1話
「………つかれたぁ」
誰もいない空間で少女の声が木霊する。いや、正確には物だった残骸とも言える金属が転がっている。
「現場のリリィより作戦本部へ通達。はぐれのアルトラ級は活動を停止、任務完了によりこれから帰投する」
感情なく無線機に向かって話しかける少女は、ボタンを離してふぅっと一息ついて瓦礫に腰を掛けた。
30秒ほど座ったまま虚空を見つめていた少女はザザッという音が聞こえたとともに無線機を耳に近づける。
『こちら作戦本部、ヒュージの反応消失を確認した。被害状況を報告せよ』
「んーっと……海にヒュージの瓦礫が散乱してることかな」
『はっ……?せ、生存人数は?』
無線機から聞こえる男性の声は若く、まだ新人といった様子だ。そんな声に対し少女はクスリとほほ笑み、そのあと意地悪そうに笑った。
「僕一人だよ」
『なっ……!?』
『おい、こいつは新人なんだ。いじめてやるな阿保』
続けて聞こえてきたのは堅物そうな女性の声。どうやら少女とは面識があるらしい。
「あはは……ごめんね~、ちゃんと報告するよ。僕一人の出撃、応戦によりアストラ級を撃破。人的被害はなし。海の瓦礫はどうすればいい?」
『
「了解。相変わらずリリィ使いが悪いねぇ」
『ちょ、大佐殿!?アルトラ級をリリィが一人でなんて!!』
まぁ信じられないよねぇ、と少女は男の声に苦笑いしながら無線機を懐へしまった。そして立ち上がると、両手を広げて言う。
「『熾天使』」
直後、少女の全身から白く輝くオーラ、マギの輝きが溢れ少女の全身を包み込む。繭のようになったマギは少しづつ開いていき、少女の背中から3対6枚となる翼が形成された。
「さてと、それじゃあ食べていいよグラトニー」
少女が言うと同時に、いつの間にか握られていた大剣が変形し怪物の口のようなものが現れた。ソイツは舌なめずりをすると勢いよくヒュージだった残骸へ食らいついていく。
そうなれば当然、少女が乗っていた足場もなくなったが6枚もの翼をはためかせ彼女は滞空していた。数分で化け物の口が海に散らばったすべての残骸を食べきると満足したのか、ゆっくりと息を吐いて引っ込むようにもとの大剣へと戻っていった。
「うんうん。やっぱりアルトラ級ともなるとでかいから満足してくれるよね」
少女は大剣に目を向けてにっこりと笑うと、ある方向へ向けて飛翔した。
「あっ……今日は一年生の入学式だったっけ。間に合うかなぁ…無理かなぁ…よし!!飛ばしちゃおっと」
少女はさらに力強く翼をはためかせ、スピードを今まで以上に上げて飛行していった。
◇
「貴様、軍曹だったな?」
「はい。それで大佐殿、先ほどのリリィは一体……アストラ級はヒュージの中でも最大級です。それをリリィ一人で撃破なんて……あり得ません!!」
「落ち着け軍曹。事実として撃破しているのだ。現実を認めろ」
「しかし……!!」
とある一室で会話しているのは先ほどまでリリィの少女と通信をしていた青年軍曹と女性だ。青年は熱くなっており、女性はPCを操作しながら宥めている。
「はぁ……まあそろそろ教えてもいいころだと思っていた頃だ。望み通り教えてやるから静かにしろ。みっともない」
「し、失礼しました!!」
軍曹は慌てて敬礼をする。大佐は少し眉をひそめながら傍らのコーヒーに手を伸ばし一口飲む。
「ほら、読むといい。持ち出しは禁止だ」
「はっ、ありがとうございます!!」
クリップで止められた書類の束を鍵付きの棚から取り出した大佐は軍曹へと手渡し、彼は受け取った。
「百合ヶ丘学園2年生の天宮蒼空(あまみやそら)、百合ヶ丘学園に所属するすべてのリリィのマギを合計しても足りないほどのマギを有する、正に最強のリリィ。余りあるマギから作られる3対6枚の翼を広げた姿は、神話に名高い最高位天使である『熾天使』……セラフィムと畏れられリリィとして尊敬されている。ここまでで質問は?」
「……それは最早ヒュージと言ってしまえるのではないでしょうか?そんなの、人に収まる域を超えてますよ」
「なるほど、道理だ。確かに人にあまり力を持てばそれは民衆からは化け物とでも捉えかねられん。いい感性をしているな。しかし口にはするなよ?物理的に首が飛ぶ」
「えっ……冗談ですよね?」
「試してみるといい。二階級特進を申請しておこう」
「ひえっ……ご配慮痛み入ります……」
「何はともあれ、彼女とは友好な関係を築いておけ。一人で数百人規模のリリィに匹敵するんだ。
「そ、そこまでですか……」
「ああ。何せ、あのG.E.H.E.N.A.ですら、報復を恐れていまだに手出し出来ていないのだからな」
「墓場まで持っていくことにします……」
「そうしろ」
そして、用が終わった軍曹は礼をして部屋を出て行った。
「ふぅ……若造にも困ったものだな」
大佐はコーヒーを飲み切り独り言ちると軍曹にも明かしていないデータを引き出して見た。
「人ではない……か。勘がいいのか、悪いのか。まあ、念押しはしたし後は軍曹しだいか」
大佐は、今なお笑顔で大空を飛んでいるであろう天使のようなリリィを思い浮かべた。
◇
―百合ヶ丘学園―
「見て!!あのお方こそ百合ヶ丘が誇る熾天使様ですわ!!」
「ああ!!蒼空様ぁ!!」
「お母様お父様……私を育てていただきありがとうございます。空様のお眼鏡にかなうような立派なリリィになって見せますわ!!」
(え、一人だけなんか覚悟決めすぎじゃない?僕そんなに尊敬されるような人格者じゃないんだけど……あとその理由じゃご両親泣くよ?)
1時間半ほどで所属する百合ヶ丘学園へ帰ってきた少女、改め蒼空は結局一年生の入学式に間に合わなかったことをショックに感じながらも廊下を歩いていた。時折聞こえてくる他の生徒の声に内心でツッコミを入れている。そのまま入学式が行なわれたはずの講堂につくと何故か新入生と思わしき集団がまだ席についていた。
(あの子でいいや)
「ごきげんよう、君新入生かい?」
「ふぇ!?そ、そそそそそそそそ蒼空様ぁ!?はははははははひぃ!!新入生ですぅ!!」
「えっと……少し落ち着いて?ほら、ひっひっふー」
「ひ、ひっひっふーぅ……ってこれ妊婦さんの呼吸法じゃないですかぁ!?」
「あははっ、落ち着いてくれて何よりだよ」
なんとなく目についた茶髪の女子生徒に話しかけた蒼空。しかし予想以上に女子生徒がてんぱっていたので落ち着かせたようだ。方法はあれだが。
「名前を聞いてもいいかい?」
「二川 二水(ふたがわ ふみ)です蒼空様。あっ……申し訳ありません。ちょっと鼻血が……」
(鼻血……?)
茶髪の生徒……二水が急に鼻を抑えて後ろを向いた。少しゴソゴソした後もう一度蒼空に振り返ると両方の鼻の穴に丸めたティッシュを詰めていた。しかもすこし赤く染まっていることから本当に血が出ているということがうかがえる。
「あっ、そういえば蒼空様。どうなされたのですか?」
「ああうん(鼻血はスルーなんだね)
実は入学式を見ようと思っていたのだけれど、学園に戻ってくるのが遅れてね。もう入学式が終わっている時間だと思ってたけど……なんでみんなまだいるのか不思議だったんだよ。知ってる二水ちゃん?」
「蒼空様が私の名前を!!えっと、実は先ほど白井夢結様と新入生の……あ!!」
「ん?」
「「「「「「いたぁーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」
言いかけていた二水の後ろで突然扉が開いた。それに気づいた蒼空もそちらを向くと、ピンク色の髪の生徒がロングの茶髪の生徒に腕を抱かれながら入ってきた。
二人の姿を確認した二水は二人に近づきテンション高く言った。
「入学式はこれからですよ、梨璃さん!!」
「二水ちゃん!?」
(うーん、蚊帳の外……一旦出ようかな)
生徒たちの注目が今入ってきた二人に行ったことに気づいた蒼空は左手でこっそりとマギを凝縮。光の屈折の角度を調節し周りから姿を見えなくするとスルスルっと生徒たちの間を通って講堂の外に出た。そしてマギを霧散させ入学式が始まるのを待とうとした蒼空だが、一人の少女が目に入る。
「あれ、夢結じゃん。珍しいねぇ、君が下級生の入学式を見に来るなんて」
「ッ……蒼空、貴女どこから……いえ、何でもないわ。百由の逃がしたヒュージの討伐に一年生を二人連れていくことになったからそのついでよ」
「へぇ……君が自主的に連れていくとは思えないし、うーん……あ、生徒会だね?」
「相変わらず察しがいいわね。薄気味悪いくらいに」
人を突き放すような態度で喋る黒髪の生徒、二年生の白井夢結だ。楽しそうに笑う蒼空に呆れた表情をしている。
「では、ごきげんよう」
「僕の行き先は聞いてくれないんだ?」
そのまま振り返りその場を去ろうとする夢結に問いかけた蒼空。言葉のわりに笑っており、嫉妬しているわけではないらしい。夢結は足を止めて軽く言い放つ。
「どうせまたラージ級が数体でしょう?貴女が苦戦するはずないわ。心配するだけ無駄よ」
「なるほどねぇ(ホントはアルトラ級なんだけど、まあ言わなくていっか)」
再び歩き出した夢結見送った後、改めて今から始まるらしい入学式を見学しようとしてすぐに足を止めた。
(最低限、夢結の戦闘について来れるリリィがまず2人……今年は豊作だねぇ。ふふっ、お腹すいたし今日はか〜えろ、っと」
急に方向転換した蒼空は何事もなかったかのように自室がある寮へと歩いていった。
(グラトニー、今日もお疲れ様♪)
『グラトニー』
蒼空専用の『CHARM』。元ネタは『GOD EATER』の神器の捕食形態。