此は、霊夢が紫と共に博麗神社を飛び立ち、異変解決に向かった時と同じ頃にまで遡った話。永夜異変と呼ばれるこの異変の裏でも、実はある事件が起きていた。
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「明けませんね・・・夜が」
麟は寺子屋の職員室にある開いた窓から空を見上げ、その様に呟いた。現在寺子屋では授業は無いが、麟は寺子屋で二胡の授業の内容を慧音や他の先生と考えるべく、寺子屋へ赴いたのである。
「此までの異変と比べても前例の無い大規模な異変だ。一応、村長を通じて人里には外出自粛を促している」
彼女にそう言ったのは、寺子屋に所属する教師の一人にして、半人半獣の『ワーハクタク』という種族である『上白沢慧音』だ。慧音は人里でも、とある人物の九代目転生者や村長に並ぶ権力を持っており、半人半獣でありながら人里を守護している。
「慧音先生。霊夢達は動いて居るんでしょうか?慧音先生は月が変だと言ってましたけど、僕は分かりませんでしたが、流石に午前七時を過ぎれば分かりましたよ」
「人間には理解出来ないかもしれんが、あの月は恐らく偽物だ。まあ、霊夢達が解決するだろう」
すると、突然職員室の障子が勢いよく開けられて、その中から一人の少女が現れた。それは、八ツ目鰻の店を勤めているミスティアであった。皆は親しみを込めてミスチーと呼んでいる。人間にも親しい妖怪であり、彼女を毛嫌いする者は少ない。
「大変です慧音先生!あっ、麟さんもいらしてたんですね!?」
「ミスチーか?どうしたそんなに慌てて?」
慧音がミスティアの前に来て、彼女の視線に合わせるように自分の姿勢を低くする。
「影狼さんとギナさんが!何者かに襲われて、人里の治療所に運ばれました!」
「何だって!?」
「影狼って、もしかして迷いの竹林に住んでる狼女さん!?」
麟も影狼の事は知っていた。
今泉影狼。人間とはとても友好的な妖怪の一人であり、外の世界では絶滅したとされる日本狼でもある。言い方を変えれば人狼だ。狼男ならぬ、“狼女”だ。
ギナは、今では人里で暮らすグア三姉妹の次女で、姉のモルドや妹のジュダと共に人里で働いている。
影狼は狼女であるが、実は人里でも友好的な妖怪として知れ渡っており、多くの人達からも人望がある妖怪だ。ギナも今では人里でも人気であり、彼女を含めたグア三姉妹に求婚する男女も居る程だ。
そんな彼女達が何者かに襲われた。博麗の巫女によってではない。彼女はまだ、博麗神社から動いていない。
「解った!すぐに向かおう!麟、君はどうする?」
「僕も行きます!影狼さんは僕やミスチーを含めたバンド『鳥獣鬼人』のライブを見に来てくれたんですから!それに、ギナは今では友達だもの!」
「解った。ミスチー、案内してくれ!」
「はい!影狼の仲間であるわかさぎ姫や蛮奇さんも来てます!モルドさんとジュダさんも!特にわかさぎ姫なんて車椅子に乗ったと思ったら血相変えながら──」
要約するならば、わかさぎ姫は泣き喚きながら影狼の元へ車椅子を走らせたらしい。蛮奇と呼ばれた女性も同じく泣き喚きながら影狼の元へ走り出したらしい。
モルドとジュダはギナと影狼を襲った相手を撃退した後、ギナや影狼を治療所へ運んだのだが、治療所の人々やギナの願いにより、影狼とギナを襲った相手を追って居るらしい。その時の彼女達は、此までに無い程憤怒に満ちていたそうだ。
そして、三人は人里の治療所へ到着した。其処には、下半身が魚の尾びれとなっている肩に掛からない程度の長さをした縦ロールの深い青色の髪をした鰭のような耳を持つ女性が、ベッドに眠る女性に泣きながら寄り添っている。彼女が人魚である『わかさぎ姫』だ。彼女と同じくベッドに眠る女性に声を掛けるのが、赤いショートカットに紫のリボンを頭に着けた口元を覆うマフラーのような部分が付いたマントを羽織る女性。彼女はろくろ首の妖怪であり、人里でひっそりと一人で生きている『赤蛮奇』だ。そして人里の医者らしき数名の男女が、二つあるベッドでそれぞれ寝ている二人の女性に包帯を巻いていた。
ベッドに眠る女性は、腰まで届く黒髪のストレートロングであり、頭に狼の耳を生やしている。また、腰には狼の尻尾を生やしている。服は赤・白・黒からなる三色ドレスを着ており、花札の『芒に月』のようである。ドレスの袖口からは体毛と思われる輝くキューティクルが効いた黒い毛がはみ出て居る。彼女が『今泉影狼』。今の姿は満月の夜の姿らしく、通常の姿は誰も見た事は無い。しかし、ある事があってから狼女の姿のままになったらしい。勿論想像するまでもなく、怪獣を宿してからである。
ギナは影狼の寝ているベッドで寝ていたが、すぐに長座位になって右の拳を握り締める。そのお腹や左腕には包帯が巻かれており、特に左腕は折れているのか首から掛けた布によって支えていた。
しかし、そんな彼女達が何者かに襲われて怪我をした。二人はかなりの実力者故に誰もが信じられなかったのだ。
影狼はベッドの上で横向けに寝ており、上に向けられた脇腹には深くないものの切り傷が出来ていた。包帯が巻かれており、血が染みている。しかし、治療所の医者達による懸命な治療によって出血は止まり、力のある妖怪が持つ再生能力のお陰でその程度の傷は治る。深く無いというのは妖怪基準での話であり、人間ならば致命的な傷である。
「影狼さん!?それに、ギナも!」
「・・・あっ、麟ちゃん。ミスチーに慧音さんも」
「・・・影狼まで巻き込んだのは私の不手際だ。姉上やジュダに会わせる顔が無い」
影狼は横向けになりながらも、首を動かして麟達を見る。ギナは右手で顔を隠している。ギナの隠した顔はかなり険しかった。どれだけ悔しいのか、その表情を見ただけで誰もが理解出来る程に。
「お前達が其処までの傷を負うなんてな。ギナは兎も角、我々のように怪獣を宿した者達はそう簡単にやられるような身体ではなくなってる筈だが、何があった?」
慧音の言う通り、幻想郷で怪獣を宿した者達の肉体はその影響からか、通常のままでも肉体がかなり強化されている。例を上げるならば、妖精達だ。妖精達の大半はセルヴァムという小型怪獣を宿し、そのお陰で鉄砲では傷一つ付かない身体となっている。他に怪獣を宿した者達も、通常のままでも鉄砲程度では傷一つ付かない身体となったのだ。紅魔館の図書館で司書を勤めるこあも、怪獣(と言うより宇宙人)を宿した事でその身体は上級悪魔も上回る頑丈さを得た。
そして、影狼も怪獣を宿した。影狼に相応しい狼型の怪獣であり、ウルトラマンとも互角に戦える力を持っている怪獣だ。そんな彼女が傷を負うという事は、それと同等かそれ以上の実力を持つ者にやられたという事。
影狼とギナは説明した。影狼は、持ち前の再生能力で傷が治ってきた為、ゆっくりと起き上がって端座位になった後、慧音の問いに答える。ギナの場合は、右手を降ろした後に慧音に目を合わせた後に答える。
「竹林から人里に入ろうとしたんだけど、突然変な姿をしたスーツの男に話し掛けられたの。そしたら、『幻想郷を我等の物にしたい。手を貸せ』って言ってきたの。私は断ったんだけど、そしたら妖怪みたいな不気味な姿になった瞬間、いきなり襲い掛かってきたのよ。そうよね?ギナさん」
「ああっ。奴、と言うより奴等は聞いた事がある。高速宇宙人の名で知れ渡っている素早い宇宙人だ。奴等の名はスラン星人。ウルトラマンすら奴の速さを捉えるのは容易ではない。私と影狼が出会ったのは一人だけだ。奴等は単独行動を好む傾向があるからな」
「スラン星人って言うのね。そう。ギナさんの言う通りよ。ギナさんは私を庇ってくれたけど、奴は予想以上に速くて、二人とも怪我したの。その時、モルドさんとジュダさんに助けられて、今に至るって訳」
影狼とギナの話を聞いた麟達。
スラン星人。そんな相手が、幻想郷に迷い込んでいる。影狼とギナを怪我をさせて、モルドとジュダを振り切る程だ。かなりの強敵である事に変わり無い。
何故この幻想郷に現れたのか、そもそもどうやって幻想郷に侵入したのかは不明だが、何にせよ油断は出来ない。
慧音は人里の有力者達を集めて、緊急の作戦会議を始める事にした。スラン星人に対して、対策を練る為に。
私なりの説明です。
今更思ったんですけど、怪獣に対してさん付けしてるの霊夢だけなんですよね。どうでも良いんですけど。