人里に蔓延る人間会。その本拠地は意外と誰も知らなかった。今の博麗の巫女である霊夢への誹謗中傷、妖怪及び妖怪の味方に対する暴力、人間至上主義と掲げておきながら人間にも手出しする過激さから、多くの人達が人間会の拠点を探ってきたのだが、未だに見つかった試しが無い。
「ごめんね影狼。付き合わせちゃって」
「良いのよ、そういう時は。人間会の奴等にどれだけ苦しめられたか、よく分かるわよ。私も彼奴等に石を投げられたり、妖怪と言う理由だけで殴られたりしたんだから」
影狼は鼻で匂いを辿る。人間会にやられた時も、彼女はその時の匂いを覚えていた。しかし、今まで拠点を探る事が出来なかったのは、単純である。報復されるのが怖かった。それに何より、蛮奇とわかさぎ姫に迷惑が掛かってしまうから。
しかし、今は麟と萃香、そして嘗て幻想郷を手に入れようとした元エタルガーのエルが居る。エルの存在は影狼は良く思わなかったが、今は戦力が居て頼もしい。そして何より、自分に宿った怪獣の力がある。
(ホロボロス。お願いね)
影狼は胸に手を当てて、自身に宿る怪獣の名を呼んだ。その時、影狼の脳内に狼の遠吠えらしき咆哮が響いた。
「あったわ。此処よ」
影狼がやって来たのは、井戸だった。人目につかない場所に建てられた井戸であり、手入れはされてないのかカビや苔が生えている。
「此処で匂いは分かりにくくなってるけど、確実に井戸の下へ通じてるわ。この井戸を使って外と地下を出入りしていたのね」
「人里の地下って・・・父さん曰く採掘場だったみたいだね。現在は外の世界みたいに紙幣をお金にしてから、採掘場は殆ど使われなくなったみたいだけど」
「麟の家って、昔から博麗の巫女と交流があったんだっけな。人里の構造も良く知ってた訳か」
「うん。僕は父さんから話を聞いて興味が湧いたけど、母さんから地下は埋められて行けないって言われたよ。でも、今は人間会が出入りしてるんだね」
「人間会の連中が掘り返した後に、拠点にしてんだろうな。でもまあ、そのせいで影狼に探知されたけどな」
萃香の皮肉に、全員が笑ってしまった。
「早く行くぞ。俺は早く奴等を叩きのめしてやりたいんだ。飯の為にな」
エルは井戸の中に入る。飛び込んで一気に降りていき、軈て着地する音が井戸から響いた。
『早くしろ!』
「分かってる!ほら、皆行くよ」
「おう!終わったら宴会だ!」
「ええっ。人間会を叩きのめしてやるわ!」
三人も井戸の中へ飛び降りて、三秒後に地面へ降り立った。三人からすれば大した事ではない高さだ。怪獣を纏わなくとも平気である。
そして、四人は長い廊下を見つめる。蝋燭で照らされた長い廊下は、視界が悪くて何処から敵が来るのか解らない。
「スンスン・・・此方へ向かってきてるわ。人間の匂いね。それも五人。どうやら偵察みたいね」
「上等だ。返り討ちにしてやる」
「くれぐれも殺さないようにしなさいよ」
「雑魚料理法は心得ている」
エルは拳を鳴らす。四人は長い通路を歩く内に、萃香と影狼は不快感に襲われた。
「ちっ!何か念仏を唱えてやがる!」
「前の私なら近付けなかったわ。でも何かしら?凄く嫌な感じがする」
「念仏は妖怪にとって害でしょ?」
「それとは違うのよ。退治される時の嫌な感じじゃなくて・・・何て言うのかしら?恨みとか、悲しみとか、そんなのが混じった感じかな?上手く説明出来ないけど、悲しい、苦しい、憎い、そんな気持ちが込められてるのよ」
影狼曰く、通路の奥から聞こえる念仏には、何かしらの恨みが込められている。人間である麟と、超時空魔神であるエルには効いてない。どうやら人間や異星人には効果が無いようだ。
『我、妖ヲ恨ム事タユル気無シアンダラタウン。我、妖ヲ恨ム事タユル気無シアンダラタウン』
念仏がよりハッキリと聴こえるようになった。一人ではなく、何十人もの男女の声が響いていた。
「なんか、仏教の念仏を怨念寄りにした感じだね」
「なんだこの歌は?こんなのに何の意味がある?」
「地球人、特に日本人にはとても意味のある言葉だよ。祝詞、又は念仏と言ってね。言葉を上手く繋げる事で力に変えるんだよ。本来なら死者の魂を成仏させたり、生きてる人達の精神を落ち着かせたり、妖怪や化け物を退治する為にあるんだよ」
「ただの言葉がか?」
「ただの言葉で片付けない。言葉には、それだけ力が宿る事があるんだよ。数億人の人々を動かすのは、心よりも言葉なんだよ」
「・・・ふん。くだらん」
エルは鼻で笑う。
「でもこの念仏・・・というか祝詞かな?霊夢ならもっと詳しく理解出来るんだけどね。でも、影狼の言う通りだね。特に恨みが強く込められてる。それに何だろう?この気配・・・・・・博麗の巫女?」
麟は感じていた。念仏の中に、博麗の巫女独特の力の気配を。しかし、そんな博麗の巫女の力の気配も、怨念が強く宿っていた。
そして麟達は、奥にある扉を開けて中に入る。鋼鉄の分厚い扉を片手で開ける萃香。念仏が聴こえているにも関わらず、力はさほど衰えていない。
扉を開けて中に入る麟達。
その中は、無数の男女がそれぞれ違った印を両手で結び、恨みを込めた念仏を唱えていた。部屋の奥には、人間会の長らしき白髪の高齢男性が此方に背中を向けており、一際強い念仏を唱えている。そんな彼の前には、巫女の石像が血に濡れた布切れを握っており、人間会が唱え続ける念仏と同じ事が書かれた文字が、赤黒く染まっていた。
「此れが、人間会?」
「・・・どうやら侵入者の様だな」
白髪の老人が立ち上がる。
「我等の本拠地に自ら入ってくるとはな。我等の掲げる『人間至上主義』に惹かれたかね?」
「誰がアンタ達なんかに!」
影狼が声を上げながら、麟の前に立つ。
「汚らわしき狼に、八岐大蛇の末裔たる鬼か。まさか我等の本拠地に居ながら、その場で立てるとはな」
老人は麟達の元を向く。その瞬間、麟達を囲む男女が立ち上がり、それぞれ武器を持って居る。
「やれやれ。全くこうなるんだね」
「まっ、ハンデにゃ丁度良いや」
「行くわよ!」
「ふん」
四人はそれぞれ身構える。人間会を、この手で終わらせる為に。
この博麗の巫女の正体は、霊夢の前の先代ではありません。