いろはの旅々   作:shushusf

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お団子頭の恐怖

 海からの風が、私の白くきめ細やかな頰の柔肌を撫でます。

 

 

 

 せんぱいが言うベストプレイスという場所に、私は来ていました。

 今は昼休みも終わり、5時間目の待ったただ中。

 そうです、なんとなく、また授業サボっちゃいました。 

 

 平塚先生みたいにガミガミうるさい人がいなくなった今、割と好き放題やれているのが楽なとこでもあり、悲しいところでもありますね。

 放置というのは、信頼されているといえば聞こえはいいですが、ろくに見られていないとも取れますから。

 

 

 

 さあ、問題です。

 

 

 

 午後の陽差しに当たりながら、時折吹く風に亜麻色の髪をたなびかせ、優雅に甘々なコーヒーを飲んでいる、まるで自然の祝福を一身に受けたかの様な美少女は、一体誰でしょう。

 

 

 

 

 そう、、私です!

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「といっても、ここで座っているだけというのも暇だなぁ」

 

 

 

 そうです。

 午前中にベッドの中でぬくぬくしたりした私には、正直眠気はほとんどないわけで。

 いくら午後のお天気の日の陽差しだとしても、私をウトウトさせることには成功していないようでした。

 加えて、昼休みも色々あったから、私まだお昼食べてないんですよね。

 

 

 

 

 

 

「はぁ。暇。……とりあえずどこかに移動しよう」

 

 

 

 

 

 

 ただの日向ぼっこで満足するほど、私はまだ老け込んではいないのです。それなりの刺激を探して、私は立ち上がります。

 

 

 

 まあ、授業中の今、それなりの刺激なんて探してもないんでしょうけどね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていたことが、私にもありました。

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 私の城。

 ゲフンゲフン、総武高校では、一階に多目的トイレが設置されています。まあうちの学校には今のところ健常者の方々しかいないので、普通にちょっと豪華な誰でもトイレというのが現状なんですが。

 

 

 

 その多目的トイレが、ほんの少しだけ開いていました。

 中の電気がうっすらと外に漏れ出しています。

 

 

 

 

 

 まあ、それだけなら別になんの問題もないんです。

 

 

 

 

 

 中から、人の声がしなければ。

 

 

 

 

 

 恐る恐る、私はほんのちょっと開けっぱになっている多目的トイレまで近づいていきます。

 近づくにつれ、だんだん中からの音も聞こえるようになってきました。

 

 甲高い女子の声……そして、ぴちゃぴちゃという水音がうっすら聞こえます。

 

 

 

 考えないようにしながら、私はさらに近づきました。

 この時点で嬌声と謎の水音は結構大きく聞こえています。それにしてもさっきよりも大きいので、もしかしたらラストスパートに突入しているのでしょうか。

 

 

 そして、隙間から恐る恐る中を覗くと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァンハァン! ……ひっきー! ヒッキー! ゆきのんじゃなくて私をみてぇ♡ わたしをすきにしていいからぁ……あふんんんんん♡♡♡ 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 中には、見慣れたお団子頭が、私に背を向けるように便器に座って真っ最中でした。最高にハイってやつです。

 

 

 そして……結衣先輩は左手でグチョグチョしながら、スマホを右手に持って……あ、あれせんぱいの写真だ……なるほど、あれをおかずにしてるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁん♡♡♡ わたし、もうがまんできないぃん!! わたしのなかにだしてヒッキィィン!! あっあっあっぁああああああああああぁああああああああああん!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 果てたようです。グッタリしてます。

 ……っちょっとくさい。

 

 

 

 それにしても、多目的トイレの鍵を閉め忘れてしまうほどに欲求に支配されていたわけですか……

 

 

 まあ、十中八九結衣先輩が授業サボってまでこんなところでいたしているのは、昼休みの雪乃先輩とせんぱいのアレが原因でしょう。結衣先輩にも本当に悪いことをしました……

 

 

 

 

 

 さあ、長居は無用です。

 

 さっさと帰りましょうと、覗いていた体勢から動かした、その時でした。

 

 

 

 

 

 がつん

 

 

 

 

 

「っ」

 

 

 

 

 不意に、私の手が多目的トイレのドアに当たってしまいます。音が出てしまいました。流石の私も少し焦ってしまい、少しだけ体がフリーズしてしまいます。

 

 

 

 そのフリーズが、良くありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

『……だれ? ……あ、あいてる…………ドア、鍵かけるのわすれちゃったかぁ』

 

 

 

 

 

 ゆっくりと結衣先輩は便器に座ったまま、顔だけをこっちに振り返ります。その顔は、致したばかりだからなのかどこか呆けていながら、、泣いていました。

 

 めっちゃ涙が頰を伝っていました。

 目からはハイライトもなくなっていて、まるでこの世の全てを呪っているかのような……そんな恐ろしい目。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『んん……ああ、そのこっちをのぞいているめは……いろはちゃんかぁ。………………ねぇ、ちょっとこっちに来なよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恥も外聞もなく、半泣きになりながらも懸命に廊下を走っている生徒会長がいました。

 とにかく体に鞭を打って恐怖から逃げることに全力をあげ、この世の恐ろしさを身をもって体感した、儚げな美少女は一体だれなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、わたし。

 一色いろはなのでした。

 

 

 

 

 

 

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