百合ヶ丘の熾天使   作:ゼノアplus+

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11話

11話

 

 

「さて、また随分とやらかしてくれたね……G.E.H.E.N.A.ども」

 

 

ある日、一柳隊と蒼空に課せられた『砂浜に打ち上げられたヒュージ残骸の調査』のため地上では一柳隊が、空中からは蒼空が探索していた。

 

近くにアルトラ級ネストがあること、積荷不明の無人船がその近くを通過した結果今回の任務が課されたことを踏まえるた結論がこれだ。

 

そして何より、その証拠たるモノが地上に打ち上げられていた。

 

 

「これ、なんだろう?」

 

「待って梨璃ちゃん!!それに触れちゃいけな……遅かったね」

 

 

船やヒュージの残骸と共に打ち上げられた鮮やかな羊膜のようなモノ。そのほとんどが破損し散乱しているが形を保ったままの個体が大凡5つあった。

 

そしてその一つに近づいた梨璃は不用意に近づきCHARMの切先を近づけていた。蒼空はそれに気づき『熾天使』を使用してまで止めようと近づいたが一歩遅かった。

 

羊膜が破れ中から出てきたヒト。薄紫の髪の全裸の少女が中から現れ梨璃へと抱きついたのだ。

 

 

「…………ッッッッッッッ!!!!」

 

 

梨璃に駆け寄る一柳隊を眺めつつ地面に降り立った蒼空だが、彼女自身も驚きの光景を目にすることとなった。

 

 

「「「「……」」」」

 

 

4人の少女が居た。梨璃に近い少女と同じく足元には包んでいたと思われる膜が落ちており同じように出現した、もしくは生まれたのだと理解した。

 

そして今、梨璃の下に駆けつけるために『熾天使』で自分のマギを周囲に撒き散らしたことを思い出した。

 

 

(まさか、マギ反応でゲノムに影響を及ぼした?でもこの気配は……)

 

 

『……グルゥ』

 

「グラトニー?どうしたんだい」

 

 

自分から滅多に姿を現すことのないグラトニーが、CHARMではなく蒼空の右手から出てきた。蒼空もグラトニーが少女たちから何かを感じ取っているのを察し右腕の主導権をグラトニーに渡した。

 

 

『……ガァ!!』

 

『『『『………キャウ』』』』

 

「へっ……!?」

 

 

先ほどまで唸っていたグラトニーが一喝。すると4人の少女たちの身体の一部が、()()()()()()()()()()()()変化して発声した。

 

 

「…………『掌握』……………………ッ、あぁ。そういうこと…か」

 

「「「「…………?」」」」

 

 

蒼空は少女たちに触れる距離まで接近すると『熾天使』の翼を広げ、4人を抱きしめるように翼ごと包み込んだ。

 

 

「生まれてきてくれてありがとう。君たちはきっとこれから誰にも望まれないだろう。それでも……僕は、僕だけは祝福する。ハッピーバースデイ、僕の愛しい()達」

 

 

 

 

 

 

 

 

一柳隊によって保護された少女は、学園の医療施設へと運び込まれた。そして蒼空が保護した4人の少女たちは秘密裏に防衛軍拠点の医療施設に運び込まれ検査が行われている。

 

 

「間者は?」

 

「全て処理したよ。そもそもそこまで入り込む余地もなかったからね。君の部下はやはり優秀で助かるよ」

 

「そうか」

 

 

ガラス越しに眠る少女達を眺めながら、蒼空と軍服の女性……大佐は会話をしていた。

 

 

「政府からの命令は来ているかい?」

 

「ああ、試作人工リリィの捜索のみだがな。どうやらここに運ばれたとは夢にも思っていないらしい」

 

「相変わらずアイツらはバカばっかりだ。もう1人いたのだけれど、そっちは百合ヶ丘に保護されたから当分はその子が狙われるだろうね」

 

「……気の毒に」

 

「へぇ、君は同情的なんだね?」

 

 

本来、蒼空の肩書の一つである防衛軍所属リリィとしての職権を濫用スレスレまで使いありとあらゆる外の目からこの4人を隠し、秘密裏に保護をしていたのだった。

 

 

「お前の情報が全て正しいのなら、この子達は紛れもなくリリィでヒトなのだろう?ならば我々が守るべき存在だ」

 

「ありがとう」

 

「お前の口から素直に感謝が出るとはな。よっぽどの案件らしい」

 

「僕をなんだと思ってるんだ……まあいいや。検査結果が出たら連絡して欲しい。僕は学園に戻る」

 

「了解した。残り1人の様子を見に行くのか?」

 

「うん、検査結果が出るまではあくまで予想だけど、多分あの子のベースも僕だろうからね」

 

 

そして当日中に蒼空は百合ヶ丘学園へと飛行して引き返した。

 

 

「あれ、蒼空様?いつの間に戻ってきてたんですか?」

 

「やぁ二水ちゃん。ついさっきね、ちょっと気になることがあったから別で調べていたんだ。保護した子の容態は知っているかい?」

 

 

理事長室へ足を進める途中通りかかったテラスで、蒼空は梨璃を除く一柳隊と出会った。

 

 

「バイタルは安定しているらしい、ってのは聞いたんだけどなー」

 

「今は梨璃さんがつきっきりで看病しているそうですよ蒼空様」

 

「なるほど、ありがとう」

 

 

梅と神琳が蒼空の質問に答えてくれた。二水がお茶の準備をし始める直前に断り挨拶をしてから再び理事長室へと足を進める。

 

理事長室へと到着し入室すると、何やら神妙な面持ちの理事長が蒼空を迎え入れる。どうやら生徒会長は3人とも不在らしい。

 

 

「何か分かったかね?」

 

「まあ大体はね……詳しいことはまた後日だけど、ほぼ間違いないであろう推論を聞くかい?」

 

「お聞かせ願おう」

 

 

理事長の差し出した紅茶を一口飲み蒼空は話し始める。

 

 

「G.E.H.E.N.A.の連中、どうやら僕の遺伝子を実験に使ったらしいんだよ。ヒュージゲノムと僕のヒトゲノムを使用したリリィ。差し詰め、『天使』シリーズと呼ぶのがいいかな」

 

「それはっ……では現在保護している少女は……」

 

「お察しの通り、遺伝子的には僕の血縁……姉妹よりかは娘に近い存在だ。僕とヒュージの子供ってところかな」

 

 

あり得ない。喉元まで出かけたその言葉をなんとか飲み込み、理事長は言葉を紡ぐ。

 

 

「学園での保護は容易ではない、ということか」

 

「初日なのにもうネズミが湧いてきているよ。きっと近いうちに政府からもつっつかれるんじゃない?」

 

「つい先ほど連絡をよこしてきたとも。政府で引き取る、とな」

 

「ありゃ、手が早いね。でもそれだけは絶対にダメだ。それほど『天使』達を欲しがるのは、きっと初の成功事例だったんだろうね。ヒュージネストのマギを使って目覚めさせようだなんて無茶はそうそう成功しないだろうし」

 

 

おそらく、リリィとして人の形に発現させるためヒトゲノムを必要としたのだろう。しかしなぜ蒼空の遺伝子が使われたのか、元々はリリィ適正が皆無な程度の蒼空の遺伝子を使っても意味は無いはず。それでも使用に踏み切ったのは、何か別の要因がある。蒼空はそう考えていた。

 

 

「理事長、おそらくあの子はヒトとして認められると思う。時間はかかっても守ってあげて欲しい。遺伝子的に母親なだけだけど、親心ってやつさ」

 

「あいわかった。しかし蒼空君、君が保護した4人の少女についてはどうなのだ?」

 

「……7:3でヒュージかな。科学的ではなく、超常的な調べ方だけど僕の下位互換というのが妥当なところだね。4人とここの子の違いは、最初に触れたマギの持ち主。一柳梨璃だったからこそ、ヒトの形に収まることができたというのが推論かな。こっちの4人は、僕をベースにした上で僕のマギに触れさせたから天宮蒼空の性質を悪い意味で受け継ぎすぎたね。僕より力がない、マギ循環効率が悪い、独立意識のあるCHARMが各部位に存在する。解決する問題が多そうでねぇ」

 

「お互い、苦労するな」

 

 

お互いため息が出てしまう。少なくとも蒼空の保護した4人の方が重要度、危険度共に高いので仕方がないが今後政府からの圧力がどれほどのものになるか、つまり面倒臭いのだ。

 

一通りの情報交換が終わり理事長室を後にした蒼空。一日中動きっぱなし、話しっぱなしであるためそろそろ休憩をしたいところではあるがまだやるべきことが多い。一瞬の疲労感にため息をつくと気合を入れ直し再び歩き始めた。

 

 

「あら、蒼空。ごきげんよう。貴女もこの子の様子を見にきたの?」

 

「ごきげんよう。まあ僕も第一発見者だからね、心配なのさ」

 

 

秦祀。3人いる生徒会長の1人であるオルトリンデの代行を担い、夢結と同室でもある。どうやら保護した少女の面倒を見ているらしい。

 

 

「容態は?」

 

「良好ね。さっきまでは梨璃さんが付き添っていたのもあったからかしら」

 

「それはよかった。僕も入っていいかな?」

 

「ええ、あの子も起きているから挨拶してあげたらいいわ」

 

 

祀に促され病室へと入ると、今朝も見た朝紫のかわいらしい少女がこちらを見ている。気配なのかわからないが蒼空が入ってくる前には気づいていたらしい。

 

ぱっと見で蒼空はこの子が梨璃に似た顔立ちと雰囲気をしていると感じた。やはり生まれる際に影響を受けるマギが強く関係するのだと確信したが、どうにも気になるところがある。

 

 

「やっぱり少しは僕にも似るか」

 

「…………だれ?」

 

「僕の名前は蒼空、よろしくね」

 

 

この段階ですでに意味ある単語を発声できると思わなかった、蒼空は少し驚きながらもしっかりと挨拶をする。曲がりなりにも自分の血縁者であることに変わりはないのだから。

 

 

「スンスン……まま?」

 

「ッ!!……ああ、そうだよ」

 

 

今の行動を見るに匂いでなんとなく人となりがわかるらしい。不思議な子だがもしかしたら残りの4人もそういう特異なことが起こるのだろうか。接していくと増えていく疑問を抑えながら、蒼空は少女の頭を撫でる。

 

 

「……だっこ」

 

「え?はは、甘えん坊だね。いいよ、おいで」

 

 

両腕を必死に伸ばして抱っこを懇願する姿に、蒼空の母性がくすぐられる。血縁関係で親子同然なのである意味当然だと言える。

 

 

「ままぁ」

 

「はいはい……うん。ママだよ〜、今日は検査ばっかりで疲れたでしょう?ゆっくりおやすみなさい」

 

「ん……うん……」

 

 

赤子をあやすようにゆっくりと背中をさすりそのまましばらく。少女の瞼が閉じていった。

 

 

「かわいいなこの子。素直に喜べないけど……」

 

「あの〜……」

 

「あっ」

 

 

少女をベッドに戻し毛布をかけると、ひと段落ついたと考えた祀がひっそり声をかけてきた。面倒見役兼監視役である彼女はもちろん今の現場を見ていたわけであり、同年代に見える少女にお母さんプレイをしていたように映るだろうと思った蒼空の顔が急激に赤くなっていく。

 

 

「あのっ、ちょ、こ……これは……」

 

「ふふっ……ふふふふ、なんか久しぶりに見たわ。夢結のお母さんみたいなことしてた昔の貴女」

 

「あああああああ……!!!!」

 

「ここで騒ぐと起きちゃうから少し離れましょう?ママさ〜ん?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ……はい……」

 

 

蒼空が落ち着くまでおおよそ30分。未だ赤面しているが会話が可能な状態まで戻った。

 

 

「今見たことは秘密にしてあげる。しばらくの間『熾天使』様の珍しい姿で優越感に浸っておくわ」

 

「はい……ありがとう。ええもうほんとうに……なんとお礼を言えばいいか……」

 

「それにしてもママだなんて、よっぽどお母さんに似てたのかしら?」

 

「いや……なんと言えば……まあそうか……急に知らないところに放り出されれば仕方ないと思う……よ?」

 

 

取り繕う余裕もない蒼空は咄嗟に思いついた嘘で誤魔化していく。色々とバレないように誤魔化す方に思考を割いているが咄嗟に出てこない。

 

 

「そうね。幸い熱心にお世話してくれる子もいるし私も少し楽が出来そうだわ」

 

「梨璃ちゃんかそう長くは持たないだろう。学業に一柳隊としての任務。何より……夢結と長時間離れて耐えられるような子かな?」

 

「ふふっ、無理そうね。まあそうとなったら蒼空にお願いしようかしらね。ママさん?」

 

「…ああ、手が空いている時ならいいよこれから忙しいので相手をする時間があるかは分からないけれど」

 

「ごめんなさい。珍しく貴女が面白い反応をするものだから揶揄っただけなの」

 

 

クスクス笑う祀を横目に蒼空は、当分このネタで弄られる覚悟をしたのだった。






「検査結果は?」

「貴女様の遺伝子と一致するパターンが多く確認されました。完全に同一個体ではありませんが姉妹というわけでもない、つまり……」

「やっぱり、か。うん、ありがとう。下がっていい」

「御意に」




「御前」

「御身の前に」

「この子達に対する全諜報機関の動きを調べろ。面倒なら始末してもいいが……バレたらお前を殺すから」

「承知しましたわ我が主人。お願いと言ってはなんですが、一つ願いを叶えてくださいませんか?」

「却下だ。百合ヶ丘学園敷地内及び半径500メートルの接近を禁じる」

「ああん、いけずですわ。せっかくの妹の活躍……見たかったのですが」

「視界に入れば殺しに行くくせによく言うよ全く……似たようなのが4人。こちら側に引き入れる可能性がある。励めよ、下がれ」

「ッ!!尽力させていただきます。失礼致します」




「戦争の火種、思ったより早く入手出来た。あとは火に焚べるだけ……それでも今は……」

「お母様」「母上」「母さん」「ママ」

「お帰り。嫌なことされなかった?」

「はい、皆さん親切にしてくれました」「でもご飯が美味しくなーい!!」「黙りなさい。母上の前です」「ママ、ぎゅってして」

「いいよ、みんなおいで」


今はとりあえず、この子達を育てようかな。
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