百合ヶ丘の熾天使   作:ゼノアplus+

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「やぁ、親愛なる同志達。今日は集まってくれて本当に感謝しているよ」

「そして謝罪しよう。今日この場に実際に顔を出せなかったこともね」

「最近ヒュージの動きがきな臭いのは皆も知っての通り。各々の研鑽には拍手を送りたい」

「しかし!!不遜にも背信的な輩が何やら裏でこそこそしているらしい」

「聞きたくもない命令で無駄な日々を過ごしていることだろう。僕の不徳の致すところだよ」

「まだその時じゃない。だけども刻々と近づいてきてはいるんだ」

「熾天使在る場所エデンとなり、エデン在る場所熾天使現れる」

「これが4thステップの計画だ。しっかり読み込んでくれたまえ」

「この動画は資料読了後30秒で削除される」


「親愛なる同志達よ……検討を祈る」


6話

6話

 

 

「G.E.H.E.N.Aの連中の研究所……やっと見つけた」

 

 

時が経ち6月、蒼空は自身が進めている計画に確かな進捗を見出し自室で悪い笑みを浮かべていた。もちろん梅は居ない。

 

 

「どうやって殺してやろうかな……『極光』でも落とす?グラトニーに食わせる?それとも……四方にケイブでも出してやろうか…………御前を出すには舞台がちゃっちいなぁ」

 

 

単体戦力世界最強である蒼空だが、手札が自分しかないわけではない。しかし簡単に表に出していいものもそう多くはないのだ。扱いにくい者が多い、というのもあるが。

 

 

コンコン

 

 

「ッ……どちら様?」

 

『蒼空、私よ』

 

「夢結?どうぞー」

 

 

夢結だとわかるや否や蒼空はいそいそと机に並べていたものを金庫へとしまう。誰にも見られてはいけない、夢結には特に見せてはいけない書類である。

 

 

「ごきげんよう蒼空、突然ごめんなさい」

 

「何言ってるの。僕らの仲じゃないか、遠慮なんていらないだろう?」

 

「ふふっ……そうね。ありがとう」

 

 

蒼空の言葉に夢結は少し気恥ずかしくなりながらもしっかりと礼を言う。先日の一件で無事仲直りをした2人は、梨璃の居ない場所では昔のように仲睦まじい姉妹のような付き合いだ。

 

梨璃が居ない、と限定するのは無意識ながらに蒼空が避けているからである。

 

 

「それで何の用事かな?」

 

「ええっと、贈り物をしたい人がいるのだけど……」

 

「ああ、梨璃ちゃんね」

 

「……どうして皆すぐ分かるのかしら」

 

「夢結が分かりやすい……っていうか、夢結が誰かにプレゼントだなんて1人しか居ないよ。それに誕生日だもんねー」

 

「知ってるのね」

 

「夢結のシルトだもん、少しは調べるよ」

 

 

懐疑、驚愕、嫉妬、不愉快と少しずつ変わっていく夢結の感情を感じながら、蒼空は内心で感情豊かになってきたその変化を嬉しく思っていた。

 

 

「そう、なら話が早いわ。蒼空の前にもいろんな人に話を聞いたのだけれど……梨璃のプレゼントにラムネを送ろうかと思っているの」

 

「えぇ!?」

 

「ど、どうしたの、ラムネ……やっぱりダメだったかしら……?」

 

「くぅ〜……僕に1番に相談して欲しかったなぁ……親友、だろ?」

 

「……蒼空、揶揄ってる?」

 

「あははっ、バレた?」

 

 

蒼空は嘘がバレた子供のように無邪気に、しかし口元を隠して生来の上品さを保ちつつ笑う。

 

 

「ラムネに関しては良いと思うよ、彼女の好物らしいからねぇ」

 

()()()()?」

 

「さぁてね。他人の意見ばっかりのプレゼントでほんとに梨璃ちゃんは喜んでくれるかなぁ」

 

「ッ!!!!た、たしかに……そうね。えぇ、自分で考えることを諦めてたかもしれないわ」

 

「あっはは、真面目に考えすぎだよ。ほら、少し肩の力抜いて」

 

「何をっ……」

 

 

蒼空は苦笑しながら人差し指を夢結の額に当て新しく練ったマギを少しだけ送った。

 

 

「暖かいわ。うん、落ち着いたかも」

 

「それならよかった。梅が最近やけにトレーニングにお熱でね。寝てる間にちょちょいとさ」

 

「へぇ……そうなの、便利ね」

 

 

ふふん、と少しドヤ顔な蒼空に夢結は懐かしい気分になる。2人の姉とも言える美鈴に対して、蒼空はよくこういう表情を見せていたからだ。

 

 

「まあ僕からのアドバイスは大きく3つかな。1つ目、夢結が梨璃ちゃんのために送るということを意識すること」

 

「えぇ」

 

 

今しがた蒼空に言われたことだ。納得の表情で夢結は頷く。

 

 

「2つ目、もっと早くから用意しろお馬鹿さん」

 

「うぅ…!!」

 

 

心にクリティカルヒットしたらしい、ずっと考えていたことだ。そもそもシルトの誕生日を1日前に知るという愚行、聡明な夢結ならするはずがないと思っていた蒼空は少し呆れていたため強めの口調だ。

 

 

「3つ目、はぁ……本当はこれ言いたくないんだけどなぁ……言わなくていい?」

 

「そこまで焦らしたら言いなさい」

 

「僕や夢結の誕生日の時、美鈴様……何してくれたっけなー?あっ、じゃあ僕亜羅椰イジメてくるから。ごっきげっんよー」

 

 

あっははー、と台風のように部屋を出ていった蒼空。最後の言葉が少し不穏だが夢結にはほぼ聞こえていない。

 

 

「はぁッ、ちょっと、蒼空!?……全く、鍵は誰がかけるのよ……」

 

 

夢結の悩みは杞憂で、玄関前に予備の鍵が置いてあった。『合鍵あげる♡』のメモ書き付きでだ。

 

 

「自由なところだけ、美鈴様に似ちゃって……もう、ふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『誕生日おめでとう蒼空。この指輪、君にために選んだんだ。よかったらつけてくれないかな?』

 

『今日は僕が蒼空に尽くしてあげる。何して欲しい?』

 

『一緒にいて欲しい?あはは……うん、最近は夢結に構ってばかりだったからね。いいよ、じゃあこの後……デートと洒落込もうじゃないか』

 

『君に出会えたあの日に……乾杯』

 

『おいで蒼空、存分に甘えいいよ』

 

 

 

「……なんで僕、美鈴様の誕生日、夢結に譲っちゃったのかなー。ははっ……なんて、後悔しても今更なのに」

 

 

夢結との会話を無理やり切って蒼空は墓地にやってきていた。最近はここに来る頻度が高くなっていることを自覚しながらも止めることはない、できない。

 

 

「……………………また、来ます」

 

「蒼空、様……?」

 

「ッ……あぁ、梨璃ちゃんかい。ごきげんよう」

 

 

黙祷を捧げ挨拶をしてから立ちあがろうとしたその時、後ろから声が聞こえた。今日の状況を鑑みるに夢結のことを探しているのだろう。

 

 

「夢結様を見ませんでしたか?」

 

「さっきまで僕の部屋に居たよ。多分外に出かけたんじゃないかな」

 

「ええーー!!うぅ……せっかく夢結様と過ごせるチャンスだったのに……」

 

「あはは……まあ門限には帰ってくるさ」

 

 

蒼空は梨璃に気づかれないように対リリィ用のマギを全身に纏わせる。梨璃のレアスキル(正確には違うのだが)カリスマを警戒してのことだ。まだ出力調整どころか、スキル発現の自覚すらないであろう彼女は無意識で常日頃からカリスマを使用している。

 

そして何より、そもそも蒼空とカリスマ持ちは相性が最悪に悪いのだ。カリスマとは邪悪なマギから身を守る浄化のスキル、というのが一般的な見解である。そして蒼空のマギは殲滅したヒュージから奪った負のマギをリリィ用に正のマギへと変換することなくそのまま使用している。蒼空のマギはそもそもヒュージ由来のものなので反発が当たり前なのだ。

 

 

「二水ちゃんとか楓さんは偶にお会いするって聞きましたけど、私とは久しぶりですよね」

 

「うん……そうだね」

 

 

これだ。誰とでも気軽に話せるのは彼女の人徳もあるのだろうが、カリスマの影響も大きい。しかしカリスマにしては少し出力がおかしいというのが蒼空の見解である。

 

 

「私!!蒼空様とお話ししてみたかったんです。その……昔のお二人のことを知りたくて……」

 

「ふぅん?それなら梅とか百由もいるよ?」

 

「いえ、お二人は姉妹のように仲が良かったと聞きますし……」

 

「……まあいいだろう。良くも悪くも僕は有名人でね、そこのベンチでいいかい?」

 

「もちろんです!!」

 

 

正直嫌だ、それが蒼空の率直な感想だ。しかし夢結のシルトであるから無碍には出来ない。しかも誕生日の人間だ。

 

2人がベンチに移動すると、蒼空は慣れた手つきでハンカチを梨璃が座る場所に広げた。

 

 

「そ、そんな、お気になさらず!!」

 

「気にしないでくれ。親友のシルトのためさ」

 

 

そして2人は並んで座ると話を始めた。

 

 

「僕たちのことが聞きたいって話だけど……どこから話そうかな」

 

「できれば全部、お願いします!!」

 

「元気だねぇ……じゃあ僕と夢結の出会いから話そうか」

 

 

蒼空は昔を懐かしむように……口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、まあこんな感じかな。後は君も知っての通り、他の場所へ援護に行ってる間に美鈴様が亡くなって僕もさらに忙しくなって、今まで疎遠になってた感じ。つい最近仲直りはしたけどね」

 

「…………」

 

「あれ、ああ……まあしょうがないか」

 

 

想像以上に明るい話じゃなかったからか、梨璃の顔色はよろしくない。蒼空もそれに気づき先程夢結に施したリラックス作用のあるマギを梨璃に流し込もうとし……弾かれる。

 

 

「ッ……」

 

 

カリスマが自動で弾いたらしい。どうやってでも負のマギを入れさせたくないのだろう。

 

 

「君がどう感じたが僕には分からない。誰にも話したことがないようなものまで喋ったからね」

 

「どうして、そこまでしてくれるんですか?」

 

「んー……君が夢結のシルトだから、かな」

 

「でも、それだけじゃないですか!!」

 

 

蒼空の顔が強張る。

 

 

「君はもう少し自覚したほうがいい。白井夢結という人間とシュッツエンゲルの契りを結ぶことの意味を。あの子はね……君が思っている以上に沢山の人間に心配されて、でもそれを突っぱねてほぼ一人ぼっちでここまで来たんだ。そんなあの子が……ひとりの人間を、誰かを大切にしているなんて……」

 

「蒼空様……」

 

「ああ、すまない。情けない姿を見せたね。とにかく……君には期待しているんだ。夢結の心は不安定でいつ壊れてもおかしくない。もう僕じゃどうにも出来ないくらい……だから、君だけが夢結を救うに値するんだってこと、忘れないでね。よろしく頼んだよ」

 

「……はい!!任せてください!!なんたって私は、お姉様のシルトですから!!」

 

「良い返事だ」

 

 

眩しい、眩しすぎて直視が出来ない。スキルのカリスマ……なんてものではない。人としてのカリスマ性が彼女にはある。だからこそスキルが目覚めたのだと実際に確信した。

 

 

「僕ばかりと話していても退屈だろう?せっかくの誕生日なんだ。仲のいい子と楽しんで」

 

「そんなことないですよっ!!……って、蒼空様、私の誕生日知ってたんですか?」

 

「うーん……秘密」

 

「ええーー!?」

 

 

ニヤリ、と蒼空が微笑むとガッカリするような梨璃の声が空に響いた。

 

 

「あっ、この話したこと誰にも言わないでねー。怒られるから」

 

「え、あ、はい、分かりました。あれ……蒼空様、その指輪は……リリィ共通のじゃないですよね」

 

 

蒼空が左手でしーっと指を立てた時、薬指で輝く指輪に梨璃が気づいた。

 

 

「これかい?……大切な人にもらった、世界で1番大切なものだよ」

 

 

そう言って、指輪を撫でながら遠くを見ている蒼空に対して、梨璃は何も言うことができなかった。

 

 




『美鈴……様……どうしていなくなっちゃったんですか……』

『もっと……お話ししたくて、もっと触れ合いたくて……もっと抱きしめて欲しくて……あっ』

『ごめんなさい……せっかく美鈴様が下さったチェーン、壊れてしまいました。でも私、これが壊れたらって……決めてたことがあるんです』

『…………気持ち悪いと罵ってくれても構いません。それでも、私は……貴女のことが……ッ!!』


左手の薬指で輝く指輪に最大の愛を込めて、さよならを。
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