「はーあ」
ちょっと疲れましたね。
今まで2回、授業の間にある休み時間を使って、私の数少ない気心が知れた人の元に訪れたわけですが……
あの人たちキャラが濃すぎると思うんですよ。はい。
一人目は黒髪ロングでスレンダーな超絶美少女。加えてその胸部の存在感のなさには目を見張るものがあります。
二人目は明るく元気な快活美少女。加えてパンツは高校生にもなってクマさんの柄のものを着用。
……ハァ。私の近くにいる人たちはみんなどうしてこんなに変人だらけなんでしょうか。生徒会長としてこの学校が心配になってきます。
……ああ、なんか真面目に授業を受けるのが億劫になってきましたね。それに、今は3限の現代文の授業中なのですが、さっきからずっと先生が教科書読んでるの聞いているだけだし、これではなんだか授業をやっている意味も感じられません。これなら家で自分で教科書読んでた方がいいです。
こんな授業を受けていると、平塚先生の偉大さを改めて感じます。あの人多分結婚に使うエネルギー全部授業の上手さに振り切っちゃったんでしょうね。合掌。
……うん。つまんないし、サボりますかね。
よし、そうと決まったら
「せんせぇ〜気分が悪いので保健室行っていいですかぁ? 」
さて。
弱々しく手をあげて、少し潤んだ上目遣いで体調の悪さをアピールし、つまらない授業からの脱走を謀っている美少女生徒会長でもあり女優でもある女の子は、一体誰でしょう?
そう。私です♡
* * *
はい。成功しました。
とりあえず保健室の先生にも気分が悪いと伝え、ベッドを案内されます。まあ熱がないので1時間だけしかこの時間は続かないでしょうが、仕方ないでしょう。
そんなことを考えているうちに、ベッドがたくさんある部屋のドアを開けます。
あ、うちの学校はですね、保健室の中にまた別に部屋があって、その部屋の中に2段ベッドがいくつかあるという作りになっているんですよ。だからしきりがあるだけの一般的な保健室とは違って、割と静かに快適にダラダラゴロゴロ出来るわけで、一部の生徒たちの憩いの場になっている訳です。照明もなく、寝たりゆっくり休むには最高の空間です。
まあ、その分私みたいなサボりの常習犯も生まれてしまうのですが……
「……またアンタか。生徒会長がそんなにサボっててもいいん? 」
あ、言った矢先ですね。
どのベッドでゴロゴロしようか決めかねている私を、いかにもギャルな金髪が横にあった二段ベッドの上から見下ろしていました。
「三浦先輩……また会いましたね。でもまあ、珍しく今日は二人しかいないんですか? 」
「まあ、そんな何回もここでサボる手は使えないかんねー……ん? 二人っきり? 」
今の会話の通り、私と三浦先輩はここの常連になります。ここでサボる人たちは基本決まっていて、だからみんな顔見知りになっちゃうんですよね。まあそうなると保健室の先生からマークされるわけなんですが、歴戦の猛者となるとそれさえもくぐり抜けます。やはり押しが強いというのは美徳ですよね。
「ちょ、ちょっと……今アンタ、二人きりって言った? 」
「はい……今日は腹痛のカズマも、頭痛のめぐみんもいませんし。……はい、目ぼしい同士をはじめ誰もいないみたいですよ?」
あ、今出てきた人物名は通り名ですね。ちなみに私は倦怠感のいろは。三浦先輩は目眩の優美子という通り名で通っています。
「あ、、うん、そうなんだ……へぇ……そう、、なんだ」
「? 三浦先輩どうしたんです? 」
二人しかいないと知ってからの三浦先輩はなんだか様子が変です。妙に顔に赤みがさし、目線はうろうろ、何かに狼狽している感じが見て取れますね。まさか、今日は本当に具合が悪いのでしょうか? 珍しい日もあるものですね。
「い、いやっ……べべべつにあーしは大丈夫だから……」
「そうですか。……じゃあ、私もそろそろベッドに入りますね」
まあ、会話をしていてもいいのですが、万が一先生が部屋に入ってきてバレたら嫌ですし。いい子に一人でゆっくりゴロゴロしているのが得策ですから。
私は三浦先輩のいるベッドから3メートルくらい離れた、別の二段ベッドの上段に陣取ります。
それ以降、30分程度は何もありませんでした。
私はぬくぬくと温かく柔らかいベッドでゴロゴロを満喫していたのですが、ある時点で、何か異変に気づきます。
小さく、物音がするのです。
それが確かに聞こえてきます。ガサガサ、トントン、ジュルリジュルリ。
その物音はだんだん近くなっていきます。ドアが開いたわけでもないので、ベッドの部屋には私と三浦先輩しかいないはずなのですが……
流石にちょっと恐怖を感じてきました。なので少し様子を見ようと、ベッドの上で起き上がると……
「……一色、いろは……いろは……いろは」
「へ? 三浦先輩? 」
その物音の正体は三浦先輩でした。まあ確かに彼女しか考えられる人はいないわけなんですが、それでも彼女から私に近寄ってくるなんて意外です。だって、わざわざ自分のベッドから降りて、3メートルほど歩いて違うベッドの上段に登ってきたのですから。
三浦先輩は、なんだか目をランランと妖しく輝かせて、なんとそのまま私に覆い被さってきました。私はまたベッドに仰向けに転がることとなり、三浦先輩は私の腰のあたりに乗って両手を私の両肩に置きました。
「へ? み、みうらせんぱい? 」
相変わらずの妖しい目、それとグヘヘみたいな笑い方をした後、三浦先輩はついに口を開きます。
「……………………か、かわいぃ」
へ? なんか嫌な予感がします。
「はああああああああ……すき♡」
三浦先輩は、目の中に♡を忍ばせて、ただでさえ近い距離なのに私に顔を近づけてきました。色々な危機を感じます。ガチで鳥肌が立ってきました。
「いろは……あーし、ずっと前から本当はいろはのこと……その、隼人たちがいる手前なかなか言い出せなかったし女子同士だからおかしいとは思うんだけど、その、やっぱりいろはのこと、その、好きなの。おかしいでしょ? でも、そのあざとさとか亜麻色の綺麗な髪とか庇護欲そそられてかわいくてかわいくてかわいくてかわいくてでもごめんねいつも冷たくあしらってごめん本当はいろはのこと大好きなのに素直になれなくてごめん本当は抱きついて抱きしめてお世話しちゃいたいくらいいろはのことが大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでお願いだからあーしと」
もう私はダメかも知れない。
三浦先輩の唇が私のそれに間近に近づいてきた段階で、私が世界に絶望し始めたその瞬間。
「……三浦さん。あなた病人なのになにをやっているの? ……このことは先生方に報告しますから」
その後、私は無事保護されました。
また私は仮病であるにも関わらず、保健室の先生から本気の心配をされもう1時間眠ることに。
これほどまでに、保健室の先生に感謝したことはありませんし、これからもないでしょう。
さて、問題です。
ベッドの中で包まり、少し震えて未だに先程の恐怖に慄いている美少女は、一体誰でしょう?
そう。私、一色いろはなのでした。
「ぐへへ……いろはぁ♡」