百合ヶ丘の熾天使   作:ゼノアplus+

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『ねぇ蒼空』

『どうされましたか?』

『夢結のこと、見ててあげてくれるかい?』

『え……それは、私の役目じゃ無いと、思います』

『うん、そうなんだけどね。もし僕が居なくなったら……って、どうしてそんな顔するんだよ』

『そんなことおっしゃらないでください!!私は……私は……!!』

『ありがとう。ほら、夢結は()()だからさ、意地悪できるのが蒼空だけ……ああごめんって、そんなに拗ねないでよ』

『意地悪の方向性に性格の悪さが現れてますよ』

『あはは、言うねぇ蒼空。うん、確かに僕は性格が良く無いね。君にだって、罪悪感なしでこんなこと出来るんだから』

『ッ!?』

『ごめん、蒼空』

『美鈴様……』


3話

3話

 

 

「…………最悪な寝起きだよ全く。あーあー、しかも自主練の時間過ぎてるし」

 

 

亜羅椰をイジメた翌日、蒼空は久しぶりに見た夢で気分悪く目が覚めてしまった。

 

 

「おはようだぞ寝坊助。そんなお前にビッグニュース、聞く?」

 

「おはよう、ちょっと今気分悪いから後でもいい?」

 

「夢結がシュッツエンゲルの契りを結んでたんだけど後にするか?」

 

「………は!?あいたっ!!」

 

 

思わずベッドから飛び起きた蒼空、しかし彼女は2段ベッドの下。思い切り頭をぶつけてしまった。

 

 

「じょ、冗談はよくないよ梅、あの夢結が今さら他人となんて」

 

 

重い痛みが響く頭を抑え、涙目になりながらも梅に反論する。

 

 

「冗談じゃない!!今だって夢結と梨璃がお茶してるし」

 

「リリィ…?そりゃ、一年生ならリリィでしょ」

 

「違う()()、一柳梨璃。ほら、入学式の日に夢結と一緒に出撃してたピンク髪の一年」

 

「あー…あの子か」

 

 

蒼空の脳裏に浮かぶ1人の少女、入学式の日に遅れてやってきた生徒の1人。そして翌日の週刊リリィ新聞に載っていたりもした。

 

 

「あの見るからに初心者そうな子がねぇ……」

 

「見に行ってみるか?」

 

「うーん、うん。夢結だと心配だからね……シルトに自分がシュッツエンゲルになるってことがどう言うことか思い知らせてやる、とか考えそう」

 

「流石の夢結もそこまで……あるかもな」

 

「行こう。シルトの子が心配だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢結様への信頼が無さすぎませんですこと?」

 

「いやいや、これも信頼の裏返しさ。悪い意味だけどね」

 

 

速攻で制服へと着替えた蒼空は梅に連れられテラスへとやってきた。夢結と梨璃に見つからないように移動した2人は、見知った顔がいる事に気づき事情を話して同席したのだ。

 

1人は今尚鼻を押さえて鼻血を抑えている二川二水、そしてもう1人は蒼空が昨日の今朝に見た楓・J・ヌーベルだ。

 

 

「それで、どちら様ですの?」

 

「ヌーベルさん知らないんですか!?このお方こそ、百合ヶ丘学園始まって以来の最強のリリィ『熾天使』こと天宮蒼空様ですよ!!」

 

「……あの熾天使様ですの……?」

 

「まあ巷で熾天使って呼ばれてるリリィなら僕の事だね。それでこっちが」

 

「吉村・Thi・梅、2年生だぞ」

 

二水からの情報で一瞬目をかっ開きながら蒼空を見た楓だが、すぐに調子を整えると礼儀正しく言った。

 

 

「楓・J・ヌーベルと申しますわ蒼空様、梅様。以後お見知り置きを」

 

「楓ちゃんだね。ああ、二水ちゃんは一昨日ぶり〜」

 

「はわっ!?蒼空様が私の事を〜!!」

 

「皆元気だな!」

 

 

女の子座りで双眼鏡を手にしている楓、鼻血を抑え続ける二水、ソファの上で胡座をかいている梅、その後ろで二水の頭を撫でながら笑っている蒼空という状況だ。

 

 

「で、あの子が夢結のシルトかい?」

 

「ええ、一柳梨璃さんですわ」

 

「なんかトロトロに溶けた顔してるねぇ、対照的に夢結は硬い表情してる。あれじゃシュッツエンゲルの契りを交わした様には見えないけども、それにしてもねぇ梅?」

 

「ああ」

 

「「あの夢結がなぁ……」」

 

 

二水と楓がしみじみとした呟きを溢した2人を見つめる。蒼空と梅は夢結を見つめながら、成長した娘を見る親の様な表情だ。

 

 

そして放課後になり、学園に鐘の音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ天葉、ノインヴェルトを使うほどの相手でも無かったんじゃないのかい?」

 

「蒼空が見ているのに、適当はことは出来ないよ」

 

 

場所は変わって、訓練場。本日襲来したヒュージを撃滅したレギオン『アールヴヘイム』所属の2年生、天野天葉を連れた蒼空は今まさにシルトに戦闘訓練をしているシュッツエンゲルを見にきていた。

天葉が言った『蒼空が見ている』というのは今回はアールヴヘイムの戦闘を蒼空が見学していた、という事だ。蒼空はリリィの戦闘を良く見学する事がある。

 

 

「で、面白いものを見せてくれるって言ってたけど何なの?」

 

「ん〜?夢結のシルトかな」

 

「あの噂、本当だったんだ」

 

 

ガキィンッ!!とチャーム同士がぶつかる音が聞こえてくる。

 

「あうっ……!!」

 

「夢結、あんなの……!!」

 

「まあまあ、見てなって。あれが夢結の教育方針らしいよ」

 

 

未だマギをチャームに込めることすらままならない梨璃に夢結がマギを込めたチャームで斬りかかる。どちらのチャームが強いかは一目瞭然、鈍く重い衝撃が梨璃を襲った。

 

それに対し天葉は苦々しい表情で見ていた。天葉も自分のシルトを持つシュッツエンゲルだからこそ、夢結の暴力的な指導を見ていられないのだ。

 

 

「美鈴様の事があってから、夢結は必要以上に人に対して冷たい。それにしたって、シルトの子にあんなことを……」

 

()()()、っていうのもあるだろうさ。まあ僕には見ていることしか出来ないけどね」

 

「蒼空、まさか貴女、全部知ってるの?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね」

 

 

怒った様な視線を送る天葉に、蒼空は笑って返す。それは一種の余裕でもあった。

 

 

「でも僕は伝えない。何故かって?決まっているだろう、これは僕なりの意地悪だからね」

 

「何を言って……ッ!?」

 

 

刹那、蒼空から発せられたオーラ……殺気とまでも言える様な重圧が天葉にのしかかる。

 

 

「もちろん夢結の事は信頼してるし、嫌いじゃない。だって大好きだもの。でも関係ない。僕はあくまで『熾天使』、()()()()と願われたのなら()()()()。でも手は差し伸べない。もちろん、行きすぎたら介入するさ。()()()()()()()

 

「夢結が、行きすぎたとでも言いたいの?」

 

「いやぁ?夢結に関しては()()()()()()にも立ててないからね〜。ああ大丈夫、君達には危害は及ばないし及ばせないから、『熾天使』の名にかけてね」

 

「じゃあなんで私にこんな話を……って、一つしかないか」

 

「物分かりが良くて助かるよ天葉。頭撫で撫でしてあげよう」

 

「魅力的だけど遠慮しとくわ。ウチのシルトに嫉妬されちゃう」

 

 

天葉が視線を訓練場入口へと向け、蒼空もそれに続く。どうやらアールヴヘイムのメンバーが天葉を迎えに来たらしい。

 

 

「おや、少し独占し過ぎちゃったかな。話はこれで終わり、可愛がってあげなよ。仕事終わりに気まずい話なんかしてごめん」

 

「気にしてないよ。それでは、ごきげんよう」

 

 

いつのまにやら蒼空からの殺気が消えていたことに気づいた天葉は、いつもどうりな蒼空に苦笑しながら挨拶して観客席から降りていった。

 

 

「言い方が悪いぞ蒼空」

 

「……仕方ないじゃん」

 

 

虚空から響く梅の声。蒼空が左手で指を鳴らすと、スッと梅が蒼空後ろに現れた。お気に入りの光の屈折云々である。

 

 

「こんな言い方しか出来ないし、特に罪悪感も感じないクズな僕のこと嫌いになった?」

 

「全然。だって蒼空は嘘ついてるわけじゃないだろ?」

 

「言ってない事はあるけどね」

 

「だったら良いんだ。蒼空は言うべき事と言わないべき事の区別も付けてるし、他人を想って行動できる奴だって皆知ってる。天葉だって、あんまり聞かずに引いてくれたしな〜」

 

「うん、本当に良い人。怒ってたのはそう()()()()。きっとアールヴヘイムの子達に僕と天葉が仲違いしてるって思わせてくれてるんだと思う。巻き込ませないために」

 

「私はみんなの事が大好きだからな!蒼空の事だってもちろん大好きだぞ!!」

 

「おお〜照れるねぇ〜」

 

 

蒼空は、梅の良く聞くフレーズに少し照れたのか目を逸らし頭を掻いた。そしてもう一度夢結の方を見ると、いつもの様にではなく薄らと悲しそうに笑った。

 

 

(夢結はきっと、僕が夢結の事を恨んでると思ってるだろうね。それすらも、仕組まれたものとは知らずに。さて……梅と天葉への根回しはオッケー、次は……百由だ)




週刊リリィ新聞記事一部抜粋

高等部一年生遠藤亜羅椰氏が最近おとなしいと話題に。本人に直撃インタビューを行った!!

「人聞きが悪過ぎますわ。食っちまいますわよ!?」

※記者は無事だった。
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