百合ヶ丘の熾天使   作:ゼノアplus+

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12話

12話

 

 

新たな命が5つも生まれたあの日から、早くも1ヶ月が経とうとしていた。あの日以来、蒼空は百合ヶ丘の少女の元に足を運べていない。何を隠そう蒼空が保護した4人の食糧確保に奔走しているからだ。

 

 

「ギガント8ラージ24。今日はご馳走じゃないか!!『熾天使』」

 

 

迫り来るヒュージの大群をマギ放出による狙撃で確実に、且つ損傷を最小限に破壊する。活動を停止したヒュージ達をグラトニーがかけらも残さず食い尽くすと、蒼空の背後から4人の少女が現れた。

 

 

「さすがお母様です。あんな大群を一瞬でやっつけるなんて」

 

「お腹減ったー」

 

「母上、お飲み物をどうぞ」

 

「ママ、かっこいい」

 

「ありがとう皆。今日の分なら3ヶ月分は確保出来そうだよ。無駄遣いしないようにね」

 

 

上から順に天宮ミカ、天宮リエ、天宮ウリ、天宮ラフィと名付けられた4人

 

ミカ……お母様 CHARM……エンビー

リエ……母さん CHARM……グリード

ウリ……母上  CHARM……アンガー

ラフィ……ママ CHARM……レジー

 

である。4大天使になぞらえた名前を付けた蒼空だが、リエだけ女の子らしい名前に出来なかったことを少し後悔している。CHARMの名前は各々が決めたものでありネーミングセンスまで蒼空に似ていると本人は苦笑いしていた。

 

蒼空はグラトニーの口から4つの球体を吐き出させると、4人に一つずつ渡した。

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

ミカは腹部から、リエは左腕から、ウリは右足から、ラフィは左足から異形の口を出現させ球体を飲み込んだ。蒼空のグラトニーと同じく、外部からのマギ供給に頼らなければいけない4人は食糧問題に悩まされていた。

少しずつ戦闘訓練は行わせているがまだ自給自足が出来るほどの力量はない。ラージ級を1人で倒す程度の実力はあるが蒼空が思ったより過保護に育てているためまだ見学だ。その分の食料は蒼空が確保しており、無駄遣いしなければ半年は活動できるマギを4人に与えていた。

 

 

「あっ、そうだ。来週以降あんまり拠点に来れなくなるから皆で協力して過ごしてね?」

 

「「「「えぇ!?」」」」

 

「あんまりです!!」「ごはん……」「それは、流石に……」「寂しい」

 

「いやぁ……ちょっと御前から過保護すぎって説教されちゃってね?まさかアイツが大真面目にそんなこと言ってくると思ってなかったから面食らって了承しちゃってさ……やっぱり妹がいるとしっかりするのかなぁ。まあ来る頻度が下がるだけで、来なくなるわけじゃない。今日はもう暇だから皆で遊ぼうか」

 

「「「「やった!!」」」」

 

 

蒼空の影響をもろに受けた4姉妹であるために、無意識の仕草などが非常に似ている。このように返事や反応が揃うことも多々ある。

 

趣味嗜好や性格は個性が出ており、それぞれ髪色が全く違うので判別もしやすい。この日は一日中、別れを惜しむように娘達との交流に勤しんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、久しぶりにヒュージ討伐に出向かず百合ヶ丘学園で過ごすことになった蒼空だが、正直することが無かった。毎朝二水の訓練を見るという日課自体は続いており二水の実力はメキメキ上がっている。だが偶然以外で二水と交流することもないためプライベートで会いに行こうとしたその時、

 

 

「おや?ごきげんよう諸君。なんだか久しぶりだね。夢結も」

 

「ごきげんよう蒼空……貴女、疲れているわね。もっと休んだほうがいいわよ」

 

「ごきげんよう蒼空様!!今朝もありがとうございました!!」

 

「よっ蒼空。化粧で誤魔化してるかもだけど少し隈あるぞ?」

 

 

夢結に続いて二水、梅が挨拶をしこの場にいない梨璃以外の一柳隊のメンバーと挨拶を交わす。夢結や梅は付き合いが長いため蒼空の些細な変化によく気づく。蒼空が自覚してなかったことを急に言われたので思わず手鏡で顔を見てしまった。

 

 

「よかったらご一緒しませんか?ちょうどお茶を入れ直してたんです」

 

「へぇ、せっかくだしお邪魔しようかな。梨璃ちゃんやあの子の話も聞きたいし」

 

 

蒼空は用意してもらった椅子に腰掛けると、完璧な作法でお茶を楽しむ。

 

 

「蒼空様のこの姿、とても絵になりますわね」

 

「梨璃にしか興味がないお主ですらそう思うなら相当じゃな」

 

「蒼空は優等生だからなー」

 

 

普段行っていることで下級生からまじまじと褒められることが少ない蒼空は少し機嫌がいいらしい。ちょっとだけ口元が緩んでいる。

 

 

「それで、梨璃ちゃんは今日もあの子のところかい?」

 

「はい。生徒会長達のサポートもあって学業も不足も見受けられないですね」

 

「うまく両立できてると思います」

 

「それは素晴らしい。でも……夢結、貧乏揺すりとは珍しい。あまり良くないから習慣にならないように気をつけなよ?」

 

「うっ」

 

 

神琳と雨嘉の言葉に満足そうに答えた蒼空は、横目で夢結を注意した。夢結も自覚はあったのか、数分は耐えていたがまた始めてしまう。

 

 

「あはは、夢結…君、相当だね?懐かしい」

 

「何を言っているのかわからないわ」

 

 

蒼空と美鈴が2人で会話していた時に多かったらしい行動、ヤキモチによる貧乏ゆすり。習慣づくと良くないとは注意したばかりだが中等部時代からすでに習慣になっていたらしい。

 

 

「おや、話してもいいのかい?ああでも、こういうのは梨璃ちゃんがいる所で話すほうが盛り上がるかな」

 

「何を言っているのか本当にわからないわ。ええ、理解したくもないのだけれど」

 

 

中等部時代の夢結の恥ずかしい話をしようと思ったのだが、梨璃のいない所でやっても盛り上がりが薄れることに思い至り話すのをやめにした。それに夢結から無言の圧が来ているので下手な事を言うと叩き切られる可能性もある。

 

 

「そういえば蒼空様はさっきからあの子とか言っておるが結梨のことじゃろ?名前が決まったの知らなかったかの?」

 

「え……全然知らなかったよ。ゆり……漢字はどう書くんだい?」

 

「結ぶに果物の梨で結梨よ」

 

「ふぅん……ん?………………へぇ?ふ〜ん、お熱いことで」

 

「ブフッ…」

 

 

結梨、と言う名前には聞き覚えがある。夢結と梨璃がシュッツエンゲルの契りを交わした時のリリィ新聞にカップルネーム?のようなものが載っていた。それが結梨という名前だったはずだ。2人の名前から一文字ずつ抜いただけだが意味も通るし良いカップルネームだと蒼空は思っていた。梨璃がそう名付けたのだとミリアムが教えてくれ、夢結の肩を小突きながら揶揄っている。

 

ついでにこっそりと吹き出したのは梅である。

 

 

「そっか。結梨って言うんだ……良い名前を付けてもらったね」

 

「……蒼空?」

 

「なんでもない。気にしないで」

 

 

そうして会話をしていると、授業終わりらしい梨璃がこちらに向かってきていた。

 

 

「ごきげんようお姉様!!あっ、蒼空様もお久しぶりです!!」

 

「やぁ、お疲れ様。ほら夢結」

 

「ええ……いらっしゃい」

 

「うぅ……お姉様ぁ!!」

 

 

蒼空が肘で夢結を促すと、夢結は隣に座るよう誘導。梨璃はその気遣いと最近あまり会えていないことによるフラストレーションで、半泣きで飛びつきながら着席した。

 

 

「おや?」

 

 

トンッ、と蒼空の知覚範囲外から抱きつく者がいた。接触したことで感じ取れるようになったマギから何者かを察した蒼空は優しく抱き留める。

 

 

 

「……お母さん」

 

「「「「「「お母さん!?」」」」」」

 

 

件の少女、結梨の呟きと行動に周りの全員が驚いている。普段あまり大きな声を出さない夢結でさえ口を開けて驚いたらしい。

 

 

「やぁ、久しぶりだね梨璃。元気だった?」

 

「うん……でもお母さん、会いにきてくれない」

 

「ごめんよ。これからはそれなりに会えるようになる。だからそう……あんまり強く抱きしめないで?結構痛い……あいたたた」

 

 

1ヶ月経ったにしては4姉妹よりも言語能力が劣っているがその分感情面に強く現れているらしい。何より梨璃や夢結よりも先に自分のところに来てくれたと言うことに対して歓喜でいっぱいである。

 

 

「説明を要求致しますわ!?おおおおおお母さんだなんてどういうことなのですか!!」

 

「身元不明だと思ってたらまさかの急展開ですー!!」

 

「結梨ちゃんが……」

 

 

放心状態の梨璃以外からガッと詰め寄られた蒼空。両手で少し制しつつ、説明をするために結梨を膝の上に乗せた。

 

そして蒼空は、いつも通り嘘をつく。

 

 

「実はね……結梨を保護した日にこっそり会いに行ったんだ。一応僕もあの場にいただろう?気になってね、祀にも許可をもらったんだ。それでお話しした時に少し甘やかしちゃって……喉に詰まりからゆっくり食べてね?」

 

「はぁい……モグモグ」

 

 

蒼空用に用意されていたスコーンに目を輝かせていた結梨に気づきティーカップと一緒に結梨の前に置いてやった。

 

説明した内容は事実でしかないが、そこに隠された意図を説明することはない。

 

 

「本当にお母さんみたいじゃな蒼空様」

 

「なんというか、板についてますね」

 

 

ここ1ヶ月4姉妹に対して知識にある限り母親として振る舞ってきたせいか、自然とそういう行動が出るようになった蒼空。今のも完全に無意識でやっており言われた通り板についてきたようだ。

 

 

「それだけじゃないのよね?」

 

「えっと……なんのことだい?」

 

「後で部屋に行くわ」

 

「…………ああ」

 

 

どうやら夢結はなにか勘付いたらしい。よく見てみれば梅もジト目で蒼空の事を見ているような気がする。きっと気のせいだと思いたい蒼空だった。

 

 

「まあちょこちょこ顔は見せに来るからさ。梨璃ちゃんの方が接してきた時間は長いし、どうやら君によく懐いているようだ。結梨、良いかい?」

 

「梨璃ならいいよ」

 

「結梨ちゃん……!!」

 

 

梨璃は感極まって泣きかけているが、結梨は意に介さずスコーンを貪っていた。マナーを教えなければいけないなと思いつつ、レギオンのミーティングルームに居るには良い時間なのでお暇することにした。

 

 

「お母さん、また居なくなるの?」

 

「ぐっ……なんという誘惑…………あ、明日また来るからね?うん、時間作ってくるから……」

 

「あの熾天使様がここまでたじたじに……結梨さん、なかなかやりますわね」

 

「蒼空様、かわいい」

 

「あはは……お邪魔したね」

 

「クンクン……お母さん、辛いの?」

 

「ッ!!大丈夫だよ。またね」

 

 

最近、表情筋が中等部時代くらいには緩くなってきた蒼空。原因は丸わかりだが今更取り繕っても結梨に良い顔をされないので仕方がない。

 

そして部屋に帰ろうとした蒼空の後ろに、夢結と梅が付いてきた。

 

 

「話せること、少ないよ」

 

「構わないわ」

 

「私たちは付き合いが長いからなー。流石にわかるぞ」

 

「……あはは、だよね〜」

 

 

それ以降は全て無言。自室である梅と蒼空は自分のベッドに腰掛け、夢結は椅子に座った。

 

 

「お茶は……さっき散々飲んだからいいや」

 

「ええ、できる限りを話しなさい。結梨の顔立ちが貴女に似ている理由を」

 

「本当に血が繋がってましたー、なんて言われても信じられないけどな」

 

「……」

 

 

梅の言うことがそのまま正解なので思わず黙ってしまった蒼空。その反応に、2人が焦り出した。

 

 

「蒼空?まさか、本当に?」

 

「流石に年齢が合わないだろ!?」

 

「僕がブーステッドなの、忘れたかい?」

 

「「!!」」

 

 

決定的な言葉が蒼空の口から紡がれる。答え合わせをしてしまった3人は、なんと言っていいのかわからず黙ってしまい気まずい雰囲気が部屋を包んだ。

 

 

「……学園の警戒レベルが過去最大まで引き上げられていることと、関係があるの?」

 

「夢結、それは……!!」

 

「いいよ梅。夢結、君がこの学園でも指折りの実力者であるということは理解しているけれど、君は()()()()なんだ。それ以上は君が知る必要はない」

 

「そう、分かったわ。ありがとう蒼空。聞きたいことは聞けたわ」

 

 

蒼空のキツい物言いにも臆さず、夢結は澄ました顔で部屋を去っていった。

 

 

「それがお前の最大限の情報ってことだな」

 

「そうだねぇ、この学園はG.E.H.E.N.A.との接触を禁じているし下手な事をしてもらっても困る。これ以上は夢結にも、あの子達にも毒でしかない」

 

 

そんな蒼空を見つめた梅だったが、ベッドから飛び降りると蒼空の前にしゃがみ徐に両頬を摘み始めた。

 

 

「それでももうちょっと言い方があっただろ〜」

 

「ふぉめんっへ〜、やめへ〜」

 

 

呂律が回っておらず頬をむにむにされているが抵抗はしない。なすがままにされているのは、蒼空が本当に申し訳ないと思っている証拠でありそれは先ほど出ていった夢結もわかっている。

 

3人は中等部からの付き合いなのだ。下手に隠してもすぐバレる。特に梅は他人の感情の機微を読み取るのが上手い。

 

 

 

 

なんか放っておけない、梅が蒼空と同室を希望したのは蒼空のこういったところを心配したからである。






『親愛なる娘達へ


しばらく会えなくてごめんね。元気で過ごしているかな?大佐や防衛軍の人達は優しい人ばかりだから楽しく過ごせているなら僕も嬉しいよ。

今僕は百合ヶ丘女学院で君達のお姉ちゃんと会っているんだ。いつか家族みんなで食卓が囲んでみたいけど、難しいかな。

名前は一柳結梨。苗字が天宮じゃないけれど、君達のお姉ちゃんなのは確かだ。もし会ったら仲良くしてあげてね。もし僕が名付けるとすれば、天宮サリーかな。

今度お土産を買って帰るから楽しみに待っててね。

ミカ、リエ、ウリ、ラフィ、愛してる。


お母さんより』


「……我が主人、随分と丸くなりましたわね。そこもまた魅力的ですが。このまま人間との戦争なんて辞めてしまえばよろしいのに……いえ、今は任務を遂行しませんと」

「く、来るなぁ…!!」

「人の形をしたバケモノめっ!?」

「ええ、その通りですわ。よくご存知で」

「「ぎゃぁぁぁ!?!?」」


「我々は『代行者』、主人の命を忠実に完遂する()()()()。その命、後に創造されるエデンに捧げなさい」



「……はぁ、どうしてこの任務と手紙の配達が同時並行ですの……?」
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