麟は『鳥獣鬼人』のライブを終えて、萃香と共にある店に向かっていた。其処は、麟がよく買い物をする八百屋であり、絶品の野菜が売られている為に人里でも人気だった。
そんな店の方向から、複数の男達が逃げてきた。全員、武器を持ってる腕が変な方向に折れている。
「何だろ?」
「八百屋の方向からだな」
二人は八百屋の方へ向けて歩く内に、人だかりが八百屋の前に出来てる事に驚く。
「何だこりゃ?」
萃香が声を上げた瞬間、『萃香様ッ!』と人々が彼女達に道を開けた。
「萃香ったら、脅さなくても良いのに」
「私がやったんじゃないさ。こいつ等が勝手にやってるだけだよ。まあ此は此で楽なんだけどな」
二人は人々が開けた道を進み、八百屋に到着した。しかし、此処で二人は思わぬ相手と再会する事になる。
「すみませーん。また野菜ください」
麟が店の奥に声を掛ける。店の奥から出てきたのは、二人の姉弟。
「あっ、麟さん!萃香様も!何時もありがとうございます!」
「麟先生、また何時もの野菜ですか?」
「うん。柚葉ちゃん、義郎君。でも、今日は何かあったの?やけにお客さんが多かったけど、何かあったの?」
すると此処で萃香が口を開く。
「さっき、武器を持ったまま腕が折れた男達が逃げていく様子を見たよ。この店のある方向から逃げてきたんだ。偶然なら其れまでだが、前に一度聞いた事があるんだ。この店は、人里を裏で牛耳る極道から金を借りてるってな」
すると、姉弟の顔が青ざめる。どうやら正解だったようだ。
「本当なの?萃香」
「私も噂で聞いただけだよ。人里の裏に居る極道は確かに居るが、三つしか居ないよ。その内の一つは過激な人間至上主義の団体でな。私を見ても追い出そうとするんだよ。多分金貸しをやってんのは、人間至上主義の奴等だろうな」
「・・・そうだよね。僕も傷を付けられたよ。誰にも見られたくない、傷をね」
人里を裏で牛耳る極道。この人里で長く住んでる麟でも、その存在は知っていたものの、会った事は無い。ただ、時折人里では柄の悪い男達が今の博麗の巫女である霊夢の事を貶す広報を行ったり、人里を出入りする妖怪を蹴り続けて追い出したり等、過激な活動が目立っていた。
人間至上主義と言ったが、なんと対象が人間になる事もある。妖怪と仲良くなりたいと彼等の前で言えば、最悪殺される。良くてもその場でなぶられる。例えその相手が老人や子供だったとしても。
麟は背中、には届かない為に肩を擦る。その極道に関わった際に負わせられた、“背中の傷”である。麟は戦士ではないが、その傷は一生消えない物として残っていた。
「ごめんね。変な話になって。本当ならすぐに野菜を買いたいんだけど、中で話を聞いて良い?」
「は、はい」
柚葉と義郎に案内された二人。店はさほど大きくないが、それでも一家族が生きていけるだけの大きさはある。
麟と萃香は店に入ると、一人の少女を見つけた。少女は慣れない手つきで箸を使っていたが、それでも料理を食べていた。そんな三人が、出会ってしまった。
「あれ?誰か居たのかな・・・でも待って?あの子何処かで・・・」
「ッ!麟!」
「えっ?」
萃香が大声を上げた。その瞬間、少女は麟に掴み掛かる。麟はその手を避けた後、出入口に向かって後退する。
「貴様等!何故此処に来たのだ!?冴月麟!伊吹萃香!」
「っ!そうかその鎧姿・・・エタルガーじゃん!」
「だよなぁ!何で少女の姿になっている!?」
麟は少女に拳を振るおうとしたが、突然姉弟が目の前に現れてエルを庇う。
「待ってください麟さん!エルさんは私達を助けてくれたの!」
「麟先生!エルお姉さんに何すんだよ!店に来た『人間会』を追い払ってくれたのもエルお姉さんなんだ!」
その話を聞いた麟は、何やら複雑な事情がある事を悟る。
「・・・取り敢えず座ろう。話、聞くからね」
霊夢なら、相手が嘗て世界に害を及ぼした存在だと分かれば問答無用でエルを攻撃しただろうが、麟は違う。話は出来る限り聞く。もし罠なら、その時は自分で対処する。
麟は話を聞いた。人間至上主義の『人間会』からお金を借りていた事。借金自体は経営中に返金完了してるにも関わらず、人間会から膨大な利息を掛けられていた事。食糧を全て奪われた事。化け化けに襲われた所をエルに助けて貰い、そして店に来た男達をエルが返り討ちにした。最も、エルは戦わずに男達が自滅しただけなのだが。
そして、この店で食事中に麟と萃香がやって来た。それがエル、柚葉と義郎が語った経緯である。
そして麟は、人間会より受けた傷を見せた。上着を脱いで、サラシを解いた。ブラは身に付けておらず、代わりにサラシを巻いてブラ代わりにしていた。
義郎は目を閉じて、柚葉は彼の目を両手で覆っていた。
「おい麟!?」
「大丈夫。僕の傷を見て欲しいだけだから」
勿論人前で裸を見せるのは麟だって恥ずかしい。それでも、人間会に付けられた傷を見せたいのだから。
「ほら。僕の綺麗な背中。こんなに綺麗な美少女に、こんなの付けられたんだよ」
麟が晒した背中。其処には、サラシと重なった事で見えなくなっていた横一線の切り傷の痕があった。痕の形状からして、かなり深く斬られた事が伺える。
「こりゃあ酷いな」
「酷い・・・何でこんな・・・」
「麟先生。俺達に隠してた傷って、こんなに痛々しいものだったのか・・・」
「・・・ふん。間抜けな奴だ」
エルは鼻で笑う。自分と戦った者が、取るに足らない雑魚に傷を付けられた事で、麟を見損なっていた。
「恐らく永遠亭の先生なら、この傷痕を消す薬を作ってくれるかもしれない。或いは紅魔館のパチュリーなら、傷痕を無くす魔法を行ってくれるかもしれない。でも、まだ消さない。人間会と決着を着けるまで」
麟は語った。何で人間会に背中へ傷を付けられたのかを。
それは実に簡単な事だ。妖怪と人間の子供達を庇ったからである。それは、五年前の話である。
『止めて!』
人間会は、人里に迷い込んで子供達と遊んでいた妖怪を見つけ、妖怪と子供達を斬ろうとした。しかし、麟は彼等を庇った。背中の傷はその時に付けられた物だった。しかし、当時は寺子屋からの帰りであった為、慧音や妹紅も同伴していた。その為、妹紅や慧音によって助けられ、どうにかそれ以上攻撃されずに済んだのだ。
妖怪や子供達に、そして彼等の親から感謝された麟だったが、彼女は一生消えない傷を負った。
「まあ慧音先生や妹紅さんには怒られたけど、その後は手厚く看病してもらったよ」
「ふん。助けに行かなければ傷を負う事は無かっただろうな」
「そう言う割には、麟の話を聞いてたんだな」
「勘違いするな。俺はもうそのニンゲンカイと無関係とは呼べん。奴等は俺も狙うだろう」
エルは襲われても問題は無い。その気になれば返り討ちに出来るからだ。
「なら、人間会に乗り込もうよ。彼等をほっといたら、きっとまた同じ事を繰り返すよ」
「だな。彼奴等人間至上主義を掲げてんのに、人間にも手を出してる。でも不思議だな。博麗の巫女はこういうのに動かないんだな」
「動かないというのは正確じゃない。動きにくいが一番正しい表現だよ。霊夢達が解決出来るのは、妖怪達が起こす問題。人間同士の問題や、人間から妖怪に対する問題等、人間側が起こす問題は畑違い。やらない訳じゃ無いと思うけど、相手が人間なら博麗の巫女は動きにくい。妖怪側のせいにして被害者面するなら、尚更動きにくくなる。人里の人間同士が起こす問題は、本来なら自警団の仕事なんだろうけど、相手は極道。下手に手を出せば人里の人達がどんな目に遭うか。なら、僕が妖怪達と一緒に潰しに行けば、彼等に人間と妖怪が共にあれる事を示せる」
萃香の疑問に麟が答える。
「俺も向かおうか?」
エルが立ち上がる。皿は空になっており、既に食事を済ませた事を示していた。
「俺は人間至上主義等が気に食わんのでな。地球人共の傲慢を叩きのめすのは、俺にとっても心地好い」
「動機が不純だけど、戦力になるね」
「足を引っ張んなよ」
そして、麟と萃香が動き出す。麟は既に着替え直しており、エルも立ち上がって外へ出ようとする。
「エルさん!気を付けてね!」
「俺達、此処で待ってるから!」
「・・・叩き潰した報酬は、お前達の飯だ」
エルは姉弟にそう告げた後、外へ出た。
人里を苦しめる、人間会を叩き潰す為に。
此こそ正に、博麗の巫女が解決出来ない又は解決しにくい案件。その担当は麟又は麟以外の人妖が担当すふ事になるでしょう。
勿論、人間会を麟達に叩きのめして貰う予定ですが、ただで終わらせるつもりはありません。ラスボスを用意します。
ヒントを出します。此方(↓)です。
・映画『陰陽師』・戀鬼(幻想郷ver)