百合ヶ丘の熾天使   作:ゼノアplus+

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5話

5話

 

 

「レギオンねー……」

 

 

翌日、精神的な疲れからぐっすり眠り体調も戻った蒼空は書類上だけでなく心の底からシュッツエンゲルとなった2人の観察をしていた。ちなみに梅はどこかで昼寝しているものと思われる。

 

 

「もし、梨璃ちゃんが本当に()()なら多分順調にメンバーが集まるだろうね」

 

「余計なお節介よ、蒼空」

 

「うえっ!?……夢結、いつのまに。あれ梨璃ちゃんは?」

 

「レギオンのメンバーを探しにいったわ。なぜか私のレギオンと勘違いしているようだけど……」

 

 

ぶつぶつと独り言を呟いていた蒼空の横にいつのまにか現れた夢結は愚痴のようにため息をついた。

 

 

「…………」

 

「どうしたの蒼空?」

 

 

何も言わない蒼空を不審に思った夢結が蒼空を見ると、口を開けて夢結を見つめていた。

 

 

「ああ、いやごめん。なんか、あの頃みたいに話しかけてくれるの久しぶりで……」

 

「……それについては悪かったわ」

 

「へ?」

 

「私が、勝手に貴方を避けていた……突き放していたから。貴方は、私の事……恨んでるだろうし……」

 

 

蒼空は夢結の自分に対するイメージが当たっていたことに内心苦笑した。

 

 

「まあ、何も思っちゃいないって言ったら嘘だけどさ」

 

「ッ」

 

 

夢結の紅茶を飲む手が止まった。表情に影を落とした夢結は蒼空の言葉の続きが気になると同時に聞きたくはないとも感じている。

 

 

「夢結、ひとつだけ覚えておいて。……私は貴方が加害者だとは微塵も思ってません」

 

「ッ!!なん、でっ……」

 

「親友ですから」

 

 

昔の口調で夢結に微笑みかけた蒼空は椅子から立ち上がると夢結に背を向けた。

 

 

「シルトの事、ちゃんと見てあげなよ」

 

「待って、まだ話が……」

 

「ごめん、これから理事長室に行かなきゃ」

 

「…………そう、ごめんなさい」

 

 

しゅんとしている夢結の声に蒼空は足を止めて振り返る。

 

 

「もう、仕方ないなぁ夢結は。今生の別れでもないし連絡なら携帯あるでしょ?あんまりメールとか電話が好きじゃないのも分かるけど、いつも直接話ができるわけじゃないんだから」

 

「うっ……そうね。忘れていたわ」

 

「ならよし、じゃあげきげんよう夢結」

 

「……ごきげんよう」

 

 

そして今度こそ背を向けると、ひらひらと手を振って立ち去った。

 

 

「蒼空、口調が変わっても本質は変わってなくて安心したわ」

 

 

 

 

 

 

 

「で、僕を呼び出すなんて何の用事かな?」

 

 

ところ変わって理事長室。部屋の大きさの割に壮年の男性である理事長のいる机と3人ほどが座る事ができる程度のソファしかないこの部屋に蒼空はいた。

 

 

「最近レストア個体のヒュージが多く確認されているのは知っているだろう?」

 

「ああ、昨日のヒュージもそうだったねぇ」

 

「君の見解を聞かせてほしい」

 

「ネストに異変があった」

 

「っ!!それは……」

 

 

予想外の蒼空の発言に理事長が驚く。

 

 

「レストアはネストに帰って修復されてまた出てくる。だとしたらこの近くにあるあのネストで今までとは違う事をしているとしか思えないよ」

 

「なるほど……しかし、それでは確かめようもないというわけか」

 

「僕以外は実力的に不可能。なにより僕も防衛軍の在籍で行動は制限されているからね。まあ実質無理なのと同義だよ」

 

「ふむ……」

 

 

理事長は考え込む様に俯き数分の静寂が訪れた。蒼空はといえば理事長に出してもらったコーヒーを飲んでおり普段より幾分か機嫌がいい。

 

 

「静観で良いと思うよ?」

 

「何故だね?」

 

「こっちから攻め入って、異変を起こしてるネストのボスのアルトラ級が焦って余計なことをしないとは限らないしさ。なによりも僕がいる。百合ヶ丘への攻撃なら僕が学園にいる限り問題は無いからね」

 

 

余裕そうな表情でしかし安心せてくれるような声音で理事長へ言った蒼空。

 

 

「いつも、君への負担が大きいことを申し訳なく思っている」

 

「あはは、慣れてるから。こっちからもひとつ聞いていいかな?」

 

「勿論だとも」

 

 

とりあえずの話し合いが終了したのでここからはただの雑談だ。それをわざわざ許可を取るほどの質問としているあたり、何か重大な案件であると理事長は考えた。

 

 

「僕はもう人間に愛想尽かすつもりでいるんだけど、貴方はどちら側につくんだい?」

 

「なっ……」

 

 

理事長は大きく目を見開き呆気に取られた。

 

 

「天宮君、その言い方は……聞かなかったことにしよう」

 

「いいやダメだね。ちゃんと答えてほしい。貴方はどちらだ?」

 

「…………答えることは出来ない。これが答えだ」

 

「ふぅん……」

 

 

理事長としての立場から素直にリリィ側につくとは言い難い。しかし表立って人間側を名乗るにはそこまで思いがない。しかしなにより理事長が驚いているのは蒼空がリリィと人間を区別する発言したからだ。

 

 

「僕がどれくらい殺したか聞いてるっけ?」

 

「G.E.H.E.N.Aの研究員296人、政府要人9人と聞いている」

 

「今更10人程度殺したところで変わらないと思わない?」

 

「リリィと人間の戦争が起こるとは考えなかったのか?」

 

「起こるわけないじゃん。そのためのヒュージだからね」

 

「なに?」

 

「僕がその気になればこの星のすべてのヒュージを殲滅することくらい容易い。それにもかかわらずそうしないのは何故か?簡単な話さ、人間がそれを恐れているからだよ」

 

 

両腕を大きく広げ、大きな声で語る蒼空に理事長はそれでも冷静な表情で話を聞いている。

 

 

「ヒュージとの戦いが終われば次は国家同士、もしくはリリィと人間の戦争さ。分かってるでしょ?」

 

「…………」

 

「でも正確にリリィと人間で分かれることはないんだ。理事長の様にリリィ派の人間は多数いる。そしてチャームメーカー、リリィの武器を作ることで利益を得ている連中が取る選択肢は2択。リリィ側につきチャームを作る代わりに命の保障をしてもらう、もしくは対リリィ用の兵器を作り全面戦争の立役者となるか。彼らにはどのみち死の商人となるしか道はないのだけどね。

ああ、安心してくれよ。グランギニョルは確実にリリィ側の……百合ヶ丘の味方となるよ。総帥の可愛い娘がうちのリリィだからね。チャームの供給が一切絶たれる事はない。

そして僕は間引くヒュージの量を調整している。僕だけじゃなくて僕に()()()()ついてきてくれる防衛軍の人達と一緒にね」

 

 

蒼空の言うグランギニョル社総帥の1人娘とは梨璃や夢結が作るレギオンのメンバーとなる楓・J・ヌーベルの事だ。今まで人まで見せたことがないような狂気とその考え方を目の当たりにした理事長は、口に出す言葉をしっかり吟味したあと、低い声で言う。

 

 

「天宮君は少し、先を見過ぎなのではないか?」

 

「先を見ずに今や過去に固執するよりマシなんじゃない?」

 

「…………あの件のことはもう良いのかね?」

 

「良くはない。でも……そろそろ、僕も踏ん切りつけなきゃいけないからさ」

 

「そうか」

 

 

ふっ、と理事長は笑みを浮かべる。内容はともあれ理事長として、リリィが精神的に前へ進もうとしているのは嬉しいものであるからだ。

 

 

「とにかく、僕はこれ以上自己保身にしか興味のないクズどもに協力する義理はないんだよ。それだけ留意してもらえると助かるね」

 

「……留意は、しておこう」

 

「それと、退学届も貰っておくよ」

 

「何?」

 

「リリィの不利になる事はしたくないからね」

 

「…………分かった」

 

 

理事長は渋々、机の引き出しから一枚の書類を取り出すと蒼空に手渡した。

 

 

「まいど〜、それじゃあ要件はもういいね?」

 

「ああ、時間をとらせてすまなかった」

 

「いやいや、僕もかなり言ったからさ。おあいこって事で」

 

「……君が敵でなくて本当に良かった」

 

「僕が誰の味方で、誰の敵か決めるのは僕自身さ」

 

 

そう言うと蒼空は上機嫌に理事長室から退室した。

 

 

「やぁ、ごきげんよう御三方」

 

「「「ごきげんよう」」」

 

 

百合ヶ丘が誇る3人の生徒会長が蒼空とすれ違った。

 

 

「珍しいわね、貴方が理事長室に居ただなんて」

 

「ああ、ちょっと呼ばれてね。まあ他愛もない雑談さ」

 

「貴方ねぇ……」

 

 

理事長との会話を雑談と称するのはこの学園では蒼空くらいだろう。3人は引き攣った笑いをしてそのまま別れた。

 

 

「さてと……お?」

 

 

寮の部屋に戻る所で、ふと窓から外を眺めると梅が木の下で昼寝をしていた。なぜか野良猫も梅のお腹の上に乗っておりそれを金髪の生徒が眺めている。

 

 

「確か、ブーステッドの子だったかな。良い学園生活を送れている様でなにより。そう思わないかい?グラトニー」

 

 

ブーステッドリリィ、リリィ研究をメインで行なっているG.E.H.E.N.Aという組織が公にはせず秘密の研究として人工的にリリィの能力を向上させる事をやっている。しかしこれは非合法のものであり、研究というより改造と呼ぶ方がふさわしい内容だ。余談だが百合ヶ丘ではブーステッドリリィの保護を行っておりその性質から反G.E.H.E.N.A派の代表とも言われている。

 

蒼空がそう問いかけると、一瞬だけ蒼空の()()からグラトニーの顔面が現れ蒼空と目を合わせ、そのまま不満げに鼻を鳴らすと元の右手に戻った。

 

 

「全く……まあそうじゃないと名付けた甲斐がないってもんさ」

 

 

蒼空はそう呟くと梅に合流するために階段へと向かう。途中すれ違う生徒に色んな感情を向けられたがいつも通りの紳士的な態度で接すると余計に悲鳴や歓声が湧く。内心苦笑しながらもささっと歩いていた。しかし、

 

 

ビービービー

 

 

「‥‥うわぁ、タイミングわるっ」

 

 

防衛軍からの緊急通信が入った。左耳のインカムに手を当てて通信を開始する。

 

 

「はいはーい。熾天使だよ」

 

『ポイント257ではぐれのギガント級ヒュージ3体を確認。急行されたし』

 

「了解。『熾天使』、グラトニー」

 

 

すぐに臨戦態勢をとり飛ぶ。

 

 

「メールだけして……っと。よし、それじゃ食事の時間といこうか」

 

 

ニヤリと蒼空が微笑むと、楽しみなのかグラトニーも震えている。

 

 

その後トップスピードで現場に駆けつけた蒼空の戦いは、高純度のマギでヒュージの抵抗を許さず押しつぶしたのだった。

 

 

「この間のアルトラ級の分、補給出来てよかった……」

 

 

蒼空はとある事情でヒュージ等の外側からマギを補給しなくてはならない。これは『熾天使』として知られる蒼空の中でもトップシークレットであり、軍の人間以外リリィでさえ知らない。

 

 

「『熾天使』の正体が実はヒュージを喰らい負のマギを我がものとする『堕天使』だなんて……演劇でだってみないような夢物語だろうね」

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