が思い付いたので、後でメッセージを送ります。
それと、ギルの行動理由の伏線を張りました。