OP:『千華繚乱(幽閉サテライト)』
第58話
香霖堂。外の世界から流れ着いた物を売る道具屋であり、店主である『森近霖之助』が経営している。この店に来る常連の一人である少女の姿をした本読みの鳥妖怪『
彼の『道具の名前と用途が判る程度の能力』により、道具の名前と用途が分かる為、扱いには困らない。但し、使い方が分かる訳ではない。それでも経営に困らないのは、彼の商人としての腕が高い事を示している。名付けられて無い場合は、『名無し』という形で判るようだ。
「朱鷺子。いつも手伝ってくれてありがとうね」
「大丈夫だよ霖之助。掃除位なら」
今日は店内を朱鷺子と共に掃除していた。床や台は朱鷺子が雑巾を使って拭き掃除を行い、霖之助が商品の整理をしている。
整理や掃除が殆ど終わるタイミングで、一人の少女が扉を開けて店内に入ってきた。
「よう香霖!遊びに来たぜ!」
「やあ魔理沙。今日はどうしたんだい?」
「香霖にミニ八卦炉の修理をお願いしたいんだ。お代は払うからさ」
「お代は良いよ」
「それは無理だぜ。いくら小さい頃からの付き合いでも、お金に関してはしっかり貰うんだぜ」
「ふふっ。ホントに成長したね。育ての親として僕も嬉しいよ」
「・・・そうだな。ありがとな、香霖」
魔理沙は霖之助の顔を見て自身の顔を赤くしたが、霖之助には見えてない事に安心した事で顔の状態を戻した。
「魔理沙~、霖之助にコクる?」
「ひゃっ!?と、朱鷺子か!何だよ急に!?」
朱鷺子が魔理沙の耳元で囁き、魔理沙は驚くあまりその場で跳び跳ねた。そして、朱鷺子を涙目になりながら睨む魔理沙。恥ずかしさと怒りが込められた表情を朱鷺子に向けるが、彼女は動じない。寧ろ笑っていた。
「ひひひっ。あんまりグダグダしてると、私が貰っちゃおうかな~?なんちって」
「だ、駄目だぜ!」
「分かってる分かってる。人の恋路を邪魔したりしないよ。でもでも~、油断し~た~ら~何処の馬の骨とも知らない誰かに取られちゃうかも~?」
「こ、この野郎!」
朱鷺子の顔は、正に悪戯を企む子供のようだ。魔理沙は涙目になりながら朱鷺子に掴み掛かるが、朱鷺子は飛び掛かってくる彼女を風の壁で防ぐ。
「おっと、暴れるのは駄目だよ?此処、霖之助の店だからね?」
「ぐっ!卑怯だぞ!」
「モンスターバトルなら後で受けるよ。私だって、霖之助から『朱鷺子』って名付けて貰ったし、怪獣宿してから鍛えてるからね!」
朱鷺子もまた、怪獣を宿していた。ルーミアやリグルのように暴走はしていない。
「こらこら君達。商品が傷付いちゃうよ。まだ暴れるなら出ていって貰うよ」
「ごめん霖之助」
「わ、悪い香霖。あっ、ミニ八卦炉の修理以外に香霖に用があるんだった。なあ香霖」
「ん?なんだい?」
「紅魔館の小悪魔から、レミリア達が月に行くって話を聞いたんだが、どうやら香霖の所で売ってた雑誌に、ロケットで宇宙に行った奴があったらしいな。香霖、なんか知ってるか?」
魔理沙の元にも、紅魔館の小悪魔が使者として来たのだ。内容は霊夢に話した事と同じだ。
「雑誌?月・・・ああっ、アポロ11号が月に行ったニュースの載った雑誌かい?確かにあれは、僕の店で売っていたよ。レミリア嬢はかなり興味を示していたよ」
「そっかぁ。にしても人類が本当に月へ行ったんだな。ありがとな香霖。それだけ聞きたかったんだ」
「ミニ八卦炉はそれほど壊れてないから、明日の今頃取りに来て欲しい。二度も言うけど、お代は要らないよ」
「いや、払うぜちゃんと」
そして、魔理沙は店から出た後に、箒に乗って空へ飛んで行った。
「やれやれ。ホントにお代は良いのに」
「良いじゃん霖之助。魔理沙なりのケジメって奴だよ」
朱鷺子は再び本を読み始める。
「・・・ねえ霖之助。ホントは気付いてるんでしょ?魔理沙がお前に恋してるのを」
「・・・やっぱり君には分かるんだね」
「店が出来てから通ってるしね」
「何も買わないけどね」
「店を手伝ってるじゃんか。ってそれは良いでしょ。で、実際どうなの?」
「・・・朱鷺子。君も知ってるけど、僕は半妖だ。人間と妖怪の間に産まれた種族。だから、魔理沙が例え僕と結ばれても、僕は彼女の死を傍で泣いてやれる程強くないよ。もし魔理沙が魔法使いになったとしても、僕が先に死んだら魔理沙を悲しませてしまうかもしれない。どちらにしたって、僕は魔理沙と結ばれるような器じゃないよ」
「魔理沙はそんなこと気にしないと思うけどなー。でもまあ、私は霖之助の恋路にとやかく言わないよ。魔理沙の事を上手く支えてやれるのは、霖之助。君だけだよ」
「・・・ありがとう、朱鷺子。少しは気持ちが晴れた気がするよ」
「まっ、長い付き合いだしね。霖之助が魔理沙と結ばれる所が見たいのが本音だし」
「本音は隠す物じゃないかい?」
「いーの。霖之助なら特にね」
そのやり取りは、まるで親戚同士のやり取りのようである。
その頃、紅魔館でもある動きが見られた。
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紅魔館。かつて紅霧異変の際に崩壊したのだが、長い時間を得て完全に復興した。スカーレット家の財力の凄さがどれ程なのか気になる所だが、細かい所は気にしないで欲しい。
レミリアとパチュリーは人里で教師を続けていたが、紅魔館が復興した後は教師を引退し、紅魔館の管理を勤めている。咲夜や美鈴、小悪魔、妖精メイド達にホフゴブリン達も、漸く本業に復帰した。
因みに、嘗ての永夜異変でレミリアは大人の美女へ姿を変えたが、今は元の少女の姿に戻っている。どうやら元の姿に戻る事も可能らしい。
そして、紅魔館に存在する大図書館で、霊夢はレミリアと咲夜、車椅子に座るパチュリーと向かい合う形で椅子に座り、霊夢の隣にこあが立っていた。
「それで、月に行ってどうするつもりよ?海に行きたいって、本気で言ってんの?」
「まあそれは建前よ。月の海に興味があるのは事実だけど、本当は八雲紫に頼まれたのよ。「月に攻め入りたいから協力してくれ」って」
「紫が?」
「紫は以前、月に攻めたそうだけど、惨敗したそうよ。今度は以前のような質の低い数押しじゃなくて、私達のような実力者達を集めて結成した軍勢だそうよ。怪獣の力を宿してる私達なら、今の月に攻め入る事も可能らしいから」
「ふーん。で、何で私にまで声を掛けるのよ」
「なんか紫にある修行をしてほしいそうよ。神降ろしの術を身に付けて欲しいんですって」
神降ろし。つまり、その身に神を憑依させる術。霊夢は巫女だ。なので神降ろしは身に付ける事が可能だろう。
「分かったわ。で、どうやって月へ行くのよ?」
「こあ」
「はい、お嬢様。パチュリー様が現在制作中のロケットがあります。魔法だけでは不可能でしたが、ニーナの力と私のダークゾーンを応用して構成したロケットは、まるで未来の科学技術を詰め込んだ『次元超越装置搭載型ロケット』となりました。此方になります」
こあがテーブルを弄る。すると、テーブルの上に半透明の映像が浮かび上がった。そして、其処には雑誌に載っていたロケットに似た姿をした筒状の物体が立体映像として出ていた。
「嘘っ!?何これ!?」
「ふふっ。パチェとこあの技術の結晶よ。本当に私のパチェは、何から何まで優秀なんだから」
「ホントにレミィは・・・」
顔を赤くしたパチュリーが、呆れながらも嬉しそうにしていた。
「霊夢。レミィを頼むわ。私が紅魔館に居ても、レミィはどんなにやられようと強くなり続けるわ。でも、あまり突っ走らないよう見ていてくれる?」
「分かったわ」
「ありがとう。レミィが遠くに行って知らない内に死ぬなんて、そんなの嫌よ」
その時のパチュリーは、顔を赤くしながら頬を人差し指で掻いていた。その様子を見た霊夢は、パチュリーがレミリアに恋している事を直感で知るのだった。
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「私達の元に来るなんて、そんなに月の都を攻めたいのかしらん?」
ザ・キングダムの本拠地である異次元空間『ナラク』にて、紫はヘカーティアと円卓を囲みながら対話をしていた。来ている者は全員、円卓に用意された椅子に座っている。
「目的は他にあるのだけど、貴女達の方からも何人か出してくれないかしら?負けても良いわ。報酬は約束するわ」
「ふむ。最近はスペースビーストやスフィア、ゴーデス細胞の情報は無いし、丁度暇してたのが三人居るわ」
そして、ヘカーティアは三人の人物を紹介する。
「ベル。カルナ。天子。出番よ」
すると、円卓の椅子に座っていた三名の男女が立ち上がる。元クロエであるベルと、ベルのサーヴァントであるカルナ、そして天界で暇をもてあましていた『
「分かったわ。カルナ、行きましょ」
「了解した」
「天界は退屈するし、丁度良いな。この天人の力を思いっきり振るえる良い議会だ。やってやろうじゃないか」
実力は充分だ。特にカルナは、インド神話の英霊だ。戦力としては申し分無い。
今回の第二次月面戦争は、紫にとって勝とうが負けようが別にどうでも良い事なのだが。
ED:『星空夜空(いえろ~ぜぶら)』